2020年7月6日

「新・人財戦略-商社編-」 伊藤忠丸紅鉄鋼 井田陽彦常務 マネジメント 強化プログラム導入

グローバル化を加速し、機能の高度化を図る商社にとって「人財」の多様化と育成が大きな経営課題となっている。新型コロナウイルス感染症が「在宅勤務」や「テレワーク」など働き方改革を急加速させ、少子高齢化が進む中、3-5年後の転職前提で就職先を選定する新卒者も出始めた。シリーズ「新・人財戦略」では、鉄鋼大手商社における採用、育成、評価、処遇、働き方改革などについて担当役員に聞いた。

――人材戦略上の課題から。

「海外現地法人を含め国内外に111社の事業会社を展開し、トレードと事業の両輪で収益拡大に努めている。一つ目のテーマが、トレード収益を拡大できる人材、事業会社の経営を担える人材の育成。二つ目が一般職の活躍の場の拡大支援、海外のナショナルスタッフの育成と登用拡大」

――前提となる人事制度を。

「2001年の設立時以来、経済環境、業容の拡大、社員の意識の変化等を踏まえ、次世代を担う人材を育成し、人材の多様化を図るため人事制度を進化させてきた。09年には現制度の原型となったBP(総合職)、EX(一般職)、SP(専門職)の職掌制とジョブグレード(等級)制を導入。各職掌と各等級への期待と役割を明確にし、社員の能力発揮を促してきた。SPは専門職掌で、例えば管理部門にある技術部。事業会社の現場指導、安全管理や設備使用に関する専門的な知識が必要であることから、経験豊富なキャリア採用者で構成されている」

――一つ目のテーマについて、経営人材の育成強化策は。

「マネジメント力向上トレーニング、会計知識の合宿型研修等の強化策を昨年導入。マネジメント力向上トレーニングとしては、課長層に「Teambox」というプログラムを導入。これは単なる研修ではなく、集合研修で学んだことを現場で実践し、部下からのフィードバックを受けることを繰り返すことで、習慣化するというマネジメント強化プログラムである」

――二つ目のテーマとなる一般職の活躍支援策について。

「EXにはBPへのステップアップの道筋をすでにつけている。さらに職掌自体をEXからAP(エリアプロフェッショナル)に昨年変更し、希望者にはエリア限定の総合職として働くことができる制度を導入している。高い意欲を持つ一般職社員が勤務地が変わる心配をせずに実力を発揮してもらえる制度とした」

――海外事業会社の現地スタッフ育成については。

「海外現法や事業会社の現地スタッフの優秀層を対象に育成プラン(Career Development Plan)を作成している。今後は個々の育成プランを本社としてバックアップをしながら、現地スタッフのマネジメント層への登用を増やしていく」

――現地スタッフ登用の現状、評価制度について。

「10数社の海外事業会社の社長にナショナルスタッフを登用している。例えば、米国は鋼管事業統括会社を除くすべての事業会社のトップがナショナルスタッフ。豪州の鋼管会社、中国ではコイルセンターの社長にナショナルスタッフが就いている。一方で、グローバル連結ベースでの人材評価・管理制度は検討課題の一つである」

――人員は10年間で大幅に増えた。

「単体は949人で10年前に比べて約20%増加。連結は1万428人で約30%増加している。単体では海外ビジネスの拡大によって海外駐在員が増えている。2009年から一般職採用を開始したこと、総合職でも一定数を安定的に採用出来ていることから女性社員の増加率も高い。連結では海外ビジネスの拡大によって現法・事業会社の伸びが著しい」



――3職掌の内訳と10年前との比較を。

「BPで約10%、EX(現AP)で約25%増加している。SPは技術系を中心に増加している」

――採用について、基本方針から。

「『鉄鋼流通の総合プロデューサーとして信頼を獲得できる人材を確保すること』を宣言し、『世界を舞台にビジネスを創造できる推進力』『国や文化を超えた多様な価値観を受け入れる柔軟性』などの資質と、それぞれの資質の根元の部分である『人間力』を不可欠な要素として、それらを持ち合わせた人材の確保に努めている。そのため新卒、既卒等、年齢や経歴に関係ない、人物本位の採用を基本方針としている」

――安定採用を継続している。

「基本方針に基づき、中長期的な観点で安定的に人材を確保し、バランスの良い年齢構成を維持していくことを意識している。また要員が手薄なポジションについては、キャリア採用も実施している。新型コロナウイルス影響で先行きの事業環境は不透明だが、20人程度の総合職、15人程度の一般職の新卒採用を継続する」

