2021年9月8日

財務・経営戦略を聞く/神戸製鋼所取締役 勝川四志彦氏/構成改善し安定収益確保/国内新ライン認証進める

――鋼材のひも付き販売価格の是正は。下期の鋼材と原料の価格をどう予想するか。

「販価については是正を認めていただくよう交渉を継続している。原料価格は上期に大きく上がったが、中国がCO2対策や原料高から2021年後半に粗鋼生産量を大幅に絞る政策を打ち出し、厳格な生産抑制が行われる見通し。原材料の需要が減少し、価格が低下するとみている。ただ、原料炭価格は足元さらに上がっている。豪州炭が上がり、今後も下がりにくいと予想する」

――非鉄関係のロールマージンの改定は。

「アルミ板については19年にロールマージンの改定を公表した。価格改定の交渉を行い、多くのお客様から有額回答を得られている。足元は原油などの価格上昇が続いており、コスト増の要因となる。今後影響を精査していくものの、自助努力での吸収が難しい場合、お客様に丁寧にご説明の上、一部コスト増の負担をお願いする可能性がある」

――通期の連結経常利益予想を700億円と前回予想450億円から上方修正した。

「上方修正分の250億円のうち、55億円が販売数量の増加によるものとなる。販売面は中国の建機メーカーとの競争激化によるショベルの販売減や半導体不足の影響による北米のアルミサスペンションの生産減などが見られた。しかし、国内は鉄鋼が多くの分野で需要増となったほか、アルミ鋳鍛や銅板がIT・半導体向けに好調に推移している。在庫評価影響が大幅に改善することで255億円、海外の関係会社の損益が鋼材市況の上昇で改善し50億円、追加の経費削減や機械系中心のコスト削減などで40億円といった要因がプラスに効いてくる。一方、販価には原料価格の上昇分の転嫁時期ずれを織り込まざるを得ず、これが225億円のマイナスとなる」

――鉄鋼の下期は上期比で増収増益に。

「鉄鋼は原材料価格が上昇したことによる価格転嫁のずれが下期に260億円ほどのプラスで効いてくる。自動車生産の下期の挽回を見込み、数量増40億円を予想する。マイナス要素は増産対応などによる固定費の増加がある。アルミ板も自動車中心に需要増を見込むが、コスト増影響により、収益は上期よりも低くなる。溶接材料や建設機械は鋼材の値上がりの影響を受けることとなる。下期の連結経常利益は上期に比べ60億円増の380億円とみているが、価格交渉の状況や自動車の生産計画によって変化する可能性はある」

――下期に重視することは。

「粗鋼生産は年670万トンを予想し、稼働率95%程度でこれ以上は量を増やす予定はない。構成改善を図り、高付加価値品にシフトしていきたい。なにより安定生産が最大の課題であり、生産が安定してこそ量を確保し、販価を上げて利益を獲得できることになる。また、国内では加古川製鉄所に導入した新しいCGL(溶融亜鉛めっきライン)や真岡製造所での自動車向けアルミ板の新しい製造ラインが立ち上がり、それぞれお客様の認証活動を進めている。できる限り早い段階で認証を取得し、収益に貢献できるようにしたい」

――各拠点のDX導入で効率化を図ろうとしている。

「課題を整理し、できるものから取り組んでいる。中期計画で年150億円ほどかけてDXを推進し、設備面で導入しやすいところから先行していき、応用できるところは横展開していく」

――海外の拠点も収益が改善している。

「中国については、アルミパネルを製造している神鋼汽車鋁材(天津)は中長期的な需要の拡大傾向に変化なく、操業は好調を維持している。鞍鋼集団との鞍鋼神鋼冷延高張力自動車鋼板は受注が徐々に増え、海外関係会社の収益の押し上げに貢献している。一方で建機は稼働時間の減少が見られ、一時的な要因もあると思われるが今後の動向は気になる。中国資本の建機メーカーとの競争は厳しくなっていくだろう。タイではコベルコ・ミルコンスチールが市場の回復を受けて業績も改善しているが、コロナ影響は注視していく。アメリカのプロテックは新CGLが20年4月に稼働を始め、順調に操業している」

