2023年8月10日

新社長に聞く/日本高周波鋼業 小椋 大輔氏/品質や納期さらに改善

神戸製鋼所グループで特殊鋼の高機能材料や、ステンレス細径伸線など特殊合金製品で高いシェアを持つ、日本高周波鋼業の新社長に6月28日付で小椋大輔氏が就任した。小椋新社長に抱負や方針などを聞いた。

――就任の抱負から。

「神戸製鋼所では特殊鋼線材・棒鋼の製造に長年携わり、その間にも日本高周波鋼業の社員と一緒に仕事をする機会を得るなど関係は深く、縁があると感じている。取り巻く環境は急速かつ大きく変化しているが、70年を超える歴史を持つ当社は優れた技術・ノウハウを有し、持続的に成長できるポテンシャルがある。24年に及ぶ製鉄所勤務をはじめとする経験や人脈を活かすことでより強固な企業体質にし、さらなる発展に貢献していきたい」

――日本高周波鋼業の印象はどうか。

「2000年に軸受鋼の商権を当社から神戸製鋼に移管した。この時の軸受鋼は高周波鋼業で造塊から一貫生産していたが、競争力を高めるため、神戸製鉄所の連続鋳造に上工程の切り替えを目指したもので、私は当時、技術部スタッフとして造塊材を連鋳材に切り替える際の品質評価や、顧客の品質認証を取得するなどの業務に従事した。自分達のビジネスを取られるようなネガティブな状況にも関わらず、連鋳化という大きな課題解決に向けて、神戸製鋼と高周波鋼業の社員が一致団結し成し遂げたことを、今でも覚えている」

――日本高周波鋼業の強みと、強化ポイントは。

「富山製造所は電気炉溶解から鍛造、分塊、圧延、製品二次加工までを手掛ける。数量拡大を目指す企業規模ではなく、高機能材料を主体に小ロット・多品種の生産に徹し、顧客ニーズに細かく応えているのが強み。難度の高い製品を一貫ラインで製造することもできる。魅力ある製品を造るためには品質や納期、価格競争力などで底力が求められるが、この点ではまだ改善の余地がある。前社長である藤井晃二相談役がものづくり力の強化に向けて講じた施策で成果が出始めている。この路線をしっかり受け継ぎ、取り組んでいきたい」

――取り巻くマーケット環境を。

「23年度は下期に向けて徐々にマーケットが良くなると想定していたが、受注改善の兆しは見えていない。国内は半導体関連や情報機器関連の立ち上がりが遅れている。自動車生産回復の効果も実感できていない。海外は、自動車業界や不動産業界などで不振が続いている中国の影響を大きく受けている。品種別では工具鋼が在庫調整局面にあり、鉄スクラップをはじめ原料価格が下落していることも顧客の買い控えに繋がり、国内は実需以上に落ち込んでいる。海外は中国や韓国、台湾で市場が冷え込み、輸出で数量を確保するのは難しい情勢だ。23年度入り後の販売数量は工具鋼の落ち込みが一番大きい。特殊合金製品については、ハードディスクドライブ用部品向け需要が低迷。一方、海外は原子力発電所関連で動きがあり、韓国向け特殊合金製品の溶接材料輸出で新規受注獲得に期待している。鋳鉄製品はトラックや建設機械、射出成形機の需要が減少し、受注が減っている」

――販売方針は。

「23年度入り後から工具鋼、特殊合金製品、鋳鉄製品ともに需要が落ち込んでいる環境下、電力などエネルギーや物流費、人件費など各種コストが増大しており、販売では特殊鋼鋼材の販売価格を引き上げ、電力サーチャージ制導入も進めてきた。足元の重要課題はエネルギーコスト上昇分の販価への反映であり、顧客に丁寧に説明し、お願いしている。また小ロット・高付加価値製品の受注活動を強化しており、成果が出ている。例えば半導体装置用低熱膨張高合金や原発関連装置用高合金鋼などは受注に成功した。医療分野などを新たなターゲットに高付加価値製品の開発・受注に注力する」

「工具鋼ではグループ会社にカムスがあり、加工込みで小ロット・短納期ニーズに応えるワンストップサービス体制を確立している。他の商社や特殊鋼流通と連携し、カムスが対象にするエリア以外でも同様のサービスを展開していきたい。特殊合金製品は顧客直納取引が多く、流通の在庫拠点を活用するなど、可能な限り短納期ニーズを捕捉していく。海外市場の開拓について輸出比率は20%程度で、当社製品の価値を認めてくれる顧客に対してアプローチする」