――優秀な人材、多様な人材を確保する方策は。

「業界、会社、業務内容に対する理解を深めてもらうためのインターンシップ、OB・OG訪問を強化している。実際の働き方、ビジネスに対する考え方、どの様な社風でどういった社員が働いているかなど、学生が直に感じることでミスマッチ防止に努めている」

――インターンシップの反応は。

「4年前に本格導入した。ワンデーインターンシップであり東京で計5日間、関西で計2日間実施している。就職活動前に先立って業務内容を確認できると好評で、昨年は300人弱が参加した」

――新卒の離職率は一般的に3年30%とされている。

「3年未満の若手を対象とすると、離職するのは10人に1人未満であり、定着率は90%を超えている」

――外国籍社員の採用については。

「2年前から海外での採用活動も開始し、直近5年間で大学生・院生を5人採用している。定着率は80%。国籍は韓国1人、中国4人(香港1人)。日本語も堪能で、4カ国語を操る社員もおり、母国ではなく、海外で広く活躍したいと意欲を持っている。まずは日本人と同じスキルを身につけてもらうが、生い立ちや多様性を発揮し、イノベーションを起こしてもらいたいと期待している」

――人材育成についての基本方針を。

「中長期で期待される役割に応じて職掌を3つに分類しており、それぞれに必要な人材育成の基本方針とガイドラインを定めて育成している。総合職は、担当分野での高度な専門性に加えて、幅広い視野・知見や、ビジネスをトータルに構築できる総合力を持ち、本支社幹部(部課長)や事業会社経営者となることを目指してもらう。一般職については特定事務分野についてのエキスパティーズと総合的視点を持って、自立的に業務を遂行するとともに、新たなビジネスや業務高度化にも対応できる人材を育成している」

――ジョブローテーションは。

「『キャリアデザイン申告制度』を軸に実施している。本部内で優秀な人材を放したがらないケースもあるが、全本部長が集まる人材会議を通して本部間のローテーションを実施している」

――海外駐在のルールを。

「部署によってニーズが異なるため全社的なルールはない。例えば、鋼管本部は米州、欧州、東南アジアで幅広くビジネスを展開していることから、駐在者が他営業部署と比較して相対的に多い。職能の場合は、法務部は海外弁護士資格の取得を目指す、経理部であれば海外の会計基準を学んでもらうなど、部署のニーズを反映して実施している」

――関連会社の採用・人材育成は。

「事業会社の社員についても当社の研修に出席できる様、事業会社への研修メニューの提供を実施。今後も引き続き、人事を含めた経営管理の知識・ノウハウ共有しながら、MISIグループ全体の連結経営を一層強化して行きたいと考えている」

――賃金・評価制度は。

「賃金制度はPay for Job(標準年収)とPay for Performance(ボーナス)で構成。Pay for Jobは職掌グループに期待される役割と職務レベルに応じたジョブグレード(等級)によって決定。Pay for Performanceは全社業績、組織業績に対する貢献度、個人業績に対する達成度に応じた評価を反映させている」

――株主の伊藤忠商事、丸紅と給与水準を比較すると。

「鉄鋼業界が非常に厳しかった時代に事業分割して発足した会社だが、優秀な人材を採用するため株主とは情報交換し、総合商社に後れを取らないよう努めている」

――株主との人事交流は。

「大規模ではないが、若手・中堅層で人事交流を行っている。営業本部の統合会社なので、管理部門については両株主との人事交流を重ねることでノウハウ、機能を補ってきている」

――ベテラン層の活躍も重要。

「満60歳で定年退職する。本人が希望し、会社が定める基準に該当する場合は、満65歳を上限に嘱託社員として再雇用する制度を持つ。定年延長は検討課題と認識しているが、導入時期は未定」

――RPAなど先端ITの活用策を。

「18年度からRPA開発・導入の取り組みを行っているが、19年度末までに全社で約5000時間程度の業務時間削減の効果を実現している。業務の自動化、効率化にあたっては、内容に応じて最も適切なソリューションを活用できるよう、BPR(Business Process Re-Engineering)専門家に相談できる体制を整備した。内部統制上の課題を解決するためRPAロボットの管理ソフトを近く導入し、社内ユーザーの利便性をさらに向上させる。業務効率アップと並行して、社員には創造的な仕事にシフトしてもらう」

――新型コロナウイルス対策は、働き方改革につながりそう。

「緊急事態宣言解除を受けて、6月は原則在宅勤務を週2日以上の在宅勤務に緩和した。フレックスタイム制度を活用したオフピーク通勤を推奨し、部署内の勤務シフト調整等で社内感染リスクも低減させている。在宅勤務は、制度化を検討し、WEB会議ツールなどICTの活用も広げていく」(谷藤 真澄)

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