2022年8月23日

鉄鋼業界で働く/女性工場長編/インタビュー/経験と発想融合できたら

幼稚園教諭からものづくりの世界へ――。建設機械や部品の製造を行う二川工業製作所(本社=兵庫県加古川市、二川昌也社長)神戸工場の中西麗子さんが、工場長として工場全体をまとめあげている。全く違う業界へ飛び込んだ中西さんに、これまでの業務内容、今後の目標などについて聞いた。

――入社までは。

「もともと私立幼稚園の教諭をしており、結婚を機に兵庫県加古川市へ転居しました。同市には私立幼稚園が非常に少なく、ハローワークに行ってみると製造業の求人がたくさんあり、ものづくりの街だと知りました。せっかくなら私も1度体験してみたいと思い、派遣社員として給湯器の組み立てに2年間従事。やりがいや面白さを感じ、次は正社員として工場で働こうと、二川工業製作所に応募しました」

――求人で気になった点が。

「やりがいのある製造業を探していて現在の勤務先にたどりついたのですが、求人情報に『女性活躍中』『正社員』とともに『26歳まで』と書かれていたのが気にかかりました。当時の私は30歳。建機のパーツを作るのに年齢は関係あるのか?と疑問に感じたんです。直接電話し問い合わせたら、当時働いていた方が26歳くらいまでだという理由でお断りされました。『4歳上だけど面接してほしい』とお願いし、面接にたどり着きました。家庭があり子育てもしている身で、今思えばずうずうしいかもしれませんが…」

――その後は。

「当時の工場長(現社長)が面接をしてくださりました。ものづくりが好きで、個を大事にする考えの方でして、応募したきっかけをいろいろ聞いてくださいました。入社が決まり、二見工場で勤務することに。ショベルカーの作動油タンクの製作担当から始めました」

――驚いたことを。

「給湯器を組み立てていた時は、一般家庭にあるものだったので役に立っていると感じる点が多かったです。また男女ともに多い職場で、服装も軽い作業着にエプロンとサンバイザーを付けていればOKでした。二川工業製作所に来てからは、物の大きさや重量感が想像以上でびっくり。服装もヘルメットに作業着、安全靴と全然違いました」

――大変なことは。

「天井クレーンで100―300キロの作動油タンクを移動させたり、タンク内部の組付け作業や洗浄をしたり、金属塗装を行ったり、多様な業務があります。中でもタンクの塗装は、技術に加え美観も求められるので大変ですね。ムラなく均一に塗るのはもちろん、気泡も入ってはいけません。タンクの形状がそれぞれ違うので、いかにそのタンクをきれいに塗るか考えていました。日本は四季に加え梅雨もあるので、その時々にあったシンナーで希釈し工夫します。大変ですが面白いですよ」

――良かったことを。

「われわれが作っている建機は、建設・解体だけでなく、災害時にも使われています。人々の救助などに役立てていると思うと、うれしく思います。また『他の人ができることなら私もできる』と思い、玉掛けやフォークリフトの免許を取得し、男性に混じって組み立てに関する一通りの仕事を担当。12年の間に、組み立て工程の作業長まで経験できました」

――2019年、神戸工場長に。

「神戸工場の操業開始前に、品質保証課係長と業務管理課課長を経験。全体の流れや管理を学びました。その後、二見工場で半年ほど副工場として経験を積んだ上で、立ち上げから関わりました。19年に工場長に就任し、作る側からマネジメントする立場に。経験を生かしながら、できるだけ皆さんが働きやすいよう方向性を示すことを心がけています」

――女性が働くことについて。

「工場には主婦の方や子育て中の女性が在籍しています。基本は昼夜勤制ですが、時短勤務や日勤のみなど、家庭環境に合わせて勤務形態を選ばれていますね。皆さんパワフルに働かれているのが印象的です。女性が働くことで、女性活躍推進はもちろん、人材確保にもつながればいいですね」

――業界に女性が増えてほしいか。

「増えてほしいです。社長がよく『男性目線と女性目線の共存が必要』と仰るんです。ちょっとしたところに気が付く女性の視点も大切だと。組み立ては女性でもできますし、育休や産休など女性も働きやすい環境をしっかり整えていきたいです。男性にしかできない部分もありますが、女性ができる部分は女性にぜひ活躍していただきたいです」

――業界への思いを。

「鉄に関わる製造業は、昔に比べるとだいぶ変わりましたが、良い意味で“職人"と呼ばれる方が多いです。受け継がれている経験と若い人材の新鮮な発想力を合わせたら、より良い効果があると思うんです。うまく融合できる業界になればなと。ものづくりに対する正しいアプローチは1つに絞らず、複数あってもいいのではないでしょうか。鉄そのものも、いろんなものから形成されていますから」

――今後の目標は。

「工場長に就任してまだ4年目なので、工場の運営や管理についてもっと学んでいきたいです。また、神戸工場の敷地には3600平方メートルの工場棟が1つ建っているのですが、同じサイズの工場棟がもう1つ建てられる分の土地があるんです。既存のお客さまからの注文を安定的に受けつつ、新しい仕事も展開したいですね。その時のめぐりあいで何でも関わってみたいです」

(芦田 彩)



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