2025年7月31日
営業戦略を聞く/JFEスチール 加藤彰浩副社長/「需要の高度化」 新市場創出/汎用品戦略、協業で最適解探る
――国内外ともに需要の不透明感が強まっている。
「米国の関税政策について自動車や建機など影響が見込まれるが着地点はまだ見えず、需要産業の中で様子見が続いている。上半期は関税政策の影響は目立って表れてはいない。米国の相互関税・自動車関税が15%で決着する見込みとなったが、未だ先行きの不透明感は払しょくしきれてはおらず、下期は影響を受けるとみている。自動車は米国での値上げによる販売への影響が懸念され、今後自動車生産に調整が入る可能性もある。2024年度は市場が非常に厳しかったが、25年度も大きくは変わらず、単独粗鋼生産は関税影響をある程度織り込み2100万トン程度と24年度の2195万トンから減少する予想とした」
――中国の鉄鋼の高生産・高輸出が続き、国際鉄鋼需給の混乱は収まりそうにない。
「中国の鉄鋼の過剰生産は構造的な問題であり、短期には解消されず、需給の改善に時間を要する覚悟で海外市場をみなければならない。不動産など需要の低迷が続き、東南アジア中心に南米、アフリカ、欧州向けに鋼材輸出を増やしている。さらに中国資本の鉄鋼企業がインドネシアやマレーシアに製鉄所を建設し、ASEAN地域の鉄鋼需給が崩れている。中国は高水準の粗鋼生産を継続しており、安価な鋼材輸出が続く前提で考える必要がある」
――日本政府は中国・台湾に対するニッケル系ステンレス冷延鋼帯及び冷延鋼板に対するADの調査を開始したが、JFEスチールとしての受け止めは。
「安価な輸入鋼材の流入増加は、国内の鉄鋼及び関連産業の消耗と競争力の低下につながり、国内サプライチェーンの維持やカーボンニュートラル投資の推進に悪影響を及ぼす懸念がある。輸入通商対策の必要性はニッケル系ステンレスに限らず、さらに高まっている。国内ミルの立場として毅然とした対応を取る必要があると考え、当社は賛同する立場である」
――2035年に向けた長期ビジョンと25年度開始の第8次中期経営計画で成長に向けた施策を打ち出した。営業部門として注力するポイントとは。
「海外での事業投資やソリューションビジネス、新たな事業展開など成長に果敢に挑戦する。そのための基盤となるのは国内製鉄事業だ。利益を生み出すだけでなく、技術や人材などあらゆる経営リソースを生み出す源泉であり、これが強くなければ成長戦略を前に進めることはできない。その国内製鉄事業で販売活動を通じて前線で支えるのが営業部門だ。国内製鉄事業は第8次中計で新たな構造改革を実施し、粗鋼能力を削減してスリムで強靭な製造体制に移行する。生産体制を最適化する中で、今後伸びていく商品に力をより集め、高付加価値品比率を24年度末の48%から第8次中計で60%に引き上げる。強みを持つ電磁鋼板や超ハイテン材、大単重厚板については必要な投資をすでに実施している。カーボンニュートラル(CN)に向けた投資についても倉敷地区に革新電気炉を導入する。スリムにしつつも強化しなければいけないところは強化していく。『需要の高度化』をお客様に促し、新しいマーケットを創出していくことも営業部門としての役割だ。商品技術部門と一体となって進めていく中で、営業部門がイニシアチブをとって牽引していく」
――無方向性電磁鋼板の能力増強を進めている。CNの潮流が欧米で減速しかけているが、計画に変更は。
「CNに向かう世界全体の動きは鈍くなるかもしれないが、止まることはない。CNで競争優位的なポジションをとることは環境問題への対応だけでなく、事業機会を捉えて収益を生み出すことでもある。お客様と丁寧に会話しながら国内外で築き上げてきた強いサプライチェーンを活用し、先をみて高級鋼やグリーン鋼材「JGreeX」の使用を促し、需要を創出していく」
――CN実現にはグリーン鋼材の市場創出が欠かせない。
「グリーン鋼材の拡販は中計の重要テーマだ。民間だけでは限界があり、官の力も借りながら市場を創出していく。自動車への補助金制度が始まったことも含め、グリーン市場の認知活動を広げる。LCAの観点から関心度が高い自動車産業で使っていただいた実績をてこに、他の産業への採用を働きかける」
