2020年5月27日

財務・経営戦略を聞く 神戸製鋼所専務 勝川四志彦氏 7-9月需要注視 減産対応を見極め キャッシュフロー改善上乗せ

――2019年度のセグメント別利益は鉄鋼、アルミ・銅、建設機械が大きく落ち込んだ。

「鉄鋼が213億円の赤字と18年度の47億円の黒字から260億円悪化した。米中貿易摩擦の影響を受けるなか、海外の自動車生産の減少に伴い国内の部品メーカー向けの出荷が減少した。鉄鉱石価格高騰のコストアップ分の製品価格への転嫁が期ずれした。鋳鍛鋼は造船需要が端境期にあり、チタンは参入に取り組んでいる航空機向け大型鍛造品の立ち上げに苦戦した。鉄鋼の一過性要因を除いた実力損益はマイナス170億円と18年度の約120億円の黒字から大きく悪化した」

「アルミ・銅は204億円の赤字と前の年度の15億円の赤字から悪化した。半導体市場の低迷による数量構成の悪化、北米のサスペンション生産トラブル、在庫評価損でそれぞれ50億円程度のマイナスとなり、労務費などコストも増えた。建機は中国で現地資本との競合が激化し、北米や東南アジア、インドの需要が減少し、生産拠点のない欧州向けの輸出で為替差損も受け、18年度の黒字255億円から19年度に黒字75億円に減少。電力と機械は増益。電力の真岡発電所の稼働は計画通りに開始し、機械はアフターサービスが増えた」

――4―6月期は粗鋼生産が計画比で40万トン程度減少する。

「1―3月期から生産を可能な範囲で調整してきたが、4月に入り、お客様と会話をするなかでさらなる減産の必要性が生じ、結果的に40万トン程度、前年同期比約3割の減産となる」

――高炉の出銑比を下げて減産している。バンキング(一時休止)を行うほどではないということか。

「17年に神戸製鉄所の高炉を停止し、加古川製鉄所に上工程を集約したことで生産能力の下方弾力性を確保した。今の需要レベルであればバンキングの必要はないが、7―9月の需要をよく注視する必要がある。リーマン・ショックの時に相当な減産を経験し、その後に上工程の集約も実施しており、どこまで対応できるかを見極める。アルミ・銅はサスペンションなど自動車向けが減っているが、アルミ板は需要期でもある缶材は堅調だ。6月以降については自動車向けが不透明な一方で、半導体関連向けは中国・韓国の経済活動の再開による好影響を期待している。真岡製造所の自動車用アルミパネルの新ラインは認証取得の段階で本格生産はこれからだ」

――海外拠点の新型コロナの影響は。

「中国ではアルミパネルや自動車用鋼板、線材の加工など各拠点は3月までは移動制限などの影響を受けていたが、4月に入ると解消した。新型コロナの影響で操業が止まっているのはシンガポールの1社だけだ」

――建機は中国市場が戻ってきている。

「ショベルのGPSを見ると稼働は前年同月より少し良いほど。インフラ・不動産建築が活発化しているようだ。欧米はかなり落ち、インドや東南アジアも低調。日本は前年並みを保っており、ショベルを使用する建設工事はさほど止まっていないようだ」

――黒字化に向け「素材系を中心とした収益改善」「経営資源効率化と経営基盤の強化」を掲げ、2月には山口社長をトップとする緊急収益改善特別委員会を設置した。

「固定費圧縮を中心に200億円規模のコスト改善を計画した。さらに鋼材とアルミ・銅で各100億円の収益改善などによって黒字化を目指していたが、新型コロナの影響で20年度上期は相当打たれる。鋼材が最も影響を受けている。他の影響度合いはそれほど大きくないと想定している。機械は新規案件の延期が出てくる一方で引き合いが増えつつある案件もある。キャッシュフローは1200億円の改善を計画したが、さらに上乗せする。設備投資は20年度1600億円の予定から見直す考えだ」

