2022年4月1日

新社長に聞く 日本製鋼所 松尾敏夫氏 マテリアルレボリューション 売上規模5000億円へ

日本製鋼所は4月1日付で、松尾敏夫副社長が社長に昇格した。「素材開発を強化することでマテリアルレボリューションを起こして豊かな社会を実現し、5000億円の売り上げ規模を狙える企業基盤を構築する」という松尾新社長に抱負などを聞いた。

――新社長としての抱負から。

「当社は過去10年間、収益面で発展を遂げておらず、これから成長軌道に乗せて持続的成長を図り、企業価値を高めていかなければならない。人は自分の成長を感じる時にワクワクする。会社も個人も成長を感じない限り、ワクワクすることがないとも言え、持続的な成長は必要である。成長を実感できる仕掛けづくりを含めて、『ワクワクした従業員が集う、生き生きとした会社』にしていきたい」

「歴史をひも解くと、当社は1907年、兵器の国産化を目的に創業したが、実は社名・日本製鋼所の由来をつまびらかにする資料は見つかっていない。当時は鋼及び製鋼事業に普遍的価値を見出していたのではないかと推測している。以降、50年には日本で初めてプラスチック製造機械を開発するなど、当社の存在意義は『マテリアルレボリューションで豊かな社会を実現する』ことにあると考えており、今もマグネシウムや炭素繊維、セルロースナノファイバーを手掛け、その他の軽量素材の開発も進めている。これからも新素材と、それを社会実装するための産業機械の開発に取り組むことで、マテリアルレボリューションを実現する会社に育てていきたい」

――主力である産業機械事業の展望を。

「ロシア・ウクライナ情勢で先行き不透明感が漂うものの、今後5年程度はプラスチック射出成形機や造粒機、フィルム・シート製造装置など全般的に市場の拡大が見込まれる。とくにリチウムイオン電池向けのセパレータフィルム製造装置またはリチウムイオン電池用のセパレータフィルム製造装置は自動車EV化の流れを受けて需要が急増しており、顧客の設備投資意欲は旺盛で、受注増を期待している。このマーケット環境を背景に広島製作所の生産は能力一杯の状態であり、現行中期経営計画『JGP2025』(21―25年度)で掲げる『世界に類を見ないプラスチック総合加工機械メーカー』への実現に向けて、伸長するニーズを捕捉するため、最適生産体制を目指した生産拠点の再編に着手する。スペースに余裕がある愛知県の名機製作所と、室蘭市の日本製鋼所M&Eにセパレータフィルム製造装置用部品に係る製造設備の一部を移管する。広島はこれまで設備を組み立てる能力を高めてきたが、機械加工能力が不足しており、一部を外部に委託するなどでコスト負担が増している。名機とM&Eに製造を一部移管することで、広島は機械加工能力を増強し、内製化によるコスト縮減を進める。生産拠点の再編は22年度内で完了を目指す」

――日本製鋼所M&Eで手掛ける素形材・エンジニアリング事業の収益改善策は。

「M&Eは鋳鍛鋼、クラッド鋼板・鋼管、TES(トータルエンジニアリングサービス)を展開しており、クラッド鋼管については事業縮小を決めた。クラッド鋼板は広幅の高ニッケル製品をはじめ競争力の高い製品ラインアップを誇っているが、売り上げ規模を確保するため、人員や加工を必要とする下流分野に事業領域を拡大していった経緯がある。クラッド鋼管もその1つ。需要が大きく減る中、多くの要員を抱え、採算が著しく悪化していることから、限界利益を高めることができる規模に縮小して、事業を継続する。クラッド鋼板は第4世代の厚板コールドレベラーを導入するとともに、四重式広幅厚板圧延機の原動力を電動化するなどで圧延精度がアップし、生産性が向上している。クラッド鋼管の事業縮小で、海外を中心としたコンペティターに鋼管素材のクラッド鋼板を供給することを検討中だ。鋳鍛鋼は原子力発電所で使用するローター(発電機用部品)向け大型一体鍛造の軸材や、洋上風力発電向けハイドロハンマー用アンビルなどで一定の生産ボリュームを確保できそうだ。至近では大型鋳鍛製品の溶鋼を有効活用して、ロータリー蓄電池用部材など小型鋳鍛製品も手掛け始めており、受注に繋がってきている。TESは付加価値をより重視するべく、案件を絞り込む。素形材・エンジニアリング事業は競争力の高い上流の技術・ノウハウを活かして付加価値を高めることによって、安定利益を確保する。また、M&EはJX金属との共同出資会社・室蘭銅合金の取り組みをはじめ、月島機械との協業も順調に進んでいる」