――増加している輸入材への対抗策は。大和工業、淀川製鋼所との提携はその一環となる。
「輸入材や電炉材など汎用品のゾーンの取り組みは大きな課題だ。大和工業グループと形鋼事業について戦略提携を結んだ。建材を中心とした汎用品のゾーンでのサバイバル戦術を企業単独ではなく、グループ企業含めて考えていく。大和工業グループはH形鋼中心に製造し、JFE条鋼はH形鋼と一般形鋼、鉄筋用棒鋼を製造しており、同じ電炉形鋼メーカーだが得意とする製品が異なる。当社を含めた3社の強みをどのように持ち寄り、どうシナジー効果を出していくか。共通する課題認識はすり合わせでき、最適な方法を議論しているところ。電炉は本来は地産地消型のビジネスモデルが主体だが、原料の鉄スクラップを東日本から製造拠点が多い西日本に送るなど東西間の物流が多い。JFE条鋼は北海道と茨城、埼玉に拠点があり、東西の拠点を活用する可能性はあるが、具体的にはこれから検討を進める」
「淀川製鋼所とは当社からの原板供給など長いつき合いがある。技術や販売力など、JFE鋼板を含めた3社の強みを組み合わせて互いにプラスとなる協業を目指す。提携において大事なことは、迷ったときに立ち戻ることができるように、最初に道標を定め、どのようなポジションを目指すか、コンセプトを確認しておくことだ。両社との協業の具体策をできるだけ早くに固めたいと思っているが、スケジュールを決めて進めるのではなく、徹底的に議論することが重要だ。他の製品・事業についてもよいパートナーと話があれば検討する可能性はある」
――米国事業の現状と強化策は。パートナーのニューコアとどのような協業が考えられるか。
「CSIはスラブを輸入しているので関税引き上げの影響を受けてコストは上がるが、販売価格が上がっており、低調だった24年から改善する見通しだ。将来的に新しいCGLの導入も予定しており、収益改善に寄与することも期待している。メキシコのNJSMは米国の関税政策の影響でメキシコの自動車生産が減る可能性があるが、NJSM自体が立ち上げの途上であり、立ち上げの角度が緩やかになるとしても生産量は増えていく。電磁鋼板に関連すれば、EV化の動きを見極める必要がある。ただ、米鉄鋼業自体の変化もあり、新しい領域にチャレンジするDNAを持つニューコアと当社でどのような戦略を打ち立てていくか。ニューコアと当社の構想と考えを重ねて会話を進めていく」
――需要の拡大が続くインドで追加の成長投資をどう進めるか。
「JSWスチールと共同でティッセンクルップの方向性電磁鋼板の製造拠点を買収し、新たな協業についてもいろいろと検討している。今の事業の延長線上か、さらに踏み込んだものとなるか。8次中計で海外成長投資枠として4000億円規模を設定しており、他の地域含め新規ビジネスの可能性を追求していく」
――方向性電磁鋼板(GO)の能力増強はインドが中心となる。
「電力需要の増加によってGOの需要が増えていく。JSWスチールとGOの製造・販売会社を合弁で設立し現地で事業として取り組む。製造から販売までの一貫した体制を早期に確立し、GOの需要を中長期的に取り込んでいく。GOについては国内で大きな設備投資を決めてはいないが、日本も半導体工場やデータセンターなど電力需要は増えていく見通しであり、供給の拡大に向けて既存設備の日々の改善にリソースを投入していく」
――国内での超ハイテンの増強として福山地区で新CGLが28年に稼働する。
「技術開発、商品開発を進め、今までのCGLでは対応が難しかった高い特性を持つ製品の製造を狙う。自動車のハイテン化は今後も確実に進んでいく。新CGLは超ハイテンを中心に生産を行うラインになり、当面の需要をまかなえる見込みだ」
――洋上風力発電設備に使用される大単重厚板は年末以降、本格的に出荷が増えていく見込みだ。
「洋上風力ラウンド2が動き出す見通しだ。欧州はプロジェクトが多くあり、当面は輸出で欧州の需要に対応していく。実績はすでに上がり、国内の動向を見守りつつ、供給を拡大していく」(植木 美知也)
