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2024.11.29
2024年3月15日
鉄鋼新経営 変化を好機に/日本金属社長/下川康志氏/新アイテム事業化めど/「エコプロ」で工程省略に貢献
――取り巻く市場環境から。
「自動車関連需要の減少、サプライチェーンの分断と構造の変化、物価・諸資材高が収益に大きく影響している。自動車は、部品の在庫調整が続いていたところに、中国や欧米で想定以上のEV化が進行。当社主力商品のステンレス製モール材を採用する自動車メーカーが、海外でシェアを落としている。加えて中国ではステンレスの価格競争が激化し、現地材への切り替えが進み販売は減少。モール材の受注は、2023年4-9月期の落ち込みが顕著で、製造拠点の板橋工場は一時帰休を実施、操業率は当初想定を3割下回った。10月以降は操業も採算も回復基調にあるが、受注が以前の水準に戻る可能性は低いとみている」
――輸出を取り巻く環境は厳しさを増す。
「米中対立や欧州連合(EU)の炭素国境調整措置(CBAM)など、貿易上の障壁が生まれている。引き続き国内の圧延母材・副資材メーカーと関係を強化し、安定供給を続ける。品質と技術を一段と磨くことで、世界中の顧客が、規制や障壁の枠を超えてでも求めるような製品を提供したい」
――エネルギーや主副原料、資材などの製造コストが上昇している。
「コスト削減を進めているが、上昇分を自社で吸収することは困難だ。現在、原料・エネルギー価格など指標に基づいた価格改定と、商社口銭の適正化、個別の収益状況に応じたベースやエキストラ価格の改定などに着手している。引き続き顧客との交渉を重ね、価格改定を進める。物流コストについては、一般的なトラック輸送費上昇を踏まえ、指標を基に価格転嫁を行う予定だ。われわれと同様にユーザーも製造コストが上昇し、人手不足も課題となっている。省エネ・省資源・工程省略でトータルコストの削減や生産性改善に貢献する『エコプロダクツ』製品の拡販を推進し、高まるニーズに対応していく」
――そのエコプロダクツ製品の現状は。
「工程省略に貢献する製品が好調だ。黒加飾ステンレスの『ファインブラック』は、ステンレスに黒色フィルムを貼り付ける作業が省略でき、プレスなどの加工に対応できる点が高く評価された。国内外の大手自動車メーカーで採用が拡大している。福島工場で製造する異形鋼も顧客の切削工程を削減することができる。独自性を強みに、引き続きアピールしていきたい」
――一方で、ベイナイト鋼帯から撤退する。
「熱処理工程を省略する製品ではあるが、他製品に需要が移り、市場が年々縮小し現在では当社売り上げの1%に満たない製品となった。今後も需要が伸びる可能性は低く、設備が老朽化しているため、事業継続には大規模な設備投資が必要だった。これらのことから事業継続は困難と判断した。当社は多彩な磨き特殊帯鋼を製造するが、ベイナイト鋼帯以外の事業撤退は現時点で考えていない」
――今期業績の見通しを。営業赤字と経常赤字の主な要因は。
「ステンレスが大幅減産となったことが大きい。ステンレス部門は7―9月に赤字幅が拡大。10-12月期以降の赤字幅は改善傾向にあるが、通期でみると赤字となる見通しだ。特殊鋼や加工品を製造する福島工場と岐阜工場など、ステンレス以外は黒字を維持している」
――昨年末に本社ビルを売却した。
「財務体質の強化と次世代事業に必要な設備投資の資金を調達するために売却した。もともと本社ビルは竣工から30年が経ち、大規模な修繕工事を控えていたことや、職場環境の改善の一環として以前から移転を検討していた。今年8月の移転後は、一人当たりの執務スペースが広くなり、働きやすく快適なオフィスとなる」
――足元の各工場の稼働状況と今後の見通しを。
「板橋工場と福島工場は当初想定の8―9割操業で、小径管を製造する岐阜工場はほぼフル操業。精密機器向け鋼管などが高水準の操業を支えている。自動車用途の多い板橋工場と福島工場は、在庫調整が一段落する来期にかけて、生産量が回復する見込み」
――製造実力強化策など、設備投資の計画は。
「福島工場では、非鉄金属の異形圧延を強化する。福島工場に複雑な異形断面や銅やアルミなどの非鉄金属が成形可能な新型異形圧延設備を年内に導入する。自動車のEV化で増える電池需要などを捕捉する。なお、新アイテムの事業化がまとまり次第25年以降に、新事業関連の大型投資を行う計画だ」
――海外戦略について。昨年から、技術や製品に関する情報発信を開始した。
「欧州やインドの拡販を強化する。環境意識の高い欧州では、めっき、アルマイト処理の省略をセールスポイントに、アルミ製自動車モールのステンレス化を推進している。インドでは、すでに増加傾向にあるモールや注射針向けなど、競争力ある製品を拡販している。中国では、内面高精度管などのファインパイプの引き合いが出ており、一部量産も始まった。省資源・省エネが特長の極薄電磁鋼帯やファインパイプなどのエコプロダクツも拡販していきたい」
