1
2024.11.29
2022年10月25日
鉄鋼新経営 新たな成長に向けて 東京製鉄社長 西本利一氏 納期厳格化に下期注力 薄板増産、田原で下工程拡充へ
――4―9月期決算をどのように評価しているか。
「7―9月の営業利益は当初計画を下回ったものの、4―9月期の売上高は過去最高になり、高水準の利益を計上することができた。製品価格を維持しながら、鉄スクラップ価格下落に伴うメタルスプレッド拡大の恩恵を取り込めたことは良かったと評価している」
――通期では利益見通しを上方修正した。
「通期は鋼材出荷数量目標を大きく変えず、足元の鉄スクラップ価格やコストアップ状況を勘案した結果、利幅が拡大し、上方修正した。上期と同様、下期も高いレベルの利益を確保できるとみている。下期の施策は生産量の拡大に取り組む。岡山工場熱延工場を12月10日前後に再稼動し、下期は上期比で20万トン程度増やす。このため、順調に再稼動できるよう準備を進めると同時に、物流網を拡充し再構築する。鋼板類で納期遅れが生じるケースが出ており、納期管理を改善するため、中継地を主体とする物流拠点を増やした。数量を拡大する方針の下、需要家から選ばれるメーカーになるには高い品質の鋼板を生産するだけでなく、納期を厳格化・適正化することが必要で、下期の重点課題として力を注ぐ」
――中国の動向、ロシア・ウクライナ情勢が市場に与える影響を。
「中国共産党は最高指導部が新体制になり、ゼロコロナ政策の徹底的推進が続くと想定した場合、国内外の鉄鋼マーケットが良くなる要因が見当たらない。ロシア・ウクライナ情勢は先行きを見通すことが難しく、この中でエネルギー価格が高騰しており、米国などは金利を引き上げるインフレ抑制策を講じているが、鋼材需要にマイナス影響を及ぼす」
――国内外マーケットにどう対応するか。
「メタルスプレッド重視の販売姿勢を継続し、マーケットを大切にしながら、生産量を拡大する。薄板類は海外市場の影響を受けて、9月契約分で販売価格を引き下げたものの、円安の為替が輸入品のバリアになり、さらに値下げする必要性を感じない。現時点で当社の薄板には価格競争力があり、カーボンニュートラル(CN)の観点による採用メリットも大きく、需要家に当社製品への切り替えを促していく。主力品種・H形鋼、厚板は国内で一定の需要があるほか、高炉メーカーによる生産構造改革の影響で需給が引き締まり、販価を維持している。ここにきてゼネコンのCNに対する取り組みが加速しており、当社への問い合わせ、引き合いが多く来ている」
――田原など各工場の生産状況はどうか。
「4―9月期の国内鋼材出荷量は鋼板類、条鋼類ともにバランス良く増えている。下期は岡山熱延工場の再稼働があり、厳しいマーケットが続くと予想されるが、CNの追い風に乗って、薄板の生産量を増やしていく。田原は4月から電力契約を見直し、製鋼工場で平日昼間の稼働日数を増やしており、4―9月期は1週間当たり平均2・5日となった。田原は粗鋼、ホットコイルの生産ともに通期150万トンに照準を合わせるところまで来ている。宇都宮工場は前年同期比で3割程度の増産ペースで推移しており、夜間操業を増やし、平日昼間に稼働することもある。岡山はH形鋼などを手掛ける中形工場がフル稼働で、九州も厚板、H形鋼の生産が伸長し、夜間フル操業に加えて、平日昼間の稼働も増えている。長期環境ビジョン『EcoVision2050』において、30年度で600万トンに引き上げる国内鉄スクラップ購入量をチャレンジ目標に掲げており、内訳は製鋼ベースで田原250万トン、岡山180万トン、九州100万トン、宇都宮70万トン。足元では月間7万トン台を手掛けている九州工場が目標達成に一番近い位置にいる」
――岡山熱延再稼動は予定どおりか。