「米国の関税政策について自動車や建機など影響が見込まれるが着地点はまだ見えず、需要産業の中で様子見が続いている。上半期は関税政策の影響は目立って表れてはいない。米国の相互関税・自動車関税が15%で決着する見込みとなったが、未だ先行きの不透明感は払しょくしきれてはおらず、下期は影響を受けるとみている。自動車は米国での値上げによる販売への影響が懸念され、今後自動車生産に調整が入る可能性もある。2024年度は市場が非常に厳しかったが、25年度も大きくは変わらず、単独粗鋼生産は関税影響をある程度織り込み2100万トン程度と24年度の2195万トンから減少する予想とした」
――中国の鉄鋼の高生産・高輸出が続き、国際鉄鋼需給の混乱は収まりそうにない。
「中国の鉄鋼の過剰生産は構造的な問題であり、短期には解消されず、需給の改善に時間を要する覚悟で海外市場をみなければならない。不動産など需要の低迷が続き、東南アジア中心に南米、アフリカ、欧州向けに鋼材輸出を増やしている。さらに中国資本の鉄鋼企業がインドネシアやマレーシアに製鉄所を建設し、ASEAN地域の鉄鋼需給が崩れている。中国は高水準の粗鋼生産を継続しており、安価な鋼材輸出が続く前提で考える必要がある」
――日本政府は中国・台湾に対するニッケル系ステンレス冷延鋼帯及び冷延鋼板に対するADの調査を開始したが、JFEスチールとしての受け止めは。
「安価な輸入鋼材の流入増加は、国内の鉄鋼及び関連産業の消耗と競争力の低下につながり、国内サプライチェーンの維持やカーボンニュートラル投資の推進に悪影響を及ぼす懸念がある。輸入通商対策の必要性はニッケル系ステンレスに限らず、さらに高まっている。国内ミルの立場として毅然とした対応を取る必要があると考え、当社は賛同する立場である」
――2035年に向けた長期ビジョンと25年度開始の第8次中期経営計画で成長に向けた施策を打ち出した。営業部門として注力するポイントとは。「海外での事業投資やソリューションビジネス、新たな事業展開など成長に果敢に挑戦する。そのための基盤となるのは国内製鉄事業だ。利益を生み出すだけでなく、技術や人材などあらゆる経営リソースを生み出す源泉であり、これが強くなければ成長戦略を前に進めることはできない。その国内製鉄事業で販売活動を通じて前線で支えるのが営業部門だ。国内製鉄事業は第8次中計で新たな構造改革を実施し、粗鋼能力を削減してスリムで強靭な製造体制に移行する。生産体制を最適化する中で、今後伸びていく商品に力をより集め、高付加価値品比率を24年度末の48%から第8次中計で60%に引き上げる。強みを持つ電磁鋼板や超ハイテン材、大単重厚板については必要な投資をすでに実施している。カーボンニュートラル(CN)に向けた投資についても倉敷地区に革新電気炉を導入する。スリムにしつつも強化しなければいけないところは強化していく。『需要の高度化』をお客様に促し、新しいマーケットを創出していくことも営業部門としての役割だ。商品技術部門と一体となって進めていく中で、営業部門がイニシアチブをとって牽引していく」
――無方向性電磁鋼板の能力増強を進めている。CNの潮流が欧米で減速しかけているが、計画に変更は。
「CNに向かう世界全体の動きは鈍くなるかもしれないが、止まることはない。CNで競争優位的なポジションをとることは環境問題への対応だけでなく、事業機会を捉えて収益を生み出すことでもある。お客様と丁寧に会話しながら国内外で築き上げてきた強いサプライチェーンを活用し、先をみて高級鋼やグリーン鋼材「JGreeX」の使用を促し、需要を創出していく」
――CN実現にはグリーン鋼材の市場創出が欠かせない。
「グリーン鋼材の拡販は中計の重要テーマだ。民間だけでは限界があり、官の力も借りながら市場を創出していく。自動車への補助金制度が始まったことも含め、グリーン市場の認知活動を広げる。LCAの観点から関心度が高い自動車産業で使っていただいた実績をてこに、他の産業への採用を働きかける」
――増加している輸入材への対抗策は。大和工業、淀川製鋼所との提携はその一環となる。
