2022年5月24日

日本の特殊鋼/世界に誇る技術の粋/(7)/特殊鋼メーカートップに聞く/大同特殊鋼・石黒武社長/自動車で鍛えた新規性

――特殊鋼メーカーとして自社の強みをどのように捉えるか。

「特殊鋼に求められるものは2つあり、一つは信頼性で、これを使っておけば間違いないという高信頼性だ。もう一つは新規性。パフォーマンスを上げるため、このような性質を持った特殊鋼がほしいといったニーズに応えるもの。信頼性でいえば、例えばSCM420のように何十年にもわたり使われている鋼材になる。新規性については、新たに開発されテストでは結果が出ていても、実際にはどんな問題が出るか分からない。新規性なるがゆえの信頼性の低さがある。海外の特殊鋼メーカーが得意とするのは、圧倒的に前者。確かな規格があり、その中に介在物もなく偏析もなく、きっちり造る。われわれもそこはしっかりやるが、それにプラスして新規の特殊鋼を開発する力が、当社も含めた日本の特殊鋼の強みだと思う」

――その強みはどのように生まれたのか。

「自動車メーカーのおかげ。自動車メーカーが要求する個別のニーズに対し、新たなものを提案し採用いただくことで鍛えられてきた。そのため、新規の特殊鋼を開発する能力は日本が圧倒的に強い。最近でいえば、電気自動車(EV)向けの電動アクスルでは、内燃機に比べ3倍ぐらいの回転数で歯車が回るので、歯車の強度を確保するため、コンベンショナルな特殊鋼ではなく新しい特殊鋼や、新しい熱処理などを工夫していくことになる」

――自動車の機構変更などに伴う特殊鋼マーケットの変化に対する見方を。

「EV車になると部品点数が減るため、特殊鋼需要の減少とともに、新規開発の機会が少なくなる。これがわれわれにとっての心配事。新規開発のニーズが減り強みが薄れることで、海外メーカーと同じような競争を強いられる可能性がある。それに対し当社は、その点でも勝負できるようにするが、自動車以外に新規開発のニーズがないか、マーケティングも進めていく。そのようなパラダイムチェンジが求められる中で何をやっていくのか、しっかりとした目標を持つ必要がある。現段階では、特殊ステンレスを伸ばしていきたいと考えている。水素やアンモニアなど次世代に必要とされるエネルギーの分野では、腐食がポイントになってくる。コンベンショナルなステンレスか、新開発のステンレスかということを世に問うようなことになると思う。誰とやるのか、どのようなニーズなのか、どこまでどのような性能が必要なのか、といったことを積み重ねていくことになる。時間がかかり成果につながらないこともあるかもしれないが、それでも取り組んでいく必要がある」

――カーボンニュートラル(CN)への対応について。

「当面は、2030年にCO2排出量を13年対比で半減させる目標に向かい進んでいる。われわれが発生させるCO2は、電力の使用が最大。その部分を中部電力の再生可能電力に切り替えていく。昨年度は全電力の10%を再生可能電力に切り替え、本年度は20%に拡大する。その後も段階的に引き上げていき、それに伴うコストアップ分は原価低減で相殺していく。この取り組みで50%削減は達成できる。それから先は熱処理の燃焼などが課題となるので、エンジニアリング部門の機械事業部で進めていく。現在、さまざまなトライを重ねている」

――電力コストや原料価格の上昇がある中、競争力をいかに高めていくか。

「長期的に見ると最もコストがかかるのが溶解と精錬。知多工場では現在、電気炉が150トン炉1基のほか、80トン炉が3基ある。構造用鋼を溶解する150トン炉は炉を回転させることにより電力原単位を下げるとともに、精錬、連続鋳造と直結し、エネルギーロスの最小化を実現した。今後、ステンレス、工具鋼を溶解する80トン炉のラインをどうしていくかを現在、技術陣が検討しており、それを合理化することが、最大の競争力の源泉になる。一方、競争力がないと思われる事業などのスクラップ・アンド・ビルドを進める必要もある。また、磁石やリチウムイオンバッテリー負極材などの新商品を世に出していく。変化を恐れず、先手を打てるよう取り組んでいく」

――海外メーカーとの競合に打ち勝つために必要なことは。

「規格鋼をしっかり造ることだけでなく、新規材も含め開発をしていく日本の特殊鋼の強みを、今後も強みとして持ち続けていくこと。海外のお客さまとの新規開発などはごくわずか。例えば、航空機はどちらかといえば信頼性が優先される。その中でも軽量化などのニーズはあるが、それについては非常に慎重にやっていくので時間を要する。航空機も自動車も、海外では圧倒的に信頼性が重視される。このため、ドイツなどでは削り難い規格鋼を加工設備の力で削るが、日本は削りやすい快削鋼を使う。考え方が違い、極端に言うと産業の衝突。その意味では日本のお客さまが国際競争で勝てるよう、素材面で協力することが重要になる」

(安江 芳紀)

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