2023年4月10日

新社長に聞く/メタルワン 北村京介氏/鉄鋼流通の効率化 責務

――新社長としての抱負から。

「2022年度にスタートした中期経営計画の最大のテーマが『変革』と『成長』。今村前社長が社員との対話を重ね、醸成してきてくれたモメンタムを維持し、業態変革を推し進め、機能を高度化していくことで商社ビジネスの新たな価値を創出していく。すべての社員が会社を自分事として意識できるように、経営の見える化を続ける。併せて社員との双方向の対話を重視し、若い社員の意見も積極的に取り上げながら新たな成長軌道を描き、実現に向けてメタルワングループの力を結集していく」

――改めて中期計画の基本方針を。

「社会構造や需要環境が大きく変化する中で、デジタルの力を活用して国内鉄鋼流通サプライチェーンの効率化・高度化・先鋭化を図り、取引先に選んで頂ける鉄鋼流通の実現を目指している。そのためには自ら『変革』する必要があるわけで、デジタル技術で業務の効率化を図り、生み出した余力を新たな事業へシフトしていく。『成長』については、『海外』と『カーボンニュートラル』がキーワードとなる。経営の見える化の一環として、中期経営計画の進捗状況を示したダッシュボードを全社員に公開している」

――強い基盤を持つ国内の基本戦略について。

「2022年は出生者が80万人を割り込み、150万人が亡くなり、70万人規模で人口が減少した。人口減は続き、国内の鉄鋼需要も縮小が避けられない。三菱商事に入社した約30年前、製鉄所から需要産業へ鋼材をそのまま納入することがメインの仕事だった。当時はサプライチェーン上にさしたる課題がなかったが、足下は社会課題、産業課題、環境課題が複雑に重なり合って、その解決策が求められている。サプライチェーンを担う鉄鋼流通にとって課題の克服は使命であり、ビジネスチャンスでもある。鉄鋼流通の効率化はメタルワンの責務であるとの認識の下、業態変革という言葉で様々な施策の具体化に向けて注力している」

――DX(デジタルトランスフォーメーション)が重要なツールになる。

「DXについては、トランスフォーメーションつまり業務フローの改善や新たなビジネスモデルの創出、企業風土の改革などが重要。デジタル技術はツールとなりえるが、打ち出の小槌のように解決策が自然と湧き出てくるわけではない。前向きな自己否定、現状否定から始まる議論を重ね、社内風土を改革し、業態変革を進めていかなければならない」

――「成長」のための海外戦略は。

「東南アジア、中国、北米など海外主要地域で薄板、厚板、線材の加工流通ネットワークを幅広く展開し、サプライチェーンを維持することで一定の対価を享受させて頂いている。現状は大半が自動車、建機、部品メーカーなど顧客対応の日本型ビジネスモデル。海外事業の基盤としてはとても重要であるが、加工・物流などの設備能力が収益の限界となっている。顧客対応型のビジネスモデルを更にブラッシュアップしつつ、建材など市場対応型のビジネスモデルを創出し、収益規模を拡大していく。海外事業開発部、新機能開発部を4月1日付で海外事業開発室、新機能開発室に改称してグローバル事業部に編入した。両室の専任メンバーが様々なケースを想定して日々、議論を重ねており、いくつかの案件がイマジネーションの想像からクリエーションの創造ステージにシフトしつつある」

――第一弾となる東南アジアでのコイルセンター新設を決めた。

「ベトナムで薄板・厚板、ステンレス・線材、物流、造船事業など16社を展開するナム・ファットグループの中核企業で、ステンレス冷延、ステンレス鋼管を製造し、鋼材加工も手掛けるスチール568社と同国北東部のクアンニン省に建材・製造業向けの鋼板加工物流拠点を開設する。資本金が1000万米ドル、出資比率はスチール568社74・9%、メタルワン25・1%で、本年上期中に設立。新たに土地を手当てし、スリッター2基、レベラー2基の体制で、本年下期に稼働開始する。この案件は、海外事業投資における新たな『パートナー戦略』との位置付けで、コイルセンターは第一弾。ベトナムの伸びる鉄鋼需要を捕捉するためナム・ファットグループと第2弾、第3弾の施策を打っていく」

――メジャー出資を基本とする事業戦略を見直すのか。

「海外現地法人6拠点を除く約70社の大半が子会社。50・1%以上出資ならではの良い部分はある。とはいえ人材を含めた経営資源は限られており、とくに海外において市場対応型のビジネスモデル創出を目指すにあたっては、高い機能と存在感を保有するパートナーとの事業展開を選択肢に加えていく。ベトナムに続いて、他の地域・国々でもパートナー戦略を展開していきたい。一方、外資系企業が産業の中心であるインドにおいては、顧客対応型ビジネスの拡充を優先する」

