2020年12月2日

「財務・経営戦略を聞く」神戸製鋼所専務 勝川四志彦氏 鉄鋼下期 数量・構成改善進む アルミ板 実力損益黒字を確保

――上期の業績が前回予想より改善した。

「上期の連結経常利益は前回予想の600億円の赤字から352億円の赤字と250億円ほど改善した。全体としては自動車が想定よりも早く回復した効果が大きい。第1四半期(4―6月期)の自動車生産は前年同期比45%減り、第2四半期は30%程度減るとみていたが、思った以上に回復したことで粗鋼生産量が増え、製品当たりのコストが低下した。鉄鋼を中心とした数量増で25億円、在庫評価影響で65億円のプラス効果を得ており、緊急収益改善策によって固定費や支出も削減した。原料価格が落ち着き、スプレッドが改善した」

――下期の需要をどうみるか。

「自動車生産は第4四半期で前年並みに戻るとみていたが、第3四半期の時点で回復速度が上がっている。一方で航空機や建設の分野は不振が続いている。建設は地方のホテルなど中小案件が様子見に。造船は依然振るわない。アルミの素形材やチタンなど全体の数量は前回比では下期は減る見立てだが、コスト削減でカバーする。連結ベースでの固定費削減を計画以上に進め、80億円ほど改善する。原料価格が上がっているので販売価格を上げていく。下期の連結経常利益はほぼゼロとなる見通しだ」

――粗鋼生産は下期に前年並みに近づくと予想している。

「粗鋼生産は上期248万トン、下期317万トン。上期に比べ数量増で鉄鋼は165億円改善する。平均単価は上期にトン7万9100円と低下したが、需要が急減したことで高炉の一時休止をしないよう数量を確保するために低採算のものも受注した影響がある。下期は需要が徐々に回復したことで数量以上に構成改善が進む」

――それでも下期の鉄鋼事業は21億円の赤字予想に。

「下期の粗鋼の2倍で年600万トン前半の水準だが、このレベルでの黒字は難しい。コロナ禍影響や在庫評価影響、緊急収益改善策による一時的な収益の底上げを排除した実力損益は下期に65億円ほどの赤字となる。年140億円近くの赤字と捉え、固定費の圧縮や構成改善、高付加価値化をどう進めていくか。重要な課題と考えている」

――固定費をさらに圧縮できるのか。

「2017年に神戸製鉄所の高炉を閉鎖し、加古川製鉄所に集約したが、17―18年はマーケットが好調だったので目一杯生産していた。その際に膨らんだ固定費を絞っていく。IоTやAIを活用した省人化、コスト削減策も付加していく。追加の固定費削減の実現可能性を精査しているが、すでに着手しているものもある」

――鋼材の値上げは進むのか。

「お客様に品質やデリバリーを評価していただくよう、粘り強く話をさせていただいている。再投資ができず、将来立ち行かなくなる。原料価格は中国の鉄鋼生産によるが、ジリジリと上がっていくと予想される。当社の今回の鋼材の値上げ幅は原料コストの上昇分だけであり、さらに販価を引き上げていかなければならない。エキストラの見直しにも取り組みたい」

――アルミ板の下期の生産は。

「自動車向けが回復し、缶材や半導体関連向けは上期から堅調に推移している。アルミ板の下期の販売は15万8000トンと上期を6000トン上回る予想だ。アルミ板事業の一過性要因など特殊要因を除いた実力損益はトントンで下期は10億円ほどの黒字になる見通し。赤字の最小化に注力してきたが、ようやく収益を上げるスタートラインに立った段階であり、気を緩めることはできない」

――素形材事業の状況は。

「航空機や造船の需要減の影響は鉄やアルミの鋳鍛造品、チタンに顕著に表れている。歩留まりの向上などものづくりの体制を整えることで、素形材事業の下期実力損益の黒字化がみえてくる」

――中国など海外の自動車生産が増え、自動車のKD部品の輸出増も増えている。

「中国市場が好調で日系自動車だけでなく、中国系自動車も売れている。コロナ前から苦戦していた中国系のEVメーカーが販売を伸ばしている。当社の天津のアルミパネル工場は既存の車種向けに販売が増え、稼働率も順調に上がっている。アルミ鍛造サスペンションの製造拠点は日中米ともに堅調だ」

――中国の事業拠点の生産が増えている。

「線材二次加工メーカーは自動車生産台数の回復を受け、堅調だ。鞍鋼神鋼冷延高張力自動車鋼板は受注を徐々に積み上げている段階。建機の販売は前年よりプラスだ。一方で東南アジアの事業拠点は自動車生産が低迷しているが、下期では回復基調が鮮明となっている。建機の東南アジア市場はインドネシアが振るわない」

――21年度の需要・生産見通しは。

「自動車の回復を期待している。需要はコロナ禍前からジリジリと減少していたが、18―19年の中間程度には戻ってほしい。粗鋼生産は今年度下期の2倍の634万トンからもう少し上を狙う。需要は在庫の動向を注視しないといけない。アルミも自動車の動向に左右される。真岡製造所のアルミの新ラインは稼働し認証取得作業を進めている。加古川のハイテン鋼の新設備は予定通り来年2月に稼働を始め、いずれも認証取得後に戦力化していく」

――鉄とアルミの複合材などマルチマテリアルの採用の進展は。

「自動車の軽量化でアルミが採用されるが、ボンネットなどは接合が不要だが、ルーフやピラーは複合材になると接合が必要になる。お客様に開発段階から提案して検討していただいている段階だが、当社としては鉄とアルミの複合材としての部材を販売するのではなく、アルミのパネル材や鉄鋼の超ハイテン材それぞれが、構造部材に採用されるように提案していく」

――組織改編の効果は。

「各部署がいろいろな視点で物事を捉えるようになっているが、成果はこれから。自動車メーカーとの接点を一つにし、提案や技術的フィードバックを一括して行えるようになっている。例えば、鉄とアルミでは素材は異なるが、同じ圧延や鍛造を行っている。技術や設備の共有化を新しい発想でチャレンジしている。社内のものづくりのトップランナーの技術を共有することで実力の底上げにつながる」

――約200社のグループ会社の再編を今年幾つか実施した。再編を継続する考えだが。

「これで終わりということはなく、常に状況をみている。減らすばかりではなく、増やすこともある。グループ会社を効率的に運営するために数を減らすということと、事業展開において減らすあるいは増やすということに常に取り組んでいる」

――日本は2050年にカーボンニュートラルを目指している。道筋は。

「今の技術の延長戦ではなく、ステップを上げる技術がいくつか重なる必要があるのではないか。個社の力だけでは難しく、国家プロジェクトに参画していきたいと考えている。常に技術とコストの問題を抱えている。この問題の解消が最大のポイントとなるが、製鉄法への対策には大きく2つのフェーズがある。従来の製鉄所でCO2発生を削減する。水素という観点でCO2を発生させないという2つの観点だ。当社グループのミドレックス社とアルセロール・ミッタルとで共同開発を進めている水素還元による直接還元鉄製造は安価な水素をどう確保するかという課題はあるが、CO2削減に大いに貢献し得る技術である。積極的に取り組んでいきたい」(植木美知也)

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