2022年9月2日

財務・経営戦略を聞く/日本製鉄副社長/森高弘氏/コスト変動を早期反映/製品・サービス価値も継続訴求

――上期の販売価格の改善活動をどう受け止めているか。

 「紐付き価格については先決め方式を採用し、4月以降の価格は3月までに決めたが、価格決着後に原料炭を中心に原料価格の高騰と急激な円安が進行した。お客様のうち5割強がクオーター(四半期)商談に移行しており、クオーター契約のお客様はこの外部コストの上昇を第2四半期の価格にすでに反映している。半期契約のお客様についてはこの外部コストの上昇を下期の販価に反映する」

 ――第2四半期にマージンが前期比600億円のマイナスとなる予想。コスト上昇分を反映しきれない。

 「輸出店売り分野のマージンが第2四半期にボトムとなる。海外市況の下落に加え、原料価格も原料炭価格の高騰した第1四半期契約分がキャリーオーバーで主に第2四半期に入荷するためにマージンを圧迫する。紐付き契約は4月から先決め方式に移行しており、クオーター契約のお客様は第2四半期で外部コスト上昇分を反映したが、半期契約のお客様については下期価格まで反映できないため、マージンが損なわれている。下期契約で販価の高さは改善できるが、上期に損なわれた面積分のマージンは年度としても失われるので年度対比でもマイナスになる。商慣習を見直し、契約期間の短縮をお願いするなどお客様の事情も踏まえてコスト変動をタイムリーに反映できる仕組みを目指している」

 ――原料炭価格が第2四半期に下落した。鉄鉱石含め価格の水準はなお高いが、下期の販価の考え方は。

 「業績見通し上は厳しめの前提を置いており、輸出市況品の分野はボトムとなった第2四半期のスプレッドが下期も変わらない前提でみている。紐付き向けの半期契約は上期の価格決着後の外部コスト上昇分について上げることになり、加えて製品・ソリューションの価値も認めていただくため、相当な上げ幅となる。原料炭価格は脱炭素化の中で炭鉱の開発が進まず構造的に高止まりしやすい。ロシア・ウクライナ情勢が続き、原油・LNG価格や物流費、資材費は上昇傾向。円安も加わりコストは上昇していく。また第4四半期には天候要因による供給ネックで原料価格が上がる傾向がある。こうした外部コストの変動を販価に適切かつタイムリーに反映していかなければならない」

 ――下期に向けて各事業の利益改善を見込むが、年度は1381億円の減益となる。

 「年度対比は在庫評価差がマイナス480億円あり、実力ベースは年度で900億円の減益となる。事業別には、本体国内製鉄事業の事業利益は通期で前年より1240億円減少する予想で減益の主因だ。このうち数量減少のマイナス影響が1100億円と大半を占め、マージン悪化でマイナスの700億円。外部コスト上昇によって上期に悪化した紐付きマージンが下期に向けて改善していく。この改善には、外部コストの反映だけでなく、製品・ソリューションの価値の反映も含まれることになる。コストは500億円改善していく。本体海外事業は、G/GJスチールの連結開始などプラス要因もあるが、前年度の一過性利益の剥落や市況下落等により前年度より250億円のマイナスとなる。これを原料高騰を背景とした原料権益や鉄グループ会社・非鉄三社等の増益で補う。鉄グループ会社の中で利益が大きく改善するのは日鉄ステンレスだ。サーチャージ制を採用して原料価格を販価に反映しているが期ずれもあり、下期に大きく回復する。普通鋼電炉も原料価格の低下で業績が好転する。非鉄3社はそれぞれ事情が異なり、エンジニアリングは再エネ関連や廃棄物発電など受注が多く、増収増益が見込める。ケミカル&マテリアルは原材料価格が上がり製品価格を上げて増収になるが、化学品の市況が一時期より鎮静化し若干の減益となる。システムソリューションは成長に向けた人材投資が影響し増益幅は小幅にはなるが、将来の業績拡大が期待される」

