1
2024.10.30
2022年10月21日
三菱商事の事業方針/金属資源グループCEOに聞く/田中 格知氏/商品軸から社会課題軸に 脱炭素へ、銅など供給力強化
三菱商事の金属資源グループは低・脱炭素など社会課題を軸に資源投資やトレーディングの取り組みを強化する。高品位の原料炭、鉄鉱石の安定供給に加え、銅、アルミ、リチウム、ニッケルなど低・脱炭素に不可欠な資源の供給力を強化する。直接還元鉄への進出も狙うという田中格知GCEOに方針を聞いた。
――2021年度の総括を。
「グループで実績(純利益)は4207億円。過去6年間、非中核資産を売却し、厳選された優良資産のポートフォリオが完成した。強固なキャッシュフローを生み出す優良資産にさらに競争力を付け、生産性を上げる諸施策を継続的に行った。昨年は資源価格の上昇局面で過去最高益を達成した。その前は2018年の約2500億円が最高益だった。9年前に設立したRtMでのトレーディング事業においても過去最高となる188億円を達成。トレーディング事業として三菱商事でも上位に入る業績を残した。資源投資事業では、10年前に権益を取得したペルーのケジャベコ銅鉱山が7月に開山し、9月に初出荷を完了した。コロナが猛威を振るい、銅の新規案件の多くで建設期間の遅延とコスト超過が起こる中で、ケジャベコは大きな遅延等もなく生産開始に至った。今後はケジャベコを軸に銅の成長戦略を打ち出す。もう一つの注力案件は、豪州のオールクンというボーキサイト案件。アルミ事業は、製錬から上流のボーキサイトに軸足を移す戦略の転換をスムーズに行った。オールクンはパートナーのグレンコアとFSを完了次第、事業性を判断して開発意思決定をする。グループとして大きなテーマは低・脱炭素、カーボンニュートラル、そういった分野に資源を安定供給することを通じて社会課題の解決を目指す。中長期の資源投資はEX(エネルギートランスフォーメーション)投資に注力する」
――22年度は。
「業績見通しは3310億円。21年度の純利益4200億円は市況の高騰を反映したもの。今年3月に銅は約490セント(ポンド当たり、トン約1万800ドル、約161万円)、原料炭は650ドルを超えた。主にロシア・ウクライナの問題によるもの。加えて原料炭では一時的な供給障害も起きた。22年度は市況も落ち着いてくるとみているが、第1四半期の実績は2548億円となり、3310億円に対して77%の高進捗となった。ただし、今後は、各国でのインフレによるコスト上昇、インフレに伴う金融引き締めが世界経済や商品市況に与える影響も楽観視できない。これらも踏まえた上で、然るべきタイミングで業績見通しを見直すことも検討したい」
――事業環境は。
「ESG、地政学、デジタル化の3つが大きい。1つ目のESGでは、欧州中心にエネルギー危機も起きて若干懸念はあるものの、低・脱炭素化は不可逆的だ。再生可能エネルギーの導入やEV化、蓄電池、水素の取り組みが加速する。特に銅、アルミ、リチウム、ニッケルといった資源への需要が拡大しているが、一次資源の供給能力は大きく伸びない。また、商品によっては供給能力が減少するため、二次資源にも注目せざるを得ない。2つ目の地政学では、ロシア・ウクライナ情勢に端を発した商品市況の混乱や、台湾を巡る米中の緊張関係が懸念される。原料炭の禁輸に象徴されるように、米中の緊張関係の代理戦争とも言える中国と豪州の関係も足元の不安定な状況がまだ続くことも考えられる。チリ、ペルーでは新しい大統領が生まれたが、左派政権が資源業界に対してどのような政策を打ち出してくるかも事業環境に大きな影響を与える。豪州クイーンズランド州では石炭のロイヤルティー料率の引き上げが行なわれ、短期的な収益に与える影響のみならず、中長期的な観点でも投資先としてのリスクが上昇している点は無視しえない。3つ目のデジタル化の波は鉱山業にも押し寄せている。鉱山での生産性改善にはこれまでも取り組んできたが、対象エリアの更なる拡大についても今後検討していきたい」
――銅の資源投資について。
