2025年9月5日

財務・経営戦略を聞く /神戸製鋼所取締役/木本 和彦氏/新鋭設備で顧客対応強化/機械系堅調 素材系、固定費削減進める

――第1四半期の決算発表で今年度の業績予想に米国の関税影響として50億円のマイナスを織り込んだ。米関税の足元の影響の有無、先行きの影響をどう考えているか。

「関税影響についてなお不透明ではあるものの、相互関税が15%で決まったことで、状況の見通しが立てやすくなった。関税引き上げによる影響は顕在化していないが、当社が受ける影響は現時点では軽微であると考えている。素材系は米国向け輸出比率が低いことに加え、競争力のある製品を多く揃えているため、他社への代替リスクは低いとみている。間接影響については、米国向けの完成車輸出の動向を注視しているが、4―6月はほとんど減っておらず、一時の懸念は薄れている。関税によってさまざまなコストが上がるので買い控えや設備投資の抑制、プロジェクトの様子見などによる影響は想定されるが、一時的な需要の先送りとみており、早めに調整を終えて動き出すことを期待したい」

「素材系については米国向け以上に低調な国内需要の方が懸念される。構造的な問題から自動車はじめ工業製品の生産活動が厳しくなっている。一過性の不景気ではなく、想定していた将来の需要の減少がすでに具体化し始めている。今年度の全国粗鋼生産は8000万トンペースと、低水準で推移している。鉄鋼含め工業製品全般で需要不足と供給余剰の構造が顕在化している。一方で造船と建設は人手不足が深刻化しており、需要に十分応えられない状況が続いている。こうした厳しい環境下においても、第1四半期に連結経常利益287億円、鉄鋼で60億円と利益を上げており、健闘している」

――米関税政策の影響はまだみられないが、それでも鉄鋼の内需や輸出市場は不振の度合が深まっている。

「低迷が続く中国経済の影響の方が大きい。東アジアの鋼材市況は中国の需要と能力の不均衡によって下落している。中国は2010年代半ばに鉄鋼の能力調整を行ったが、その後に需要がピークアウトしている。中国政府は鉄鋼減産について明確な政策を発していない。経済を考えると、生産や能力を大きくは落とせないようだ」

「自動車生産はじめ内需の構造が変わり、備えが必要になる。当社は2017年に高炉1基を休止し、輸出を減らし、固定費を下げてきたが、今後さらに固定費を他社に先行して削減し、自動車用のハイテン材と特殊鋼、最新鋭ミルによる厚板など競争優位な製品を手掛ける。輸出も高付加価値品の比率が高い。今後、当社が高炉2基を維持できないレベルの需要量にまでなるのか、自動車産業はじめ鉄鋼需要の中心となる業界がどうなるかが最大のポイント。完成車の生産の半数を占める輸出向けがどうなるか。増えている固定費については製品価格に転嫁すると同時に可能な限り生産性を高め、歩留まりを改善していく。昨年に実施した厚板の仕上げミルの改造は非常に効果を上げている。将来的に人材確保が難しくなることを見据え、AIの活用を含め、他社に先駆けて生産性の向上と、省人化の推進を図りたい」

――アルミ関連の通期の業績予想を下方修正した。

「自動車向けを中心に販売数量の予想を見直し、数量減の影響を踏まえてアルミ板の通期利益予想を20億円の赤字(前回予想はゼロ)に下方修正した。米国向け輸出は少なく、関税引き上げの影響は限定的。課題だったアルミ板の価格転嫁はお客様からの理解をいただきながら順調に進めている。IT・半導体材向けの厚板については、半導体向けの数量が限定的で、現時点では特に変化はみられない」

――中国の宝武鋼鉄集団とアルミパネルの合弁事業に乗り出した。黒字化のめどは。

「JV設立時と比較してマーケットが悪化している関係で、今期中の黒字化は難しく、来年以降の達成を目指している。宝武集団は自動車市場における鋼材で高いシェアを持ち、プレゼンスは想像以上に高い。頼もしくあり、楽しみにしている」

