2020年4月13日

スペシャリストに聞く 木村情報技術社長 木村隆夫氏 金属業界へAI普及を促進 さらなる発展系システム提供

木村情報技術(本社=佐賀県佐賀市、木村隆夫社長)はインターネットやAI(人工知能)の技術を活用し、IT関連事業の領域を拡大している。同社の主力取扱い製品の「AI―Q(アイキュー)」の採用企業数は昨年10月段階で累計90社となり、その採用企業の中には鉄鋼関係企業も含まれている。今後は鉄鋼および金属関係業界向けなどでもAI―Q、AI―Brid(アイブリッド)の普及、採用促進を目指していく方針。木村社長に起業から現在の状況、将来への思いなどを聞いた。

――会社設立までの道のりから。

「1987年大学を卒業、薬剤師の免許を取得し、山之内製薬(現・アステラス製薬)に入社した。18年間営業を担当したうち、15年間は大学病院の専属担当者として講演会やセミナーの企画、コーディネートなどを手掛けた。勤務会社が合併することになり、早期退職制度を利用し退職した。退職前の2004年頃、中国企業が自社開発のコンピューターを使用した双方向TV会議システムを北京で目の当たりにして、これを医療・医薬品業界に生かせないかと触発され、05年に起業した。ノウハウやスキルを結集し、当初はカンファレンス向けに有効なTV会議システム『3eConference』を、続いてWeb講演会運営・配信サービス『3eLive』をそれぞれ開発し、08年頃からイベント事業を本格的に開始した」

――その後、自社スタジオを開設するなど、インフラ整備を進めた。

「当初は高級ホテルに撮影・配信機材を持ち込み、ライブ配信していた。しかし、ホテル料金・設備移動・設営などの経費が掛かるうえ、機材の損傷や高画質の安定配信の面を考えると、専用スタジオからの配信がベストと考え、全国にスタジオの整備を進めた。現在、スタジオは東京に4カ所、大阪に2カ所、札幌に1カ所、名古屋に1カ所、福岡に1カ所の計9カ所となっている」

――イベント事業の進捗や現状を。

「10年頃から、製薬企業の販売ガイドラインが変わり、講演会がホテルなどの会場だけでなく、医療現場やお医者さんの自宅、出張先など、いつでもどこでもPCで見られるという、多地点同時中継ができるようになった。結果、本社管轄では約80社(うち製薬企業60社ぐらい)の講演会の対応を行っているが、ここ数年は“地域包括ケア"としてエリアごとの講演会が大幅に増えている。講演会の配信実績は19年が2000回を超え、20年は2100回ぐらいになりそうだ」

――現在の木村情報技術の陣容は。

「今期(20年6月期)の売上高は42億円と前期比約10億円増える見込み。このうちイベント事業部は約35億円。人員は今期だけで60―70人増えて370人ぐらいになる見込みだ。この3年間では約200人増えた。拠点は佐賀県に本社があり、支店は北から札幌、東京、名古屋、大阪、福岡、開発面ではシステム開発センター、AI応用開発システムがある」

――AI事業について、代表製品の「AI―Q」の開発経緯は。

「16年1月に『IBM Watson 日本語版』(ワトソン)の日本初のエコシステムパートナーとしてソフトバンクと契約した。ワトソンはクラウド上にある大規模なデータを分析し、自然言語で投げかけられた複雑な質問を解釈して回答・提案する技術を実用化した“学習"システム。これを活用して、同年6月にAI―Qの原型となる『AIお問い合わせシステム』を開発。翌年、医薬品メーカーに初採用された」

――特徴と採用状況を。

「『AI―Q』はIBM Watson日本語版を用いた国内初のAI問合わせシステム。採用メリットは(1)自然言語で質問できる(2)24時間365日、PC・スマホからでも問い合わせが可能(3)すぐに導入できる学習済データを用意している(4)AI育成の代行メニューが豊富で、高い正答率の確保が可能――などだ。その優れた能力が評価され、採用企業がどんどん増加した。採用実績は昨年10月段階で90社。このうち、従来の取引先の製薬企業が約2割、製薬企業以外が約8割となる。90社の採用例はITヘルプデスク用が16社、総務用(管理部門)が14社、コールセンター用(質問などの業務関連)が6社、社内製品問い合わせ用(営業支援、ナレッジ関連)が9社となっている」

――今後のAI事業の展開を。

「コンサルティングスタッフが企業ごとのニーズ・情報内容を把握し、実運用に合わせた導入支援を提供していく。QA作成・育成の代行から、精度向上や独自の深い知識の追加学習まで専任スタッフが行うことができ、こうしたメリットを全面に押し出していく。業務の軽減や改善が図れ、技能継承にも役立つことから、今後はさらなる採用拡大を目指す。金属業界においてはAI―Qが鉄鋼関連メーカーに本格的に採用されたこともあって、今後はAI―Q、AIーBridなどのAI関連システムを金属・鉄鋼業界を含めた2―3の業界をターゲット分野に絞って普及を図っていきたい」

――戦略商品の「AI―Brid」は。

「同製品はオリジナルのシステムで、“1問1答型AI"と“文書検索型AI"の特性の異なる2つのAIを同時に活用できる。質問内容の網羅性が大幅に広がり、使うほどに回答精度も向上する。コールセンターオペレーター支援やホームページ問合わせの利用満足度を大幅に高めることができる。昨年12月の段階で、数社に採用していただいている。今後、当社はR&Dに力を入れ、AI―Brid、さらに改良バージョン、発展系のシステムを提供していこうと思っている」

――中期的な企業目標があれば。

「19年7月からの4カ年の目標『2023年ビジョン』が進捗中だ。スタート前の19年6月期は売上高が32億円だったが、これを最終年度の23年6月期には100億円まで引き上げる。事業別ではイベント事業は今とほぼ同程度の35億円、AI事業は大きく伸ばし65億円を目指す」

――最後に、木村社長のビジネス信条を。

「はっきり言えば、現在主力のイベント事業は数年後にはレッドオーシャンになるという危機感を持っている。今後、企業として生き残っていくためには他の企業がやっていることの先を考えていく必要がある。つまり、ブルーオーシャンを創出したり、ブルーオーシャンに参入し、そこで横展開を進め事業を伸ばしていく。その事業がブルーからレッドに変わる前に、次のブルーオーシャンの世界を目指していく。別の言い方をすれば、企業はどうあるべきかと固定化するよりも、経済・社会環境に臨機応変に対応できる企業にしていくことが重要だ。そういう組織や企業形態を構築していきたい」

(天野 充造)



▽木村隆夫(きむら・たかお)氏=87年星薬科大学薬学部卒、薬剤師免許を取得、山之内製薬(現・アステラス製薬)に入社。05年同社を早期退職、木村情報技術を設立、社長に就任。製薬会社の18年間はMR業務、このうち15年間は大学病院を専属担当。迅速果断な性格で、起業後はIT、AIの分野で事業の構築・拡大を進めてきた。学生時代はサッカー部、スキー部に所属、サラリーマン時代はテニス、ゴルフで体を動かしていたが、今はトライアスロンに挑戦している。映画鑑賞と三女との海釣りも趣味。好きな言葉は「意志がある所には道が開ける」。62年10月生まれ、57歳。東京都出身。

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