2020年9月17日

「未来へ 見出す活路 新時代の製錬所生存戦略」日本鉱業協会会長(古河機械金属社長) 宮川尚久氏 資源ナショナリズム台頭 買鉱条件改善に打ち手を

 資源小国の日本にとって、資源の安定供給確保は長年の重要政策課題だが、そのハードルは近年高まる一方だ。輸入鉱石の調達条件は慢性的に悪化し、海外鉱山開発の難易度は上がる。資源を爆食し続ける巨大市場・中国の存在や、世界各国での資源ナショナリズムの台頭が背景にある。高機能・高品質な金属素材の供給を通じて日本の製造業を支える非鉄製錬業だが、既存設備を資源リサイクルにも活用するなど、時代に即した生存戦略の模索が続く。日本鉱業協会の宮川尚久会長(古河機械金属社長)に、業界の最近の取り組みと将来展望を聞いた。

 ――金属業界の戦後史を振り返って、今の日本の非鉄製錬業に特に大きな影響や転換をもたらした出来事を挙げてほしい。

 「需給の話から始めると、東京五輪の1964年には国内で376の非鉄金属鉱山が稼働していたが、今は主要鉱山としては菱刈(金鉱山)を残すのみ。資源の枯渇に加えて、貿易の自由化、プラザ合意後の急激な円高進行によって、多くが価格競争力を失い閉山した。製錬所のほうは、日本の経済成長に伴う地金の内需増大を賄うため、輸入鉱石への依存度を高めて、鉱山付属製錬所から臨海、大型の買鉱製錬所へと移り変わった」

 「その中で、地金の輸出入の逆転は、物の考え方をいろいろと変えたと思う。日本は20世紀の終わり頃まで電気銅の輸入国だった。今では国内生産年160万トン、内需100万トン、輸出60万トンの輸出産業だが、バブル経済の最盛期には年産100万トン規模で、足りない60万トンを輸入した。輸入時代には関税が重大な関心事で、撤廃反対の大きな動きがあった。その後、製錬各社が増産投資なり設備改善なりに努めて、リサイクルも始めた結果、年160万トンの供給能力に至り、対する内需はバブル崩壊以降縮小した」

 ――戦後の古河オウトクンプ式自溶製錬法の確立は、電気銅の大量生産に寄与した。

 「フィンランドのオウトクンプ社から製錬技術を導入し、古河鉱業(現古河機械金属)の足尾で改良して、同和鉱業(現DOWAホールディングス)の小坂や日本鉱業(現JX金属)の佐賀関、住友金属鉱山の東予、日比共同製錬の玉野などに採用された。溶鉱炉や反射炉に比べて、自溶炉は燃料使用量が非常に少なく、(溶錬工程で生じる)亜硫酸ガスの問題も解決した。(三菱マテリアルが後年に独自開発した)三菱連続製銅法とともに、業界のエポックを画するものと言える。ただ、硫酸を新たに副生することになり、販売面の苦労は生じた」

 ――2000年代に入ると中国製錬業の台頭と海外資源メジャーの寡占化が進んだ。

 「鉱石需給がタイト化した結果、06年に銅鉱石のプライス・パーティシペーション(=銅価があらかじめ決めた基準値を上回ると、差額の約1割を製錬側に返し、下回ると鉱山側に返す仕組み)が廃止された。近年で一番大きな出来事だろう。銅価上昇時の製錬側の取り分が大きく減り、買鉱条件交渉の主導権は中国と資源メジャーに握られ、われわれにとってもはや買鉱『交渉』ではなくなった。今後も製錬所の地位と存続を揺るがす、大きな問題であり続けると思う」

 ――資源バブルは資源ナショナリズムを勃興させた。

 「私が前回鉱業協会長を務めた14年には、インドネシアの鉱石禁輸政策が大きな問題になった。当時は(インドネシアと並ぶニッケル資源国の)フィリピンも鉱石禁輸の恐れがあり、アフリカの資源国でも同様の問題が浮上した。経済産業省にはインドネシアへ何度も直接交渉に赴いてもらった。フィリピンとは後年、鉱業分野の覚書を結んでもらった。国からのこういった支援は非常にありがたく、上流資源の囲い込みリスクは今後も常にどこかで出てくる可能性はある」

 ――資源の安定確保が年々難しくなる。

 「買鉱と自社鉱山開発の両面がある。買鉱条件の劣悪化は深刻な問題だ。既に決まった条件を押しつけられるような『交渉』を、今のままずるずると続けてよいとは思わない。今後、中国が銅の内需をみずから賄えるようになった時、資源の爆買いはどうなるのか、鉄鋼のように銅地金を輸出し始めるのか、この見極めも難しい。これまでも共同買鉱交渉を行うなど取り組んできたところであり、今後も日本の製錬会社が連携し大きな塊となって、何かしらの戦略を考える必要がある」

