2020年11月26日

三井物産・鉄鋼製品本部の事業戦略 藤田浩一執行役員 組織の筋肉質化加速

――三井物産(MBK)鉄鋼製品本部の全トレーディング事業を10月1日付で三井物産スチール(MBS)に集約した。

「2008年にMBSを設立して以降、トレーディング機能を段階的に移管してきたが、直近はエネルギー関連の鋼管、厚板や軌条など一部だけがMBKに残っていた。本体との連携による総合力発揮が不可欠な品種・分野という名目だったが、組織としてはいびつだった。MBSに出向する80人強のMBK社員は大手町の新本社ビルに出入りが自由で、オフィスはフリーアドレス。MBSの社員と一緒に来て、モビリティやエネルギー、プロジェクトなどの営業本部と積極的に交流し、情報交換を重ねることで、総合力を自然体で引き出していける。新本社での営業を5月に開始し、環境が整ったと判断。MBSが物流を一括管理し、鉄鋼製品本部は事業出資先の管理、新たな出資領域の開拓などに役割を分担することにした」

――MBSへの期待を。

「コロナ禍が長期化し、地球上の人の移動が同時に制約された結果、出張や会食ができなくてもそれなりにビジネスを成立させる新たな働き方を確立できた。これを好機と捉え、人材配置を含めて組織・体制を筋肉質にして、生産効率を追求してほしい。さらに手広く物流を手掛けることになるので、コーポレート機能を一層充実させる必要がある。自立自走する意識を強く持って、管理職、役員候補者など人材育成も強化してもらいたい。将来的には事業投資をみずから検討することも期待している。トレーディングを集約したことで、グローバル・プラットフォームを確立したわけで、MBSの社員には、全世界ベースで物事を考えて、営業の第一線の現場からニーズを拾い上げて、どんどんMBKに持ち込んで来ればよい。突き詰めれば行動力、図々しさを期待している。取引先の方々には、MBSは素材物流のみならず、モーターコアやホットプレスなど部品のエリアにネットワークを持ち、さらにバックには三井物産グループがあって、グローバル人材も揃っているという認識で頼ってもらいたい」

――改めて鉄鋼製品本部の陣容を。

「総勢約300人で、担当職が約250人、業務職は約50人。10月1日時点で、海外に約70人を派遣している」

――MBKの新体制を。

「ゲスタンプ、宝井鋼材などの主管となる自動車部品事業部、日鉄物産、ショーボンドとの海外事業合弁SB&Mなどを主管する建設・インフラソリューション部の2部体制に見直し、本部直轄のエネルギー事業室を新設した。MBSは本部直轄となる。流通関連を担当する部単位の組織を1-2年内に作りたい」

――ゲスタンプ、グローバル・エナジーなど海外事業は鉄鋼製品本部が引き続き管掌する。

「当面はそうだが、グローバル人材が増え、事業会社を経営する力、株主として管理する力がついてくればMBSが管理することも可能。目指しているわけではないが、将来鉄鋼製品本部全体をスピンアウトする可能性だってあるかもしれない」

――中期経営計画(20-22年度)では、全社方針として『変革と成長』を掲げ、成長軌道への早期回復を目指している。

「鉄鋼製品本部としては、あり姿を『鉄をはじめとした素材の力を活かし、産業課題や顧客の潜在的ニーズを先取りした、モノ・コトを創出していくプロフェッショナル集団』と設定し、変革と成長を追求している。次世代モビリティ、エネルギーソリューション、サーキュラーエコノミー、デジタルエコノミーをテーマに事業と物流を両輪としたビジネスを創出していく」

――基本スタンスと重点課題を。

「事業、物流ともに選択と集中を徹底し、組織の筋肉質化を図っていく。ターゲットはモビリティ、エネルギー、インフラ、流通の4領域。重点課題は、事業経営力の強化による海外投資事業の果実化、グローバル物流ネットワークの形成、物流網とデジタルトランスフォーメーションの融合の大きく三つ」