「引き続き強力に進めたい。電化社会の加速に伴い中長期の需要が上ブレしている。中国に加え今後高い経済成長が見込まれるインドやASEANを中心に需要の増加が期待できるので、銅の供給力を強化したい。一般的には銅の需要が伸びる反面、供給能力は減っていく。既存の銅事業をどう成長させるかだが、三菱商事は有利なポジションにいると認識している。エスコンディダ、ロスペランブレス、アンタミナ、アングロ・アメリカン・スールに加え、今年ケジャベコが生産を開始した。当社の銅の持ち分生産量も32―37万トン程度になる。更に、我々は既存の資産で開発オプションを有するため、プレミアムを払って新しい鉱山投資をする必要がない。アングロ・アメリカン・スールは権益の中に未開発の鉱区が3つある。それらの事業性を見極めながら開発を検討していく。他社にはなかなかない成長パイプラインを持っているのが強みだ。エスコンディダとロスペランブレスとアンタミナもそれぞれ拡張計画があるので、まずは既存資産の開発オプションを実行することが銅の成長戦略の主となる。一方で新規の鉱山への投資も視野に入れている。どのプレイヤーも銅の需給がタイトと分かっているので、欲しい資産が売却の場に出るかと言うとかなり厳しいので、企業のM&Aも一つの選択肢として検討したい。また、新技術関連ではスタートアップ投資を積極的に行っている。ジェティという会社に3年前に出資した。今まで銅を回収できない土砂(テーリング)は捨てていたが、ジェティの技術を使うと捨てていた土砂から銅が経済的に回収できる。技術への投資もビジネスに仕立てたい」
――銅以外では。
「今までは商品ラインを鉄鋼原料と非鉄金属に分け、原料炭、鉄鉱石、銅、アルミなど商品毎にポートフォリオ戦略を立てていた。それを根本的に変えて社会課題に向き合う意味をより強くするために、1つ目は低・脱炭素、2つ目が電化、3つ目が循環型社会の3つの社会課題軸で組み換えた。1つ目の低・脱炭素には原料炭、鉄鉱石、CCUS(二酸化炭素の回収・利用・貯留)、貴金属等が該当する。低・脱炭素のポートフォリオにおいて、製鉄産業から排出されるCO2は課題の一つ。CO2の削減には、電炉化や還元鉄の使用、将来の水素還元など色々な手段がある。一方で、脱炭素製鉄法による大量生産が確立するには時間を要するため、まずは現在主流の高炉での低炭素化に寄与する高品位の原料炭や鉄鉱石の安定供給を継続しつつ、平行して電炉化に必要となる直接還元鉄の領域に一部資本を投入し、供給拡大を狙う。2つ目の電化には銅、アルミ、リチウム、ニッケルが該当する。電化はカーボンニュートラルに不可欠だ。銅事業の強化に加え、アルミ事業でもオールクンがうまくいけば第2、第3のボーキサイトも狙いたい。リチウム、ニッケルも権益取得に積極的だが、いきなり資源投資に入るのではなく、まずはトレーディングで業界のインサイダー化を図り、資源投資に活用する考えだ。3つ目の循環型社会はまず貴金属リサイクル事業に取り組みたい。リサイクル分野は初めての経験だ。貴金属は廃触媒を回収してリサイクルするビジネスモデルが一定程度確立している。まずはそこに参入し、リチウムイオン電池やアルミのリサイクルにも展開し、3つの領域で循環型のポートフォリオを形成したい」
――直接還元鉄への進出とは。
「構想や立地については現在検討中。中期経営戦略2024の期間中には案件を仕上げたい。高品位の鉄鉱石の調達、将来的には水素になるが、最初は天然ガスの調達、出てくるCO2を地中に埋められるCCSの候補地、将来的な競争力のある水素の調達等様々な視点で模索している」
――銅のM&Aというが過去の実績は。
「過去、銅関連の企業を買収した経験はあるが、経営や現場のオペレーションにも携わりたいというカルチャーがあるため、企業のM&Aは直近行ってこなかった。企業買収は銅のみならず、リチウムやニッケルでも検討していきたい」
――地域的な優先度は変わらないか。