リサイクル環境整備訴求 産官学一体で技術革新を

 ――自社鉱山開発のハードルは近年とても高い。優良案件は減り、初期費用は高止まりし、環境対応・地域社会対応は厳しい。

 「買鉱だけで全てを解決できないからこそ、会員各社はリスクを負って海外で自山鉱比率を高めようとする。民間の資金力や許容リスクの範囲を超える部分については、政策支援が必要だ。例えば、今次国会でJOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)法が改正され、海外資源開発のためのリスクマネー供給機能が強化された。数年前の法改正で(一定条件下にある資源開発案件への)JOGMECの直接出資が認められ、今回、対象範囲が(鉱山にひも付かない)選鉱・製錬事業に広がるなど、バリエーションが増えてきた。出資を受ける側の民間会社は心強いだろう」

 ――資源外交には何を期待する。

 「資源ナショナリズムをけん制するための資源外交と、鉱石や権益を日本企業に与えてもらうための資源外交があると思う。JOGMECは後者のほうで、資源国に先陣を切って乗り込む役割を持つ。(国際資源開発研修センター傘下の)国際資源大学校などが資源国から留学生を受け入れ、帰国後に資源政策の中枢を担ってもらう、といった関係作りのやり方もある」

 ――製錬原料は鉱石だけではない。製錬設備をリサイクルに活用すれば鉱石比率が下がり、資源循環型社会に寄与する。

 「われわれ業界からは、リサイクル事業環境の整備、仕組み作りを訴えている。例えば、中国の輸入規制強化で被覆電線などの低品位スクラップが日本国内に滞留しているが、製錬所で受け入れるには、製錬設備に投入可能な形に処理する工程など、回収業者と製錬会社をつなぐ仕組みに課題が残る」

 「最近見直しに向けた検討が始まった小型家電リサイクル法では、電機製品の設計段階から分離・リサイクルを意識してもらうこと、製錬所での受け入れ時に高品位の有価物と低品位の有価物とに分別されていること、処理コストを生産者や消費者にも負担してもらうこと――などを要望している。議論を進めるために、経済産業省や環境省を中心に国を挙げていろいろな場面を作ってもらえるとありがたい」

 「日本の製錬設備を活用して、国際資源循環ネットワークを築く構想もある。東南アジアの国々でも小型家電リサイクルのような取り組みが始まっているようだが、集めてからリサイクルするルートがまだ十分に整備されていない。日本の製錬業界がリサイクル・環境技術で貢献できるかもしれない」

 ――環境分野では脱炭素も注目される。

 「当業界では『非鉄金属産業の環境保全に係る自主行動計画』を策定し、電力原単位の低減を前倒しで達成してきた。非鉄金属自体がIoT(モノのインターネット)、5G(次世代通信規格)、EV(電気自動車)などの今後の豊かな社会、持続可能な社会に貢献する素材でもある」

 ――日本国内の地金需要が成熟し、輸出産業となった今、国内製錬所の存続、統廃合をどう考える。

 「今は中国で銅が足りず、日本からの輸出で賄う部分が相当ある。いつか中国が全量を国産で賄うようになった時に、インドなど、第二の中国のような市場が運良く現れるかどうか、ではないか。そういう国への輸出で日本の製錬業界がやっていければ、無理な統廃合は不要かと思う。海外で製錬をやる発想もあるが、先ほどのリサイクル製錬との兼ね合いは出てくる」

 「もっと何十年も先の将来を考えた場合、海洋資源開発が進み国産資源を掘れるようになった時に、国内に製錬所がもしなかったらどこで製錬するのか、という問題になる。資源の安全保障上、国内製錬所を守る観点は必要。存続には技術の向上が欠かせない。デジタル技術の導入で精度や安全性を高められれば、無人化や生産性向上を期待できる」

 ――中国をはじめ海外の技術開発スピードは速い。

 「品質面や環境・リサイクル分野ではまだ日本の優位性があると信じたいが、競り負けないように産官学一体の技術革新、一層のレベル向上は必要だ。例えば日本には環境問題に苦しんだ歴史や、休廃止鉱山の管理ノウハウがある。昨今の廃滓ダムの管理強化の国際的議論などを含めて、日本の製錬業界の存在価値、国際競争力として、資源外交に生かせるかもしれない。人材の確保・育成も併せて重要。当業界が魅力ある産業と認識してもらえるように、当協会としても取り組みたい」

(松尾 聡子)

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