2020年12月22日

「新・財務戦略 商社編」日鉄物産 竹内豊副社長 固定費圧縮 事業基盤強化が急務 CF創出、成長投資に積極投入

――産業界の需給構造問題に加え、新型コロナウイルス影響が長期化する中での財務の基本戦略から。

「今後の事業環境の構造的変化を踏まえ、事業基盤の強化施策や成長戦略の推進によって早急な収益回復及び継続的な利益拡大を図ることが最大の経営課題。蓄積してきた自己資金と事業基盤強化策で創出するキャシュフローを次の成長に向けた戦略投資に積極的に投入していく」

――中期経営計画(2018-20年度)の財務目標は自己資本比率25-30%、ネットDEレシオ1・0倍。

「19年度は自己資本比率が27・6%、ネットDEレシオは1・16倍だった。20年度末はそれぞれ29%程度、1・0倍程度と予想しており、財務目標は達成の見通し。収益目標は未達となるものの、グループ資金管理の効率化、投資CF改善、減収に伴う運転資金バランス等の効果が寄与している」

――長期格付はR&Iが「A」、JCRは「A+」で、いずれも見通しは「安定的」。

「A格相当のDEレシオ1倍以下維持に配慮しつつ、戦略投資を確実に実行していくことが経営の基本と認識。高位格付を活用して社債やCP等の直接調達と間接調達を組み合わせ、金融市場環境の急変等におけるアベイラビリティと資金調達コスト低減を両立。国内外のグループファイナンスを拡充し、連結ベースでの財務基盤最適化にも取り組む」

――グループファイナンスの進捗状況は。

「CMS(キャッシュ・マネジメント・システム)は、国内の主要グループ企業をすでに組み入れている。海外について中国は対応済み。ASEANは、法制度や通貨が異なることから時間がかかっているが、余剰キャッシュを蓄積しながら、投資機会も創出する中で、資金効率の最適化を追求していく」

――中計の収益目標は売上高2兆8000億円、経常利益440億円、純利益260億円、ROE(自己資本利益率)10%程度。

「19年度は売上高2兆4802億円、経常利益332億円、純利益207億円で、ROEは8・9%だった。コロナ禍が広がる中、本年度については8月時点で売上高2兆円、経常利益200億円、純利益100億円と予想。11月にそれぞれ2兆1000億円、240億円、130億円に上方修正した」

――収益力を再強化する。

「主力の鉄鋼事業は、本年度上期の鋼材取扱量が前年同期比2割減となった。繊維事業は緊急事態宣言等による店舗休業などで3割の減収を余儀なくされた。両事業を中心に大幅な減益となったが、コロナ禍による一過性要因にとどまらない、需要構造変化も背景にあって、中長期にわたって厳しい経営環境が続くと覚悟。足元の緊急収益改善対策に加えて、固定費の圧縮による事業基盤強化が急務となっている。不採算部門・拠点を中心に構造対策を強力に推進すると共に、業務プロセスの見直しやデジタルツールの活用で2割~3割の生産性改善を図り、年間100億円規模の収益改善効果を引き出していく。ここで捻出した人材やCFを成長・新規分野へ再配置、再投入し更なる収益拡大に取り組む」

――実力ベースの経常利益は19年度に360億円まで来ていた。

「本年度は上期実績が95億円、下期予想は145億円。下期の年率290億円をベースに前述の事業基盤強化策、成長戦略を推進し成長軌道に戻す。社長のリーダーシップのもと、かつてないスピード感で実現していく決意を全グループで共有し実行計画化に取り組んでいる。現在、検討の軸足は成長戦略に移りつつあり、今後、IR・事業報告等を通じ、成長を続ける会社であることを社内外に示していく」

――グループ企業の収益力強化も急ぐ。

「19年度末のグループ企業は全120社で、国内61社、海外59社。本年度は、コロナ影響によって国内外ともに大幅減益となるグループ企業が多い。事業基盤強化策のひとつとして、コイルセンター、加工会社、縫製拠点、販売拠点等の再編・統合・撤退を含めた事業構造対策を推進。設備の選択と集中を徹底し、減価償却費、労務費を低減していく。事業構造対策については、自社グループ内にとどまらず、他社とのアライアンスも検討していく。事業構造改革の骨格は、ほぼ見えてきた。実行に向けての審議など詰めの作業に入っている。遅くとも年度内には実行計画を固める」