「少しずつ試運転を始めており、計画どおり進捗している。再稼動後のホットコイル月間生産量は23年3月までは3万トンとし、4月以降は5万トンに引き上げる。岡山は生産している酸洗、冷延、めっき、レベラーの母材を田原供給から自工場生産に切り替えることで、社内コストを低減する。田原はVD(真空脱ガス装置)を使う一部の鋼種以外は岡山で一貫生産する。岡山は鋼板類だけでなく、条鋼類も増産を目指す。月間ベースは中形工場と棒鋼工場で4万トン、ホットコイルは3万トンを計画し、年間で84万トン。これを早期に100万トンに引き上げたい。異形棒鋼は在庫拠点を拡充し、結束なし販売などによって、生産・販売量を伸ばす。田原は岡山供給分の年間30万トンのホットコイルを外販する。熱延の再稼動に伴い、岡山から田原へのスラブ供給を止める」
――設備投資を。
「田原工場で下工程拡充を検討している。休止している酸洗ラインを25年までに再稼動させる計画。表面性状を高めるため、約30億円を投じて酸洗ラインにスチールプランテック製4Hⅰ(4段ロール)設備のインラインスキンパスを新設する。酸洗ラインにはすでにテンションレベラー機能が付いている。トータル投資額は60―70億円を見込む。一方、岡山熱延工場のオフラインスキンパスを約30億円でリプレースし、23年1月に稼働する予定。スチールプランテック製を導入し、ハイテン(高張力鋼板)に対応できるようにする。岡山、田原ともにスキンパス、テンションレベラー(岡山はスケールブレーカー)を付加した酸洗プロセスとしたことで、表面性状などの品質が同じレベルでブライト仕上げの酸洗鋼板を供給できる。田原の冷延設備新設については導入するのであれば化石燃料を使用しない設備が望ましく、勉強中だ」
――エネルギーなどのコストアップ状況は。
「上期の電気料金は前年同期比で7割ほどアップし、下期には2倍を超える。物流費も大幅に上昇しており、過去はボリューム見合いで『数量ディスカウント』が存在していたが、今は数量が増えれば増えるほど『数量プレミアム』になる。22年度下期は21年度下期に比べ、トン当たりでエネルギー価格は1万円以上、物流費は2000円弱になる。これらのコスト上昇分は自社で負担できるレベルを超えている。鋼材の需給環境次第になるが、厳しいコスト状況を需要家に理解してもらい、販価に反映させなければならない」
――田原で新たな節電対応を実施する。
「電気炉の特性を活かし、数分単位のデマンドレスポンス(DR)を行うもので、中部電力ミライズと契約し、23年から実証実験を始める。DRを行うことで協力金をいただき、電気料金の固定費を削減する。同時に生産量を増やすことで操業を効率化し、電力原単位の削減も進んでいる」
――スクラップについて。名古屋サテライトヤードの集荷状況や、資源循環取引スキームの状況はどうか。
「名古屋サテライトヤードの集荷量は月間1万トンペースで、当初の目標どおり。一方で、資源循環の取り組みを拡大する。パナソニックとの共同で鉄スクラップを再生利用する資源循環取引スキームが進捗しているほか、大和リース及びナベショーと共同で使用済みとなったリース用金属サンドイッチパネルの再資源化に取り組み、安定的に入荷できる鉄スクラップを増やす」
――東国製鋼との提携に進捗はあるか。
「提携が進展しており、日本企業の海外拠点向け製品供給について、話し合いがまとまりそうだ。今回は東国製鋼釜山工場の薄板下工程を利用するもので、当社のホットコイルを使って東国が下工程を担うことで、GIやカラー鋼板を供給する。早ければ22年度下期から動き出すだろう」
――CNに向けた動きが加速している。トヨタ自動車の競技車両でリサイクル鋼材が採用された。リサイクル鋼材に対するマーケット認識、東鉄製鋼材への問い合わせや発注などに変化はみられるか。
「当社が鋼材1トン当たりの生産で排出するCO2はこれまで0・5トンとしていたが、長期環境ビジョンに基づいて削減が進み、足元は0・4トンになっている。高炉材から電炉材への置き換えによるCO2削減効果は75%から80%になり、需要家にとっての採用メリットは大きく、社会全体のCO2削減に繋がる。絶対値としてのCO2排出量の低さを最大限アピールしており、関心が高まっている。例えば、岡山の酸洗鋼板でトヨタ自動車のアプルーバル(品質認証)を取得するべく、話し合いを進めている。この話し合いの中で競技車両への採用に繋がった。電炉鋼板が自動車用鋼板としての機能に耐えられることを証明したもので、商用車での採用を期待している」(濱坂浩司)
