2020年11月30日

伊藤忠丸紅鉄鋼の経営戦略 ―Post Coronaを見据えて― 塔下辰彦社長 新たな成長軌道を追求 変化に応じた財務体質構築

――中期経営計画(18-20年度)「Fit for Innovation―変化への対応―」は終盤を迎えた。

「当初2年間で取扱数量を2200万トンまで増やし、売上総利益も1200億円から1350億円に引き上げた。赤字会社を26社から12社に圧縮。純利益は18年度242億円、19年度223億円と一定のレベルを維持してきた。世界経済は米中覇権争い等の影響で19年度下期から停滞局面に入っていたが、新型コロナウイルス問題が加わり、歴史的な危機に突入した。本年度については、様々なリスクと回復シナリオを想定して対応策を検討し、与信、為替、在庫などに最大限の注意を払ってきた」

――2020年4-9月連結業績は売上高が26%減の9120億円、純利益は45%減の66億円だった。

「トレード収益は契約残があった4-6月こそ堅調に推移したが、営業活動が停滞したため7-9月は落ち込んだ。事業収益は伊藤忠丸紅住商テクノスチール、米国CDBSなど建材事業は国内外とも総じて好調だったが、コロナ禍による国内外製造業の低迷、北米鋼管需要の急減等が響いた。売上総利益は、減収幅ほぼ見合いの20%減の544億円だったが、販管費が413億円と10%減にとどまり、営業利益は43%減の131億円に落ち込んだ。ドル金利低下を受けて金利負担は約28億円と20億円程度改善したが、前年同期になかった有価証券評価損を約6億円計上。持分法投資損益は6億円の赤字から5億円強の赤字で課題が残っている。下半期についてもポジティブな材料は多くない。10-12月はトレードの回復が鈍く、単体の収益はさほど改善しないだろう。北米の鋼管事業は水面下にとどまる。コイルセンターなど物流・加工ビジネスがどこまで戻るか。鉄鋼メーカーの生産が回復し、鋼材価格も上昇基調にあるが、通期業績については楽観視できない」

――連結対象会社は112社で前年度末から1社増え、赤字会社が大幅に増加している。

「赤字会社は30社増の42社に膨らんだ。コロナ禍による需要減が直撃した。世界各地で新型ウイルスの第2波、第3波が到来し、経済活動への影響が広がっていることから、事業環境の改善には時間がかかると覚悟。取引先の事業撤退など構造変化も起きているので、抜本的な構造対策を進めていく」

――得意とする鋼管ビジネスは、環境が大きく変化している。

「シェールガス・オイル技術の普及、油価下落などで米国のリグカウントは14年末の1800基から大幅に減少し、足元は200-300基で推移している。リグ稼働減に伴って、鋼管需要も大幅に縮小している。脱炭素社会への転換を迫られているオイル・メジャーは事業構造転換を急いでいる。鋼管需要の回復は不透明であり、収益性改善に向けた事業構造転換を急ぐ」

――引き続き鋼管ビジネスを注力分野に位置付けるのか。

「厳しい局面は続くが、日本材が国際競争力を発揮できる分野。北米、中東、欧州、アジアなどで展開するグローバルネットワークも強みとなっている。中東では、JFEスチール、現地企業との合弁による大径溶接鋼管事業、アルガービアが生産を開始している。UAEの国営石油会社、アドノック向けの大型受注案件対応の販売会社も設立した。アルガービアからはアドノック向けにも一部供給する。複数の要因が重なる特殊な局面であるが、デジタルトランスフォーメーションを活用したサプライチェーン・マネージメント等も活用してビジネスモデルを進化させ、収益性を改善していく」

――海外市場環境について。

「中国は需要が伸び、市場構造も変化しており、ビジネスを創出するチャンスが広がっている。ベトナム、インドも回復が続いている。インドネシア、マレーシア、フィリピンは時間がかかりそう。北米は、建材などエッセンシャルビジネスが堅調。株価が上昇し、住宅着工が増えるなど個人消費も拡大している。バイデン氏は大統領就任後に大規模な景気対策を実施するといっているが、過度の期待はしない方が良さそうだ」

――国内市場については。

「中長期的に6000万トンの鋼材消費は5000万トンへ縮小し、直接・間接輸出も減少するだろう。1億トンの全国粗鋼が8000万トンに縮小することも想定しておく必要がありそうだ。高炉メーカーは設備休止という極めて重い経営判断を下しており、メーカーの設備集約に伴って流通業界ももう一段の構造改革を迫られている。コイルセンター業界も1600万トン前後の加工量でしのぎを削る構図が続いており、構造対策が必要になっている」