――板橋工場ではグリーン電力を導入する。
「オフサイトコーポレートPPA方式で、太陽光発電設備を24年5月稼働する。導入後は使用する電力の10%が太陽光発電由来へ切り替わり、年間約6500トンのCO2排出量削減に寄与する。なお、現在の板橋工場エネルギー比率は、ガス・コージェネレーションシステム8割、電力2割。このほか東京都の工業用水道事業廃止を受けて、既存水処理設備の改善を進め、約60%の排水回収率を向上させる排水回収設備を新設。23年7月から稼働した」
――第11次経営計画について。20年4月から昨年3月まで実施した第1フェーズの評価と、23年4月からスタートした第2フェーズの現状を。
「第1フェーズは、板橋工場第3圧延工場の稼働を22年3月に再開。ステンレス以外の部門が健闘し、1年前倒しで黒字に転換することができた。第2フェーズは、新アイテム事業化と安定収益基盤構築を進めている。最終年度の来期で黒字化を目指す。新アイテムは電池関連の事業化に目途が立ち、量産体制を構築しているところだ。具体的にはステンレス箔、非鉄金属の異形圧延、計測機器や自動車向けパイプなどを新アイテムの事業化とする方向で検討している」
――需要構造の変化への対応策と、技術開発戦略について。
「さまざまなニーズに適合する『マルチ&ハイブリッドマテリアル』、最終製品形状に近い複雑な成形加工の『ニアネット・シェイプ』、要求される性能を素材で実現する『ニアネット・パフォーマンス』をキーワードに開発と試作を加速する。次世代車載電池や各種センサー、高効率・小型モーター、省電力機器などEV化に伴う新たなニーズも拡大する傾向にある。このほかにも新エネルギー関連、先端医療機器や高精度計測機器などをターゲットに開発と量産に向けた対応を推進する」
――4月1日付で経営企画部門を再編する。
「生産本部、開発・営業本部の中に、経営企画に相当する部署をそれぞれ置き、さらに全社横断の経営企画部門と『経営戦略会議』を設置する。それぞれの立場から会社のあるべき方向性、戦略を練る。新しいニーズを常に追求し続けるために、長期的な視点・戦略を立てていく。このほか、技能・技術伝承の強化を目的に同日付で技術本部に教育専任者を増員する。属人的なOJTから脱却した人材育成で、高い製造技術を確実に次の世代へつなげる」(北村 康平)
「自動車関連需要の減少、サプライチェーンの分断と構造の変化、物価・諸資材高が収益に大きく影響している。自動車は、部品の在庫調整が続いていたところに、中国や欧米で想定以上のEV化が進行。当社主力商品のステンレス製モール材を採用する自動車メーカーが、海外でシェアを落としている。加えて中国ではステンレスの価格競争が激化し、現地材への切り替えが進み販売は減少。モール材の受注は、2023年4-9月期の落ち込みが顕著で、製造拠点の板橋工場は一時帰休を実施、操業率は当初想定を3割下回った。10月以降は操業も採算も回復基調にあるが、受注が以前の水準に戻る可能性は低いとみている」
――輸出を取り巻く環境は厳しさを増す。
「米中対立や欧州連合(EU)の炭素国境調整措置(CBAM)など、貿易上の障壁が生まれている。引き続き国内の圧延母材・副資材メーカーと関係を強化し、安定供給を続ける。品質と技術を一段と磨くことで、世界中の顧客が、規制や障壁の枠を超えてでも求めるような製品を提供したい」
――エネルギーや主副原料、資材などの製造コストが上昇している。
「コスト削減を進めているが、上昇分を自社で吸収することは困難だ。現在、原料・エネルギー価格など指標に基づいた価格改定と、商社口銭の適正化、個別の収益状況に応じたベースやエキストラ価格の改定などに着手している。引き続き顧客との交渉を重ね、価格改定を進める。物流コストについては、一般的なトラック輸送費上昇を踏まえ、指標を基に価格転嫁を行う予定だ。われわれと同様にユーザーも製造コストが上昇し、人手不足も課題となっている。省エネ・省資源・工程省略でトータルコストの削減や生産性改善に貢献する『エコプロダクツ』製品の拡販を推進し、高まるニーズに対応していく」
――そのエコプロダクツ製品の現状は。
「工程省略に貢献する製品が好調だ。黒加飾ステンレスの『ファインブラック』は、ステンレスに黒色フィルムを貼り付ける作業が省略でき、プレスなどの加工に対応できる点が高く評価された。国内外の大手自動車メーカーで採用が拡大している。福島工場で製造する異形鋼も顧客の切削工程を削減することができる。独自性を強みに、引き続きアピールしていきたい」
――一方で、ベイナイト鋼帯から撤退する。
