2020年9月24日

「未来へ 見出す活路 高度化する厚板マーケット」メーカー、高級鋼領域目指す 造船などニーズ対応深化

 厚板市場は低迷が続く。国内造船各社は受注を落とし、手持ち工事量は2年を大きく下回る。新型コロナウイルスの感染拡大が拍車をかけ、建設機械や産業機械の生産が落ち、建設分野は工事の延期・中止が顕在化するなど需要はコロナ前を下回る。高炉メーカーは厚板事業の持続性と再生産可能な事業体制を念頭に体質を強め、製品値上げや高機能材の拡販に力を入れる。造船などへの対応の深化、独自の高機能材開発や用途開発、収益力の高い新市場の創出がポイントとなる。

 高炉メーカーは生産設備など構造対策を推進する。日本製鉄は製品・製造工程に関する競争力の強化に向け、名古屋製鉄所の厚板ラインを2022年度下期をめどに休止し、鹿島、君津、大分製鉄所の厚板ラインへの生産集約を進める。稼働率向上、生産性向上によって厚板事業の体質を強くする。

 JFEスチールは23年度をめどに東日本製鉄所京浜地区の上工程(製銑、製鋼)と熱延設備を休止する。厚板設備は建材向けを製造する東日本の拠点とし、西日本製鉄所など他地区から半製品の供給を受ける。20年度末稼働予定の倉敷第7連続鋳造設備で製造する高品質・低コストの半製品供給も競争力向上に結びつく。

 製造工程での競争力の確保と併行し、顧客サイドでの工程省略や環境負荷の低減、コスト低減に寄与する「高機能材」などの製品提供が重要となる。国内外の厚板市場で「高機能化」を旗印に高炉メーカーは高級鋼領域での展開を目指す。

 造船市場は船腹過剰の解消が進まず、新造船受注量は低レベルで推移する。コロナ禍で世界経済が減速、物流量の減少を招き、造船受注の減退に追い打ちをかける。受注減によって国内造船メーカーの手持ち工事量は1年7カ月とみられ、危険水域と言われる1年半に迫る。本年度の国内の造船用厚板需要は300万トン割れが確実な情勢だ。

 日本と中国、韓国で造船メーカーの再編が活発化している。国内はジャパン・マリンユナイテッド(JMU)と今治造船が資本業務提携と合弁会社の設立・組成に合意、作業を進めている。営業、設計を共同実施する合弁会社を設立。仕様統一でマスプロダクト効果を追求し、ブロック、大物艤装品の製造所集約などの生産協力を行う。

 三井E&Sホールディングスは子会社の三井E&S造船と常石造船との商船事業分野の業務提携契約に続き、資本提携の協議に乗り出した。業務提携を深め、互いの商品営業力、設計力、研究開発力とグローバル生産能力を相互活用することでグローバル競争を勝ち抜く。

 韓国では現代重工業が大宇造船海洋を買収し、新設の持ち株会社「韓国造船海洋」傘下に現代重工業と大宇造船海洋を置く計画だ。中国は昨年、中国造船1位の中国船舶工業集団(CSSC)と2位の中国船舶重工集団(CSIC)を統合し、「中国船舶集団」を設立した。国内外で激化する競争をしのぎ、どう生き残るかが大きな課題となる。

 コロナ禍によって船舶による海上輸送量が減少している。人の移動は大きく制限されても経済活動が続く限り、グローバル経済の中で海上輸送は重責を担い続ける。ウィズ・コロナ、アフター・コロナも、「日本の輸出入で海上輸送が99・6%を占める構図が大きく変わることはない」(商社)とし、業界再編の波を乗り切れれば、一定の船舶需要が中長期にわたって見込まれる。

 新造船受注は日中韓とも減ったが、手持ち工事量は日韓が減少したのに対し、中国は増加した。建造量トップの中国は防衛が絡むことから、中国造船メーカーが米中貿易摩擦によって米国の規制の対象となる可能性を指摘する声もある。

 船舶の耐用年数は20年程度と言われる。ピークだった05年ごろに建造された船舶の更新需要期が25年ごろに当たり、船舶の建造が増加するのは23年以降と予測される。

 海運分野でも温室効果ガス(GHG)排出削減に向かい、国際海事機関(IMO)は18年に国際海運分野からのGHG排出量を50年までに半減、今世紀中の早期にゼロとする目標を掲げている。

 これに沿って鋼材の機能アップが重要となる。船舶の衝突安全性に優れた高延性造船用鋼板は船舶の衝突時に船体に穴が開くまでの衝撃吸収エネルギーを高め、貨物、燃料油の流出を抑制する。延性特性と耐食性を高めることで無塗装での建造工程の短縮や維持管理コストの低減、海洋汚染の防止など環境対策につなげる。

