――2024年度始動の新中期経営計画(24―26年度)の前提となる事業環境の認識・見通しから。
「神戸製鋼所向けの鉄鋼原料、冷鉄源(鉄スクラップ)、バイオマス燃料が原料ユニットの事業の3本柱。売上高のうち8割程度を占める鉄鋼原料は、中国経済の回復が遅れる中、鉄鋼生産は高水準を維持、アジアの鉄鋼製品市況に影響を与えている。インドの鉄鋼業は堅調に推移しており鉄鉱石や原料炭の需要を下支えしているが、力強さに欠け、先行きは見通しづらい。冷鉄源については、国内の建設需要が伸び悩む中、発生量も少なく、国内高・海外安の難しい市場環境が続いている。将来的にはカーボンニュートラル(CN)の進展に伴い、鉄スクラップの世界的な需要の高まりから、争奪戦になることが予想される」
――新中計の原料ユニットの基本方針と成長に向けた事業戦略とは。とりわけCNで需要が増えるバイオマス燃料や冷鉄源の事業をどう成長させていくか。
「CNの実現に向けて、バイオマスや冷鉄源を含むリサイクル商品の取り扱いをさらに増やし、資源循環経済に貢献する神戸製鋼グループのグローバル・プロフェッショナル集団を目指す。今中計でまずは鉄鋼原料について引き続き神戸製鋼向けに鉄鉱石、原料炭を安定供給していく。神戸製鋼向けには合金鉄や石灰石、ドロマイト、チタン原料も扱っている。チタン原料では、航空機向けを中心にロシアへの依存度がこれまで高かった。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、日本のチタンスポンジメーカーの扱い量拡大が期待されている。当社としては、チタンスクラップを含め多岐にわたり取り扱いを広げていきたい。直接還元鉄についても、世界的に電炉の建設が増える見通しであり、ビジネスを拡大できるチャンスと考えている」
――需要が拡大する鉄スクラップの事業戦略をどう描いていくか。
「前中計では年間100万トンを目指してきたが、最終年23年度に80万トンまで拡大した。前述の通り難しい市場環境下、次期中期ではROIC(投下資本利益率)や収益性も意識しながら、将来に備え集荷能力を維持・拡大するのが課題。10年後に150万トンという目標もあるが、足元では収益性を考慮した取り組みも重要。当社は1960年代から鉄スクラップの取り扱いを始め、関西地区を中心に集荷業者と良好な関係を築いている。培った知見を生かし、新中計では取扱量とともに収益も意識した取り組みを進めたい。高炉メーカー各社も電炉の導入を決定・検討中であり、当社としても集荷能力に磨きをかけていく必要がある。将来的には日本への輸入も視野に入れ、米国などにも選任を駐在させており、アンテナを張って現地企業と関係を維持強化し、ビジネス拡大の可能性を探っていきたい。本年4月から金属本部でアルミ・銅ユニット、鉄鋼ユニットと一緒になった。アルミ・銅ユニットではアルミなど非鉄スクラップを扱っており、ユニット間連携により横串を通し、シナジー効果を発揮したい」
――PKS(パームヤシ殻)や木質ペレットなどのバイオマス燃料は強化事業として経営資源を投入していく。
「23年度までの前中計から積極的に取り組んでおり、バイオマス発電所と長期契約を結び、バイオマス燃料のサプライヤーとして安定供給に努めている。日本は23年度に1200万トン近いバイオマス燃料を輸入したが、24年度はさらに増加する見通し。新中計でも成長する事業分野として注力する方針だ」
――原料ユニットの体制と新中計での定量目標、投融資の計画は。
「原料ユニットは74人(国内67人、豪州・米国・中国・ベトナムで計7人)。今年4月から金属と機械・溶接の2本部制に組織を改編したことで部門間の人事交流が活発になることが期待されている。垣根を取り払い、風通しをさらに良くしていく。従業員一人一人が楽しく仕事をすることが、業績や企業価値の向上につながると考えている。新中計ではユニットごとの定量目標を公表していないが、24年度については原料ユニットの経常利益を15億円と前年並みを予想している。投融資は特にバイオマス燃料関連で検討している」
――そのバイオマス燃料は市場の成長性が高く、国内外で事業展開の検討をすでに始めている。
「前中期は最終の23年度に30万トンの輸入目標を掲げ、達成した。新中期は年間50万トンを目指しており、集荷力の強化に向けて仕組みづくりを急ぐ。昨年末に北海道石狩市でバイオマス燃料として使用する早生樹の植樹実証試験事業や、バイオマス発電所から発生する燃焼灰を再利用する共同研究を始めている。日本のバイオマス燃料は輸入に頼っているが、将来に向けて地産地消を考えていく」
「豪州現地法人を成長戦略の拠点の一つと位置付ける。神戸製鋼向けの鉄鋼原料の輸出業務を行っているが、バイオマス燃料などビジネスチャンスは広がっている。豪州は人口が増えており、エネルギー産業の拡大も期待できる。鉄鉱石や石炭などの資源国だけに、脱炭素を見据えた研究や新規ビジネス検討が進んでいる。神戸製鋼グループ唯一の豪州拠点として、連携しながら新中計で種をまいていく。原料ユニットでは省力化などにつながるDXを進め、効率化によって生じた余力を成長分野のバイオマス燃料事業などに振り向けていく。バイオマスは、今後も発電所向けに安定供給を果たす計画であり、海外の供給パートナーと連携を深めて集荷能力を引き上げていくことも考えていきたい」
(深田 政之)