2023年12月14日

三井物産 鉄鋼製品本部長に聞く/藤田浩一執行役員/英社買収 CCS相乗効果/LCA基盤、グリーン鋼材普及寄与

――積極的な成長戦略投資が目立つ。英STATSの買収から。

「スタッツは、オイル・ガス用パイプラインの補修、機器製造、技術サービス事業を英国、米国、豪州、カナダ、サウジアラビア、UAE、オマーン、カタール、マレーシアの9カ国に持つ拠点及びその周辺地域で展開している。大径・高圧パイプライン向けなど高い技術力が求められるサービスを得意とし、オイルメジャーから高い評価を得ている。本年7月に全株式の取得を完了した。近年実施した投資の中では一段踏み込んだ金額規模となった。オイル・ガスのパイプラインは世界中で老朽化が進み、まず足元は補修需要が増加している。一方で中長期的には脱炭素化社会の実現に不可欠な水素の輸送、二酸化炭素を回収・貯留するCCS事業への転用が進展していく。三井物産グループが手掛けるオイル・ガス事業、CCS事業、水素関連事業などとの連携による相乗効果も見込んでいる」

――米国の洋上風力発電タワー製造事業にスペインGRIと参入を検討している。

「バイデン政権によるIRA(インフレ抑制法)の気候変動対策の一環として、東海岸で数多くの洋上風力発電プロジェクトが計画されている。自国生産、現地雇用などの条件をクリアすれば優遇措置を受けられる。GRIリニューアブル・インダストリーズは8カ国18カ所でタワー・フランジの製造拠点を展開しているが、新たに米東海岸の工場新設を検討。ニューコアがケンタッキー州ブランデンブルグに新設した年産120万トンの厚板ミルから極厚大単重の素材を供給する。こちらも大型投資となるので、IRAの優遇措置拡大、来年の大統領選の行方などを睨みながら、事業化調査を進めていく」

――タイに続いて米国のインフラ補修事業にも参入する。

「ショーボンドとの合弁事業を通じて米国のストラクチュアル・テクノロジーズ社に出資した。米国最大のインフラ補修企業ストラクチュアルグループの子会社で、斜張ケーブル構造物の建設や補修を得意とする。米国ではインフラの老朽化が社会問題化し、橋梁などの長寿命化・強靭化ニーズが高まっている。ショーボンドのインフラ補修・補強・予防保全技術を提供し、地震が発生するため対応を急ぐ必要がある西海岸から協業を広げていく」

――米国は投資が続く。

「ニューコアと折半出資の薄板サービスセンター、スチールテクノロジーズは同業のカルストリップを買収し、米国23拠点、メキシコ9拠点、カナダ2拠点の34拠点を展開している。得意とする住宅や自動車などのマーケットが中西部から南部へシフトしており、手薄な米国南部の拠点拡充を検討している」

――需要が急増する電磁鋼板のサプライチェーン拡充も必要。

「電磁鋼板の加工流通拠点としては、ともに100%出資のオランダEMS、カナダTMSがある。いずれも変圧器用の方向性電磁鋼板を得意とするが、現地需要が伸びるEVモーター用の無方向性電磁鋼板の加工機能も強化している。送電インフラ増加に伴う方向性電磁鋼板の需要拡大も見込めることから、変圧器用の追加投資も検討している」

――中長期的にはインド、アフリカの鉄鋼需要が伸びていく。

「インドは重要な成長市場と位置付けており、事業維持・拡大のチャンスを逃さないようにしたい。アフリカは南アフリカ、モザンビークなど南部にある食糧や肥料、化学品の出資先を通じた鉄鋼製品関連ビジネスが拡大している」

――国内では「LCAPlus」の活用事例が広がっている。

「経済産業省、環境省が関連する一般社団法人サステナブル経営推進機構と共同開発したLCAプラスはLCA(製品のライフサイクル全体の環境負荷の定量評価)を用いてGHG(温室効果ガス)排出量を把握できるプラットフォーム。クラウド型ソフトウェアをサブスクリプションサービスとして提供している。自動車部品メーカー、素材メーカーなどで活用が広がっている。今後は製品設計段階での利用拡大などビジネスとしてのスケールアップを進めていきたい。鉄鋼メーカーのグリーンスチールを素材とした部品に適用されることで、グリーンスチールの採用拡大に結び付けていきたいとも考えている」

――三井物産スチールは鉄骨に特化したBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)サービスの提供を開始した。

「BIM技術を活用して建設業の非効率化を解消し、ファブリケーターやゼネコンの人材不足解消、設計・加工・施工の生産性向上につなげていく。無料で提供する『スチールナビ』に加えて、鉄骨構造設計者向けなどの有料サービスを増やしている。エムエム建材を含めて活用事例が広がっていくことを期待している」

――2023年4-9月期は連結純利益が30億円に落ち込んだ。

「三井物産スチールが27億円(前年同期46億円)、エムエム建材が10億円(同12億円)、ニューコアとのサービスセンター合弁事業への出資会社ニューミットが31億円(同52億円)となり、主要事業会社が減益となった。GRIは12億円(同4億円)で健闘。自動車向けプレス部品を製造するゲスタンプが減損処理で46億円の赤字を計上した」

――通期見通しを200億円から150億円に下方修正した。

「下期ヘビーの計画だったが、上期が下振れし、海外鋼材市況の弱含みによる下期の微調整を加味し修正した。中国の経済動向は心配だが、米国や欧州については金融引き締め策のソフトランディング期待もある」

――中期経営計画(23-25年度)の連結純利益目標は400億円。

「三井物産として25年度の基礎営業キャッシュフロー1兆円、当期利益9200億円を目標に掲げている。鉄鋼製品本部としても資産に応じた利益を確保しなければならない。21年度実績が269億円、22年度は225億円だった。スタッツの株式100%買収での収益貢献には期待大。その他複数の買収案件について検討を進めており、チャレンジングであるが、投資効果も引き出しながら400億円を目指したい」(谷藤 真澄)

スポンサーリンク