「今までは資源のメッカと呼ばれる場所を優先してきた。原料炭なら豪州、銅ならチリやペルー。また、大規模開発ができる鉱山、即ちコストが安い鉱山を対象とし、資源メジャーとの合弁というのが主流だった。(銅では)年産30―40万トン以上、コスト競争力が上位3分の1以内でないと手を出していなかったが、今はそういった機会が少ない。地域や数量の下限を考え直すなど少し間口を広げる必要がある」(正清 俊夫、田島 義史)
――2021年度の総括を。
「グループで実績(純利益)は4207億円。過去6年間、非中核資産を売却し、厳選された優良資産のポートフォリオが完成した。強固なキャッシュフローを生み出す優良資産にさらに競争力を付け、生産性を上げる諸施策を継続的に行った。昨年は資源価格の上昇局面で過去最高益を達成した。その前は2018年の約2500億円が最高益だった。9年前に設立したRtMでのトレーディング事業においても過去最高となる188億円を達成。トレーディング事業として三菱商事でも上位に入る業績を残した。資源投資事業では、10年前に権益を取得したペルーのケジャベコ銅鉱山が7月に開山し、9月に初出荷を完了した。コロナが猛威を振るい、銅の新規案件の多くで建設期間の遅延とコスト超過が起こる中で、ケジャベコは大きな遅延等もなく生産開始に至った。今後はケジャベコを軸に銅の成長戦略を打ち出す。もう一つの注力案件は、豪州のオールクンというボーキサイト案件。アルミ事業は、製錬から上流のボーキサイトに軸足を移す戦略の転換をスムーズに行った。オールクンはパートナーのグレンコアとFSを完了次第、事業性を判断して開発意思決定をする。グループとして大きなテーマは低・脱炭素、カーボンニュートラル、そういった分野に資源を安定供給することを通じて社会課題の解決を目指す。中長期の資源投資はEX(エネルギートランスフォーメーション)投資に注力する」
――22年度は。
「業績見通しは3310億円。21年度の純利益4200億円は市況の高騰を反映したもの。今年3月に銅は約490セント(ポンド当たり、トン約1万800ドル、約161万円)、原料炭は650ドルを超えた。主にロシア・ウクライナの問題によるもの。加えて原料炭では一時的な供給障害も起きた。22年度は市況も落ち着いてくるとみているが、第1四半期の実績は2548億円となり、3310億円に対して77%の高進捗となった。ただし、今後は、各国でのインフレによるコスト上昇、インフレに伴う金融引き締めが世界経済や商品市況に与える影響も楽観視できない。これらも踏まえた上で、然るべきタイミングで業績見通しを見直すことも検討したい」
――事業環境は。
「ESG、地政学、デジタル化の3つが大きい。1つ目のESGでは、欧州中心にエネルギー危機も起きて若干懸念はあるものの、低・脱炭素化は不可逆的だ。再生可能エネルギーの導入やEV化、蓄電池、水素の取り組みが加速する。特に銅、アルミ、リチウム、ニッケルといった資源への需要が拡大しているが、一次資源の供給能力は大きく伸びない。また、商品によっては供給能力が減少するため、二次資源にも注目せざるを得ない。2つ目の地政学では、ロシア・ウクライナ情勢に端を発した商品市況の混乱や、台湾を巡る米中の緊張関係が懸念される。原料炭の禁輸に象徴されるように、米中の緊張関係の代理戦争とも言える中国と豪州の関係も足元の不安定な状況がまだ続くことも考えられる。チリ、ペルーでは新しい大統領が生まれたが、左派政権が資源業界に対してどのような政策を打ち出してくるかも事業環境に大きな影響を与える。豪州クイーンズランド州では石炭のロイヤルティー料率の引き上げが行なわれ、短期的な収益に与える影響のみならず、中長期的な観点でも投資先としてのリスクが上昇している点は無視しえない。3つ目のデジタル化の波は鉱山業にも押し寄せている。鉱山での生産性改善にはこれまでも取り組んできたが、対象エリアの更なる拡大についても今後検討していきたい」
――銅の資源投資について。
