2025年11月28日

財務・経営戦略を聞く/神戸製鋼所取締役 執行役員/木本 和彦氏/素材系の収益改善に注力/中国アルミ板合弁、来期に利益貢献

――上期の連結経常利益は576億円と前年同期比132億円減少し、特に素材系が苦戦した。通期の利益予想は1100億円と前回並みとしたが、鉄鋼事業の利益予想は45億円と前回から45億円下方修正した。

「機械系は堅調に推移しており、電力も一過性の影響などはあるが収益は計算できる。一方で、課題は素材系だ。鉄鋼は数量の伸び悩みと、市況低下の影響を受けている。国内の価格は維持してきたが、販売競争は厳しさを増している状況だ。上期の鉄鋼事業は原料価格の下げ基調と期ずれによるプラス要因で、85億円を確保したが、支給材、市況品種の価格下落により、第2、第3四半期とスプレッドが悪化している。下期はスプレッドの更なる縮小に加え、固定費の増加や製鉄所の解体工事の影響がありマイナスに作用する。在庫評価影響除く実力ベースでの鉄鋼の利益は上期の165億円から下期に14億円に減少する見通しだ。米国関税リスクの縮小を踏まえ、通期予想は180億円と前回から15億円上方修正したが、収益力は下がっており、前年度(298億円)から大きく減少する」

――米関税影響の予想を前回の年50億円から30億円に見直した。

「米国関税による影響額は前回の年間50億円の見通しから30億円に見直した。当初から影響は限定的と見込んでいたものの、足元ではさらに縮小している。30億円の内訳は直接輸出10億円(前回20億円)、間接輸出15億円(25億円)その他5億円(同)。建機は一定の影響を受けるが、完成車輸出の減少リスクは縮小する。鉄鋼とアルミの直接輸出については、収益への影響は限定的とみている」

――アルミ板は赤字が続き、素形材も減益の見通しだ。

「アルミ関連は25年度に黒字化を目指し、コスト競争力の強化や損益分岐点の引き下げに取り組んでいるが、数量が当初の前提を下回っている状況。宝武鋼鉄集団との自動車向けアルミ板製造の合弁事業が立ち上がり、来年度から利益貢献を見込んでいる。アルミ板は通期45億円の赤字を予想するが、在庫評価損が大きい。実力は下期に5億円の赤字と、黒字化に近づいている。数量面では前年比で自動車向けが減っており、収益力の改善が課題だ。缶材向けはわずかに増え、ディスク材向けは在庫調整が進み通常の水準に戻ってきている。半導体製造装置向けの厚板は依然として低調な状態が続いている」

――機械は好調を持続している。

「エネルギー・石化関連の需要は現在も堅調に推移しており、現時点ではピークアウトの兆候は見られない。しかし、将来に備え、全固体電池の開発を進めるスタートアップ企業への出資や水素の利活用に向けた取り組みなどに力を入れている。さらに、米国やサウジアラビアでは、サービス体制の強化を進めお客様への対応力を一層高めるとともに、インドでは機械製品の製造能力の拡張を視野にいれるなど、次の成長に向けた準備を着実に進めている。事業ポートフォリオの質を高めるため、成長分野での戦略的な取り組みを計画的に進めていきたい。将来的に全社の収益力を牽引する中軸は機械系事業であり、2030年に向けた長期ビジョンのもと、機械系事業全体での利益拡大を目指していく」

――素材系の収益改善に向けて来年度に取り組むこととは。

「中期経営計画の最終年度である26年度は素材系の改善が最大のテーマであると捉えている。コスト低減に努めるとともに、上昇したコストについてはお客様の理解もいただきながら価格に反映していく。固定費の削減は25年度も引き続き取り組んでいるものの、原単位や労務費の上昇といった点で課題が残っている。固定費を削減することで損益分岐点を引き下げていくが、数量の回復が見込めない場合、状況に応じて、さらなる施策を検討する必要がある。現在の市場環境を踏まえ、年間粗鋼580万トンの中で鉄鋼事業の収益力をどう高めていくかが重要となる。販売を強化している建材向け高耐食表面処理鋼板のKOBEMAGはお客様から高い期待をいただき、順調に推移している。29年度の自社一貫生産化体制の構築により、数量を増やせるので今後の展開を非常に楽しみにしている」

「日本造船工業会が2035年までに建造量を倍増させる方針を示しており、造船業界全体の成長に期待が高まっている。当社グループとしても、この動きを重要な機会と捉え、厚板や鋳鍛鋼、溶接、コンプレッサーなど、様々な製品と技術力を通じて造船業界の更なる発展に貢献していきたいと考えている」

――鉄鋼の収益改善に向けた海外事業の強化策は。特に成長が見込める米国やインド市場をどう攻めるか。

「米国のプロテックは安定した収益を確保している。第3CGLの余力を活かして生産量の拡大を図りたいと考えている。海外事業においては、中国、アジア、北米といった主要マーケットの全てに対応するのは容易ではない。地域ごとの特性や条件を比較しながら最適な戦略を検討していく。インドは国産化が進み、現地企業との競争が激化しており、参入は簡単ではない。鉄鋼事業では、まずタイに拠点を持つコベルコ・ミルコン・スチールを活用し、ASEANやインド市場への対応を進めていく」

――直接還元鉄の事業が堅調でミドレックスは受注が続いている。

「ミドレックスは引き合いが変わらず続き、順調だ。毎年、複数案件を受注し、同時進行で建設している。中東のオマーンで直接還元鉄のプラント建設を引き続き検討しており、適切なタイミングを見極めている状況。オマーンでの還元鉄の製造は日本への鉄源供給も目的としているが、主戦場は欧州市場となる見込みだ。脱炭素に向けた世界の鉄鋼業の動向を注視しながら競争力を確保できるよう計画を進めており、将来的な実現を見込んでいる」

――建機事業の立て直し策は。

「足元、収益の維持に努めている。米関税影響で建機業界はもっと冷え込むとみていたが、想定ほどの影響は受けていない。国内外の需要は今の水準で推移するとみているが、現在の販売台数で安定した収益の確保を目指している。アジアや中国など海外市場は販売競争が激化しており、競争力の強化が課題だが、コスト削減に加え、遠隔操作技術「K―DIVE」やクレーン施工計画策定支援ソフト「K―D2PLANNER」といったコト売りビジネスを拡大していきたい」

――アルミ関連事業の黒字化から先の競争力を持つ事業とするための考え方は。

「競合相手と違うものを示さないと採算は改善していかない。鉄鋼とアルミの組み合わせで他のサプライヤーとは異なるポジションを確立する必要がある。造船業界からは鋼材に加え鋳鍛鋼や溶接といったメニューでも貢献することで評価いただいている。アルミ板も同様に他社との差別化を図っていく。課題だった北米のサスペンションは製造が改善し、黒字化している。一方、押出品のKPEXは依然厳しく、ダウンサイジングなど新たな対策を講じる必要がある」(植木美知也、増岡武秀)







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