 タンカー原油油槽の腐食環境に耐える高耐食厚鋼板は建造や塗装作業での工場からの揮発性有機化合物(VOC)の排出量の低減を図る。高炉メーカーはライフサイクルコストでの優位性などを生かし、造船での市場を深堀する。

洋上風力発電需要に期待 DXの潮流、建機に追い風

 2020年6月末の世界の造船手持ち工事量は1億2762万総トンと前年末から3・4%減り、うち日本は1962万総トンと同13%減少した。世界的に船腹過剰が解消されず、コロナ禍が加わり、受注が大幅に減っている。原油価格が低迷し、エネルギー分野でも厚板の需要が伸び悩む。

 期待されるのが洋上風力発電だ。温暖化防止、省エネの観点から石炭火力発電、原子力発電に代わる再生可能エネルギーとして日本や台湾など東アジア海域で洋上風力発電の導入計画が進んでいる。

 20年代半ばまでに洋上風力発電の関連する鋼材需要は日本と台湾でそれぞれ100万トンに上る。進行中のプロジェクト含め、東アジアで合計200万トンを超える大型需要となる。50年ごろに向け、厚板分野での成長市場として拡大が見込まれている。

 世界の洋上風力発電は19年以降、年間で8―21ギガワットの新規導入が想定されている。世界風力会議(GWEC)の試算によると、導入量は19年8・1ギガワット、20年6・9ギガワットから、22年は10・4ギガワット、25年15ギガワット、30年に21・3ギガワットに達する。中国含むアジアは19年3・8ギガワット、20年5・1ギガワット、25年8・6ギガワット。30年に11・2ギガワットに拡大し、世界の導入量の50%程度を占める見通しだ。

 日本は経済産業省と国土交通省が参画する洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会を立ち上げ、30年の洋上風力10ギガワットを中間点の目標に設定し、40年30―45ギガワット、50年90ギガワットと洋上風力による発電能力を向上させる中長期導入目標を示した。政府目標として温室効果ガス(GHG)排出量の80%削減に応じた目標値とし、陸上風力の40ギガワット含め130ギガワットを風力発電で補い、50年推定需要電力量の30%以上を供給する案も挙げ、中長期的な産業化の進展を模索する。

 同協議会は洋上風力発電の導入拡大や必要な関連産業の競争力強化と国内産業集積、インフラ環境整備に着手する。日本鉄鋼連盟は使用する厚板などハイテン材を考慮した統一規格化の検討を始めている。

 建・産機分野はコロナで減少していた需要が6、7月に底を打ち、徐々持ち直している。日本建設機械工業会がまとめた21年度の建設機械出荷金額見通し(補給部品を含む)は20年度予測比4・4%増の2兆2535億円。20年度は前年度比13・8%減の2兆1580億円の見通しで、21年度は3年ぶりに増加する。

 ICT(情報通信技術)による遠隔操作や無人運転などデジタルトランスフォーメーション(DX)の潮流は建機分野にとって追い風となる。

 ICTで建設現場の生産性を高めるアイ・コンストラクションの取り組みに沿って建機の操作、作業やメンテナンス情報のリアルタイム管理、掘削・積み上げ度量の計測から、ダンプトラックなど鉱山機械の鉱山での複数台無人運転など人手によらず、人の密着を回避する技術を売りに市場浸透を図る。鉄鋼メーカーは市場の変化をにらみ、耐摩耗鋼などの需要を捕捉する。

 建設分野はコロナ禍で建設工事の延期や中止が発生し、需要は減少傾向にある。20年度の鉄骨使用量は19年の460万トンより2―3割減り、400万トンを下回る見込みだ。

 都市部を中心に69年の東京五輪の頃に建設された築50年以上のビルが数多く残る。耐震性やビルの機能、立地するエリアの資産価値向上の観点からビルの建て替えは必須だ。コロナで在宅勤務が増え、オフィスビルのあり方が見直される動きがあるものの、コロナ対策としてソーシャルディスタンスを確保した広いスペースやITを活用した新たなビルの機能が求められ、ビルの建て替え需要の拡大が予想される。

 地方自治体は、この点を加味した再開発プロジェクトを推進。東京都と新宿区は築50年以上の建物が集積する新宿駅周辺の新たなまちづくりに取り組む。新宿グランドターミナルの再編の一環で「新宿駅西口地区開発計画(仮称)」として小田急電鉄、東京地下鉄が新宿駅西口地区に地上48階、高さ約260メートルの超高層ビルを建設する。

 鉄鋼メーカーは塩分による腐食環境を勘案した耐候性鋼やコストパフォーマンスに優れた鋼板、溶接施工法の開発も合わせて厚板の特性を向上させる。技術力を生かし、建築構造用はじめ、高耐候性鋼などビル建築に加え、橋梁といったインフラ需要も捕捉する。 (藤原 直)

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