――中国では薄板、厚板、線材など幅広く事業を展開する。

「カントリーリスクが徐々に高まってきている。自前主義で拡大していくことは考えていないが、依然重要な市場であり、パートナー戦略を軸としたビジネス機会を模索して行きたい」

――米州については。

「地政学リスクが低く、需要が安定している米国には積極的に経営資源を投入していく。メキシコ、ブラジルも薄板、厚板の事業基盤があるので、チャンスを逃さないようにしたい」

――「成長」戦略におけるカーボンニュートラルについては。

「CNへの取り組みを更に加速し持続的なものとするために4月1日付で『守り』のカーボンネットゼロ戦略室と『攻め』のグリーントランスフォーメーション戦略室を新設した。『守り』では、メタルワングループ全体のCO2排出量を30年までに20年度比で半減させ、50年までにネットゼロに持っていく。『攻め』のスタンスでは、グリーンスチール、再生可能エネルギー、サーキュラーエコノミーの三つの切り口でビジネスチャンスを開拓していく。米カリフォルニア州に本社を置くクリーン・エナジー・システムズ(CES)と低炭素・脱炭素の分野での業務提携を本年1月に締結した。CESは製鉄プラント等から排出されるCO2を多く含むガスをエネルギーとして活用する独自技術を保有しており、メタルワンのグローバルネットワークを通じてグリーンスチールの普及を促していく。総合商社である株主とも連携しながら、サプライチェーン上のCO2の見える化、CO2の削減と併せて、鉄鋼業のカーボンニュートラルに貢献していく」

――「攻め」には、冷鉄源対策も不可欠。

「三井物産と共同運営するエムエム建材が年間600-700万トンの鉄スクラップを取り扱っているが、マーケットプライスで買ってマーケットプライスで売るビジネスのウェートが高い。安定供給の責務を果たすには、商社機能の強化、その結果としてのマージンの確保が不可欠。コストプライスで仕入れてマーケットプライスで売るビジネスを広げていく必要がある。加工機能を梃子に、品種構成など付加価値を高めていきたい」

――2022年4-9月期は連結純利益が224億円(前年同期192億円)で、4-12月期の状況を見ると06年度の過去最高益399億円を更新する勢いにあるが、これから目指す利益水準は。

「社員を鼓舞するための数値目標は設定しているが、利益は商社機能の対価としての積み上げの結果であり、中期経営計画では業態変革を推し進めて効率化を図り、新たな機能を創出し、取引先から評価して頂くことを優先する」

――投資スタンスを。

「メタルワンは、リスク感度が高く、少し危ないと思うと踏み込まない風土が浸透している。社会・経済構造が大きく変化しており、一定のリスクを覚悟しなければビジネスチャンスを捉えることは難しい。予算ありきではなく、商社機能を高め、対価を獲得できるのであれば、100億円を超える大型案件にもチャレンジしていく」

――20周年を迎えた。

「2003年1月に発足し、総合商社ならではのグローバルネットワークを含め株主会社の力強い支援を受けて事業を継続し、一定の利益を計上してきた。20周年を迎え、人に例えるならば成人したわけで、成長軌道を自分たちで描いていこうという機運が盛り上がってきている。自己否定、現状否定を恐れず、世代を越えて闊達な議論を繰り広げ、取引先から存在感を認められ、自立自走で発展し続ける、そのような会社に変えていく決意を固めている」(谷藤 真澄)

【プロフィル】

▽北村京介(きたむら・けいすけ)氏=92年東大法卒、三菱商事入社。貿易、国内、事業会社、企画、海外駐在を通して厚板畑を長く歩み、この間に中国、インド、ブラジルの厚板鎔断事業立ち上げにも携わった。京葉ブランキング工業に出向している時にメタルワンが発足し、04年10月から11年2月の北京駐在を経験し、建産機鋼材事業部長、厚板事業部長を務め、19年4月からは三菱商事の総合素材グループCEOオフィスで事業投資を担当。21年4月にメタルワンに戻って、経営企画部長に就き、現・中期経営計画を策定。22年4月にメタルワン執行役員に就任。本年4月1日付で三菱商事執行役員となり、メタルワン社長兼CEOに就任した。家族は妻と一女。週末は愛犬との散歩、勧善懲悪系の時代劇鑑賞で心身をリフレッシュ。座右の銘は「疾風に勁草を知る」。1968年4月17日生まれ、兵庫県出身。





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