2023年3月1日

鉄鋼新経営 新たな成長に向けて 日本金属社長 下川康志氏 欧州とインド拡販の成果 加工品、アロイリンクで収益安定

――国内外のマーケット環境から。

「当社の売り上げ構成のうち5割を占める自動車向けは、半導体や部品不足による完成車メーカーの減産と部品メーカーを含めた調整局面の影響を受けている。自動車の生産計画や当社の受注状況を比較してみると、サプライチェーン全体で在庫がたまっているとみており、需要回復時期は不透明で、時間を要するものとみている。新型コロナウイルス禍で増加した巣ごもり需要はピークを過ぎ、サーバー向けHDDやゲーム機、調理家電向けの需要が減少傾向にある。スマートフォン向けは中国の新型コロナウイルス感染拡大に伴う工場閉鎖や景気減速の影響が大きい。自動車や家電などに使用されるコイン型電池も少し減速感がみられはじめた。2022年10-12月期以降、マーケットの動きが一段と鈍化している」

――加工品事業は。

「福島工場、岐阜工場で製造する加工品は堅調だ。ファインパイプなど精密鋼管を製造する岐阜工場は、主用途の自動車向けで従来の受注が減少する一方、文具や計測機器などの新規案件が増えたほか、電動車関連で従来とは異なる新たな受注もあり、生産を押し上げている。福島工場は生産の5割を占める自動車向け異形鋼の減産や建材は落ち込む一方、意匠性異形製品の『リプルスIバー』が好調だ。新規需要が生まれたことで高水準の操業が続いている」

――海外戦略について。

「当社のシェアが高いモール材は、中国市場で現地メーカーが着実に力をつけており苦戦している。対照的に欧州とインドでは、拡販の成果が少しずつ表れはじめた。欧州自動車大手でモールの素材をアルミから当社ステンレス材に変更する形で受注が決まっている。欧州では数年前から環境負荷が低い点などを切り口に提案を強化。今後も異素材からの切り替えを含め採用拡大が見込まれる。インドは18年の同国規格・BISの取得を契機に販売が拡大。インドは当社のマレーシア事業拠点や商社と連携し市場開拓を進めており、現地自動車メーカー向け部品や注射針用ステンレスなどで受注を獲得した。モール材に留まらずファインパイプや異形製品、極薄電磁鋼帯、マグネシウム合金などの拡販に海外でも取り組む」

「欧州市場は日本金属の認知度が低い。海外に対するオンライン上の発信強化の一環として、今年から多言語でのプレスリリースを検討している。当社単体ではなく、海外のプレスリリース配信代行企業など通じて発信し、ネットで情報収集する海外ユーザーへの認知度を高めていきたい」

――2022年4-12月期決算と通期の見通しについて。

「今期の連結業績予想は売上高550億円、営業利益と経常利益はそれぞれ13億円、純利益7億円とみており、22年は4-9月で増益、4-12月は営業利益、経常利益が増益と、通期で2期連続の黒字を予想する。なお、4―12月期通期に対する業績進捗率は売上高が71%、営業利益は81%、経常利益は77%、純利益89%だった。連結でみると直系商社の日金スチールやタイ、マレーシアなどの海外事業会社が価格改定に伴うマージン確保で収益が大幅に改善している。価格改定の効果で売上高は前年同期比8・2%増えたものの、ステンレス鋼の販売数量は同1割下回り、直近は2割程度減少している。この2-3月でどれだけ積み上げることができるかが焦点だ」

――販売価格の見直しを進めている。

「21年に着手した福島工場と岐阜工場の加工品の販売価格改定は、売り上げの7割強でアロイリンク方式へ移行した。これにより2工場の収益は大きく改善している。今後も製品ごと、案件ごとに収益を見直し、低収益品のベース価格改定や高品質差別化製品のエキストラ改定にも着手する。足元の価格高騰を受け、モリブデンが添加されている製品では欧米で販売するNK436LNBをはじめSUS316、316Lでエキストラの改定を進めている」

――エネルギーコストが増大している。

「エネルギー価格が前例にないほど上昇していることを受け、今期から上期・下期と2回に分けて価格改定の交渉を進めている。上期分はほぼ決着し、現在は下期分の交渉に着手しているところだ。エネルギーコストは当社のサーチャージ制度やアロイリンクに含まれていないため、顧客に対して都度交渉する。電気代や燃料調整費、LNGなどが含まれ、工場別に影響度を計算し、これに基づいた自社では吸収できないコスト上昇分に見合った価格を提示している。具体的には4-12月でエネルギーコストは前年同期比減産にもかかわらず倍増しており、1-3月は一段と負担が増す見通し。来期以降もエネルギーコストの上昇に応じた価格改定を検討する」

