2020年8月4日

住友商事の資源・化学品事業戦略 上野真吾・資源・化学品事業部門長に聞く 環境優位の水素エネ注目

 住友商事の資源・化学品事業部門は上流のコスト削減など競争力強化に集中する。中長期では、高度化に向けて修正中の資源戦略に基づき、温暖化対策などを織り込みつつ、水素など新たな領域を含め次世代の事業を作るという。上野真吾部門長にウェブ取材で方針を聞いた。

 ――2019年度の部門の業績の要点を。

 「資源ビジネスは、資源第一本部が銅、ニッケル、亜鉛等の非鉄系を扱っており、資源第二本部が鉄鋼原料系、エネルギー本部は油ガスが中心だ。19年度は、石炭価格が18年度に比べて下がったことが影響し、特に資源第二が苦戦した1年だった。部門は18年度が685億円の連結純利益だったが、19年度の実績が432億円。化学品を除くと18年度の485億円に対して227億円だった。非鉄や油ガスは、今年3月のコロナの影響による一過性の下落を除けば、市況自体低迷はしていたものの石炭ほどの大きな落ち込みはなく、想定の範囲内だった。ボリビア(サンクリストバル鉛・亜鉛鉱山)で酸化鉱の鉱石在庫に関わる評価をより保守的に行い、一過性の損失を計上した。以前は酸化鉱在庫を活用しながら収益に結び付けていく方針だったが、鉱山の寿命が近いこともふまえたものだ」

 ――新戦力は。

 「新しく稼働した鉱山はないが、住友金属鉱山と18年に新しく買収した銅の案件、ケブラダ・ブランカの建設が始まっている。生産案件としては、小さいところだがテキサスのイーグルフォードというシェールオイルの権益を取得し、オペレーターシップを取って開発している」

 「マダガスカルにあるアンバトビーというニッケルの鉱山は、高位安定生産を目指して、昨年11月にプラントを止めて集中的な設備修繕・保全を行った。その成果が表れかけた矢先にコロナで操業が止まってしまった」

 ――コロナの影響で南アフリカのアソマンとサンクリストバルも操業停止していたが、再開したのか。

 「どちらも既に再開している。止まっているのはアンバトビーのみ。サンクリストバルは、輸送や港湾が通常通りに戻っていないので100%出荷できているわけではないが、現場はスムーズに立ち上がり、通常の操業に戻ってきている。アソマンも100%ではないが操業を再開している。アンバトビーは、プラントのキャンプ内での新型コロナ蔓延のリスクを回避するため操業を止めた。国自体の飛行機移動が禁止になり、(技術者が海外と行き来する)ローテーションができなくなったことを受け、まだ再開すべきではないという判断をしている。現在、最低限の保守・保全を行う人員のみを残しており、操業再開のめどは立っていない」

 ――コロナで需要が減ったことによる減産は。

 「南米の鉱山はそこまで大きな減産に転じていない。豪州の石炭やブラジル・南アの鉄鉱石は、日本の鉄の需要が落ち込んでいるため、中国向けに振り替えて生産しており、事業に多少の影響は出ている。非鉄もそうだが、需要家としてはこれまでのサプライソースを変えるなど、サプライソースの多様化のきっかけになるかもしれない。」

 ――今期の収益見通しを出していないが、コスト削減や緊急策は実施しているか。

 「現場でコスト削減を進めていかないといけない。サービス会社や外部コントラクターに大幅なコスト削減をお願いしているし、自前のコスト削減も徹底的に行っていく。市況がよくないため、業績にはネガティブに効いてくるのではないか。会社全体として危機対応モードに入っており、手元流動性を確保することが大前提だ。(資産の)買い時という人もいるが、このタイミングで優良な案件は出てこないだろうと見ている」  「コスト削減やオペレーションの効率化のためには、デジタル化も重要だ。資源の採掘場所の労働環境が厳しくなってきている。IoTとかAIを使った建機の自動運転や予兆保全システムのスタートアップに投資している。人権問題も重要視していくなかで、厳しい環境下での操業の自動化は極めて重要な課題だ」

 ――中期経営計画の3年間で1900億円投資する計画については。

 「今年度の新規案件獲得は、見直しが必要だ。全社業績は、中計1年目の18年度は過去最高益、19年度は下振れたため、20年度は挽回の年と言ってスタートしかかったが、コロナ影響で危機対応モードに舵を切った。既存案件の更新投資やケブラダ・ブランカ等の決まっている案件を中心に取り組んでいく。もちろん、どうしてもという優良な新規案件があれば、可能性はゼロではない」

 ――今後、どのような方針で資源ビジネスに取り組んでいくのか。

 「去年の半ばくらいから、部門として資源上流戦略の高度化に取り組んでいる。14、15年に出したシェール、銅、石炭、ニッケルなどの減損を契機に、資源の上流ビジネスの戦略を外部コンサルも入れて15年に作った。この5年間その戦略に則り上流投資を行ってきたが、課題も出てきており、修正していくことにしたものだが、ほぼ固まりかけている。大きく分けて2つ要素がある。例えば、ケブラダ・ブランカのように50年単位の超長期の案件もあれば、上流権益でも5年から10年で終わるものもある。それらを同じ机上で見るのではなく、それぞれの鉱物資源の魅力度を短期、中期、長期と期間で分けて評価していく。そうすれば期間によって狙うものが変わってくるという考え方。もう一つはESG(環境・社会・企業統治)の要素だ。当社は2050年にカーボンニュートラルを目指すと発表しているが、その要素を取り入れた形で資源の上流戦略を作り込んでいる。全社の長期目標から中期目標やKPI(重要業績指標)を策定し、それらに合わせて戦略を作る」

 ――手持ち案件でも、長期的には見直す可能性があるのか。

 「議論があるところだ。まず、鉄鉱石はなくならない。電炉化が進んでも高炉も残るだろうから、いつ水素還元になるかという話だ。原料炭は長期では位置付けが変わる可能性があるが、真に優良なものがあれば検討していきたい。一般炭に関しては、新規開発案件は取り組まないこととしている。気候変動関連は相当意識しなければいけない。逆に銅やニッケルはEVの普及に伴い必ず需要が伸びる。マダガスカルはニッケルと一緒にコバルトも出てくる。苦労はしているが社会的に意義のあるプロジェクトだと考えている。権益を保有していないリチウムだが、将来的には見ていきたい。長期的にはCO2(二酸化炭素)を排出するガスの是非が問われることになろうが、短期的には石炭の代替エネルギー、中期的には再生可能エネルギーの需給調整という役割のために必要だ」

 ――コロナを経て変わる点は。注目している新しいエネルギーはあるか。

 「コロナ後は、原状回復ではなく『元より良い状態にしていく』という考え方が進んでいくと思う。環境に配慮した操業や、あるいは環境問題を考えた投資がより加速していく。新たなエネルギーで注目しているのは水素だ。社内組織の水素ワーキンググループが、水の電解装置の日本での実証や、オーストラリアでの水素製造に伴うCCSを現地で行うプロジェクト等に関わっている。また、本年3月に立ち上げられた中部圏水素利用協議会では幹事会社の1社となっている。水素還元は高炉メーカーがかなり力を入れて開発していると聞いているが、当社としてはCO2フリーの水素を供給しながらカーボンニュートラルに貢献したい」(正清 俊夫、松尾 聡子)

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