2025年4月30日
鉄鋼新経営 描き挑む成長のビジョン/日本金属社長/下川康志氏/高収益品比率 黒字化の鍵/加工委託支援 新部署で本格化
――足元の経営環境から。
「売り上げの5割強を占める自動車向けが減少し、出荷量減少や板橋工場と福島工場の操業水準低下につながっている。中でも中国向けは、現地メーカーの新エネルギー車が普及し、日系や欧米メーカーのシェアが減少していることでステンレスの販売が落ち込んでいる。加えて自動車の外装モール材は、当社よりも安価な現地メーカーのシェアが拡大し、数量の回復は見込めない。今後はアメリカの関税措置により、国内外の需要家など間接的に数量の減少を想定している。当社は2030年を最終年度とする第11次経営計画の中で、国際競争力のある独自・差別化製品の販売比率拡大を掲げているが、世界的な貿易戦争により、その重要性が増したと認識している」
――今期(2026年3月期)の見通しについて。
「主力の板橋工場のステンレスは足元設備能力比7割操業で、生産量と販売量ともに今期は前期並みと予想するが、黒字回復を最大の目標とする。歩留まり向上などのコスト削減に加え、黒字回復の鍵を握る高収益品の比率が増えている。主力のモール材は減少しているが、デザイン性が求められる高級車で、黒加飾の『ファインブラック(FB)』やマット調仕上げ『PW』などの高収益品のモール材が堅調だ。FBは新車種での採用が決まり、今年後半から生産が増える見通し。板厚0・1㍉未満のステンレス箔は次世代電池向けで採用が決まり、年後半から生産が増える見込み。特殊鋼帯は横ばいで、電磁鋼帯は国内外の変圧器向けなど受注量が増えつつある」
――冷間異形圧延の福島工場、ステンレス溶接引抜管の岐阜工場の加工品はどうか。
「両拠点とも高収益品の比率が増えている。福島はステンレスグレーチング向け異形圧延品『Ⅰバー』が堅調だ。グレーチングの表面(踏み面)に模様や文字などを表現できる意匠性など評価を得ている。昨年、銅やアルミなどの非鉄金属を伸ばすマルチ・マテリアル化を目的に、複雑な成形加工に対応する新型異形圧延機を導入したほか、鉄・非鉄の冷間異形圧延品を『Fine Profile(ファイン・プロファイル)』と命名し商標登録した。異形圧延品はステンレスが主だが、非鉄異形品の引き合いも出はじめた。このほか、直径20㍉以下のステンレス丸棒を角棒にすることも検討しており、既存の異形圧延機で加工可能であることを確認した。岐阜で製造する溶接引抜管『ファインパイプ』は高い内面精度などを武器に、医療、計測器向けが堅調。文具や、ディーゼル車のグロープラグも数量が回復してきた。操業状況は福島が8割、岐阜はフル操業だ。岐阜は生産・検査工程における自動化や能力増強を今後も検討する」
――販売価格政策は。
「コスト見合いの価格交渉を進めている。原料価格はもちろん、物流、人件費や副資材など顧客と決めた指標に基づいて、納得感のあるコスト上昇分を転嫁し、これがおおむね浸透している。利益水準は一品ずつ管理しており、著しく採算が確保できていない製品については数量抑制や代替材の提案も含めて粘り強く交渉を進めている。いずれにせよ、コスト上昇分を転嫁することは、現状並みの収益を維持するための方策に過ぎない。収益のさらなる改善には、製品の構成内容や事業構造を変えていく必要がある」
――構造改革について。
「4月1日付で開発・営業本部と生産本部を製販本部に統合した。製販一体で、課題に対する意思決定や対応をより迅速化する。ステンレスはより薄肉化、高品質・高精度化を進め、極薄電磁鋼帯やマグネシウム合金など、現有圧延・焼鈍設備を活用したマルチ・マテリアルを推進しつつ、受注構成内容の変化に対応した生産体制の再構築を進める。板橋工場は、現状の生産量で余剰な設備の休廃止を行った。老朽化した冷間圧延機を1基撤去し光輝焼鈍炉を1基休止した。撤去した圧延機は主にホットコイルの圧延を担ってきたが、22年新設の圧延機『Z10』導入以降は、Z10がフル稼働時に補完する役割を担っていた。休止したBA焼鈍炉は、設備が古くエネルギーコストがかかるため、機能を他のラインで代替できるように割り振った。毎月数百万円単位の費用削減に貢献している。生産に関わるデータの活用で生成AIの導入も検討している。人手不足が顕著な板橋工場などで導入できれば、業務負担の軽減にもつながると期待している」
――今年は、第11次経営計画「第3フェーズ」の初年度に当たる。
