2020年9月10日

「未来へ 見出す活路 見直される日本の鋳鍛鋼」日本鋳鍛鋼会 森啓之会長 技術優位性の発信力向上 常に進化、市場変化対応

 高度な造り込み技術によって国際マーケットで差別化を実現してきた、日本の鋳鋼製品と鍛鋼製品。近年は中国など新興国の技術の進展や需要家の海外進出による現地調達化などによって生産数量は苦戦しているものの、品質が再評価され、日本製品への回帰が目立ってきている。日本の技術優位性をどのように維持・発展させていくのか。日本鋳鍛鋼会の森啓之会長(神戸製鋼所常務執行役員)に展望などを聞いた。

 ――鋳鋼、鍛鋼のマーケットはどのように変化してきたか。

 「生産数量の至近ピークは2007年度で鋳鋼が29万7000トン、鍛鋼は75万1000トン。20年度は新型コロナウイルス感染症による経済活動の低下で、鋳鋼は07年度比で56%減の13万2000トン、鍛鋼は33%減の50万3000トンを予想している。景気回復で17年度と18年度は増加傾向が見られたものの、米中貿易摩擦と新型コロナで19年度以降は再びマイナスに転じている。鋳鋼は建設機械や造船、自動車、産業機械が、鍛鋼は造船や電力が主体で、需要分野の低迷の影響を受けている。先行きの動向で不透明感が漂っており、市場低迷もあって日本、アジア各国で市場から撤退するメーカーが見られる」

 ――コロナ禍で働き方、生活様式が変化するとみられる。鋳鋼、鍛鋼業界への影響は。

 「製品と需要家との関係で見れば、現時点で変化は見られない。ただ、モノづくりという観点ではすでに変わり始めている。将来的にはIoTやAIなどを駆使して、リモートで工場の設備状況を監視し、遠隔で操作することができるようになるだろう。人手不足の問題を解消するため、これまでは大手企業を中心に検討を進めてきたが、中小企業の経営者が強く関心を示している。コロナ影響でデジタル技術の導入が加速する可能性もある」

 ――中国メーカーの技術が進展している。国内外市場で勝ち抜くために、日本の技術優位性をいかにキープするか。

 「関係先からアドバイスを頂きながら、日本鋳鍛鋼会として、需要家へのPR活動を展開していきたい。鋳鋼製品、鍛鋼製品は装置や機械に使われる部材、いわば最終製品であり、その価値をしっかり認めてもらえるよう努める。その上で、良質な原料を使用する製鋼工程、また鋳造および鍛造の造り込み技術を駆使し、安定した品質を実現する日本製品の優位性をアピールする。海外拠点を拡充してきた需要家は中国製品や韓国製品を現地調達してきたが、品質問題解消やBCPの観点などから、日本製品に回帰する動きが出ており、評価が再び高まっている。当協会としては『発信力の向上』が大きなテーマであり、将来的には需要家産業への展示会に出展し、製品をアピールすることを検討している」

 ――次世代人材の育成は大きな課題だ。

 「コロナ影響で一時的に中止しているが、当会では若手の育成に取り組んでいる。若手技術者のレベルアップを目的とし、座学中心である鋳鋼、鍛鋼の基礎講座を約10年前から開講している。鍛鋼に関しては18年秋から、よりレベルの高い内容の中級者向け研修を製鋼研究部会、鍛鋼研究部会の2部会でスタートした。同じく18年に、あるテーマに関して鋳造、鍛造の枠組みを超えて技術者が集まり、意見を交換する場として標準化検討審査会を新設した。鋳鋼、鍛鋼のハイブリッド技術などに結び付けば面白い展開になり、審査会の役割を終えた後もこの会議体を発展させていきたい。当会の特徴は学会を兼ねている点にあり、コロナ前は会議を年間80回程度開いている。活動を通じて、中・長期的に日本メーカーにとって競争力の維持・向上につなげていきたい。また人材不足になることは業界の衰退にリンクする。鋳鍛鋼業界への就職が増えるようアピールする」

 ――中・長期的な業界展望。日本の鋳鍛鋼業界のあるべき姿を。

 「鋳鋼製品、鍛鋼製品ともに生産数量がピーク水準に戻ることは想定しにくい。17年度、18年度の生産レベルをベースロードとして捉え、その上で各個社が事業を継続できるよう生き残り策を考えていかなければならない。マーケットは大きく変化しており、われわれも常に進化し、新たなニーズを捕捉することが重要になる。自動車で言えばハイブリッド、電気、水素などがキーワードになるが、需要家が鋳鍛鋼製品に要求する品質や性能などはより高いレベルになるだろう。鋳造は鋳型のスタイルが変わり、砂型を3Dプリンターで製作するようになれば優れた製品をスピーディーに実現する日本メーカーの力を発揮できる。鋳鍛鋼事業は未来永劫、日本国内で続いていくと信じて疑わない。技術者の視点で見れば鋳鋼、鍛鋼は技術的なポテンシャルが高く、マーケットの変化に対応しながら、さらなる発展を遂げると期待している」

(濱坂 浩司)

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