「熱処理工程を省略する製品ではあるが、他製品に需要が移り、市場が年々縮小し現在では当社売り上げの1%に満たない製品となった。今後も需要が伸びる可能性は低く、設備が老朽化しているため、事業継続には大規模な設備投資が必要だった。これらのことから事業継続は困難と判断した。当社は多彩な磨き特殊帯鋼を製造するが、ベイナイト鋼帯以外の事業撤退は現時点で考えていない」
――今期業績の見通しを。営業赤字と経常赤字の主な要因は。
「ステンレスが大幅減産となったことが大きい。ステンレス部門は7―9月に赤字幅が拡大。10-12月期以降の赤字幅は改善傾向にあるが、通期でみると赤字となる見通しだ。特殊鋼や加工品を製造する福島工場と岐阜工場など、ステンレス以外は黒字を維持している」
――昨年末に本社ビルを売却した。
「財務体質の強化と次世代事業に必要な設備投資の資金を調達するために売却した。もともと本社ビルは竣工から30年が経ち、大規模な修繕工事を控えていたことや、職場環境の改善の一環として以前から移転を検討していた。今年8月の移転後は、一人当たりの執務スペースが広くなり、働きやすく快適なオフィスとなる」
――足元の各工場の稼働状況と今後の見通しを。
「板橋工場と福島工場は当初想定の8―9割操業で、小径管を製造する岐阜工場はほぼフル操業。精密機器向け鋼管などが高水準の操業を支えている。自動車用途の多い板橋工場と福島工場は、在庫調整が一段落する来期にかけて、生産量が回復する見込み」
――製造実力強化策など、設備投資の計画は。
「福島工場では、非鉄金属の異形圧延を強化する。福島工場に複雑な異形断面や銅やアルミなどの非鉄金属が成形可能な新型異形圧延設備を年内に導入する。自動車のEV化で増える電池需要などを捕捉する。なお、新アイテムの事業化がまとまり次第25年以降に、新事業関連の大型投資を行う計画だ」
――海外戦略について。昨年から、技術や製品に関する情報発信を開始した。
「欧州やインドの拡販を強化する。環境意識の高い欧州では、めっき、アルマイト処理の省略をセールスポイントに、アルミ製自動車モールのステンレス化を推進している。インドでは、すでに増加傾向にあるモールや注射針向けなど、競争力ある製品を拡販している。中国では、内面高精度管などのファインパイプの引き合いが出ており、一部量産も始まった。省資源・省エネが特長の極薄電磁鋼帯やファインパイプなどのエコプロダクツも拡販していきたい」
――板橋工場ではグリーン電力を導入する。
「オフサイトコーポレートPPA方式で、太陽光発電設備を24年5月稼働する。導入後は使用する電力の10%が太陽光発電由来へ切り替わり、年間約6500トンのCO2排出量削減に寄与する。なお、現在の板橋工場エネルギー比率は、ガス・コージェネレーションシステム8割、電力2割。このほか東京都の工業用水道事業廃止を受けて、既存水処理設備の改善を進め、約60%の排水回収率を向上させる排水回収設備を新設。23年7月から稼働した」
――第11次経営計画について。20年4月から昨年3月まで実施した第1フェーズの評価と、23年4月からスタートした第2フェーズの現状を。
「第1フェーズは、板橋工場第3圧延工場の稼働を22年3月に再開。ステンレス以外の部門が健闘し、1年前倒しで黒字に転換することができた。第2フェーズは、新アイテム事業化と安定収益基盤構築を進めている。最終年度の来期で黒字化を目指す。新アイテムは電池関連の事業化に目途が立ち、量産体制を構築しているところだ。具体的にはステンレス箔、非鉄金属の異形圧延、計測機器や自動車向けパイプなどを新アイテムの事業化とする方向で検討している」
――需要構造の変化への対応策と、技術開発戦略について。
「さまざまなニーズに適合する『マルチ&ハイブリッドマテリアル』、最終製品形状に近い複雑な成形加工の『ニアネット・シェイプ』、要求される性能を素材で実現する『ニアネット・パフォーマンス』をキーワードに開発と試作を加速する。次世代車載電池や各種センサー、高効率・小型モーター、省電力機器などEV化に伴う新たなニーズも拡大する傾向にある。このほかにも新エネルギー関連、先端医療機器や高精度計測機器などをターゲットに開発と量産に向けた対応を推進する」
――4月1日付で経営企画部門を再編する。
「生産本部、開発・営業本部の中に、経営企画に相当する部署をそれぞれ置き、さらに全社横断の経営企画部門と『経営戦略会議』を設置する。それぞれの立場から会社のあるべき方向性、戦略を練る。新しいニーズを常に追求し続けるために、長期的な視点・戦略を立てていく。このほか、技能・技術伝承の強化を目的に同日付で技術本部に教育専任者を増員する。属人的なOJTから脱却した人材育成で、高い製造技術を確実に次の世代へつなげる」(北村 康平)
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