2022年5月27日

財務・経営戦略を聞く  日本製鉄副社長 森高弘氏 業務サイクルを短縮 販価・商慣習の是正加速

――2022年3月期の連結事業利益9381億円と統合発足後14年度以降の最高を記録した。

「20年度との比較で8280億円増加した。プラス要因はコロナ禍からの回復で生産量が増え、生産出荷で950億円。ひも付き・店売りともに販売価格を改善し、マージン関係で2450億円。コスト改善600億円。国内グループ会社は電炉以外の大半が大幅に回復し400億円。海外グループ会社1250億円。最も貢献したのはインドのAM/NSインディアで、ブラジルのウジミナスなども寄与した。鉄以外のグループ会社が130億円、在庫評価差3050億円。マイナスは高炉改修の一過性で300億円、賞与や為替影響などその他250億円」

「上期に比べ下期は176億円減少したが、在庫評価差50億円、高炉改修影響が下期で300億円と合計350億円のマイナスがあり、これらの一過性を除く実力ベースの利益は174億円増加した。生産出荷は呉地区の高炉休止、自動車や家電を中心とした活動減、一部生産トラブルなどでマイナス250億円だが、プラス要因はマージン550億円、コスト削減50億円、国内グループ会社100億円。海外グループ会社は上期の一過性のプラス100億円との差でマイナス100億円だが、国内グループ会社がカバーした格好。鉄以外のグループ会社は120億円のプラスとなった」

――為替の円安の直接影響は。

「単独の収益に対しては外貨バランスが入超なので円が下がるとマイナスに響くが、輸入原料の在庫評価や外貨建て資産の評価はプラスとなる。また、海外グループ会社損益を会計上連結する際の為替換算においてもプラスに働くので、連結の利益でみると円安はプラスに作用する。ただ、これらプラス要因は主に評価差益でありノンキャッシュであることや、当社の鋼材コストに占める外貨コスト(原燃料)が14年度の4割程度から資源価格高騰などで21年度に7割強となり、円安によるドルベースでのコストダウン効果が小さくなっていることなどから、実質的な円安メリットを享受しづらい構造となっている」

――22年度の需要をどう見通すか。

「中国経済の減速、サプライチェーンの制約、グリーンフレーションによる資源価格高騰の3つのリスクの規模がロシア・ウクライナ情勢によって増幅している。中国は粗鋼生産が足元増えているが、CO2対策を目的とした供給政策は変わらず、22年の粗鋼生産は前年を下回ると予想される。一方でロックダウンが経済に影響しており、鋼材の需給や輸出入の動向について注視する。ロシア・ウクライナ情勢は国際鉄鋼需給に混乱を生じさせ、ロシアからの原料炭の禁輸もあり、問題が長期化する懸念があることから注視していく。日本は円安が急速に進み、需要家の輸出競争力は上がるが、純粋内需の企業はコストが上がる。間接輸出は海外に需要があれば伸びるが、サプライチェーンが混乱し、自動車関連の需要が低下している状況では円安がそのままプラスには働かない」

――鋼材市況は中国の市況軟化がアジア市場に影響している。

「中国の鉄鋼メーカーが購入している原料価格からみても中国やASEANの鋼材市況はマージンを得るのが難しい水準だ。一時的に市況はさらに下がるかもしれないが、鉄鋼メーカーは耐えられず、今の状況が長引くことはないとみている。減産方針や採算の状況からみて中国の鋼材輸出もそれほど増えないだろう」

――22年度の経営テーマは。

「販売面はコストが上昇している中でマージンを確保するために価格交渉を進める。21年度第4四半期から22年度第2四半期にかけての主原料・市況原料などのコストアップは、円安の影響も含めてトン4万円を超える見込みであり、反映していかなければならない。第2四半期の交渉を足元進めている。製造面については、昨年、上工程中心にトラブルを起こしているので生産対策のマネジメントを強化し、トラブル防止を最大の課題として注力している。足元操業は安定しており、継続していきたい」

