2018年11月21日

雑品クライシス 急激な変化と直面する課題 ■1■ 行き場失う「100万トン市場」 国内処理もダスト処分難

最終回を日刊産業新聞サンプル紙面に掲載

工業・産業機械やOA機器のような鉄や非鉄金属、プラスチックなどの素材が混合したいわゆる「雑品スクラップ」市場が岐路に立たされている。処理困難物ながら銅などの貴重な資源が含まれているため、中国向けに推定で年間100万トン以上が輸出されてきたが、中国政府が環境対策強化の一環として今年末で雑品スクラップの輸入を禁止すると発表。行き場を失った雑品スクラップをいかに国内処理するか、リサイクル業界で早急な対応が求められる中、「処理工程で排出されるダストの処分など多くの課題に直面している」(大手スクラップ経営者)。

■国内処理から東アジア向けに販路を拡大

雑品スクラップの多くは鉄や非鉄が複雑に使用されているため、解体や選別に時間とコストが非常にかかる。国内市場では解体案件や工場発生品などに対応した鉄スクラップ加工処理設備の導入が進む中、1980年半ばから韓国系業者が自国へ輸出を開始。日本国内処理ではなく、輸出向け販売が主流となっていった。

さらに90年代半ばには韓国の経済発展に伴う人件費が高騰する一方で、89年の天安門事件以降に市場を開放した中国が大量の資源を求めて日本の雑品スクラップを調達し始めた。本来、処理コストなどを考慮すれば鉄スクラップの加工母材よりも安価、もしくは無償や処理費用が必要となる雑品スクラップは、中国の資源の「爆食」で鉄よりもはるかに高い価格帯で相場を形成していく。

■中国の資源バブルと「爆食」の終焉

リーマン・ショック前までの「資源バブル」最大の要因となった中国では、安価な人件費を背景にした「人海戦術」による手作業で雑品スクラップの細かな処理・選別を進めた。雑品スクラップ需要は急速に高まり、リーマン前には工業系雑品スクラップはキロ70円を突破。現地でも雑品加工ヤードの開設が相次いだ。加工処理後の非鉄金属だけではなく、鉄スクラップ相場が高値推移したことも雑品スクラップ価格を押し上げた。

雑品スクラップを求めて日本国内にも中国系の集荷業者が乱立したが、リーマン・ショックとともに中国の資源バブルが終焉に向かっていく。さらに中国国内で環境規制を強化する動きが強まり、「量的成長から質的成長へと変化していく過程で、中国の資源外交的な動きもおさまった」(商社)という。

環境規制強化の波は中国系業者に大きな影響を与え、雑品スクラップの加工処理については台州地区の「新加工区」のような工場集積地内のみで認められるようになる。現地雑品スクラップ加工業者は新加工区での工場開設へ向けた巨額投資を行ったが、資源バブルの終焉が近づくに連れて採算が悪化し、大きな負債を抱えて倒産する業者も増え始めた。生き残りをかけた業者は量を追わず、より採算性の高いスクラップを求めるようになった。

■中国政府はさらに環境を強化へ

リーマン・ショックを発端とした資源バブル崩壊後、世界経済の回復に伴って雑品スクラップ需要も品質面での要求は高まりながら市場を持ち直していったが、2017年7月から8月にかけて中国当局が輸入許可枠の厳格化や禁止対象品の拡大を打ち出した。さらに今年4月、中国政府は雑品スクラップを含む廃棄物関連16品目を輸入禁止とし、今年末で中国向けの雑品スクラップは禁止となる。

中国現地企業や中国系業者については「現地内陸部での解体処理ヤード、東南アジア圏での処理を模索している」(シッパー筋)ほか、日本国内での処理に向けて本格的に動きだす業者も出始めている。国内企業でも「100万トンのスクラップ市場を海外企業にそのまま手放すか、岐路に立たされている」(ヤード筋)との声も聞かれる。

■鉄スクラップの品質に大きな影響も

雑品スクラップ市場が縮小するにつれて浮上した問題が「鉄スクラップへの非鉄スクラップ混入が増えている」(電炉メーカー)ことだ。鉄スクラップ業界では雑品スクラップの荷受けを取りやめるヤードが増えているものの、「根本的な解決にはならず、やはり早急な適正処理が必要になっている」(商社)。また、雑品を発端としたスクラップの品質問題は国内だけではなく、輸出にも大きく影響し、「米国鉄スクラップに比べて日本のスクラップに対する品質評価はより低くなり、販路が狭まってしまう」(シッパー筋)と懸念する声も多い。

■ダスト処分が大きな課題の一つに

国内での雑品処理に向け、中国系を中心とした資本を有する海外企業が破砕機などの設備投資も進め、日本国内での処理に乗り出している。また、国内でより精度の高い処理に向け、既存設備の活用としてシュレッダープラントによる処理も期待されている。

雑品スクラップ価格の低下により、「コスト面ではある程度、計算が立ちやすくなってきた」(シュレッダープラント関係者)との声も聞かれるが、シュレッダーでの破砕・選別工程で大量に発生するダスト処分という大きな課題にも直面している。

雑品スクラップをシュレッダー等で破砕・選別処理するとダスト分が2割以上を占めるとされるが、そのダストについては「自動車のシュレッダーダスト(ASR)だけでもひっ迫しており、処分費用も高騰している」(同)という。また、雑品はこれまで有価物として、自由な市場で流通してきただけに自動車のようなリサイクルシステムを支えるスキームが存在しないことが市場の先行き不透明感を強めている。

(早間 大吾)

最終回を日刊産業新聞サンプル紙面に掲載

スポンサーリンク