2020年9月9日

「豊田通商・金属本部 SDGsへの挑戦」動静脈一体で低炭素貢献 リバースサプライチェーン構築目指す

 新型コロナウイルスの猛威が世界を襲い、地球温暖化の進行は止まらず、世界の金属業界を取り巻く環境は厳しさを増している。人類が将来にわたって成長を続けていくためには、多様な価値観を認めつつ地球環境に配慮したSDGs(持続可能な開発目標)の理念が求められる。トヨタグループ唯一の商社、豊田通商はSDGsの考え方を重要な経営の柱に位置付け、金属関連事業を統括する金属本部でもさまざまな取り組みを進めている。「リバースサプライチェーン」の考えを取り入れ、動静脈一体となった事業展開を図る同本部の挑戦を通じ、金属産業とSDGsのあり方を見つめる。

 SDGsは2015年に国連サミットで「持続可能な開発のための2030アジェンダ」として策定された国際目標で、地球上の「誰一人取り残さない」ことを公に誓っている。それを受け、豊田通商では19年に貸谷伊知郎社長を委員長とするサステナビリティ推進委員会を立ち上げた。特徴的なのは、SDGsの17の目標や169のターゲットに対して個々のビジネスを単純に当てはめるのではなく、同社の企業理念や行動指針、グローバルビジョン、中期経営計画とリンクさせイニシチアチブを取りながら対応を進めていることだ。

 SDGsに関連したサステナビリティ重要課題(マテリアリティ)を定め、金属本部でも6つのマテリアリティに沿いながら事業を推進している。「金属本部にとってのSDGsとは何か」との問いに対して、斉藤尚治・金属本部CEOは「われわれが貢献できる実現性の高い社会課題を絞り込み、社内外に対するシンボリックな目標として位置付けている」との認識を示す。それらの取り組みの中で、金属本部が重視するのがまず「低炭素社会への貢献」だ。この分野で金属本部はマルチマテリアルやデジタル化、CO2排出削減などの切り口から社会課題解決に多角的に取り組んでいる。

 マルチマテリアルでは、モビリティ分野におけるCASE対応、特に「E=電動化」の箇所で低炭素社会への貢献を果たす。現在、電動車の普及が加速度的に進んでいるが、金属本部では「自動車リサイクルが可能な体制との両にらみで、軽量化を可能にする素材提案をリードしていく」(斉藤CEO)方針で、動静脈一体となった視点を重視している。軽量化に関しては特定の素材に関わらず社会ニーズに応えるマルチマテリアルの全体最適の視点を第一に、お客様へ素材供給を提案する方針を示している。

 複雑化する現代において「デジタル化はなくてはならないマネジメントツール」(同)との考えを明確に打ち出し、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」をキーワードにデジタル化を全面的に進める。その一環として金属本部・自動車薄板SBUではスマートデリバリーとスマートファクトリーという2つのスマートを戦略の重要課題に置く。製造現場におけるCO2排出削減など低炭素社会への貢献に加え、生産性向上などでもスマートをつなげ、複合的な効果の創出に努めている。

 マテリアリティの一つである循環型社会への対応についてはリサイクルを重要課題に挙げ、20年4月の組織再編では資源循環SBUを新たに立ち上げた。従来の金属資源SBUから再編成し、静脈ビジネスだけをスピンオフしたリサイクルビジネスに特化した事業構成としている。その狙いを斉藤CEOは「リバースサプライチェーンの構築」と断言する。従来の川上から川下へと目指していく流れに対して、製品からさかのぼってフォローしていく流れを同時に構築し、動静脈一体となったサプライチェーンの構築を目指す。

 具体的にはELV(使用済み自動車)事業や産業廃棄物事業、アルミスクラップからアルミ合金を溶湯供給するアルミ合金溶湯事業、アルミインゴットの販売事業、中古自動車パーツのリユース事業などエンドユーザーの領域をさらに広げ深掘りしていく。これまで廃棄、焼却、埋め立てしてきたものを、3R(リビルト、リユース、リサイクル)することでバリューチェーンを新たな領域に広げていく考えだ。

 金属本部における各マテリアリティに関する取り組みの進展状況について斉藤CEOは「循環型社会に対応するためには、まだまだ道半ば。しかし、必ずやりきりたい」と力を込める。特に資源循環の分野では日本モデルの海外展開を視野に入れる。「グローバルに見ると廃棄物処理に関する法規制すら整備されていない国・地域も見られる。日本の事例を紹介しながら、現地・現物で協力を進めていきたい」(同)とその意義を語る。

 SDGsの重要な柱の一つであるダイバーシティに関しては「女性、外国籍の方々の力は大事な本部の戦力であり、VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代を一緒に戦っていく。組織としてその準備は既に整っていると感じている」(同)とし、金属本部としての多様性ある事業運営に自信を見せる。

 企業文化の面では従来、自動車や金属などの重厚長大型産業では正確性と効率性が重要視されてきた。同社においても「規模の経済の中で、それらを極めたのがジャストインタイムやグループのお家芸であるカイゼンであった」(同)と振り返る。だが、これからは変化に対応するため「個人の感性や感覚をいかに経営に反映させるか」(同)。そのために「一人一人が健全な危機感をもって環境変化を感じ取り、自ら考え、発言して行動できる人材の育成」(同)を戦略の核とする。「強い個」を育て、その集合体として組織強化を図っていく考えだ。

「強い個」を育て組織強化 紛争鉱物対応へ貿易 管理にデジタル活用

 「強い個」を確立するため、金属本部は豊田通商全体の人材育成戦略に沿いながら、複線型キャリアパスの導入などを視野に入れる。従来のような単線型のキャリア育成だけでなく、個々の多様な価値観を尊重し、社会人人生の中で各社員に自己実現の達成を促すのが狙い。斉藤尚治CEOは「全員がやる気をもって取り組むことで組織としてのもう一段高い成果を目指している。着実にキャリア育成の新たな土壌を育んでいきたい」と、社員の個性を組織の成長材料へと昇華させる。