――機械系の業績は堅調を維持している。

「エネルギー関連や直接還元鉄、カーボンニュートラル対応など需要がピークアウトする動きはみられない。米国の関税影響によるプロジェクトの様子見は一部あるが、影響は軽微。機械系の25年度の業績は受注高から予想でき、全社の連結純利益予想1000億円のうち約7割が機械系となる見通し。来年度にかけて不安はなく、目線として27年度以降をみている。世界的にCNの潮流はやや後退し、水素関連など大きくは伸びていないが、一方でエネルギー・化学関連の需要は増え、機械系の事業にプラスに作用している。機械系は主力工場の高砂製作所が能力いっぱいの操業が続いている。グローバル展開をさらに強化するために海外でサービス拠点のネットワークを広げている。機械事業の中でサービス事業の売上高比率は足元3割程度だが、拠点整備を進め、2030年度までに4割に引き上げるのが目標。サービス事業は安定し、利益率も高い。機械系はM&Aもインド、欧米などグローバルに検討している。地道に伸ばす作業と階段を大きく上がるチャンスを捉える作業の両面で取り組む」

――米国事業は業績が上向いているのでは。一方でアジア事業は低調が続いている。

「プロテックは堅調だ。数量は若干減っているが、市況が上昇している。数量を増やして利益を改善していく。米国事業は政府の政策を注視し、利益の拡大を目指す。アルミサスペンションは元々競争優位で製造面に課題を抱えていたが軌道に戻りつつある。アルミ押出のKPEXは苦戦が続いており、ダウンサイジングにより採算の改善に努める。米国では建機の販売をもう少し伸ばせる見込みだ。ASEANは依然低調だ。中国の過剰能力問題が解消されない限り、ASEANの動向は定まらないのではないか。ASEANではCN対応の原料投資としてブラックペレットの事業化を検討する。早く実現できるとみている」

――半導体関連の需要回復が遅れている。26年度に本格回復を見込んでいたが見通しに変化は。真岡製造所の生産能力を調整するようだが。

「以前は26年度の回復を見込んでいたが、不透明な情勢だ。復調しても数量はそれほど期待できない。アルミ板はデータセンター関連で伸びているが、下期に一服しそうだ。アルミ板は缶材と自動車の依存度が高く、生産能力をやや下回る水準が続く見通しだ。真岡製造所の能力を少し落とすが、設備を廃棄するわけではなく、人員の配置や稼働体制などを最適化することでコスト削減を図る。アルミ板の自動車分野のシェアは回復途上にあり、数量はシェアの回復とともに戻ってくるだろう。ただ、必要な能力の設定を再考しようと考えている。固定費を下げる余地が出てくるが、中国の宝武集団とのアルミ板における合弁事業が本格的に動き出してから。真岡の自動車向けラインの償却が2年ほどで終わるので、その後にしっかりと利益を得られる体制にしていく。自動車生産の動向を見ていると生産体制の改善を行う必要があると考えている」

――来年度に銅板工場で設備投資を予定している。銅板需要の見通しは。

「自動車と半導体が主な向け先だが、自動車向けが振るわず、半導体向けもお客様によって異なるが全体的に低調だ。半導体向けは需要が伸び悩み、車載用コネクター向けも厳しい状況が続く。設備投資はボトルネック工程を解消するためのもの。需要の回復次第では大きな能力投資が必要になるが、今のところは現行の計画の実行にとどまる」

――チタン事業の展望は。

「航空機向けは非常に明るく、供給能力が足りないほど。熱交換器など一般向けもあるが競争優位ではなく、航空機分野でどう伸ばしていくかが重要な課題だ。(出資する)日本エアロフォージは競争力の高い鋳造能力を持ち、引き続き採算性の向上策に注力していく」(植木美知也、新保貴史、増岡武秀)









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