「財務面では『業務サイクルの短縮化』に取り組む。半期を基軸とした予算・実績管理を行っていたが、足元の市場環境の変化のスピードを考えると、半期単位では需要想定、原料調達、生産販売、収益計画のPDCAが機能せず、的確にアクションするには四半期ベースで予算・実績を管理する業務サイクルが必要となる。4月から四半期単位での予算管理に変更しているが、環境変化がさらに早まり、足元は一時的に月単位で情報把握、対策の確認を行っている。カーボンニュートラルについては3つの超革新技術(大型電炉での高級鋼製造、100%水素直接還元プロセス、高炉水素還元)の開発を22年度から本格化し、加速していく」

――22年度も販価改善と商慣習見直しが大きな課題に。

「21年度は販価の改善に努め、水準としては成果が上がった。交渉開始時期の前倒しや出荷前の価格決定、契約期間の短縮など商慣習の見直しも進め、一定の成果を得ることができた。22年度については原料価格をある前提で設定し、第1四半期や上半期の販売価格を期の前に決めたが、足元原料価格がかなり大きく上がっている。前提とした原料価格との差をサプライチェーン全体の中で調整することはお客様と共通認識を持っているが、課題は調整のタイミング。四半期契約の場合は、第1四半期の原料価格の差は次の第2四半期の交渉の中で補正し、第2四半期中の原料価格の変動も含めて販価を決めていくことで問題ない。半期単位の契約は事情が異なる。上期の原料価格変動の補正を下期の交渉時に行うことはできるが、販価への反映が半年以上遅れることになり、増分コストを長期間引きずることになる。半期の中でも後半の四半期で調整することや、四半期契約への変更について丁寧に説明・議論していく」

――22年度の粗鋼生産、業績予想は未定とした。

「粗鋼は4000万トン生産する能力はあるが、市場は輸出採算性含めて厳しい状況にあり、現在の状況が続くと経済生産の観点から減産する可能性がある。21年度の連結ベースの実力利益6900億円を超える水準を目指しているが、市場の先行きが不透明であり、22年度の業績予想について確たることは申し上げられない」

――シームレス鋼管の事業環境が好転している。

「ロシアからのエネルギー調達依存を減らす世界的な動きから他の地域でシームレス鋼管の需要が増加している。ロシア制裁の影響による天然ガスの需要増により当社のハイエンド製品の引き合いが強まっている。13クロム製品はすでにフル操業。ハイアロイ製品も天然ガス需要の増加を受けて契約が進んでいる。シームレス鋼管は製造の工期が長いので半年ほどかけて収益に貢献してくる」

――海外の事業会社の見通しは。

「北米はサプライチェーンの混乱が長引く前提でみると自動車分野の需要は横ばいか微増の予想だが、住宅など他の需要は堅調。材料高は続くが、事業会社の収益は高い水準が続くとみている。中国はロックダウンの影響を避けられない。タイは買収した電炉2社が堅調で、今年度から150億―200億円の収益が連結される」

――広畑地区に高級鋼を製造する新電炉を導入し、今年後半に商業生産を始める。

「まずは電磁鋼板をしっかりと造り、自動車用鋼板も製造する。今後どこで電炉の能力を増やしていくかは全社的に総合的に判断していくことになる。原料の鉄スクラップは当社の主要製鉄所内での発生品とお客様の工場での発生品の購入を考え、調達についてめどは立っている」

――名古屋製鉄所に次世代型熱延ラインを導入する狙いを。

「2700億円を投じて建設する熱延ラインは今までと格段に異なる。超ハイテン鋼板は現在、歩留まりやコストなど負担をかけて製造しているが、一般の鋼板のように製造可能となる。長期間にわたって他の追随を許さずに品質の高い製品を低いコストで供給できるようになる」

――国内で電磁鋼板の能力を増強する。需要が増える欧米に製造拠点を持つことは。

「決まった構想はないが、需要の中心となる欧米市場での電磁鋼板の増強をグローバル粗鋼1億トンの選択肢のひとつと考えている」(植木 美知也)



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