2021年3月5日

「財務・経営戦略を聞く 神戸製鋼所専務 勝川四志彦氏」来年度通期黒字化へ 新中計テーマ CO2削減新技術磨く

 ――鉄鋼事業の利益が今年度下期に89億円の黒字と上期の404億円の赤字から大きく改善する予想だ。

 「自動車関係向けの需要が上期に大きく落ち込み、下期に急速に回復した。上期は生産台数減少の影響だけでなく、お客様が手持ち在庫を圧縮したため、実需以上に鋼材の発注が減少したと思われる。下期は実需が一定程度戻り、お客様は実需相当分に加え、在庫を積み増す分も発注されたようだ。出張自粛などにより販売管理費が予想以上に減少したことや、緊急収益改善の計画以上の進展もあり、下期の収益は大きく改善した。上期は減産による固定費の増加で製造コストが上がったが、第2四半期後半からの生産回復により製造コストは低下している。子会社の収益も数量の回復により概ね改善傾向にある」

 ――アルミ事業は下期の利益が9億円と上期の14億円の赤字からやはり改善する。

 「アルミ板は鉄鋼に比べると、コロナ禍の影響は数量面ではさほど大きくは受けておらず、巣ごもり需要で缶材向けは堅調に推移した。コストダウン活動の継続効果が確実に表れたことなどにより、収益は水面上に出ることができた。海外の事業会社は米国のアルミサスペンションと押出事業が上期に生産台数減の影響を受けたが急速に改善している」

 ――鋼材の販売価格の改善が徐々に進んでいる。

 「値上げを要請させていただいている。サステナブルな生産を継続していくには適切なマージンを得る必要があるが、まだ十分ではない。主原料価格が高騰し、副資材や物流費も上がっており、引き続き販価の改善をお願いさせていただく」

 ――東北の地震などによる自動車減産の影響は。来年度の需要をどう見通すか。

 「自動車メーカーや車種によって当社材シェアやアルミの採用率などが異なるため、影響を見極めきれておらず、現在精査中だ。今年度への影響が小さくとも3月後半から来年度以降の状況は注視する必要がある。仮に来年度は上期に生産台数が減るとしても、下期に取り返すと期待している。造船はコロナ禍の影響に関わらず状況が厳しい。航空機も足元厳しく、回復に時間を要する見込み。建設は地方都市の中小物件の建築が見合わせになっているが、物流倉庫案件などは改善してきており、徐々に回復するとみている」

 ――粗鋼生産は今年度下期予想が330万トン程度。来年度は660万トン程度に増える予想となるのか。

 「下期の粗鋼生産はお客様の在庫積み増し分があり、市場の実態より多いとみている。来年度の需要はもう少し見極めたい。半導体不足が顕在化するなど市場環境は急激に変化する。アルミ板の販売は下期160万㌧で今後も自動車でのアルミの採用増などで需要は増えていくとみており、市場の変化を注視する。銅板事業は半導体向けのリードフレームと自動車用の端子が主な用途で半導体需要の減少はみられないが、状況を注視していく。自動車用の端子は自動車生産に連動するため、堅調に推移するとみている。全社的には収益改善策を進め、設備の自動化、省人化にも継続して積極的に取り組み、来年度は通期黒字化を達成したい」

 ――海外の事業会社の状況は。

 「米国はプロテックで増強した設備が順調に立ち上がっており、来年度以降に効果を得ていく。北米の自動車市場は堅調で超ハイテン需要が増えるとみている。中国の鞍鋼神鋼冷延高張力自動車鋼板は中国現地メーカーのEV(電気自動車)生産が増加していくとみており、販売を増やしていきたい。天津のアルミパネル工場は稼働率が一時落ち込んだがこの半年で大きく改善し、足元も順調に数量を伸ばしている。北米のアルミサスペンション工場は設備トラブルや生産上の課題が徐々に解決し、来年度はさらに改善するだろう。生産も足元は回復している。タイのコベルコ・ミルコン・スチールはコロナ禍による自動車の大幅減産で打撃を受けたが生産台数は大きく回復しており、改善する見込みだ」

 ――今年度に行った組織改編の効果は。

 「例えば、鍛造品であれば、鉄鋼とアルミで共通部分があり、シナジーが見込める。仮に上工程の粗鍛造を鋳鍛鋼のラインで行い、仕上げをアルミ鍛造の大安製造所で行うことが可能となれば、製造の効率化を図ることでき、設備投資なしで能力を増強することができる。その他、加古川製鉄所と真岡製造所の間で安全面など意見交換を積極的に行っている。お客様からみても、ワンストップで対応できる組織に近くなった」

 ――事業会社の選択と集中について。

 「一旦は意思決定をしたコベルコマテリアル銅管の売却について、先方のコロナ禍の影響もあって見送った。売却については改めて仕切り直しとなり、足元は古河電工の銅管事業承継会社との間で、具体的な協業案を検討している」

 ――来年度に始める中期計画のテーマは。

 「黒字体質の確立は最大の課題だが、グリーン社会への貢献としてCO2排出削減も大きなテーマとなる。先般、還元鉄の高炉への多量装入によるCO2削減の新たな技術の確立を公表した。実証試験に成功したが、この技術をブラッシュアップしなければならない。1年以内には技術をより高めてコストを下げていきたい。原材料や操業法などいろいろと可能性はある。水素還元は安価で安定的に大量の水素供給が可能な社会インフラの整備が重要となる。CO2排出削減や働き方変革などにより新市場の急速な広がりが想定され、変化を捉えられるよう積極的に取り組んでいく。例えば、EV化による軽量化ニーズに対応し、超ハイテンやアルミ材の需要は増えるとみている。線材は電動化によってエンジン向けの弁ばねの需要が縮小するが、留め具などのファスナー部品は増える。また、アルミ板材のクローズドループリサイクルは世界的な流れで国内外の自動車メーカーの関心も高く、必然となっていく動きと感じている。リサイクル使用の開発は始まったばかりだが、リサイクルシステムの構築は進むとみている。社会課題の解決に臨み、新技術・製品・サービスを開発、確立していくことがKOBELCOグループの使命だと考えている」

(植木 美知也)

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