「7―9月の営業利益は当初計画を下回ったものの、4―9月期の売上高は過去最高になり、高水準の利益を計上することができた。製品価格を維持しながら、鉄スクラップ価格下落に伴うメタルスプレッド拡大の恩恵を取り込めたことは良かったと評価している」
――通期では利益見通しを上方修正した。
「通期は鋼材出荷数量目標を大きく変えず、足元の鉄スクラップ価格やコストアップ状況を勘案した結果、利幅が拡大し、上方修正した。上期と同様、下期も高いレベルの利益を確保できるとみている。下期の施策は生産量の拡大に取り組む。岡山工場熱延工場を12月10日前後に再稼動し、下期は上期比で20万トン程度増やす。このため、順調に再稼動できるよう準備を進めると同時に、物流網を拡充し再構築する。鋼板類で納期遅れが生じるケースが出ており、納期管理を改善するため、中継地を主体とする物流拠点を増やした。数量を拡大する方針の下、需要家から選ばれるメーカーになるには高い品質の鋼板を生産するだけでなく、納期を厳格化・適正化することが必要で、下期の重点課題として力を注ぐ」
――中国の動向、ロシア・ウクライナ情勢が市場に与える影響を。
「中国共産党は最高指導部が新体制になり、ゼロコロナ政策の徹底的推進が続くと想定した場合、国内外の鉄鋼マーケットが良くなる要因が見当たらない。ロシア・ウクライナ情勢は先行きを見通すことが難しく、この中でエネルギー価格が高騰しており、米国などは金利を引き上げるインフレ抑制策を講じているが、鋼材需要にマイナス影響を及ぼす」
――国内外マーケットにどう対応するか。
「メタルスプレッド重視の販売姿勢を継続し、マーケットを大切にしながら、生産量を拡大する。薄板類は海外市場の影響を受けて、9月契約分で販売価格を引き下げたものの、円安の為替が輸入品のバリアになり、さらに値下げする必要性を感じない。現時点で当社の薄板には価格競争力があり、カーボンニュートラル(CN)の観点による採用メリットも大きく、需要家に当社製品への切り替えを促していく。主力品種・H形鋼、厚板は国内で一定の需要があるほか、高炉メーカーによる生産構造改革の影響で需給が引き締まり、販価を維持している。ここにきてゼネコンのCNに対する取り組みが加速しており、当社への問い合わせ、引き合いが多く来ている」
――田原など各工場の生産状況はどうか。
「4―9月期の国内鋼材出荷量は鋼板類、条鋼類ともにバランス良く増えている。下期は岡山熱延工場の再稼働があり、厳しいマーケットが続くと予想されるが、CNの追い風に乗って、薄板の生産量を増やしていく。田原は4月から電力契約を見直し、製鋼工場で平日昼間の稼働日数を増やしており、4―9月期は1週間当たり平均2・5日となった。田原は粗鋼、ホットコイルの生産ともに通期150万トンに照準を合わせるところまで来ている。宇都宮工場は前年同期比で3割程度の増産ペースで推移しており、夜間操業を増やし、平日昼間に稼働することもある。岡山はH形鋼などを手掛ける中形工場がフル稼働で、九州も厚板、H形鋼の生産が伸長し、夜間フル操業に加えて、平日昼間の稼働も増えている。長期環境ビジョン『EcoVision2050』において、30年度で600万トンに引き上げる国内鉄スクラップ購入量をチャレンジ目標に掲げており、内訳は製鋼ベースで田原250万トン、岡山180万トン、九州100万トン、宇都宮70万トン。足元では月間7万トン台を手掛けている九州工場が目標達成に一番近い位置にいる」
――岡山熱延再稼動は予定どおりか。
「少しずつ試運転を始めており、計画どおり進捗している。再稼動後のホットコイル月間生産量は23年3月までは3万トンとし、4月以降は5万トンに引き上げる。岡山は生産している酸洗、冷延、めっき、レベラーの母材を田原供給から自工場生産に切り替えることで、社内コストを低減する。田原はVD(真空脱ガス装置)を使う一部の鋼種以外は岡山で一貫生産する。岡山は鋼板類だけでなく、条鋼類も増産を目指す。月間ベースは中形工場と棒鋼工場で4万トン、ホットコイルは3万トンを計画し、年間で84万トン。これを早期に100万トンに引き上げたい。異形棒鋼は在庫拠点を拡充し、結束なし販売などによって、生産・販売量を伸ばす。田原は岡山供給分の年間30万トンのホットコイルを外販する。熱延の再稼動に伴い、岡山から田原へのスラブ供給を止める」
