2021年11月30日

財務・経営戦略を聞く/日本製鉄副社長/森高弘氏/実力ベース事業利益 継続的に6000億円確保/戦略品種の能力・品質強化

――上期の平均鋼材販売価格がトン10万6600円と前年上期の8万3600円から上昇した。ひも付き販価是正の評価は。

「個別の需要家とのことなので詳細は言えないが、ひも付き向けについては原料価格の転嫁だけでなく、当社製品やソリューション提供などの価値に見合った価格に見直していただくということで前進できたと思う。店売り分野も2020年度下期から各品種で値上げをお願いし、一定程度上昇した」

――下期のひも付き価格の考え方は。

「原料炭の価格が極端に上がっている。原料コストは大幅に上昇し、高い水準が続くとみており、原料コスト上昇分についてサプライチェーン全体での負担をお願いしている。当社の商品やソリューション提供などの価値に見合った価格への是正は上期で全て修正できたわけではないので引き続きお願いしている。上期の価格が決着してすぐに下期の価格交渉を始め、ほぼ決着している。商慣習の変更も同時にお願いしている。交渉時期の前倒し・効率化について、価格交渉を早期化し受注前に決着しようということについて、経営の見通しが立てやすくなることから互いにメリットがあり、理解が進んでいる。原料価格はその後に動くことがあるので、原料価格の部分はこれまでのように時期をずらして合わせていくことになるだろう。原料価格の変動を踏まえた契約期間の短期化については、分野・需要家によって状況が異なるので需要家と最適な方法を探っていく。これが実現すれば、マーケットの状況をタイムリーに紐付き価格に反映できることになる」

――商慣習の見直しはいつからに。

「基本は来年度上期からの見直しとなる。全ひも付き向けを対象に検討している」

――内口銭の見直しや商社経由から直接販売への変更の進捗は。

「状況をみながら下期、あるいは来期から実行していく。直接販売は海外のグループ会社向けにすでに始めているが、他についても可能性のあるところから広げていきたい」

――21年度に見込む実力の連結事業利益6000億円を22年度以降も維持する方針だが、ポイントは。

「足元行っている戦略品種の能力・品質の向上策を続けることが注文構成の高度化につながり、限界利益単価を上げることになる。しっかりと実行し、外部環境の変化に関わらず収益を上げられる構造とする。これが最大のポイントだ。一方で製品価値向上や設備の新鋭化に投資をしていくので償却費がかさみ、固定費が上がっていく。生産設備構造対策の効果をきちんと拾い上げて固定費が上がらないようにするのが、もう一つの大きなベースの施策。固定費水準を維持し続けるのも大事なポイントとなる。操業実力諸元の改善による変動費の低減、設備の安定化にも引き続き取り組む」

――粗鋼生産が4000万トンに戻り、販価是正が進む見通しの来年度は収益がさらに増えるのでは。

「構造対策の効果や自主努力によるコスト削減を積み上げ、収益改善を着実に実現したいが、来年度はまず原料価格がどう動くか。原料価格が横ばうとすれば21年度の事業利益予想8000億円のうちの在庫評価差2000億円は消えることになる。来年度のことは今から検討していくが、この点だけを見ればさらなる増益へのハードルは高い。実力ベース6000億円の持続が当面の目標だ」

――海外鉄鋼大手との収益差が縮まっている。

「韓国のPOSCOとは販売価格・コスト面で、中国の宝武集団と比べると販売価格面でまだ課題がある。米国の鉄鋼メーカーは市場が守られているので環境が異なる」

――ゼロカーボン・スチールの取り組みで進展は。

「政府が実施するグリーンイノベーション基金に申請した。金額は少ないながら大事に使うとして、自社としても事業利益6000億円を継続的に確保し、その潤沢なキャッシュフローを前提に研究開発を進めたい。ただ、設備実装段階に入ると膨大な資金が必要となるので日本の産業競争力の観点からも政府が動いてくれることを期待している」