「第3フェーズの目標は、新事業アイテムの拡大と高収益体質の実現だ。戦略的な商品は、ステンレスは箔とファインブラックや導電性改善などの特殊表面処理材、加工品はファインパイプとファインプロプロファイルだ。当社の加工品は国際的な競争力があるにも関わらず認知度はまだまだだ。国内外での展示会出展やリリースの発信を進める」
――新事業アイテムなどPRを強化している海外は。
「シェアが低下している中国は、モール材の中でも高意匠品のファインブラックとPW仕上げは受注が増えている。極薄電磁鋼帯や医療器具など極めて高い精度が求められるファインパイプも好調だ。中国以外の拡販エリアとして、インドと東南アジア、欧州をターゲットとしている。インドは現地自動車メーカーのモール材で採用が決まった。欧州向けは電磁鋼帯などが底堅い。EUのコバルト規制に対応したコバルトフリーの注射針用ステンレスを提案するほか、アルミが主体の欧州の自動車モールについても、省資源や環境にやさしいステンレスを発信している」
――脱炭素への取り組みも進んでいる。
「昨年11月から板橋工場向けで、電力の一部をオフサイトコーポレートPPAによる太陽光発電電力と再生可能エネルギー由来の非化石証明を付与した実質再生可能エネルギー電力に切り替えた。年間で約6500トンのCO2排出削減に寄与する。当社の独自製品で環境への負荷低減に貢献できる『エコプロダクト』製品については、ユーザーの製品の機能向上への貢献や、生産性向上、工程省略、歩留まり改善などを評価基準とした上で具体的な製品の選定や、名称を決めるほか販売目標を策定する予定」
――4月に加工委託サポートの「プロダクションプロセス・サポート部」を新設した。
「さまざまな素材や製品と、圧延や造管をはじめとする多彩な設備や知見の総力を活用して、お客さまに提供する取り組みだ。ビジネスチャンスの拡大と新事業の創出、当社グループに対しての認知や期待度の向上、設備の有効活用を目指す。以前からサンプルや試作の依頼や加工の受託を手がけており、現状の売上高は月間2000万円程度。問い合わせや試作、サンプル依頼などを徹底してフォローし、売り上げ規模をまずは1億円以上に成長させたい。すでに30件以上の問い合わせが来ており、それに一つ一つ丁寧に答えているところだ。部のメンバーには『結果として当社の仕事にならなくてもいい』と言っており、当社で対応が難しくても、各種メーカー、商社、金属加工やエンジニアリング企業の皆さんとの連携や共創で、ものづくりで悩まれているお客さまに寄り添っていきたい」(北村康平)
「売り上げの5割強を占める自動車向けが減少し、出荷量減少や板橋工場と福島工場の操業水準低下につながっている。中でも中国向けは、現地メーカーの新エネルギー車が普及し、日系や欧米メーカーのシェアが減少していることでステンレスの販売が落ち込んでいる。加えて自動車の外装モール材は、当社よりも安価な現地メーカーのシェアが拡大し、数量の回復は見込めない。今後はアメリカの関税措置により、国内外の需要家など間接的に数量の減少を想定している。当社は2030年を最終年度とする第11次経営計画の中で、国際競争力のある独自・差別化製品の販売比率拡大を掲げているが、世界的な貿易戦争により、その重要性が増したと認識している」
――今期(2026年3月期)の見通しについて。
「主力の板橋工場のステンレスは足元設備能力比7割操業で、生産量と販売量ともに今期は前期並みと予想するが、黒字回復を最大の目標とする。歩留まり向上などのコスト削減に加え、黒字回復の鍵を握る高収益品の比率が増えている。主力のモール材は減少しているが、デザイン性が求められる高級車で、黒加飾の『ファインブラック(FB)』やマット調仕上げ『PW』などの高収益品のモール材が堅調だ。FBは新車種での採用が決まり、今年後半から生産が増える見通し。板厚0・1㍉未満のステンレス箔は次世代電池向けで採用が決まり、年後半から生産が増える見込み。特殊鋼帯は横ばいで、電磁鋼帯は国内外の変圧器向けなど受注量が増えつつある」
――冷間異形圧延の福島工場、ステンレス溶接引抜管の岐阜工場の加工品はどうか。
「両拠点とも高収益品の比率が増えている。福島はステンレスグレーチング向け異形圧延品『Ⅰバー』が堅調だ。グレーチングの表面(踏み面)に模様や文字などを表現できる意匠性など評価を得ている。昨年、銅やアルミなどの非鉄金属を伸ばすマルチ・マテリアル化を目的に、複雑な成形加工に対応する新型異形圧延機を導入したほか、鉄・非鉄の冷間異形圧延品を『Fine Profile(ファイン・プロファイル)』と命名し商標登録した。異形圧延品はステンレスが主だが、非鉄異形品の引き合いも出はじめた。このほか、直径20㍉以下のステンレス丸棒を角棒にすることも検討しており、既存の異形圧延機で加工可能であることを確認した。岐阜で製造する溶接引抜管『ファインパイプ』は高い内面精度などを武器に、医療、計測器向けが堅調。文具や、ディーゼル車のグロープラグも数量が回復してきた。操業状況は福島が8割、岐阜はフル操業だ。岐阜は生産・検査工程における自動化や能力増強を今後も検討する」