――設備投資を。
「田原工場で下工程拡充を検討している。休止している酸洗ラインを25年までに再稼動させる計画。表面性状を高めるため、約30億円を投じて酸洗ラインにスチールプランテック製4Hⅰ(4段ロール)設備のインラインスキンパスを新設する。酸洗ラインにはすでにテンションレベラー機能が付いている。トータル投資額は60―70億円を見込む。一方、岡山熱延工場のオフラインスキンパスを約30億円でリプレースし、23年1月に稼働する予定。スチールプランテック製を導入し、ハイテン(高張力鋼板)に対応できるようにする。岡山、田原ともにスキンパス、テンションレベラー(岡山はスケールブレーカー)を付加した酸洗プロセスとしたことで、表面性状などの品質が同じレベルでブライト仕上げの酸洗鋼板を供給できる。田原の冷延設備新設については導入するのであれば化石燃料を使用しない設備が望ましく、勉強中だ」
――エネルギーなどのコストアップ状況は。
「上期の電気料金は前年同期比で7割ほどアップし、下期には2倍を超える。物流費も大幅に上昇しており、過去はボリューム見合いで『数量ディスカウント』が存在していたが、今は数量が増えれば増えるほど『数量プレミアム』になる。22年度下期は21年度下期に比べ、トン当たりでエネルギー価格は1万円以上、物流費は2000円弱になる。これらのコスト上昇分は自社で負担できるレベルを超えている。鋼材の需給環境次第になるが、厳しいコスト状況を需要家に理解してもらい、販価に反映させなければならない」
――田原で新たな節電対応を実施する。
「電気炉の特性を活かし、数分単位のデマンドレスポンス(DR)を行うもので、中部電力ミライズと契約し、23年から実証実験を始める。DRを行うことで協力金をいただき、電気料金の固定費を削減する。同時に生産量を増やすことで操業を効率化し、電力原単位の削減も進んでいる」
――スクラップについて。名古屋サテライトヤードの集荷状況や、資源循環取引スキームの状況はどうか。
「名古屋サテライトヤードの集荷量は月間1万トンペースで、当初の目標どおり。一方で、資源循環の取り組みを拡大する。パナソニックとの共同で鉄スクラップを再生利用する資源循環取引スキームが進捗しているほか、大和リース及びナベショーと共同で使用済みとなったリース用金属サンドイッチパネルの再資源化に取り組み、安定的に入荷できる鉄スクラップを増やす」
――東国製鋼との提携に進捗はあるか。
「提携が進展しており、日本企業の海外拠点向け製品供給について、話し合いがまとまりそうだ。今回は東国製鋼釜山工場の薄板下工程を利用するもので、当社のホットコイルを使って東国が下工程を担うことで、GIやカラー鋼板を供給する。早ければ22年度下期から動き出すだろう」
――CNに向けた動きが加速している。トヨタ自動車の競技車両でリサイクル鋼材が採用された。リサイクル鋼材に対するマーケット認識、東鉄製鋼材への問い合わせや発注などに変化はみられるか。
「当社が鋼材1トン当たりの生産で排出するCO2はこれまで0・5トンとしていたが、長期環境ビジョンに基づいて削減が進み、足元は0・4トンになっている。高炉材から電炉材への置き換えによるCO2削減効果は75%から80%になり、需要家にとっての採用メリットは大きく、社会全体のCO2削減に繋がる。絶対値としてのCO2排出量の低さを最大限アピールしており、関心が高まっている。例えば、岡山の酸洗鋼板でトヨタ自動車のアプルーバル(品質認証)を取得するべく、話し合いを進めている。この話し合いの中で競技車両への採用に繋がった。電炉鋼板が自動車用鋼板としての機能に耐えられることを証明したもので、商用車での採用を期待している」(濱坂浩司)
スポンサーリンク