2021年8月31日

財務・経営戦略を聞く/日本製鉄副社長 森高弘氏/集中生産効果で増益へ/ひも付き価格改善継続

――製鉄事業の事業利益が4―6月期に大きく改善した。生産設備構造対策などの取り組みが成果を上げた定性的な理由から。

「高水準の老朽更新投資を継続せざるを得ない状況の中、将来の需給構造を捉え、多くの余力を輸出で埋めるというこれまでのビジネスモデルから脱却し、集中生産、注文構成の高度化、設備の新鋭化の3点を進めていく方針である。これは単純な縮小均衡ではない。技術力を収益に結びつける注文構成の高度化や設備新鋭化の効果はこれからでてくることになるが、足元でいえば、集中生産の効果が出ている」

「一貫能力の絞り込みについては中長期経営計画で目指す姿にスピーディーに近づきつつある。国内15基あった高炉を10基に減らす計画だが、上期中に11基となる。一貫能力の絞り込みを行い、固定費の削減に加え、注文選択の効果が上がっていることが生産設備構造対策の成果と言える。能力が余剰だと埋めることが優先されてしまう。一貫能力の絞り込みが収益に貢献している。販売価格の是正はタイトなマーケット状況が継続している好環境に助けられているが、ここでも一貫能力絞り込みによって注文選択ができるという状態にあることが大きく効いている」

――収益を改善したグループ会社は。

「国内は日鉄ステンレスが構造対策を進め、収益を上げている。山陽特殊製鋼は史上最高益を予想し、日鉄SGワイヤは海外子会社のガルピッタンが好調だ。コロナ影響からの需要回復に加え、海外事業の堅調さに支えられている。AM/NSインディアは前身のエッサール時代を含めて過去最高益となる見通し。カルバート、ウジミナス、NSブルースコープ、オバコといずれも過去最高益の予想で当社の収益に大きく貢献している」

――中国が鉄鋼の減産に舵を切った。

「需要面では、コロナ影響からの回復とともに電気自動車や排ガス対応の新造船について先行発注がみられる。経済安全保障を背景に半導体の製造ラインが世界各地で建設され、実需を上回り将来的には反動も予測されるが足元は世界の鉄鋼需要を支えている。鉄鋼減産と鋼材の輸出抑制・輸入奨励の方針を鮮明にする中国の供給政策は世界の鉄鋼需給に大きく影響する。カーボンニュートラルが背景にあり、供給政策は当面継続されるだろう。今年11月のCOP26もあり、中国は環境対策を緩めるわけにいかない。鉄鋼減産によって鋼材需給はタイト感が強まり、一方で鉄鋼原料の需給は緩和する方向にある」

――鋼材市況は高止まりし、原料価格は軟化に向かうのか。

「当社の下期の業績見通しは原料市況が最も高い7月中・下旬の水準が続く想定で立てている。国内のひも付き価格は下期も改善を進め、国内の市況分野は値上げの浸透で改善が今後も続く。輸出市況分野は7月中・下旬の高い水準が横ばう想定だが、原料の平均単価は上期より下期の方が高くなり、輸出市況分野の収益は低下する。国内ひも付き価格と国内市況分野の改善でカバーし、鋼材全体ではマージンは拡大する計画だ。国際的な鉄鋼環境をみると鋼材市況が上がり、原料価格が下がる方向にあり、そうなれば利益は上振れする可能性がある」

――上期に比べ下期は内需が増える見通しだが、日本製鉄の粗鋼生産は高炉改修の影響で減少する。販売政策への影響は。

「足元も供給能力を上回るご要望をいただいている中で相当な注文調整をお願いしている。顧客からみて公平感が担保されなければならない。品種ごとの需給や収益性をよく見て販売政策を判断していくことになる。足元、ひも付き向けの価格改善を進めている。中期的にも当社の収益の中心は国内のひも付きから得ていくことが、安定収益を確保し、日本の産業全体の競争力を上げていく上でも大事なことと考えて取り組んでいる。国内ひも付き価格の改善が進み、輸出のスポット受注などを減らしていくことが望ましい方向だ」

――今年度の連結事業利益予想は6000億円と前回予想の4500億円から上方に修正した。

「マージンが改善している。需要の回復やタイトな市場など好環境に助けられているのは事実だが、一貫能力の絞り込みによる注文選択の効果も大きい。海外事業は選択と集中を徹底した効果が上がり、進めてきた個社の体質改善の努力も実ってきている」

――実力ベースの連結事業利益は下期も上期と同額の予想だが。

「実力ベースに補正する前の事業利益は下期に減るようにみえるが、補正前の損益から在庫調整差と名古屋の高炉改修の一過性影響を除いた実力ベースの利益は下期に2400億円と上期並みを維持する。実力は下期も変わらないが、競争力を上げていくよう不断に努力し、実行上は下期に利益を増やしたいと考えている」

――ひも付きは来年度も値上げを継続することになるのか。

「当社は安定供給や高品質製品の開発のために多くのリソースを割き、原料価格変動のリスクを背負いこんで安定供給の準備をしている。来年度について確たることは言えないが、販価を公正性と合理性の観点から適正な水準としていく姿勢は変わらない」

――下期の需要をどうみているか。

「建設はコロナ影響などで住宅建設のマインドが冷えており、21年度の住宅需要は20年度に対し若干増に留まる見通し。非住宅は物流倉庫やデータセンターの建設が堅調。案件が急増した20年度に比べると少し落ちるが、五輪後の下期から案件が出てくる。公共投資は前倒しで実行しているものがあり、20年度より若干減少する。製造業は堅調が続く。自動車は半導体不足などで減産しているが、生産挽回の動きも踏まえて20年度下期並みを予想する。造船はLNG船など新規受注が増え、明るい兆しがみえる。建機・産機は好調。電機は巣ごもり需要で持ち直している」

「中国は新型コロナが再拡大しているが市場への影響はまだ小さく、需要は高い水準が続く。米国は個人消費が強く、自動車生産も戻り、回復基調は変わらない。大型の財政出動もある。懸念は東南アジア。製造業中心に回復傾向にあったが足元コロナがタイとベトナム、インドネシアで広がり、経済に影響してくる。インドはコロナ禍から徐々に回復している」

――利益が増えることで海外など投資の速度や規模に変更は。

「海外投資についてはすでに最大限早めている。特にAM/NSインディアはインド西部のハジラの中核製鉄所の粗鋼能力を今の760万トンからできるだけ早く100万トン増やし、その上で1400万トンに拡大する。並行して東部に製鉄所を建設し、トータルで3000万トンほどにしようとしている。足元安定生産を維持しながら能力を拡張し、さらに別の地域に一貫製鉄所を建設する会社は世界に例がない。早期実現に向け現地と日々やり取りして計画を進めている」(植木美知也)

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