 金属本部は今期から6つの専門性あるキャリアパスを社員に示す。例えば海外の特定地域や生産現場の安全対策の専門性を高めかつ評価するキャリアプランなどだ。各国の地域事情や、技術、マネジメントなどに精通したスペシャリストとゼネラリストをバランス良く育て上げ、個々人の意向に沿った活躍の場が提供できるように努めていく計画だ。社員の意向を確認するため定期的に対象者と管理職との面談の場を設ける。中堅以上の社員が対象で、すでに今期は1回目の面談を終えている。この場を通じて社員個々の意向を可能な限りくみ取り、「個人の希望(WILL)×個人のスキル(CAN)×会社の期待(MUST)」の視点から個々のキャリアに反映させていく。社員研修においても従来からの金属本部の発想にとらわれない自由な発想を重視する考えだ。

 近年、グローバルに金属資源・材料を扱う企業として避けて通れないのが、紛争鉱物への対応だ。幼い子供や強制労働、環境破壊を伴う紛争地で採掘された資源は武装勢力など反社会的な組織の資金となる。そのため国際的にも厳重な管理が求められ、欧米では法規制も行われている。金属資源・材料を取り扱う金属本部でも紛争鉱物への対応はSDGsに関連した重要な課題であり、サプライチェーンにおけるトレーサビリティーの重要性を強く認識している。

 サプライチェーンでの管理・監督体制を強化する有効な手段として斉藤CEOはデジタル活用を挙げる。これまでもデジタル化を進めてきたが「さらにその活用の場を広げていく」(同)考え。デジタル技術を生産性や省エネ・CO2排出削減といった面だけでなく、貿易管理面での機能強化に活用し、社会の発展を阻害する取引に与しないサプライチェーンの構築を目指したい考えだ。

 その一方で斉藤CEOは「デジタルを過信してはいけない」とも訴える。「あくまで使用するのは人。『たとえ一度システムを構築したとしても、それで安心してはいけない』を合言葉にしていく」とシステムへの過信を戒めた。

 金属本部が実施してきたモノづくり系DXは工場で用いるアイトラッカーなどがある。工場現場で作業するオペレーターのヘルメットにカメラを装着し、別室で集中管理することが可能になり、人材育成をはじめさまざまな面で効果が期待できる。

 AIを活用した相場予測、ドローンを活用しての在庫の数量確認などを「トライ&エラーを繰り返しながら、システムを確立できるように動いている」(同)。長期的な少子高齢化、人口減少による働き手の確保なども見据えながら、省力化に向けたIT活用も進めていく考えだ。

 中期・長期ビジョンを毎年更新し、ニーズの変化への対応力を強化している。今年4月に行った金属本部の資源循環SBUの設立もその一環で、静脈産業に注力する意思を目に見える形で表したものだ。現在、金属本部の資源循環型静脈系事業の割合は「およそ4分の1程度」(同)の水準で、すでに主要な事業の柱の一つになっている。その今後について斉藤CEOはビジネスとしての事業継続性を大前提に、「今後も単に数字ありきではなく、静脈系事業は社会課題に対して金属本部が取り組むべき使命と捉えている」との考えを示している。

 豊田通商はアフリカでの事業展開も積極的に行っていることでも知られるが、アフリカでは自動車や食品や医薬品などの生活物資に関連した事業が中心になっている。現地の生活レベルが向上していけば、廃車や廃棄物などの発生量が増加することも予測される。その時こそ「金属本部の出番」(同)であり、発展途上にあるアフリカ諸国での事業展開を進めSDGsの理念である誰一人取り残さない発展につなげていく。

 電動化に欠かせない希少資源の一つであるリチウムなどの資源開発も金属本部で進めている。リチウムは自動車産業だけでなく、ますます進む電動化社会全般に必要な原材料の一つとして期待されている戦略物資だ。同社は2014年からアルゼンチンで炭酸リチウムの開発から生産まで進めており、国内では水酸化リチウムの生産工場の建設を進めている。リチウムイオンバッテリーの技術発展は低炭素社会の到来に欠かせない存在であり、SDGsを支えるプロジェクトとなっている。

 インドでのレアアース開発もその一つ。電動化に欠かせないモーター用磁石の原材料にも用いられるレアアースだが、過去にはいわゆるチャイナショックなどで外交紛争の道具に用いられた苦い記憶がある。安定した供給先の確保はSDGsのみならず安全保障まで関わる重要性を有する。低炭素社会を実現するためになくてはならない希少資源をわが国に供給するライフラインとしての役割を担っている。金属本部は安定供給を図るため「相場に左右されない競争力の確保を目指す」方針だ。

 世界経済に打撃を与えた新型コロナウイルスの感染拡大は同社と金属本部にも暗い影を落とした。20年4―6月期の四半期決算では他企業と同様、計画から落ち込みを見せている。だが、斉藤CEOは「これからの挽回に向けて気を入れ直している」と前を向く。当初はテレワークなどで効率の悪さが散見されたが、ITツールによる業務改善を積み重ねてきた結果、「現在では十分に対応可能な基盤ができた」(同)。

 今や感染症問題はSDGsの達成に向けても乗り越えなければならない壁として世界に立ちはだかっている。難局を乗り越えるため、「強い個」の集団を作り上げる金属本部の挑戦の行方がポストコロナ時代の金属業界のあるべき姿を照らしてくれるかもしれない。引き続き、同社のSDGsへの挑戦にフォーカスしていく。

(服部 友裕)

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