「輸入材や電炉材など汎用品のゾーンの取り組みは大きな課題だ。大和工業グループと形鋼事業について戦略提携を結んだ。建材を中心とした汎用品のゾーンでのサバイバル戦術を企業単独ではなく、グループ企業含めて考えていく。大和工業グループはH形鋼中心に製造し、JFE条鋼はH形鋼と一般形鋼、鉄筋用棒鋼を製造しており、同じ電炉形鋼メーカーだが得意とする製品が異なる。当社を含めた3社の強みをどのように持ち寄り、どうシナジー効果を出していくか。共通する課題認識はすり合わせでき、最適な方法を議論しているところ。電炉は本来は地産地消型のビジネスモデルが主体だが、原料の鉄スクラップを東日本から製造拠点が多い西日本に送るなど東西間の物流が多い。JFE条鋼は北海道と茨城、埼玉に拠点があり、東西の拠点を活用する可能性はあるが、具体的にはこれから検討を進める」
「淀川製鋼所とは当社からの原板供給など長いつき合いがある。技術や販売力など、JFE鋼板を含めた3社の強みを組み合わせて互いにプラスとなる協業を目指す。提携において大事なことは、迷ったときに立ち戻ることができるように、最初に道標を定め、どのようなポジションを目指すか、コンセプトを確認しておくことだ。両社との協業の具体策をできるだけ早くに固めたいと思っているが、スケジュールを決めて進めるのではなく、徹底的に議論することが重要だ。他の製品・事業についてもよいパートナーと話があれば検討する可能性はある」
――米国事業の現状と強化策は。パートナーのニューコアとどのような協業が考えられるか。「CSIはスラブを輸入しているので関税引き上げの影響を受けてコストは上がるが、販売価格が上がっており、低調だった24年から改善する見通しだ。将来的に新しいCGLの導入も予定しており、収益改善に寄与することも期待している。メキシコのNJSMは米国の関税政策の影響でメキシコの自動車生産が減る可能性があるが、NJSM自体が立ち上げの途上であり、立ち上げの角度が緩やかになるとしても生産量は増えていく。電磁鋼板に関連すれば、EV化の動きを見極める必要がある。ただ、米鉄鋼業自体の変化もあり、新しい領域にチャレンジするDNAを持つニューコアと当社でどのような戦略を打ち立てていくか。ニューコアと当社の構想と考えを重ねて会話を進めていく」
――需要の拡大が続くインドで追加の成長投資をどう進めるか。
「JSWスチールと共同でティッセンクルップの方向性電磁鋼板の製造拠点を買収し、新たな協業についてもいろいろと検討している。今の事業の延長線上か、さらに踏み込んだものとなるか。8次中計で海外成長投資枠として4000億円規模を設定しており、他の地域含め新規ビジネスの可能性を追求していく」
――方向性電磁鋼板(GO)の能力増強はインドが中心となる。
「電力需要の増加によってGOの需要が増えていく。JSWスチールとGOの製造・販売会社を合弁で設立し現地で事業として取り組む。製造から販売までの一貫した体制を早期に確立し、GOの需要を中長期的に取り込んでいく。GOについては国内で大きな設備投資を決めてはいないが、日本も半導体工場やデータセンターなど電力需要は増えていく見通しであり、供給の拡大に向けて既存設備の日々の改善にリソースを投入していく」
――国内での超ハイテンの増強として福山地区で新CGLが28年に稼働する。
「技術開発、商品開発を進め、今までのCGLでは対応が難しかった高い特性を持つ製品の製造を狙う。自動車のハイテン化は今後も確実に進んでいく。新CGLは超ハイテンを中心に生産を行うラインになり、当面の需要をまかなえる見込みだ」
――洋上風力発電設備に使用される大単重厚板は年末以降、本格的に出荷が増えていく見込みだ。
「洋上風力ラウンド2が動き出す見通しだ。欧州はプロジェクトが多くあり、当面は輸出で欧州の需要に対応していく。実績はすでに上がり、国内の動向を見守りつつ、供給を拡大していく」(植木 美知也)












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