――粗鋼670万トンで連結経常利益は700億円の見込み。この利益水準をどう考えるか。

「連結経常利益予想700億円のうち、電力は100億円だが、全ての発電設備が立ち上がる23年度に400億円程度の利益を見込んでいる。単純に合算すれば1000億円になる。機械事業やエンジニアリング事業では昨年にコロナ影響で受注がかなり減少し、今年度は受注額が回復している。こうした要素を勘案すると700億円ではなく、1000億円程度の利益レベルを安定的に出していかないといけない」

――神鋼環境ソリューションの完全子会社化を決めた。

「環境関連事業の中核子会社であり、廃棄物発電やバイオマス発電、下水汚泥の燃料化など環境関連のメニューを多く持つ。エンジニアリング事業部門内だけでなく、神戸の石炭火力発電における下水汚泥由来のバイオマス燃焼の混焼などの取り組みなど共同で進めているものがある。水素社会への転換が進めばそのインフラが必要になり、装置・機器など機械事業部門との関係性も強くなるだろう。水素やアンモニアなど環境に関わるメニューが増えるため、当社と一体となりスピード感を持って新しい市場に対応し、果実を獲っていく。攻め手はいろいろあると考えている」

――下期の需要をどうみるか。

「足元プラス、マイナス両面の変化がみられる。半導体不足影響については、自動車メーカーは上期減産分を下期に取り戻す意向を示しており、引き続き注視する。建機でもショベルやクレーンにて使用している半導体が不足する影響は受けるものの、調達のめどは立っている。銅板は車載半導体や電子機器向け半導体のリードフレーム材での旺盛な需要は継続している。一方で、半導体不足だけでなく、東南アジアではコロナ禍によるロックダウンが広がり、部品の生産が止まり、供給不足の動きがある。部品メーカーの操業が止まることによる、自動車メーカーへの影響を注視していく」

――アルミ板の自動車向け需要は。

「鉄鋼と同様、自動車メーカーの動きを注視していく。中国では半導体不足とコロナ禍の影響は出ているが、神鋼汽車鋁材(天津)の稼働は下期も好調の見込みであり、足元では、中国は自動車材の需要が続くと考えている。」

――自動車分野以外の需要は。

「航空機は今後数年間、市場が低迷するとみているが近距離輸送用の小型機から回復を期待している。造船は新規受注が回復基調にあるが、全体としては厳しい状況は続く。建築土木は五輪による端境期から戻りつつある。飲料缶やIT・半導体分野は依然堅調だ」

――アルミ鋳造品と押出製品の下期の見通しは。

「アルミ鋳造品はIT向けの需要拡大を見込んでいているが、航空機向けはコロナ禍の影響で需要が停滞している。押出製品は自動車や鉄道など様々な用途がある。数量の多い自動車のバンパー用は北米では半導体不足の影響で厳しい状況だが、国内向けは店売りや光学分野などの需要が好調に推移するとみている」

――伸銅メーカー各社は繰り延べ受注残が課題に。足元の銅の受注状況は。

「伸銅品の受注量は減っていない。半導体不足により自動車減産はあるものの、車載用端子向けの需要は高水準で推移している。生産回復時の反動需要に備えて、端子メーカー各社で昨年圧縮した製品在庫の積み上げを実施しているようだ」

――収益が改善していくが、脱炭素など開発投資を増やす考えは。

「21年度からの中期計画では脱炭素に特化した投資はさほどなく、本格的には23年度以降になる。また戦略投資も一巡しており、中期期間中は新規設備投資・投融資は厳選して行う。ただし、市場の変化に合わせて日々、投資の再検討を加えており、状況に応じて必要な投資は進めていかなければならない」

――アルミ板、銅板事業での脱炭素の取り組みを。

「アルミ板ではグリーン地金とリサイクルが挙げられる。グリーン地金の使用は欧州の自動車メーカーが積極的に声を上げている。国内でも今後増加する可能性はある。リサイクルはお客様の要望に応じて個別に対応している。例えばお客様の工場で発生したアルミ端材を収集しリサイクルするなどの取り組みを行っている。銅板では自動車のEV化が進めば、複雑で大規模な電装が必要となり、端子材や半導体用リードフレームの需要拡大が見込まれる。付加価値の高い製品に注力することでEV化を支えたいと考えている」(植木美知也、増岡武秀、新保貴史)

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