 ――本体国内製鉄事業をみると22年度の実力ベースの利益予想は1200億円と前年から半減する。中計目標の25年度2500億円に向けて利益をどう改善していくのか。

 「中計目標達成に向けて22年度から1300億円ほど改善する必要があるが、半分は生産設備構造対策効果で600億円を見込む。構造対策効果は中計全体で1500億円、そのうち21―22年度で900億円を予定している。マージンについて今年度は紐付き向けで外部コスト上昇を反映できていない時期があるので適切な反映に努める。また注文構成の高度化が進む。電磁鋼板含め23年度から24年度の上期にかけてフルアップしてくる設備が多く、収益に大きく貢献してくる。また、前提差だが為替レートの差も大きく影響している。中長期計画は対ドル100円を前提としているが、22年度は上期130円強とみているのでその分足元の収益が悪くなっている」

 ――23年度にカーボンニュートラルスチールの販売を開始する。

 「価格やどう販売していくかなど詳細を検討しており、お客様にいち早く供給を開始するためにマスバランス方式の採用を検討している。お客様の競争力を高めることになり、ニーズに早期に応えていく。販売量が限られるので、まずはニーズの高い分野向けに供給することになる」

 ――本体国内製鉄事業以外の本体海外事業、鉄グループ会社、原料権益、非鉄3社の利益は22年度に中計目標を超える見通しだ。

 「中計は極めて厳しい事業環境を想定し、それでも実力の連結事業利益6000億円を確保する目標だが、あくまでミニマムの目標。本体海外事業や鉄グループ会社などいずれも中計の目標より上を狙う。ただし、海外事業や原料権益は為替の影響、原料権益は原料価格の影響を大きく受けることになる」

 ――下期も厳しめにみて単独の粗鋼生産は上期、下期に各1750万トンを計画しているが、下期の需要回復の期待は。

 「中国の経済成長の減速が表面化し、ロックダウン解除後もサプライチェーンの正常化の見通しは不透明だ。インフレ懸念で各国が金融引き締めを行い、世界経済全体の減速も懸念される。日本は円安による貿易収支の悪化が悪影響を与え、鋼材需要の回復が遅れる可能性がある。下期は読みにくい状況だが、鋼材需要や鋼材市況など足元の厳しい事業環境が下期以降も継続する前提でも、2023年3月期に連結事業利益8000億円、実力ベースで6000億円を確保できるとみて予想を公表した」

 「ただ、中国含め各国とも鋼材市場は雨季やモンスーンなど不需要期の只中にあり、今が需要のボトムと言え、今後の回復が期待できる。中国は政府が6月以降に発動している景気対策の効果が徐々に発現してくる可能性がある。中国の粗鋼生産も6月中旬以降大きく減少している。国内は造船や建機・産機、建設分野は底堅い。土木は資材高騰で発注が遅れているが、建築は設備投資が増え、再開発案件も進んでいる。自動車の動向は依然不透明だが、年内には回復してほしいと思う。為替レートは変動するものの当社が下期に前提としている140円には届いていない。原料炭価格は低下傾向にあり、事業環境が改善に向かう可能性はあるとみている」

 ――買収したタイの電炉2社のG/GJスチールの業績が第1四半期から加わった。

 「第1四半期に2社合計で33万トンほど生産し、EBITDAで12億バーツ(約45億円)を計上した。第2四半期も33万トンで12億バーツ強と利益をあげている。第3四半期は雨季の不需要期だが需要は段階的に回復していくとみている」

 ――印AM/NSインディアや米AM/NSカルバートの増強の進ちょくは。

 「インドはモンスーンと輸出関税の影響で市場が足元やや軟調だが、年間ベースでは高い経済成長率が想定され、AM/NSインディアは今年度も海外事業の収益の大きな柱として期待している。西部の既存のハジラ製鉄所の粗鋼生産能力を現状の800万トンから1400万トン以上に拡張しようとしている。これは、上工程から一貫での増強となり、完成後の従業員の確保を含め検討することが多い。合わせて東部に新製鉄所の建設を計画している。カルバートの電炉導入も順調に進めている。今はインドの能力増強にかなり戦力を割いているが、グローバル粗鋼1億トンに向けて他の買収先についてのリサーチも継続して進めている」(植木 美知也)

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