2020年9月9日

「静脈産業の新潮流 サーキュラー・エコノミー」資源循環にコストの壁 社会全体で負担を

 世界経済がサーキュラー・エコノミー(循環経済)にかじを切った。近年多発する気象災害などを受け、温室効果ガスの排出増につながる一次資源に依存する経済構造からの脱却を求める動きが強まっているためだ。アフターコロナの日本経済。静脈産業の新潮流に乗って資源循環体制を構築し、日本独自のモデルを世界に発信する。

 「これからはモノを生産して動脈で出す線形経済ではなく、丸になる循環経済を目指す」。7月28日の環境省会議室。デジタル技術を活用した資源循環プロジェクトの記者会見で、佐藤ゆかり環境副大臣が日本経済の針路を示した。

 静脈産業に新しい潮流が起きる。環境省が目指すのは使用済製品の性能や金属含有量など資源循環に役立つさまざまな情報を共有できるプラットフォームの構築だ。メーカーなどの製造事業者、製品使用者・排出事業者、廃棄物処理・リサイクル事業者、素材事業者などリサイクルを担う主体間をデジタル技術で連携させれば、効率的な資源循環ができるとみている。

 最初に2021年度から将来大量廃棄を迎える太陽光パネルの分野で、回収からリサイクルまでの一連の過程に情報システムを導入する実証を始める。工場排出物の管理情報を一元化しリサイクル事業者と素材事業者などとのコミュニケーションを促進する実証も行う。金属リサイクルや使用済車載電池の分野でもデジタル技術を活用した実証に取り組む考えだ。

 「先進国でも使い終わったモノは捨てるという認識の国は多い。低コストで効率良く循環させる静脈物流を定着させることができれば新たな循環経済モデルとして日本から世界に発信できる」と佐藤副大臣は意気込む。

 民間レベルでも急速に循環経済への移行が進む。

 「金属を含めたあらゆる資材にリサイクル原料を使っていくようになる。すでにあるメーカーから供給する銅を全てリサイクル品にしてほしいという要求が出てきている」。昨年12月に千葉市の幕張メッセで行われた高機能金属展。当時三菱マテリアルの副社長だった飯田修氏が特別講演で話した内容が今のトレンドを物語る。

 資源採掘から製錬までの工程を省けるのがリサイクル原料の強み。活用が進めば地球温暖化の原因とされる二酸化炭素の排出削減につながる。そして日本の静脈産業は次のステージへ向かおうとしている。キーワードは水平リサイクルだ。

 JR東海の新幹線新型式車両N700S。荷棚材には新幹線の廃車両から選別・抽出した再生アルミが採用された。高速鉄道のアルミ水平リサイクルの実現は世界で初めて。リサイクル大手のハリタ金属(富山県)や三協立山などの技術が生かされた。非鉄製錬メーカーなどはリチウムイオンなど充電式電池から回収したレアメタルを再び電池に使う技術開発を進める。

 さまざまな分野で水平リサイクルへの取り組みが加速する。だが日本モデルの資源循環体制の確立には解決すべき課題は多い。

 「今一番問題になっているのがプラスチック」と前の環境省環境再生・資源循環局長、山本昌宏氏(現水・大気環境局長)は指摘する。日本には容器包装リサイクル法や自動車リサイクル法、小型家電および家電リサイクル法などが整備されている。これらの法制度の中である程度はカバーされるが、「その枠組みに入らないプラスチックを個別の物品ごとにリサイクルするには限界がある」(山本氏)。

 日本が本格的な循環経済に移行するにはプラスチック問題は避けて通れない。政府は昨年5月にプラスチック資源循環戦略をまとめた。35年までに全ての使用済プラスチックをリユースまたはリサイクルする。技術や経済面で困難な場合には熱回収も含めて100%有効利用することなどを盛り込んだ。

 環境省と経済産業省の合同会合では資源循環戦略の目標を達成するための具体策を検討。家庭部門の分別徹底や再生材やバイオマスプラスチックへの代替促進、リユース・リサイクル可能な製品設計などさまざまな取り組みを進める方針だ。

 これら供給サイドの施策と並行して、リサイクル原料の需要サイドの課題解決も進める必要がある。

 環境省と経産省の合同会合に出席した委員の1人から「コストが課題。(再生材などの)市場を創るにはグリーン購入など国の支えが重要になる」との指摘があった。例えばレアメタル。技術的にはリサイクルが可能でも採算が合わず未回収のまま廃棄される元素は多い。プラスチックも事情は同じ。最近ではリサイクル現場での廃棄物処分費の高騰などが不法投棄を招き、日本の資源循環体制を崩壊させかねない問題としてクローズアップされている。

 これらの課題を解決する糸口は「サプライチェーン全体でコストを平等に負担する仕組み」と北陸地区の非鉄金属リサイクル大手、クルマ商事の車啓三社長は指摘する。声はリサイクル現場だけに留まらない。化学業界トップも同じ見解を示す。昭和電工の森川宏平社長は5月下旬、日本化学工業協会の会長就任会見で「コストを社会全体で環境価値として認めていく社会システムの構築が必要」と語った。静脈産業の新潮流に乗ってコストの壁を越えた先に、日本独自の資源循環モデルが待っている。

(増田 正則)

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