2022年9月7日

鉄鋼業界で働く/女性所長編/インタビュー/変わる時代、未来に期待

特殊鋼流通の南海モルディ(旧南海鋼材、本社=堺市堺区、福原千里社長)では、広島事業所(所在地=広島市安芸区)で増田厚子さんが所長として活躍している。同社で女性社員が所長を務めるのは増田さんが初で、同社の女性営業職第1号として自動車部品メーカー向けを担当した経歴も持つ。前例のない挑戦を続ける増田さんに、入社の経緯やこれまでの業務内容、女性が働くことへの思い、今後の目標を聞いた。

――入社までは。

「前職は電機メーカーで秘書業務をしていました。寿退社後、息子と娘を出産。娘が幼稚園に通い出して自分の時間に余裕ができた頃、働きたいと思い求人を探しました。子供といる時間を大切にしたくて、当初はパートタイマーで入社しました」

――入社時は。

「当初はパソコンのデータ入力や受発注の伝票作成などを行っていました。しばらく経った2002年に正社員へ転換し、事務に加え営業アシスタントも担当するようになりました」

――その後営業に。

「前社長からの要請で11年に営業担当になり、自動車部品メーカー向けを受け持つことになりました。目まぐるしく時が過ぎて行ったのを覚えています。電話対応をしていたお客さまと直接お会いして自分で営業活動を行えるようになったのが楽しかったですね。いろいろなお客さまにお会いできて充実感がありました」

――良かったことを。

「当時は広島営業所に女性営業職がおらず、社内でも1人目でした。取引先にも全然いなくて、営業としてお手本のいない状態でゼロからのスタート。お客さまに図面の見方ひとつから、金型の仕組みまでたくさんの知識を教えてもらいました。工場も見学し、お客さまの現場で学ばせていただきましたね」

――客先から学んだ。

「『これ出来るかな?』と図面を差し出され、分からないにも関わらず『やってみたいです!』と即答、迅速に見積りし受注につなげたことも。そんな繰り返しでどんどん受注が増えていき手応えを感じました。少しずつ成長するにつれ、自分らしく個性を発揮し、女性としてきめ細やかな対応ができる営業職を目指すように。お客さまにお会いしてニーズを提案し、採用され受注につながった時、喜びを感じますね」

――大変なことを。

「トラブルがあった時は辛いですね。お客さまから厳しいお言葉を受けることもありますし、『男性も女性も関係ないから』と、女性だからって特別扱いしない旨を仰ってくださり、逃げずに向き合って解決策を練り対応を続けたことも。しばらく関係を続けるうち、『あなた頑張っているね』と声を掛けていただけるようになり、認めてもらえたようでうれしかったです」

――所長に就任した。

「15年に就任以降、営業業務は減りましたが、今も一部を担当しています。1社1社に思い入れがあったので、就任を機に担当企業と離れるのは寂しかったです。所長業務も魅力はありますが、全体を把握して行動することは責任が重いです。今は社員とのコミュニケーションを大事にし、意見の言いやすい雰囲気づくり、働きやすい環境づくりを目指していますね。各自が持つ能力を発揮できるよう、やってみたい業務や得意分野を聞くように心掛けています。事業所メンバー12人でのチームワークを大切にしています」

――現在の状況を。

「新型コロナウイルスの影響で訪問営業や新規開拓ができなくなって、焦りがあります。ウェブミーティングが活発化していますが、うまく活用してスピード感を持った提案をするなど、対面以外での営業の成果について考えていかないとなと思っています」

――女性が働くことについて。

「女性営業職を育成したくて、過去に採用したことがありました。優秀な方だったのですが、結婚して通えない距離へ転居され退職。やる気に満ちていて『新幹線通勤で働きたい』と仰ってくれたのですけど、結局人材が結婚で流れていくことになり、残念でしたね。現在は男性営業職が入社し教育しているところですが、今後また応募してくれる女性がいらっしゃれば、ぜひ育てたいです」

――業界への思いを。

「まだ男性社会のイメージが持たれていますが、若者や女性の活躍が脚光を浴びたらいいなと思いますね。奥深いものづくりに携わる身として、発信もできたらと思います。いつか女性目線による新たな製品が生まれるかもしれませんしね」

――女性に増えてほしいか。

「広島事業所は女性社員が多いこともあって、加工管理や設計などさまざまな業務を女性が担当しています。また子育て中の社員もいます。私自身が女性で経験者ということもあって大変さが理解できるので、この業界で働きたい女性を応援したいです。リタイアせずに頑張ってほしいですね」

――今後の目標を。

「営業職と所長登用の機会を与えてくださった前社長にとても感謝しています。経験値を積むことでスキルアップし、振り返ると成長している自分がいました。改めて出会えた方々に感謝の気持ちでいっぱいです。時代がどんどん変わっているので、常にアンテナを立ててニーズをキャッチしながら挑戦していくつもりです。現在は広島事業所の新社屋建設プロジェクトが始まっています。9月1日からは社名が南海モルディに変わり、社長も交代しました。未来がどうなるか、わくわくしています」

(芦田 彩)



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