――火災の影響で操業を停止していた板橋工場の圧延設備が昨年3月に再稼働した。

「熱延品を圧延する第三圧延工場は、昨年3月の再稼働以降、一部設備の手直しを行いながら順調な操業を続けている。足元の稼働率は能力比2割減だが、いつでもフル操業できる体制を整えた。火災発生から再稼働までの間は、ステンレス一貫メーカーに一定の厚みまで圧延を委託していたため冷延エキストラが大きな負担となっていたが、再稼働以降は解消し収益が改善された。一方、昨年3月から続くニッケル価格高騰や原料価格の変動で採算が悪化している。圧延工場再稼働にあたり、圧延機を4フィートから2フィートとするなど、将来を見越した設備投資も進めているが、狭幅になる分生産能力は低下する。他の圧延機で圧延することや、ステンレスメーカーの冷延品活用は今後も続けたい」

――岐阜工場ではパイプ自動切断機を導入した。

「自動切断機は直管の端面切断や研磨などを自動化したもの。生産性向上はもちろんのこと、文具向けなど一定の長さのものを大量に仕上げるニーズが高いことも導入を後押しした。上期に稼働したパイプ自動切断機は1カ月当たりの加工能力が2万7000本に対し、自動車関連の減産影響で現状は1万本程度にとどまる。今後は需要回復に頼るだけではなく、加工可能な仕様を広げて稼働率を上げていく方針だ。岐阜工場は新規の受注が増えたこともあり、ほぼフル操業が続いている」

――設備投資の計画は。

「計画が具体化しているのは、板橋工場主力圧延機の電気系統老朽更新に10億円以上を投じるほか、マグネシウム圧延機の制御関連の改造と岐阜工場の小型直管焼鈍ライン新設にそれぞれ1億円弱投資する。岐阜は小型で短い直管を焼鈍できる体制を整えることで、文具需要の捕捉を目指す。今後は、福島工場でアルミや銅など非鉄金属圧延用の製造設備導入や板橋工場マグネシウム製造設備導入などの投資を検討している」

――第11次経営計画について。第1フェーズが今月で終了となる。

「23年3月期の黒字回復を目指していた黒字化は1年前倒しで達成したが、板橋のステンレス鋼帯事業は収益改善の途上にある。エネルギー消費量が多く、鉄源やニッケルなど原材料コスト急騰の影響が大きい。価格改定は進めているが、急激な価格変動や原料の値上げ幅が大きいため、価格へ完全に転嫁できていない。契約を毎月改定することは難しいため、そのタイムラグで差損となっている。ここについては4月以降の最大課題と捉え、コスト増に伴う価格転嫁にとどまらず高収益品の拡大、歩留まりや生産性向上に取り組む。基本的な方向性は変わらないが、原料価格や売り上げ構成の変化など計画策定時と足元の環境が大きく変化しており、微調整が必要と判断。来期から計画のローリングを行うこととした」

――第2フェーズで本腰を入れる「機能強化商品の販売増強」や、第3フェーズで加速を目指す「新アイテムの獲得・事業化」の取り組みについて。

「機能強化製品は、意匠性異形製品のⅠバーが工場用グレーチング部材に採用され、今後もコンスタントな受注が見込まれる。黒加飾ステンレス鋼『FineBlack(ファインブラック)』は国内では日産自動車のほかトヨタ自動車のレクサスなどで採用され順調に売り上げを伸ばしている。機能強化製品の数値目標は第2フェーズを一つのゴールとして立てているが、第1フェーズの時点で目標の3割を達成する見通し。新事業アイテムは次世代自動車関連でステンレス製品が採用される見込みのほか、CASE関連で小径厚肉管や非鉄異形圧延製品の試作評価が進んでいる。マグネシウム合金は次世代電池分野が試作開発段階にあり、当面はITやCASEをターゲットとした用途開発を進める。極薄電磁鋼帯は方向性電磁鋼帯がHVDC(高電圧直流送電)向けで底堅く、無方向性電磁鋼帯は家電向け小型軽量モーターで少量ながら量産が決まっている」

――脱炭素社会に向けた対応や取り組みは。

「本年1月1日付で『環境委員会』を設置し、下部組織の『カーボンニュートラル分科会』を軸にカーボンニュートラルと省エネに関する取り組みを推進する。二酸化炭素排出量は総量だけでなく、各工場の製品ごとに管理し算定するシステムを構築。今後は各工場とオフィスで設備を含めた省エネ化推進と、再生可能エネルギーの活用を検討する。板橋工場は、東京都の工業用水道事業廃止に伴い、約6割排水回収率を向上させる排水回収設備を新設した。工業用水の廃止で水道料金の上昇も控えており、水の再利用を高める」

――エコプロダクツ製品の拡販も欠かせない。

「環境に貢献する技術・特性を有する『エコプロダクツ製品』は、定義を明確にしようとプロジェクトを立ち上げ、売り上げ目標などを策定している。対象となる製品は機能強化製品や新アイテムはもちろん、以前から製造販売する製品も該当する。今年半ばまでに明確にしたい。ホームページの中にエコプロダクツ製品を紹介するページを設けるなどPR活動も推進する」(北村康平)

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