――生産方針を。

「生産面は、ものづくり力の強化が重要。特殊鋼鋼材は各部署横断のプロジェクトチームを作って品質や歩留まり、生産性向上や原単位低減などをテーマに掲げて活動しており、さらに効果を引き出す。コストダウンでは安価原料の調達・使用、省力化投資などを検討中。鍛鋼品の機械加工など設備の集約・効率化もテーマ。また電気炉内のスラグ除去作業を自動化・機械化するなど、労働環境の改善にも取り組む」

「グループ会社の高周波鋳造が手掛ける鋳鉄製品はダクタイル鋳鉄など高品質製品に強みがあり、トラックや建設機械、産業機械など幅広い分野で受注を獲得し、売上高を伸ばしてきた。22年度は鋳型の一種である中子の生産能力不足で機会損失が発生しており、年内には大型中子造型機を1基増設して鋳鉄製品の月間生産能力を100トン増やし、3000トンに引き上げる」

――カーボンニュートラル(CN)に向けた動きが加速している。

「4月には、当社におけるCNに向けた中・長期ロードマップを開示した。CO2排出量を30年には13年比46%減、50年にCN実現を目指す。21年度実績では17%を削減できており、製造所の省エネ化やオンサイトPPAを用いた太陽光発電、インゴット大型化など歩留まり改善や加熱炉熱源の燃料転換、低稼働が続く熱処理炉の集約を主体とする各施策を組み合わせるとともに、非化石電源の活用も視野に入れ、CO2排出削減に取り組む。当社グループは自動車ハイテン用金型材料、その金型への表面処理技術『MACHAONコート』、高耐食性ステンレス鋼などCNに貢献するエコプロダクトを造っている。顧客のCO2排出削減に寄与するため、エコプロダクトをPRし、そのラインアップも一層拡充していきたい」

――DX(デジタルトランスフォーメーション)やIoT(モノのインターネット)などの導入状況を。

「当社の対応は遅れており、基本的な操業データをデジタル化することから始めたい。一部でAI(人工知能)を活用しており、顕微鏡で確認する介在物の数をカウントするとか、鍛鋼品の機械加工など設備振動の変化によって故障を予測するテストを繰り返しており、設備の更新時期に合わせて導入を考える」

――グループ会社の方針はどうか。

「高周波鋳造は中子造型機の増設で生産能力を高めるほか、不良率を現行比1%以上引き下げていきたい。カムスは高周波精密の標準切削工具と標準金型部品事業を6月で承継した。NC旋盤などカムスで使用していなかった設備を移設しており、工具鋼の加工バリエーションが増え、一部加工の内製化も可能になる。顧客情報を共有化することで販売面でもシナジーが期待できる」(濱坂浩司)

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▽小椋大輔(おぐら・だいすけ)氏=93年九大院(総合理工学研究科)修了、神戸製鋼所入社。15年鉄鋼事業部門神戸製鉄所線材条鋼技術部担当部長兼鉄鋼事業部門神戸製鉄所線材条鋼技術部線材条鋼技術室長、16年鉄鋼事業部門加古川製鉄所線材条鋼技術部長、18年鉄鋼事業部門加古川製鉄所副所長、20年理事、鉄鋼アルミ事業部門加古川製鉄所副所長兼鉄鋼アルミ事業部門加古川製鉄所計画室長、21年執行役員を経て、23年4月日本高周波鋼業専務執行役員に就任。学生時代は無機化学を専攻していたが、鉄の世界に飛び込んだ。

神鋼時代の製鉄所勤務は24年(神戸製鉄所19年、加古川製鉄所5年)で、特殊鋼棒線一筋に歩んできた。00年に軸受鋼の商権を高周波から神鋼に移管した時は神戸製鉄所の技術部スタッフとして携わり、その経験を17年の上工程集約時に活かした。藤井前社長は神戸・技術室長時代の所長で、「厳しい指導を受けた」と苦笑い。

NHK将棋講座を毎週録画する。最近はスマートフォンでネット対局し、「棋力はアマ一級ぐらい」と自己分析。「苦しい時こそ笑顔」がモットーで、笑顔がすべてを変えると信じる。68年12月29日生まれ、兵庫県出身。

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