2020年8月26日

「未来へ 見出す活路 LiBリサイクル」 原料ほぼ全量輸入 安定調達に不安 採算確保へ大量集荷重要

 電気自動車(EV)や通信機器に不可欠なリチウムイオン電池(LiB)。2019年に吉野彰・旭化成名誉フェローがその開発実績でノーベル化学賞を受賞し、日本の技術力を世界に示した。日本の産業を支えるLiBだが、原料のコバルトやニッケルなどはほぼ全量を輸入に頼り、将来的な安定調達には不安が大きい。LiBリサイクルによって都市鉱山をいかに活用するか。リサイクル体制の確立は日本の競争力強化において重要な課題となる。

 「バッテリー・トゥ・バッテリーの道筋は見えてきた」。JX金属の菅原静郎取締役常務執行役員(技術本部長)は7月14日、新中期経営計画の説明会見でLiBリサイクルの商用化に自信をのぞかせた。非鉄製錬メーカーがこぞってLiBリサイクルに力を入れる。

 JX金属は09年からLiBリサイクルに取り組む。金属を酸で溶かしてレアメタルを回収する湿式処理を用い、電池品位の高純度な金属を確保する。湿式処理は酸を使用するためコストがかかるものの集荷から一貫して処理する体制を整えており、事業化したときの競争力は高いと思われる。

 LiBリサイクルではまず熱処理による無害化と破砕・選別を行い、その後レアメタルを回収する。熱処理や破砕・選別を得意とするのはDOWAホールディングスだ。子会社のDOWAエコシステムは19年1月より秋田県大館市で無害化後のリチウムイオン電池の再資源化ラインを稼働した。LiBを熱処理で無害化したのちニッケル・コバルト混合物などに分離し、素材メーカーに戻す。処理能力は月100トンだ。

 住友金属鉱山はパナソニックを通して米テスラに正極材を供給する。一連の流れにリサイクルを組み込むことで事業化を進める。19年にはコバルトを回収するために乾式処理のパイロットプラントを立ち上げた。乾式処理とは廃バッテリーを焙焼して金属を回収する手法で、正極材の金属回収に有効だ。

 LiBの活用はリサイクルだけとは限らない。三菱マテリアルはリユースに注力する。19年8月からゴイク電池と共同で、車載用LiBの交換・廃棄における劣化度診断技術の実証試験を開始した。リユース可能ならば基地局などで再利用し、不可の場合はリサイクル工場でレアメタルを回収する。6月には次世代型蓄電池開発のスタートアップ企業に出資。協業を通じてLiBリユースを進める。

 富士経済の調査によれば35年までにEVの世界市場は17年比14・8倍の1125万台に、プラグインハイブリッド(PHV)は同31倍の1243万台に拡大するという。今後LiB需要の中心はパソコンなどの民生品から車載向けが主となりそうだ。EV専業のテスラが7月、自動車業界で最大の時価総額に達したことも期待の表れだろう。

 車載用LiBの市場拡大はレアメタルの安定調達をより重要なものとする。ニッケルは19年にインドネシアの禁輸政策により国際価格が高騰。コバルトも紛争鉱物由来の原料があるため、安定供給には課題が多い。リチウムは住友商事が7月、米ユーエス・マグネシウムと炭酸リチウムの販売代理店契約を締結した。資源の乏しい日本にとって、リサイクルによる資源確保は必須だ。

 だが、LiB関連の資源循環体制が軌道に乗るにはもう少し時間がかかりそう。現状は廃バッテリーの発生量が少ないためだ。採算性を確保するには事業の大規模化が不可欠なため、いかに効率的で大量に集荷するかが重要になる。海外ではベルギーのユミコアが事業化しているが、中国は廃バッテリーの国内発生量が多く、今後は中国企業の台頭が予想される。

 日本メタル経済研究所の竹田賢二主任研究員は「集荷は世界が相手」と指摘する。日本の製錬メーカーの集荷戦略について「LiBプロセスそのものにリサイクルを組み込むことが大切。今からEVが廃車になったときに回収できるルート作りを仕込んでおくべき」(竹田氏)という。

 技術的な課題もある。リサイクルプロセスにおける化学的変化だ。この課題に対し、科学技術振興機構(JST)から支援を受けて実用化をめざす技術に新規電気パルス法がある。車載用LiBの正極材に電気を流すことで、化学的変化を抑えつつニッケルやコバルトなどを回収する。

 正極材の電極シートはアルミ箔にニッケルやコバルトが塗工されている。新規電気パルス法では電極シートに電気を流すことでアルミ、ニッケル、コバルトの界面にジュール熱が発生。物質同士を密着させるバインダーは絶縁体のため、界面がプラズマ化して衝撃波が発生し絶縁破壊する。アルミやリチウムの回収も可能だ。

 一回の放電で済むため、エネルギー消費が少ないことも特長。新規電気パルス法の研究を行う早稲田大学理工学術院の所千晴教授は「機能性を残したまま回収できることを生かし、資源循環の輪につなげたい」と話す。

 「SDGsやESGを事業に組み込んで考えるべき。そのためにはリサイクル率を高めることが必要」。JX金属前社長の大井滋・特別理事は、7月17日に東京大学生産技術研究所で開催されたレアメタル研究会の講演でこう話した。コロナ禍により不透明な環境が続くレアメタルだが、LiBリサイクルの実現に向かって着実に歩んでいる。EVが当たり前の時代になるころ、日本の技術が世界のサーキュラーエコノミーを先導するような未来が待っている。

(鈴木 大詩)

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