2020年9月2日

「未来へ見出す活路 環境時代の普通鋼電炉」循環型経済の中心に 収益安定化の取り組みを 中国の動向次第でさらなる構造改革が求められる可能性も

 「国内粗鋼8000万トン」時代の到来も予測され、高炉メーカーが高炉休止など抜本的に生産体制を見直す中、電炉メーカーも生き残りへの危機感を強めている。内需減に伴い「量」から「質」の経営へとかじを切り、慢性的な赤字体質からは脱却したが、2018年から続く米中貿易摩擦、新型コロナウイルスの感染拡大などが鋼材需要の低迷に拍車をかけ、事業環境は再び悪化している。主原料の鉄スクラップは海外動向の影響を受けやすく、収益の安定化を妨げている。鉄スクラップを消費する電炉業は、資源循環型社会の構築には欠かせない存在。電炉の事業や企業の価値をさらに高めるような取り組みがあらためて求められている。

 【環境意識の高まりを追い風に】

 近年、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の要素を重視する「ESG経営」に注目が集まっている。従来の財務情報だけでなく、ESGの要素も考慮した「ESG投資」が増えるなど、国連持続可能な開発目標(SDGs)と合わせて企業は評価されることが多い。「ESG」評価の高い企業は、事業の社会的意義や成長の持続性などに優れた企業特性を持つと考えれており、人材確保などにも優位に働くケースもある。

 電炉業は事業自体がリサイクル産業であり、循環型社会を支える重要な役割を担っている。東京五輪・パラリンピックの環境指針に電炉鋼材などリサイクル鋼材の活用が盛り込まれるなど、世界的に脱炭素社会の実現に向けた動きが電炉業の発展を後押ししている。

 【サーキュラー・エコノミー推進の一翼を】

 環境機運が急速に高まる中で、環境保護と経済成長を両立し、持続可能な成長を実現するための新たなビジネスモデル「サーキュラー・エコノミー(循環型経済)」を推進しようとする動きが欧州から世界へと広がっている。日本でも「サーキュラー・エコノミー」を推進しようと取り組む企業が増え始めている。

 電炉業は鉄スクラップを原料に鋼材を生産し、廃棄された鋼材を資源として再製品化しており、「サーキュラー・エコノミー」を実現するための事業基盤や設備をすでに持つ。今後は金属リサイクルなどの「静脈産業」、製造業や建設業などの「動脈産業」をつなぐ重要なポジションとして電炉業界が中心となり、原料を供給するリサイクル企業から原料・製品販売の役割を担う商社や特約店、ゼネコンなどの需要家や設計事務所と連携することが理想的だろう。

 【循環型社会の構築に向け、収益安定化を】

 循環型社会の構築やESG経営強化を推進するには、収益安定化による事業の継続性が確実に求められている。特に18年からは異形棒鋼メーカーが「商慣習」の見直しに本格的に着手した。鉄スクラップ、電極や合金鉄などの副資材価格は中国を中心とした海外動向の影響が強まっており、「電炉メーカーのコスト変動リスクが非常に高く、安定収益の確保が困難になっている」(電炉メーカー)ことが商慣習の見直しに踏み切った背景にある。

 商慣習の見直しでは契約時に設定されていなかった納期の明確化するなど、これまでの契約形態を見直す動きが広がっている。「鉄スクラップ価格下落時の、製品販売価格の値下がりが緩和されるなどの効果も出ている」(商社)と評価する声が聞かれる。

 【原料調達がより難しく】

 商慣習の見直しなどで収益安定化を目指す電炉メーカーだが、生産コストの大部分を占める鉄スクラップも調達が今後、より難しくなる可能性がある。日本では電炉生産シェアが30%を割り込んだ00年以降、国内需要の減退を受けて鉄スクラップ輸出が本格化。すでに日本の鉄スクラップの貿易は盛んで「国際商品」となっており、国内需給などによる価格決定権が薄れている。

 実際に内需が低迷しているにもかかわらず、8月から鉄スクラップ価格は再び上昇基調に転じた。中国がコロナ禍の中、インフラ投資を拡大して過去最高レベルまで粗鋼生産を拡大し、鉄鉱石価格が高値圏で推移していることなどが鉄スクラップ価格の値上がりにつながった。

 中国は鋼材やビレット輸入も増やし、アジアを中心とした海外の鉄スクラップ需要を押し上げている。この中国が「早ければ来年にも鉄スクラップ輸入調達に乗り出そうとしている」(商社)ために、電炉メーカー各社は「中国の動向次第でさらなる構造改革が求められる可能性もある」など警戒感を強めている。

