2022年6月21日

鉄鋼業界で働く/女性社長編/インタビュー(下)/はっきりと方向性伝える

オランダの電磁鋼板加工センターで社長を務める日本人女性がいる。三井物産からEuro―Mit Staal(ユーロミットスタール、以下EMS)に出向中の原麻里子さんだ。入社時から電磁鋼板を中心とした海外輸出を担当。米国育ちでロシア生活も経験しており、海外勤務が肌に合っているようだ。1992年の営業開始から今年で30周年を迎えるEMSでの業務や、日本の鉄鋼業界について思うことなどを聞いた。

――再び電磁鋼板の輸出担当に。

「2017年に、出向で三井物産スチールの薄板海外事業部門電磁鋼板部へ異動しました。実質、06―09年にいた部署にまた配属された形なので、扱う品種は以前と同じ方向性電磁鋼板、お客さまも入社当時のままです。新人のころは一担当として走り回っていましたが、今回は部長代理で役職も上がっていたので、チームリーダーとして市場の様子など全体を俯瞰して見るようになりました。仕事へのアプローチが変わりましたね」

――30代で社長に就任された。

「21年2月から、EMSで社長を務めています。首都アムステルダムから南に車で2時間半ほどのフリシンゲンという都市にあり、港まで歩いて行けるほど近いのが特徴です。EMSが設立される以前は、欧州のお客さまが日本の鉄鋼メーカーに発注すると、到着までに5カ月かかっていたんです。必要なものを必要な時に生産・供給するため、三井物産が1991年に設立。翌92年に営業開始しました。電磁鋼板の輸出を担当していた経験からEMSをよく知っていたので、自分からやりたいと手を挙げました。会社からは『次の一手、新しいことをやってほしい』と思いを託されましたね」

――赴任時は驚かれたとか。

「業務で日々連絡を取っていたので、営業など業務職の社員は顔なじみのような感じでした。ただ歴代社長は全員50代くらいの男性です。これまで接点のなかった工場の社員の方々には、女性であることはもちろん、『こんなに若い子が社長なの⁉』と驚かれましたね。小娘だと思われないように頑張ろうと誓いました(笑)」

――オランダでの働き方は。

「共働きが多いこともあり、社員74人中10人は女性です。また決められた時間に与えられたタスクを100%こなすのがオランダ流のようです。私は管理職なので違いますが、社員は18時に帰宅して家族と夕食を共にするみたいですよ。日本と違うなと日々感じますね。雇用契約に、彼らがやるべきことと時間が明確に記載されており、遂行されていない場合は各部署の部長に報告して動いてもらいますね」

――大変なことを。

「オランダ人はストレートな言い方をしないと理解してくれません。日本人にありがちな『察して』など通用しないのです。なので、物事についてはっきりと方向性を示して伝えるようにしています。そうすればみんな動いてくれます。あいまいに伝えたり、イメージがつかめていない段階で発言したりしてしまうと、相手側は汲み取ってくれないので気をつけていますね」

――新型コロナウイルス禍での赴任です。

「最初の1年間は今できることに集中するようにしました。けが人を出したこともあるので、まずは工場の安全管理から始めましたね。製造工程の向上にも取り組み、コロナ収束後、安心して出張などに行けるように体制を整えました」

――鉄鋼業界に女性が増えてほしいと思いますか。

「男女関係なく、この仕事がしたいと思った方がやればいいのではないでしょうか。無理に女性を増やすのも不自然に感じます。いろんな方がいれば、多様な意見を出すことができ、より柔軟になると思います。この業界で働きたいと思った方とは、ぜひ一緒に飲みたいですね(笑)」

――今後の展望を。

「方向性電磁鋼板の加工を続けて30年という節目に携われることをうれしく思います。まず5年間はオランダでEMSを会社として大きくしたいですね。就労ビザの関係で、その後は異動する見込みです。小さいころから海外生活が長く、周囲とはバックグラウンドが異なるため、日本人をまとめるトップよりかは、海外を中心にキャリアを積んでいきたいと思っています。次はカナダや中国など全く違う国の事業会社で社長をしてみたいですね。そして全世界を回りたいです」

(芦田 彩)