――Post Corona時代を見据え、事業構造全体を組み変えていく必要がある。

「積極的な投融資を展開してきたが、必ずしも期待通りの成果に結びついていない。総資産は1兆円を超えており、ROAは年度換算で1.3%。DEレシオは1・2倍と想定内に収まっているが、先行きの不透明感が高まる中、財務体質をより強化しておく必要がある。赤字・黒字の議論を超えて、産業構造の変化に応じて資産の持ち方を見直していく。成長が期待できないセグメント、役目を終えた事業や戦略に合わなくなった事業は縮小、撤退を進め、将来を見据えた成長戦略投資に振り向けていく」

――世代交代も不可欠。

「中堅・若手によるワークショップ、社内コンテスト等を通じて、新たな時代を見据えたビジネスモデルや機能の提案を促し、経営企画部内に新設したMiraiチームが案件の具体化に取り組み始めている。グループ社員が次のビジネスシーズを培養、育成しながら、情熱をブーストし続けられる仕掛けを作っていく」

――デジタルトランスフォーメーションへの対応は。

「IT戦略チームが、デジタルツールを活用した業務効率化を多様な視点で推進している。RPAは累計6500時間の業務削減が出来ており、事業会社への横展開も具体化しつつある。基幹システムの更新に合わせて、データの電子化、働き方改革も進めていく」

――次期中計について。

「来期以降の3カ年計画とする予定。コロナ禍は長引きそうだし、日本経済もダウントレンドに入ってGDPは戻り切らず、中国も5%成長の新常態に突入するなど、まったく異なる世界が訪れる。鉄鋼業の構造転換もダイナミックに進んでいる。いま一度、資産の持ち方を見直し、基礎収益力を再強化しながら、新たな成長軌道を模索していく」

――立ち位置を変えるのか。

「商社として日本のブランド力を武器に海外での商売を開拓してきた。海外のトレーダーと異なり、品質の高さ、デリバリーなどで大きな信頼を得ている。日本の鉄鋼専業商社としての軸足は変えず、プレゼンスを維持・拡大するため規模と付加価値を追求していく。海外では地産地消が急速に進む。日本からの輸出に加えて、日本の鉄鋼メーカーの海外製造拠点の拡販にも貢献できるよう、得意とする海外の市場開拓、トレード創出に注力する。日本からの鉄鋼輸出を前提としたネットワークとなっているので、鉄鋼メーカーの海外事業展開も見据えて、地産地消型に変え、新たなバリューチェーンを組み立てていく。トレードについては、インフラ、自動車などのボリュームゾーンを確保しつつ、日本の最先端技術を活かしてハイエンド市場を占有するチャンスも探っていく」

――中国の次に大きな成長が期待されるインドの事業戦略は。

「成長エリアとして注目している。大手高炉のJSWとはコイルセンター合弁事業を通じて、サプライチェーンを構築する仕組みを作っている。現地の日系製造業の期待に応え、日本の鉄鋼メーカーのお役に立てるよう知恵を絞っていく」

――インフラ分野は需要が安定している。

「国内の建設鋼材は伊藤忠丸紅住商テクノスチールがしっかりカバーしている。海外のインフラ、建設市場は重要分野と位置付け、セールスネットワークを戦略的に拡充してきている。中国では丸紅建材リースとともに重仮設リースの合弁事業を設立したが、ファブデッキ等も含め、ESG経営にマッチする商品・ビジネスを大きく広げていきたい」

――再生可能エネルギー分野も追い風が吹いてきた。

「洋上風力など発電関連ビジネスは、両株主と連係しながら、コアビジネスとして注力している」

――電磁鋼板市場は大きく伸びる。

「EV関連需要は確実に伸びる。3年前に立ち上げた『EV戦略室』が中心となってビジネス創出に取り組んでいる。電磁鋼板は切断、プレス、積層、ラミネーションを中国、インドなどで手掛けているが、さらに付加価値の高い機能を提供して、サービスの価値を認めてもらうことがポイントとなる」

――創立20周年という大きな節目を迎える。

「2001年10月に伊藤忠丸紅鉄鋼が誕生し、中国経済の成長とともに世界の鉄鋼需要が急拡大し、日本鉄鋼業も発展してきた。今後は世界情勢が大きく変化し、鉄鋼業の構造転換がダイナミックに進む。現在のビジネスモデルだけでは生き残ることができない。日本鉄鋼業の競争力回復に向けて、国内外のネットワークを見直して効率化によりコスト競争力の強化を実現し、サプライチェーンを再構築する必要もある。10年後の2030年時点のあるべき姿を描き、その実現に向けてのテーマを設定し、次の3年間で取り組むべき課題を抽出していく」(谷藤 真澄)

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