「引き続き強力に進めたい。電化社会の加速に伴い中長期の需要が上ブレしている。中国に加え今後高い経済成長が見込まれるインドやASEANを中心に需要の増加が期待できるので、銅の供給力を強化したい。一般的には銅の需要が伸びる反面、供給能力は減っていく。既存の銅事業をどう成長させるかだが、三菱商事は有利なポジションにいると認識している。エスコンディダ、ロスペランブレス、アンタミナ、アングロ・アメリカン・スールに加え、今年ケジャベコが生産を開始した。当社の銅の持ち分生産量も32―37万トン程度になる。更に、我々は既存の資産で開発オプションを有するため、プレミアムを払って新しい鉱山投資をする必要がない。アングロ・アメリカン・スールは権益の中に未開発の鉱区が3つある。それらの事業性を見極めながら開発を検討していく。他社にはなかなかない成長パイプラインを持っているのが強みだ。エスコンディダとロスペランブレスとアンタミナもそれぞれ拡張計画があるので、まずは既存資産の開発オプションを実行することが銅の成長戦略の主となる。一方で新規の鉱山への投資も視野に入れている。どのプレイヤーも銅の需給がタイトと分かっているので、欲しい資産が売却の場に出るかと言うとかなり厳しいので、企業のM&Aも一つの選択肢として検討したい。また、新技術関連ではスタートアップ投資を積極的に行っている。ジェティという会社に3年前に出資した。今まで銅を回収できない土砂(テーリング)は捨てていたが、ジェティの技術を使うと捨てていた土砂から銅が経済的に回収できる。技術への投資もビジネスに仕立てたい」
――銅以外では。
「今までは商品ラインを鉄鋼原料と非鉄金属に分け、原料炭、鉄鉱石、銅、アルミなど商品毎にポートフォリオ戦略を立てていた。それを根本的に変えて社会課題に向き合う意味をより強くするために、1つ目は低・脱炭素、2つ目が電化、3つ目が循環型社会の3つの社会課題軸で組み換えた。1つ目の低・脱炭素には原料炭、鉄鉱石、CCUS(二酸化炭素の回収・利用・貯留)、貴金属等が該当する。低・脱炭素のポートフォリオにおいて、製鉄産業から排出されるCO2は課題の一つ。CO2の削減には、電炉化や還元鉄の使用、将来の水素還元など色々な手段がある。一方で、脱炭素製鉄法による大量生産が確立するには時間を要するため、まずは現在主流の高炉での低炭素化に寄与する高品位の原料炭や鉄鉱石の安定供給を継続しつつ、平行して電炉化に必要となる直接還元鉄の領域に一部資本を投入し、供給拡大を狙う。2つ目の電化には銅、アルミ、リチウム、ニッケルが該当する。電化はカーボンニュートラルに不可欠だ。銅事業の強化に加え、アルミ事業でもオールクンがうまくいけば第2、第3のボーキサイトも狙いたい。リチウム、ニッケルも権益取得に積極的だが、いきなり資源投資に入るのではなく、まずはトレーディングで業界のインサイダー化を図り、資源投資に活用する考えだ。3つ目の循環型社会はまず貴金属リサイクル事業に取り組みたい。リサイクル分野は初めての経験だ。貴金属は廃触媒を回収してリサイクルするビジネスモデルが一定程度確立している。まずはそこに参入し、リチウムイオン電池やアルミのリサイクルにも展開し、3つの領域で循環型のポートフォリオを形成したい」
――直接還元鉄への進出とは。
「構想や立地については現在検討中。中期経営戦略2024の期間中には案件を仕上げたい。高品位の鉄鉱石の調達、将来的には水素になるが、最初は天然ガスの調達、出てくるCO2を地中に埋められるCCSの候補地、将来的な競争力のある水素の調達等様々な視点で模索している」
――銅のM&Aというが過去の実績は。
「過去、銅関連の企業を買収した経験はあるが、経営や現場のオペレーションにも携わりたいというカルチャーがあるため、企業のM&Aは直近行ってこなかった。企業買収は銅のみならず、リチウムやニッケルでも検討していきたい」
――地域的な優先度は変わらないか。
「今までは資源のメッカと呼ばれる場所を優先してきた。原料炭なら豪州、銅ならチリやペルー。また、大規模開発ができる鉱山、即ちコストが安い鉱山を対象とし、資源メジャーとの合弁というのが主流だった。(銅では)年産30―40万トン以上、コスト競争力が上位3分の1以内でないと手を出していなかったが、今はそういった機会が少ない。地域や数量の下限を考え直すなど少し間口を広げる必要がある」(正清 俊夫、田島 義史)
スポンサーリンク