――『JGP2025』は、新規事業構築も重要テーマに掲げる。

「水晶・結晶事業に注力する。三菱ケミカルと共同で開発している窒化ガリウム単結晶基板はパワーデバイス向けで需要増を見込んでいる。子会社で手掛けるニオブ酸リチウム結晶事業もこれから期待できる。水晶・結晶以外ではJX金属と取り組む銅合金や、金属粉末なども新たな事業として育成中だ。素形材・エンジ事業と同様、新規事業も付加価値の高い上流部分を強化して、収益拡大を図る」

――設備投資、研究開発投資、M&A投資の考え方を。

「成長投資として現中計の5年間で設備投資は450億円、研究開発投資が300億円、M&A投資は300億円をそれぞれ計画する。設備投資は産業機械事業、水晶・結晶事業に多く投入する。研究開発投資は現中計で年間60億準まで積み増ししており、次中計以降も売上高に占める研究開発投資比率をこれまでの2%超から、3%に引き上げていきたい。研究開発投資も水晶・結晶事業に重点的に割り当てる。産業機械事業は廃プラスチックによる環境破壊が問題になる中、加工機械メーカーとして何ができるかを考えた結果、ケミカルリサイクル、マテリアルリサイクルに関連する新製品を生み出す。微生物の働きで分子レベルまで分解し、最終的にCO2と水として自然界に循環する『生分解性プラスチック』を顧客と共同で開発しており、実用化を目指す。事業拡大を図るためにはM&Aという手法が必要であり、クロスボーダーを含め、しっかり検討する」

――IoT(モノのインターネット)、DX(デジタルトランスフォーメーション)の活用についてはどうか。

「DXは21年から、役員の中にデジタル化推進担当を置いている。現中計期間内でグループ会社を含めて基幹システムを統一し、クラウドコンピューティングを活用した情報管理システムを立ち上げる。DXを進めることで、作業効率化を図っていきたい。IT関連投資は20年度実績で売上高の0・5%。これを1%に引き上げる」

――カーボンニュートラル実現に向けた動きが加速し、EGS(環境・社会・ガバナンス)経営も求められてくる。

「21年4月にESG推進委員会を設置しており、4月1日付ではESG推進室を新設し、カーボンニュートラルに向けた動きをはじめ対策を加速させる。当社のCO2排出削減量目標は13年度比で、25年度は45%減、30年度は60%減に据えた。これを達成するため、M&Eでは室蘭製作所の加熱炉をアンモニア混焼炉に切り替えるべく、産官学で取り組みたい。産業機械事業部の製造拠点では新工場設置にあたって太陽光パネルを屋根に設ける。中国電力や北陸電力から再生可能エネルギー由来の電力を調達することも検討している。一方、当社の製品を採用することによって、顧客のCO2削減効果に結び付いているかを調査・検証する」

――中・長期的な収益目標を。

「売上高は現中計最終年度の25年度で2700億円を、ポスト中計の30年度で3000億円をそれぞれ目指している。これらを前倒ししたいと考えており、3000億円は創業120年を迎える27年度までに達成し、30年度には5000億円を狙える企業基盤を構築していきたい」(濱坂浩司)

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▽松尾敏夫(まつお・としお)氏=84年九大工卒、日本製鋼所入社。16年執行役員、17年取締役常務執行役員、20年副社長。

「化学反応を起こして新しい組織や材料を作り出す」可能性に魅力を感じて理系の道に進み、同社に入社。産業機械などを手掛ける広島製作所の勤務が長く、高温下で耐摩耗性・耐食性が求められる樹脂機械や産業機械関連の材料開発に長年従事した。

「人生の節目を大事にしなければ、竹のようにまっすぐに生きることができない」が持論。五十の手習いで始めたピアノはすでに10年。「発表会で、ノーミスで演奏するのが目標」と意欲を見せる。62年3月6日生まれ、福岡県出身。