――海外の大型投資の果実化の手応えは。

「ニューコアと北米でコイルセンター網を展開するスチールテクノロジーズは投資効果を発揮している。世界最大級の自動車プレス部品メーカー、ゲスタンプ・オートモシオン、エネルギー総合サービスの、英グローバル・エナジーなどは、コロナ影響もあって足下は苦労しているが、PMIの効果は出始めている。トルコの最大手総合パッケージメーカー、サルテンは、トルコリラが最安値を更新するなど経営環境は悪化しているが、コロナ禍での在宅勤務や食事によって缶詰用などのパッケージ消費が急増し、事業計画通りの収益を確保している。風力発電用タワー・フランジの製造事業をグローバル展開するGRIは、各国政府の補助金政策面の課題で苦しい局面が続いたが、今期は計画以上の数字を達成できる見通し。歯を食いしばって残存者利益を確保していきたい」

――物流網とDXの融合は。

「鉄鋼市場の構造変化にコロナ影響、働き方改革などの時代の要請が重なり、流通における構造改革が求められている。Eコマース、フィクティブなどスタートアップ企業への投融資を積極的に行っていく」

――グローバル物流ネットワークの形成に向けては。

「先行するモビリティ、エネルギーに続くインフラ分野では、構造物の総合メンテナンス企業であるショーボンドホールディングスと合弁会社を設立し、IMR(インスペクション、メンテナンス、リペア)事業をアジア、米州で大々的に強化していく。先行するタイでは、サイアム・セメントグループと3社で合弁企業の設立に合意した」

――物流自体はグループ3社に任せる。

「MBS、日鉄物産、エムエム建材という得意分野が異なる3つの物流の専門家集団を通じたグローバル物流ネットワークを形成している。MBSはMBKのアセットを最大限に活用できるメリットがある。日鉄物産は日本製鉄グループ関連ビジネスのプロフェッショナル。エムエム建材は、建設鋼材分野で最大のポジションを確立している」

――鉄鋼製品本部は、事業投資がメーンとなるのか。

「投資銀行ではないし、そうした意識では商社として事業を継続できない。地球温暖化対策などを含むESG経営は全社テーマであり、モビリティ、エネルギー、インフラなどの分野で、世界の情報、ニーズを集約し、産業界を牽引しながら需要を創出し、鉄鋼メーカーや研究所に、素材の経済還流をブレンドしていく、そうしたミッションを本部として持ちたい。IMR事業では、米国事業参入に向けた検討を開始している」

――世界の鉄鋼業は脱炭素社会への対応を迫られ、日本製鉄やアルセロール・ミッタルなど大手高炉メーカーが電炉プロセスを導入する。

「『グリーンスチール』『エコスチール』などの視点で経営資源を投入していく。タイミングとしては少し早いかも知れないが、この観点での投資を前向きに検討していく。短絡的に高炉対電炉の構図を指摘されることが多いが、水素還元高炉プロセスに電炉が駆逐される可能もある。一方で直接還元鉄ベースの電炉が勝ち残るかも知れない。既存ネットワークを活かして、ビジネスモデルを創出していきたい」

――国内の鉄鋼需要は8000万トンから、6000万トン、さらに5000万トンと縮小している。10年先を見据えると商社・流通のもう一段の再編が求められる。

「現実論として、2030年にすべてのプレーヤーが存続しているとは考えにくい。それなりの合理性が出てきて、統合する、しないといった判断を迫られる時がくるだろう。オールジャパンで海外市場に臨む局面が訪れるかも知れない。幸い鉄鋼製品ビジネスにおける事業構造転換については手が打てている。様々なケースを想定してはいるが、再編ありきでは物事を進めていないし、具体的なアイデアがあるわけではない。商社グループの先頭を常に走り、何が起きても優位なポジションを確保できるよう追加施策を講じていく」

――20年4-9月期は、連結純損益が前年同期の27億円の利益から58億円の損失に後退した。

「海外の自動車関連事業が低迷した。前期は通期で47億円の利益を計上したが、今期予想を50億円の利益から50億円の損失に下方修正した。この中には既存出資先からの撤退や事業清算も含んでおり、より健全な事業体として生まれ変わる。 海外の事業会社についても、本部長就任後の半年間でパートナーと会話を重ねており、回復の手応えを十分に感じている。中計の最終22年度の全社の連結純利益目標は4000億円であり、資産や人員に見合った存在感を発揮できる数値を稼ぎ出す」(谷藤 真澄)

スポンサーリンク