――販売価格政策は。
「コスト見合いの価格交渉を進めている。原料価格はもちろん、物流、人件費や副資材など顧客と決めた指標に基づいて、納得感のあるコスト上昇分を転嫁し、これがおおむね浸透している。利益水準は一品ずつ管理しており、著しく採算が確保できていない製品については数量抑制や代替材の提案も含めて粘り強く交渉を進めている。いずれにせよ、コスト上昇分を転嫁することは、現状並みの収益を維持するための方策に過ぎない。収益のさらなる改善には、製品の構成内容や事業構造を変えていく必要がある」
――構造改革について。
「4月1日付で開発・営業本部と生産本部を製販本部に統合した。製販一体で、課題に対する意思決定や対応をより迅速化する。ステンレスはより薄肉化、高品質・高精度化を進め、極薄電磁鋼帯やマグネシウム合金など、現有圧延・焼鈍設備を活用したマルチ・マテリアルを推進しつつ、受注構成内容の変化に対応した生産体制の再構築を進める。板橋工場は、現状の生産量で余剰な設備の休廃止を行った。老朽化した冷間圧延機を1基撤去し光輝焼鈍炉を1基休止した。撤去した圧延機は主にホットコイルの圧延を担ってきたが、22年新設の圧延機『Z10』導入以降は、Z10がフル稼働時に補完する役割を担っていた。休止したBA焼鈍炉は、設備が古くエネルギーコストがかかるため、機能を他のラインで代替できるように割り振った。毎月数百万円単位の費用削減に貢献している。生産に関わるデータの活用で生成AIの導入も検討している。人手不足が顕著な板橋工場などで導入できれば、業務負担の軽減にもつながると期待している」
――今年は、第11次経営計画「第3フェーズ」の初年度に当たる。
「第3フェーズの目標は、新事業アイテムの拡大と高収益体質の実現だ。戦略的な商品は、ステンレスは箔とファインブラックや導電性改善などの特殊表面処理材、加工品はファインパイプとファインプロプロファイルだ。当社の加工品は国際的な競争力があるにも関わらず認知度はまだまだだ。国内外での展示会出展やリリースの発信を進める」
――新事業アイテムなどPRを強化している海外は。
「シェアが低下している中国は、モール材の中でも高意匠品のファインブラックとPW仕上げは受注が増えている。極薄電磁鋼帯や医療器具など極めて高い精度が求められるファインパイプも好調だ。中国以外の拡販エリアとして、インドと東南アジア、欧州をターゲットとしている。インドは現地自動車メーカーのモール材で採用が決まった。欧州向けは電磁鋼帯などが底堅い。EUのコバルト規制に対応したコバルトフリーの注射針用ステンレスを提案するほか、アルミが主体の欧州の自動車モールについても、省資源や環境にやさしいステンレスを発信している」
――脱炭素への取り組みも進んでいる。
「昨年11月から板橋工場向けで、電力の一部をオフサイトコーポレートPPAによる太陽光発電電力と再生可能エネルギー由来の非化石証明を付与した実質再生可能エネルギー電力に切り替えた。年間で約6500トンのCO2排出削減に寄与する。当社の独自製品で環境への負荷低減に貢献できる『エコプロダクト』製品については、ユーザーの製品の機能向上への貢献や、生産性向上、工程省略、歩留まり改善などを評価基準とした上で具体的な製品の選定や、名称を決めるほか販売目標を策定する予定」
――4月に加工委託サポートの「プロダクションプロセス・サポート部」を新設した。
「さまざまな素材や製品と、圧延や造管をはじめとする多彩な設備や知見の総力を活用して、お客さまに提供する取り組みだ。ビジネスチャンスの拡大と新事業の創出、当社グループに対しての認知や期待度の向上、設備の有効活用を目指す。以前からサンプルや試作の依頼や加工の受託を手がけており、現状の売上高は月間2000万円程度。問い合わせや試作、サンプル依頼などを徹底してフォローし、売り上げ規模をまずは1億円以上に成長させたい。すでに30件以上の問い合わせが来ており、それに一つ一つ丁寧に答えているところだ。部のメンバーには『結果として当社の仕事にならなくてもいい』と言っており、当社で対応が難しくても、各種メーカー、商社、金属加工やエンジニアリング企業の皆さんとの連携や共創で、ものづくりで悩まれているお客さまに寄り添っていきたい」(北村康平)