――脱炭素に向けて品種戦略を再検証する。

「脱炭素の動きが急速かつインパクトが大きいので再度、原点に立ち返って、影響の大きい品種の戦略を検証しようとしている。高級電磁鋼板や高圧水素用の鋼管などについて更なる需要の拡大が想定しうるかなど、事業戦略をもう一度確認する必要がある」

――電磁鋼板の能力増強の追加投資を今回決めた。

「需要は伸びる見通しだ。世界のエコカーの生産台数は足元500万台程度だが、35年には6000万台に増えると試算され、モーターの需要が大きく拡大する。当社だけではとてもカバーしきれない需要が見込まれる。できる範囲で能力を増やし、品質も上げようとしている」

――転換社債3000億円を発行する狙いは。

「中長期計画の中で国内製鉄事業の再構築、海外事業の深化・拡充、ゼロカーボン・スチールへの挑戦、DX戦略の推進という4つの成長戦略を描いているが、特に海外はいつ資金が必要になるかはっきりしない。案件が出てきた時に備える。もう一つは社債の転換が進めば財務体質が強化され、中長期的に機動的なレバレッジ余力が確保できる。成長投資と財務体質の両面を狙いに実行した」

――下期の需要の見通しを。

「自動車生産の回復は第4四半期以降にずれるとみているが、一方で造船、建機は堅調で需要全体についてさほど心配する必要はないと思う。建設は前年の横ばい微増とみていたが、ここへきて需要の出方が上向いているのでどうなるかよくみていきたい」

――国内の薄板在庫が増えている。

「自動車減産の影響が大きいが、自動車そのものの需要は強く、生産が回復した時に適時に鋼材の供給をしないと再び混乱する場面が出てくる。在庫を持っておかないと供給が追いつかなくなる。生産回復に向けたサプライチェーンとしての必要な在庫ではないかと考えている」

――海外市場はどうか。

「中国は建設需要が減退し、半導体不足や電力供給制限によって製造業が減速しているが、鉄鋼の減産が実行されているので需給が大きく緩むということではない。ASEANは新型コロナウイルスの感染者が徐々に減り、活動の制限が緩和され、回復に向かう。サプライチェーンが正常化すれば自動車生産などの挽回につながる。インドは劇的にコロナが落ち着き、1年の中で消費が活発化する時期に入り、景気回復に伴って需要は増えている。米国は個人住宅や自動車の販売が伸び、大型の財政出動もあり、心配する要素は多くない」

――中国の鉄鋼政策をどうみるか。

「政府の減産指示、能力削減の査察、エネルギーコントロール政策によって粗鋼の減産は間違いなく進んでいる。目的がカーボンニュートラルなので来年以降も粗鋼生産は抑えられると考えるが、需要面は引き続き注視する必要がある。米中の経済戦争、結果としての経済安全保障の進展、中国の鋼材供給政策の変化によって鉄鋼業でいえば中国と他外国との間で一定のディカップリングが進んでいると言える。中国が少し変調したからといって国際市場が大きく振幅することはない。かつては鋼材輸出で市況が伝播したが、供給抑制策によってそうしたことが起こりにくくなっている」

――高騰した鉄鉱石価格が下落した。収益は上振れするのか。

「鉄鉱石価格は決算見通し作成時の市況水準で横ばうと想定したが、想定より下がってきている。原料炭も価格が大幅に高騰してきたが、その原因である中国の国内需給の変化を反映して、足元、価格を下げてきている。副原料の価格についても落ち着いてきている。鉄鉱石は今の価格水準が横ばうとすれば、収益は上振れする可能性がある。原料についてはそれだけリスクを高く織り込んでいることになる。ただ、問題はマージンなので、足元の市況動向を考えれば、結局は打ち合ってニュートラルとなるのではないかとみている。国内外のグループ会社の収益は保守的にみているところがあり、上振れすることはあり得る」(植木 美知也)

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