2020年12月9日

新・財務戦略 商社編 伊藤忠丸紅鉄鋼 谷本 雅一常務 事業構造改革推進 収益力を立て直す 新時代見据えたアイデア具体化

――世界景気後退局面で新型コロナウイルス感染症が広がり、世界経済は調整局面が続いている。

「春の時点では、先行きがまったく見通せなかったことから、様々なリスクを想定し、与信、為替、在庫に最大限の注意を払い、手元資金を増やすなど財務面で万全の対策を尽くした。新興国の通貨も一部の国を除いて、概ね安定している。コロナ前に戻るもの、戻らないものを見極めながら収益構造を転換し、競争力ある金利で資金を確保し続けるなど、しばらく続くと見られる混乱を乗り越えていく手立てを講じていく」

――資金調達の手法について。

「調達ソースを多様化し、銀行借り入れに加えて、CP発行など直接金融にも乗り出している。海外のグループ金融も推し進めたい」

――2020年4-9月の連結純利益は前年同期の121億円から66億円に45%減少した。

「売上高は26%減の9120億円だった。コロナ禍による国内外の製造業の稼働低下、北米リグカウント急減等が響いた。売上総利益が減収幅ほぼ見合いの20%減の544億円。販管費の削減に努めたものの、売上総利益の減少を吸収できず、営業利益は43%減の131億円にとどまった。金利収支は、ドル金利低下によって約20億円改善したが、前年同期になかった有価証券評価損を約6億円計上した。持分法投資損益は前年同期の6億円の赤字が5億円強の赤字となり、引き続き対策が必要となっている」

――財務指標は。

「取扱量の減少を受けて、営業債権や棚卸資産が減少し、総資産は前年度末の1兆1000億円から1兆円に縮小。流動資産の縮小によって自己資本比率は26・0%から28・4%に上昇。ネットDEレシオも運転資金需要の減少を背景に1・38倍から1・22倍に改善している」

――関係会社の収益状況を。

「伊藤忠丸紅住商テクノスチール、米国CDBSなど建材事業は総じて好調だった。コロナ禍による自動車など製造業の活動低下、エネルギー関連需要の急減によってコイルセンター、鋼管事業は苦戦した。子会社は国内20社、海外51社の71社で、持分法会社が国内15社、海外26社の41社で全112社。赤字会社は前年度末の12社から42社に増加した。子会社のうち国内が6社増の6社、海外は13社増の17社の23社が赤字。持分法会社は、国内が5社増の6社、海外は6社増の13社の19社が赤字だった。鉄鋼需要の本格的な回復には相当な時間がかかると見ており、収益力を建て直すための事業構造改革を推し進めていく」

――日本銀行、米FRBともに金融緩和姿勢を維持する方針を示している。

「各国中央銀行の景気刺激策や低金利政策はありがたいが、実質ゼロ金利が続く中、商社ファイナンス機能の価値が相対的に低下している。CP発行などによる競争力ある資金調達を続け、付加価値のより高い新たな機能も提供していく必要がある」

――現中計では3年間600億円の投資を計画する。

「18年度が200億円、19年度は100億円弱だった。投資案件はあるが、コロナ禍によって買収、売却いずれも価値の算定が難しく、慎重にならざるを得ない」

――収益力をどう評価する。

「本年度は経営環境が急速に悪化しているが、19年度までを振り返ると、強みのひとつである売る力を活かして、取扱量を2200万トンまで拡大してきた。売総率は5%台後半で安定しており、売上高の伸びに合わせて売上総利益も約1350億円まで増加してきたが、純利益は18年度242億円、19年度は223億円で相対的に伸びが鈍い。原価や販管費の抑制、投資効率の改善が経営課題となっている」

――強みとする北米の収益力については。

「鋼製薄板建材メーカーのCDBSは業界トップのシェアを握り、安定した収益を上げている。一方、米国の鋼管問屋のスーナー、CTAP、カナダのホールマークなど約10社を傘下に持つMITI(マルベニ・イトウチュウ・チューブラーズ・アメリカ・インク)は厳しい経営が続いている。オイルの需要減と価格下落によって14年末に1800基あったリグカウントが200―300基まで減少し、油井管需要は激減している。今年に入り、日本の民事再生法に相当するチャプター11を申請するシェール開発企業が相次いでおり、損害は大きくないものの影響を受けている」