品種拡大がシェアアップの鍵 特徴生かし廃棄物処理も

 地球環境を保全し、資源循環型社会を担う電炉法が注目されているが、日本の粗鋼生産に占める電炉鋼の比率は低い。暦年ベースで比較した場合、19年の日本の粗鋼生産9928万トンのうち、電炉鋼は2430万トンで比率は24・5%。01年に30%を割り込んで以降、19年連続で20%台にとどまっている。

 世界の電炉生産比率は平均27・7%(19年、世界鉄鋼協会調べ)。EU28カ国は平均40・9%、米国が69・7%、アジア圏では中国が10・4%と低いものの、韓国31・8%、台湾38・1%と先進国で日本の低さが際立つ。

 普通鋼電炉業界のメイン品種である鉄筋用小形棒鋼の国内向け出荷量はピークの1990年度の1400万トンから、20年度に700万トン割れと大幅に減少する予想。30年の間に国内市場は5割ほど失われ、需給ギャップが続いている。

 【電炉シェアが広がらない要因】

 電炉最大手の東京製鉄の西本利一社長は米国などと比べ日本の電炉シェアが低い理由を「電炉業の鋼板分野への製造品種拡大が遅れていること」とし、「薄板分野への拡大が米国電炉業のシェアアップに大きな役割を果たした。日本は圧倒的に遅れている」と指摘する。

 「象徴的なのは韓国から電炉ホットコイルがなくなったこと。当社も岡山工場の熱間圧延工場は休止したまま。アジアにおいて電炉ホットの置かれている状況は厳しかった」(同)。

 中国による鉄スクラップ輸入再開の動きを注視していると前置きした上で西本社長は、「日本の鉄スクラップの輸出先である韓国、ベトナムが自給化すれば日本で発生する鉄スクラップは国内でリサイクルする形で収斂していく。その場合、われわれは比較的安価な原料を使うことができ、競争力が高まる。電炉ホットに関して言えば、当社は残存者利益を享受できる可能性がある」とみる。

 東京製鉄は国内鉄スクラップの高度利用とリサイクル促進を通じ、地球環境負荷低減に寄与する長期環境ビジョンを策定し、17年度に活動を開始した。鉄スクラップを高度に利用するため、「良質なスクラップ、劣質なスクラップという分け方ではなく、品質の安定したスクラップを作ってもらうこと」(同)が鉄スクラップの流通・加工業に求められるという。近年、普通鋼電炉メーカーが購入する鉄スクラップに銅や鉛が混入するケースが増え、一部で鋼材製品の品質に影響を及ぼす事態に発展した。日本で電炉シェアを拡大するためには鉄スクラップ業者のサポートがより重要になる。

 【高炉も電炉へ】

 日本製鉄は瀬戸内製鉄所広畑地区に最新式電気炉を22年度上期に導入し、高品質の薄板を生産するなど新たな製造プロセスで競争力を付加する。JFEスチールはニューコアと組んでニューコア・JFEスチール・メキシコの稼働を開始した。西本社長は、「高炉メーカーによる電炉シフトが今後進むだろう。資本力、マンパワーもあり、脅威」としつつ、東京製鉄として「品質保証体制含め、どのようなクオリティで需要家にパフォーマンスを提供できるかが鍵」と考える。品質管理レベルの底上げ、製品品質の向上に力を注ぎ、欠陥の再発を未然に防止し、自動車メーカーの要求を満たす鋼板づくりを目指す。

 【生き残りを模索】

 経済産業省が15年にまとめた「金属素材競争力強化プラン」は電炉の特性を生かして、廃棄物処理を通じた環境調和型の事業構造に脱皮するための対策などを調査するとした。共英製鋼や東京鉄鋼が医療系廃棄物の処理を手掛け、東京製鉄やJFE条鋼など一部の電炉メーカーで使用済み乾電池処理などを強化する動きが見られる。ただ、廃棄物処理は自治体の許認可などが必要で近隣住民の理解を得なければならず、膨大な時間を要し、電炉業による廃棄物処理は大きく進展していないのが実情だ。

 電気炉は高温での溶融処理が可能であり、廃棄物の減容無害化処理に有効。今後も処理が困難な廃棄物が増えるとみられ、「電気炉の特徴を生かし、製造コスト削減につながる産業廃棄物処理で電炉メーカーを活用すべきだ」と西本社長は強調する。

 アジア各国で鉄鋼の蓄積量が増加する中、持続可能な資源循環型社会の形成に関して鉄スクラップを消費する電炉メーカーにかかる期待は大きい。普通鋼電炉メーカーは一部を除いて中規模企業が多く、資金力に限界がある。国内の需要が少子高齢化などで長期的に縮小する見通しの中、製造品種の拡大や海外展開など企業の成長へのハードルは高いが、電炉産業が事業を継続できる環境を構築することは地球環境保全の観点から日本鉄鋼業として取り組むべき大きな課題の一つと言える。

(濱坂浩司、早間大吾)

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