2020年8月26日

「未来へ見出す活路 電線、光ファイバー「酷暑の夏」」 生産性改善と差別化急ぐ 需要拡大も環境厳しく

 中国を中心に光ファイバーの価格競争が激化している。価格下落は昨年中旬から顕在化。足元では汎用品の市中価格が2017年度比で2分の1程度まで下落している。世界の光ファイバー需要の約半分を占める中国現地メーカーの生産体制により、需給バランスが崩れたことが主な要因だ。価格下落の解消はしばらく見込めないとの見方が強い。光ファイバーを巡る「酷暑の夏」はしばらく続きそうだ。

 光ファイバーは母材の合成、ガラス化、紡糸の工程を経て製造される。四塩化シリコンや四塩化ゲルマニウムなどの原材料を酸素や水素とともに燃焼させることで、すす状ガラス母材を合成。合成したものを高温加熱し、透明なガラス母材のプリフォームとする。その後、加熱炉で一定のサイズのファイバーに引き落とす。

 ファイバーは紫外線硬化樹脂やシリコン、ナイロンなどを被覆したのち、必要な心線を集めてケーブル化する。光ファイバーケーブルは、公衆通信や都市型CATV、電力や交通系統の管理・制御、ビル内や家庭内に引き込む光LANとして活用されている。

 ■過剰供給と価格競争が顕在化

 汎用シングルモード光ファイバーの価格は、17―18年初めにかけて2―3割程度上昇した。中国で4GやFTTH(家庭向け光回線)投資が堅調に推移したことを受け、スポット案件向けでは、1キロメートル当たり10ドル前後の価格もみられた。一方、足元の中国市場の汎用シングルモード光ファイバーの価格は4ドルを切るなど過去類を見ない低水準となっている。

 世界の光ファイバー需要は4億5000万キロメートルコアと目される。そのうち、中国は約5割を占める2億キロメートルコア超、米国は6000万キロメートルコアとみられる。足元では中国のFTTH投資がほぼ一巡したことを受け需要が低迷。日本国内メーカーによる心線の輸出は減少している。

 日本電線工業会がこのほどまとめた19年度(19年4月―20年3月)の出荷統計によると、光製品は対前年比21・1%減の3890万2000キロメートルコアと14年度以来となる4000万キロメートルコア割れを喫した。国内向けは1%減の649万2000キロメートルコアと底堅く推移。輸出部門は24・2%減の3241万キロメートルコアとなった。

 足元の需要は低調に推移している一方で、中国国内メーカーは過剰ともいえる供給体制を持つ。中国の内陸部を中心とするFTTH需要や4Gへの投資を見越し、中国現地メーカー各社は光ファイバーの母材となるプリフォームの生産体制を増強。需給のバランスが崩れ、足元のプリフォーム価格は17年度比で4割程度下落したという。

 中国を端に発した光ファイバー市況の悪化は、グローバルに広がっている。中国の現地メーカーは、安値のプリフォームを東南アジアや欧州に輸出しているようだ。その結果、欧州や東南アジア市場での汎用シングルモード光ファイバーの販売価格は2―3割減の5ドル前後で推移する状況となった。

 ■メーカー各社の戦略

 足元では新型コロナウイルスの感染拡大により、インドを中心に東南アジアのインフラ工事が延期するとの声が聞かれる。光ファイバー価格の上昇はしばらく見込めないとの見方が強い。

 しかし、中長期的な視点からみると第5世代通信規格(5G)の進展に伴い、通信トラフィックは増加するとみられる。データセンターや欧州のFTTH投資により、光ファイバー需要は底堅く推移するとの指摘もある。

 日本国内の電線メーカー各社は、生産コストの削減や高機能製品の開発・拡販を図り収益力を強化する方針だ。住友電気工業はコスト低減を進めるとともに、5G関連需要の確実な取り込みを図る。海底ケーブル用の極低損失光ファイバーや、いち早く開発したデーターセンター向けの超多心光ケーブルなど、市場ニーズに応じた高機能製品の開発や拡販を一層強化していく。

 古河電気工業はグループ会社のOFS社の生産性改善をさらに進める。データセンター間を結ぶために使われる多心高密度のローラブルリボンケーブルや超低損失ファイバーケーブルを提案していく。

 フジクラは国内の製造拠点の佐倉事業所における光ファイバー母材や素線の製造や販売を昨年度比で4分の1程度に縮小する。注力製品の一つで大容量かつ軽量といった特長を持つ「WTC」の売上規模を1・5倍に拡大させるなど採算性を重視した戦略に転換する方針だ。

 中国は今後、3億キロメートルコアを超える市場となるとの指摘もある。また、インドを中心に東南アジア市場のFTTH需要は、今後ますます拡大するとみられる。光ファイバーを巡る事業の厳しさはしばらく続くと目されるが、この環境を乗り越えた時「実りの秋」が待っているはずだ。

(玉光 宏)

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