――油井管在庫等の減損処理、事業構造改革は続くのか。

「通商拡大法232条の影響で急騰したホットコイルの価格が18年7月をピークに反落し、鋼材全般に影響が広がった。18年、19年に在庫の減損処理を実施しており、鋼材価格次第では本年も少し続く。スーナーは、プログラム契約の比率が高く、ブレッド&バターとも呼ばれる様な汎用品の比率が高いため転用が効き易く、基本的に在庫回転は速い。スーナーは単一の油井管問屋としては米国最大級で、在庫の入れ替えなどマネジメントも卓越しており、そのセンスを横展開して影響をミニマイズするよう努めている。脱炭素社会への対応を迫られるオイル・メジャーは事業構造転換を急いでおり、エネルギーミックスにシフトが起こることは間違いないだろう。ただ一朝一夕とは行かず、オイル&ガスが当面の社会・経済を支えることを考えれば、その必要性は続くし、油井管需要も回復するが、市場の落ち込みが大きかっただけに、いましばらく時間が掛かる。鋼管事業会社間の機能連携・サービスメニューの拡充など収益構造の見直しを急ぐ」

――スーナー、CTAPの経営統合は。

「得意エリアが異なるので、両社の強みを維持しつつ、管理やヤ―ドオペレーションなど共通項目の統合を進めている。CTAPのボードにはスーナーの取締役が入っており、システムの統合も完了した」

――来春スタートする次期中期経営計画における財務上の課題は。

「積極的な投融資を展開してきたが、必ずしも期待通りの成果に結びついていない。ROAは年度換算で1・3%に低下している。コロナ後は社会・経済情勢が大きく変わるだろうし、鉄鋼業の構造転換も進む。新たな成長軌道を描いていくため、事業会社については赤字・黒字の議論を超え、産業構造の変化に応じて資産の持ち方を見直していく必要がある」

――財務・収益指標は。

「収益性はROA、財務健全性はDEレシオを基本に議論を煮詰めていく」

――連単倍率に関しては。

「単体で仕入れて、事業会社で加工・物流機能を付加しており、トレードと事業は一体と認識している。連結トータルで多くの価値を提供することが重要であり、連単倍率はさほど意識していない」

――事業性の見極めが重要。

「光をどこから当てるのかによって評価は分かれる。足下のような厳しい市場環境に直面すると辛いところばかりが浮き彫りになるが、重要なのは高い機能があるかどうか。当初は機能を発揮していても、時代の変化によっては陳腐化する。コロナ禍で様々な課題が浮き彫りになったが、前倒しで顕在化してきたという側面もある。機能がしっかりしていれば、景気の回復とともに収益は回復する」

――アメリカは感染拡大が続くものの、住宅着工など堅調な分野がある。

「コロナ禍のテレワーク、在宅勤務で、住宅エリアがダウンタウンから郊外へと広がり、戸建てやタウンハウスの建設が増えている。結果、木材の需要は伸びているが、CDBS製品の消費拡大につながるショッピングモール等の商業施設は必ずしもリンクしない。北米は事業基盤があって、機能が評価されて対価を獲得できる市場であり、成長投資を続けていきたい」

――中国経済はいち早く回復している。

「7月以降、前年並みかそれを上回るレベルまで回復してきた。中国は早期決算対象なので、決算への反映は一部にとどまる。中国は世界に先んじてポストコロナの経済回復が進み、市場構造も変化しており、ビジネスを創出するチャンスが広がっている。ベトナム、インドも回復が続いている」

――改めて投資スタンスを。

「トレード力をさらに磨き、機能を高めることで新規市場を開拓し、海外の地産地消に対応するために必要な投融資を行い、鉄鋼メーカーとともに持続的成長を図っていく。中堅・若手によるワークショップ、社内コンテスト等を通じ、新たな時代を見据えたビジネスモデルや機能に関するアイデアを集約し、経営企画部の『Miraiチーム』が具体化に取り組み始めている。チーム長を含めて専任が2人の他、5営業本部から兼任者が1人ずついる体制。コロナ禍で投資判断が難しい環境にあるが、ニーズをしっかりつかみ、シーズを植え込んでいけるようコーディネートしていく。国内・海外とも景気後退局面でも建設・インフラ需要は堅調に推移しており、アフターマーケット、メンテナンス市場を含めて重点分野と認識している」

――ESG関連分野は成長が期待できそう。

「EV、水素、風力発電など環境関連は両株主も伸びるビジネスエリアとして注力しており、連携を強化して需要を捕捉していく」

――来年は創立20周年を迎える。300億円でスタートした自己資本は3000億円まで積み上がってきた。

「レンガを積み上げるようにして利益剰余金を積み増してきた。約13%だった自己資本比率は26%まで上昇した。総資産も5000億円から1兆円規模に拡大している。経営資源を有効に活用し、10年後を見据えた新たな成長戦略を描いていきたい」(谷藤 真澄)



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