――成長戦略の成否の鍵を握る投融資のスタンスを。

「投資判断基準としては、IRR(内部収益率)で目標収益率を設定。ただし、数値による判断だけではなく、将来性・戦略性のある案件については、リスクの検証を行いつつ、徹底的に議論し、社外役員とともに最終判断する。投資後の実績トレース、事業審査基準も定めており、イグジットルールに沿った検討を含めてフォローする」

――事業管理基準は。

「ROIC(投下資本利益率)を基本としている。19年度のROICは5%弱で、次期経営計画ではこれを上回る水準を目指す。事業基盤強化策、成長戦略についてもROICを重視して進めている。ROE、ROAについても改善を図っていくが、セグメント別の事業性評価には向いていないので、個別事業の集積としての全社経営指標としている。経営統合後、19年度までの直近6年の平均ROEが10%程度とコロナ前ではあるが、業績拡大の中、着実に一定水準を維持している」

――ポスト・コロナ時代の事業環境認識と成長戦略を。

「コロナ禍収束後も需要構造変化による影響は残り続ける。自然体のままでは、コロナ以前に比べて売上高、取扱数量が事業分野によっては10-15%減の水準が続く可能性も想定の範疇としている。そうした逆風を成長のチャンスに変えるキーワードは『DX』『SDGs』『グローバル化・インサイダー化』の3つ。3つの武器・手段を駆使し、既存事業の拡大・収益力強化と抜本的な効率化・刷新を図る。並行して新規事業、新規分野を開拓するビジネス戦略を整理し、ROICなどの指標を用いて的確に選別し、迅速に実行していく。こうした取り組みにより、経営リソースの成長分野へのリアロケーションを強力に推進する」

――SDGs、ESGへの取り組みは。

「鉄鋼であればエコマテリアルや軽量化・電動化の促進、繊維ではリサイクル商材の取扱い、食糧では植物性代替肉等、SDGs対応商品やソリューションの拡充を取引先とともに促進していく。歴史的な危機を迎えているが、またとない成長のチャンスでもある。複合専業商社として、本来の提案力、プロデュース力、ネットワーク構築力がこれまで以上に求められている。DXについても、単なる効率化にとどまらず、取引先とともに様々なSDGs課題を解決する武器として活用していく」

――4つの事業領域を持つ複合専業商社として、ポートフォリオはバランスを重視する。

「事業基板強化策と成長戦略の推進、この2つの取り組みについては、鉄鋼、産機・インフラ、繊維、食糧の4事業に共通して展開している。それぞれの事業特性に即応した施策展開による収益の回復・拡大を期待している」

――鉄鋼について、リーマン前は8000万トン規模だった国内鋼材需要が5000-6000万トンに縮小している。

「商社としての機能を磨き、提案力、品質対応力、コスト競争力等を高めて拡販していく」

――日本製鉄は海外事業を強化しており、グループ中核商社として成長投資機会は増える。

「日本製鉄は、米国のAM/NSカルバートに電炉を新設することを検討している。インドのアルセロールミッタル・ニッポンスチール・インディアは設備・能力増強計画を持つ。提案力、プロデュース力を磨き、投融資も実行しながら新たなバリューチェーンへの参画を図っていく」

――電炉プロセスの拡張によって高級冷鉄源のビジネスチャンスも広がる。

「高級鋼材の冷鉄源として鉄スクラップを活用するには、回収・物流、選別・配合などのノウハウが不可欠。知見と実績を活かして、成長分野として取り込んでいきたい」

――最後に中長期の課題と展望を。

「事業基盤強化策、成長戦略施策については基本的に21年度までにすべて着手・実行する方針。効果の発現は22年度以降になるものもあるが、グループの販売・加工拠点の統廃合や徹底した固定費削減策を早急に具体化し、事業基盤を強固なものにしていく。その基盤の上に、全社グループの総力を結集して成長戦略を展開していく。不透明な事業環境が続く中、投資採算については、戦略の合理性を確認しながら、投資・資金効率の最大化を目指す。既存分野の事業構造を刷新し、新規成長分野に収益基盤を持つ新たな複合専業商社像を描き、実現することでステークホルダー、資本市場から評価される財務・収益構造に進化させていく」(谷藤 真澄)

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