――中国の粗鋼増産を背景に原料高が続いている。課題のひも付き価格の是正は。

「足元は新型コロナの影響で具体的には進んでいない。まずは自分たちのできること、コストダウンを精いっぱいやらないといけない。その上できちんと説明していきたい。設備や研究開発など再投資ができるよう、海外に対して日本の鉄鋼業として優位性を保つ技術開発に対応できるようにしていきたい」

――4月に組織を鉄鋼アルミ事業部門、素形材事業部門と大きく改編した。

「お客様の立場に立って考えた。自動車産業は電動化や軽量化、IT技術の進展など大転換期にあり、スピーディに対応できる体制を作る必要がある。素材別でなく、工程別にきちんと強化していく。鋼材とアルミ板では圧延技術など共通する技術が多くあり、メリットを最大限発揮する。素形材のなかでも複数のユニットに共通した技術が結構あり、強化して収益力を高める。組織改編の効果をこれから追求していきたい」

――事業部門ごとの収益性を管理・評価する指標の投下資本収益率(ROIC)を導入した。連結ベースのROA目標に向けてポートフォリオを組み立てる考えだが。

「ポイントは将来のマーケットであり、競合状態だ。中国勢がどう事業を展開するかが影響する。そういった点を勘案しながらリスクケースを含めて事業をみていく」

――コベルコマテリアル銅管の事業譲渡など選択と集中を進めている。グループ約200社をどう再編していくのか。

「21年度からの次期中期経営計画でもセグメント別だけではなく、それを構成するユニットそれぞれをROIC管理などいろいろな視点で事業を見つめ直そうと考えている。当社の製品サービスがどういう位置にあるか。真に競争力のある製品やサービスをますます伸ばしていく。そうでないものは見極めていく。いろいろな技術を保有しているので特長を生かした新しい価値創造を目指す。例えばCO2排出を削減する技術を結構持っている。直接還元鉄のミドレックス法はCO2排出削減に寄与する。派生する技術や環境負荷低減に貢献する技術で新しいマーケットを作るなどの取り組みを進めたい。そのようなことも意識して次期中計を考える」

――次期中計のテーマのイメージは。

「足元の状況を踏まえると当面は投資を厳選し、固定費を削減するのが前提となる。注力する事業や外部に任せる事業など選択と集中を引き続き進める。成長分野にはこれまで以上に取り組み、早期に成果を出す」

――中国勢が海外進出を具体化している。影響をどうみるか。

「鉄鋼では特殊鋼とハイテンの分野で広く展開しているが、中国勢と直接競合はしていない。特色を持っていなければ生き残れない。お客様にとってかけがえのない存在であるためにどういう市場をにらみ、技術を磨き、コストダウンを進めるか、手を打っていかなければならない」

――海外投資の考えは。

「北米のサスペンションの生産トラブルは体制を改めて見直すチャンスと捉えている。新たな投資案件は具体的にはないが、すでに投資した天津のアルミパネル拠点、鞍鋼と合弁の冷延ハイテン拠点、タイのミルコン社と合弁の特殊鋼線材拠点、それと新設備を建設中の米国のプロテックはきちっと成果を出すために人的強化を含めて注力する。日本では加古川で超ハイテン材の設備を増強しており、国内外でお客様のニーズに応えていく」

――インド市場をどう攻める。

「建機と機械の工場を展開し、溶接材料の販売拠点があるが、今のところそれ以上の具体的な計画はない。素材の分野で進出するには市場の成長度合いを見極める必要がある」

――国内外の鉄鋼企業が製鉄所の知能化に力を入れている。

「上工程の集約でコスト削減は計画どおり進ちょくしているが、さらなる削減を実現するにあたり、手法として知能化は重要なテーマだ。AI(人工知能)の導入など積極的に取り組まないといけない。そうしなければ競争に負けてしまう。アルミ、機械、建機の工場も同様。特に建機の工場は量産・組立型なのでスマートファクトリー化はより必要だ」(植木美知也)

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