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2024.11.5
2022年11月25日
財務・経営戦略を聞く/日本製鉄副社長/森高弘氏/利益上振れ 体質強化の証/カーボンニュートラル鋼 いち早く提供
――厳しい市場環境の中で2023年3月期の連結事業利益予想を8700億円と前回予想から700億円上方修正した。
「製鉄事業の利益は、前回予想に比べて数量が減少し、生産・出荷が300億円のマイナスとなる。国内は自動車の影響が大きい。半導体不足やサプライチェーンの混乱がある程度正常化するとみていたが思った以上に遅れている。ASEANやアジアで鋼材市況が下がり、輸出の採算が悪化している。採算が合わない出荷は控えざるを得ず、輸出を絞っている。マージンは販売価格の適正化を進める中、鉄鉱石中心に原料価格が少し下がったことが奏功し、前回から400億円プラスとなる。本体海外事業は各社の自助努力で収益対策を進めているが、鋼材市況が下落し事業環境が特に汎用品の分野で悪化し、100億円下方修正した。一方で鉄グループ会社は前回予想から400億円プラスとなり、特にステンレスと電炉が改善している。スクラップ価格が落ち着いたこともあるが、安価原料を使用する自助努力が効き、マージンが改善している。収益力向上についてはこの10年の再編統合や設備集約を通じて体質を強化している。集中生産とマージン改善がグループ全体に浸透してきた」
――数量に頼らず実力ベースの連結事業利益6000億円以上を確保する収益体質を構築したと言えるか。
「厳しい事業環境の中でも実力ベースの連結事業利益6300億円の通期予想を発表することができた。強い収益構造を構築でき、アジアの有力鉄鋼メーカーと比較しても収益力は相当強くなったと考えている。6300億円のうち主力の本体製鉄事業が、連結全体の利益からみて小さいが、これだけ数量が落ち込めば従来なら大きな赤字になっていたところを、前回予想から100億円上方修正して1300億円の利益を確保する見通しだ。上期の450億円が下期に850億円に増える見通しであり、体質強化が進んでいることの証だ」
――為替の円安の収益影響は。
「連結でみた場合、円安の損益への影響は、ほぼニュートラルか若干のプラスという程度。海外の関係会社の利益を円換算する際に評価益が出るが、本体国内製鉄事業の外貨バランスは輸入超過であり、円安はマイナスに効くので望ましくない。下期の為替予想を150円と前回予想時の140円から変更したが、連結についてさほど影響はないものの、本体の製鉄事業は7―9月期で18億ドルの入超であり、半期で36億ドルとなるので10円の円安となれば360億円ほどマイナスに効くことになる。ある程度の為替水準を決めて製品価格に転嫁しようとしており、お客様とも議論しているが、円安がかなり速く進み、マイナスの影響を受けてしまう。この部分についても製品価格への転嫁についてお客さまと議論をさせていただいている」
――原料価格は上期の高い水準からは落ち着いたが。
「中国の経済減速を受けて原料価格は軟化している。下期の鉄鉱石の価格は足元の横ばいの前提。原料炭価格も本来であれば同様に下がるはずだが、実際にはまた高くなっている。原料炭価格については第4四半期に生産国での季節的要因などによる価格の一段の上昇をリスクとして織り込んでいる」
――単独粗鋼生産の通期予想は3400万トンと下方修正し、下期は上期と同等の1700万トンを予想した。
「需要は下期の方が季節的に高くなり、自動車生産も下期に増える傾向にあるが、今年はサプライチェーンの回復が遅れ、需要の好転を予想するのは難しい。海外、特にアジアは鋼材市況の下落で輸出の採算は厳しく、輸出は上期と同程度でみている」
――下期も販価の改善を続け、商慣習の見直しも進めている。
「下期はすでに価格を決め、目指す水準に届いているが、その後も原料価格は高止まりし、円安が進行しており、市場の動向を注視している。商慣習、特に契約期間の短期化はお客様ごとに異なる事情を踏まえながら提案・協議しており、一律に実施するものではないが、合理性や妥当性についての理解がかなりのところまで進んでいる」
――高級鋼を製造する広畑地区の新電気炉が10月に商業生産を開始した。
「生産能力は年70万トンで来年度の上期にフルアップを予定している。広畑地区の電磁鋼板の製造能力を増強しているので主に電磁鋼板の製造に活用する」
――カーボンニュートラル・スチールとしてのNSカーボレックス・ニュートラルに加えて今回、新ブランドのNSカーボレックス・ソリューションを立ち上げた。
「鉄鋼製造工程のプロセスでCO2排出を削減して製造した鉄鋼製品、NSカーボレックス・ニュートラルの販売を来年度上期に開始する。年率30万トンから始め、CO2排出量の削減に応じて販売を増やしていく。排出権取引は活用しない。排出権取引は世の中のCO2排出そのものが減るわけではなく、排出権を購入することで見掛けだけ削減したことになる。自社のCO2排出を実際に削減するNSカーボレックス・ニュートラルとは本質的に異なっている。脱炭素鋼に対するお客様のニーズは高く、マスバランス方式を採用していち早く提供する。NSカーボレックス・ソリューションはお客様のものづくりの過程でのCO2削減、お客様の製品が社会で使用される際のCO2削減、カーボンニュートラル社会の実現に向けた社会のエネルギー転換への貢献の3つの視点で価値提供に取り組む」
――需要が振るわない中で高付加価値品の製品供給が増えている。電気自動車の普及拡大も将来見込まれ、注文構成高度化がかなり進むのでは。
「投資案件でいえば、広畑地区や八幡地区での電磁鋼板の能力増強は24年度上期にフルアップし、名古屋製鉄所の次世代熱延ラインが26年度に稼働を始め本格的に立ち上がれば注文構成高度化は大きく進展する。無方向性電磁鋼板の増強を計画通り進めているが、市場拡大の状況次第では電磁鋼板の供給が不足する可能性があるので、さらなる能力増強を検討している。大きな設備投資を行わない中でも高耐食性めっき鋼板やGA鋼板、スーパーハイエンドシームレス鋼管など高付加価値品の数量は確実に増えている」
――買収したタイ電炉のG/GJスチールは収益が悪化しているが今後の課題は。AM/NSインディアは収益を確保し、さらに能力増強を決めた。
「高付加価値品の市場は比較的堅調だが、G・GJスチールが製造・販売する汎用品市場は足元相当厳しい状況にある。こうした汎用品市場向けには、需要変動に対応した機敏な生産調整、マージンコントロールを徹底する。鉄スクラップの調達含め我々のノウハウを投入して改善していく。もう一つは生産性と品質の改善だ。タイの事業会社のNS―SUSの技術を活かし、現場レベルで改善活動をきめ細かく行っており、大きな効果が上がると考えている」
「AM/NSインディアは26年までにハジラ製鉄所の粗鋼能力を1500万トン規模に引き上げる。高炉・転炉法の採用で迅速かつ確実に立ち上げる予定だ。販売は成長を続ける国内需要向けを前提としており、東部オリッサ州での新製鉄所の建設、ハジラ地区でのさらなる拡張などを検討している」。
――世界的な景気後退が懸念されている。少し早いが、23年度の鉄鋼市場をどう見通すか。
「検討を始めたところでまだ見方を固めてはいない。世界鉄鋼協会は23年の鋼材需要について日本は前年から2%弱の増加、ASEANは6%増、インドは7%弱増加すると予想している。当社としては楽観的な見方はせず、より厳しい事態に備えなければならないと考えている」(植木 美知也)
「製鉄事業の利益は、前回予想に比べて数量が減少し、生産・出荷が300億円のマイナスとなる。国内は自動車の影響が大きい。半導体不足やサプライチェーンの混乱がある程度正常化するとみていたが思った以上に遅れている。ASEANやアジアで鋼材市況が下がり、輸出の採算が悪化している。採算が合わない出荷は控えざるを得ず、輸出を絞っている。マージンは販売価格の適正化を進める中、鉄鉱石中心に原料価格が少し下がったことが奏功し、前回から400億円プラスとなる。本体海外事業は各社の自助努力で収益対策を進めているが、鋼材市況が下落し事業環境が特に汎用品の分野で悪化し、100億円下方修正した。一方で鉄グループ会社は前回予想から400億円プラスとなり、特にステンレスと電炉が改善している。スクラップ価格が落ち着いたこともあるが、安価原料を使用する自助努力が効き、マージンが改善している。収益力向上についてはこの10年の再編統合や設備集約を通じて体質を強化している。集中生産とマージン改善がグループ全体に浸透してきた」
――数量に頼らず実力ベースの連結事業利益6000億円以上を確保する収益体質を構築したと言えるか。
「厳しい事業環境の中でも実力ベースの連結事業利益6300億円の通期予想を発表することができた。強い収益構造を構築でき、アジアの有力鉄鋼メーカーと比較しても収益力は相当強くなったと考えている。6300億円のうち主力の本体製鉄事業が、連結全体の利益からみて小さいが、これだけ数量が落ち込めば従来なら大きな赤字になっていたところを、前回予想から100億円上方修正して1300億円の利益を確保する見通しだ。上期の450億円が下期に850億円に増える見通しであり、体質強化が進んでいることの証だ」
――為替の円安の収益影響は。
「連結でみた場合、円安の損益への影響は、ほぼニュートラルか若干のプラスという程度。海外の関係会社の利益を円換算する際に評価益が出るが、本体国内製鉄事業の外貨バランスは輸入超過であり、円安はマイナスに効くので望ましくない。下期の為替予想を150円と前回予想時の140円から変更したが、連結についてさほど影響はないものの、本体の製鉄事業は7―9月期で18億ドルの入超であり、半期で36億ドルとなるので10円の円安となれば360億円ほどマイナスに効くことになる。ある程度の為替水準を決めて製品価格に転嫁しようとしており、お客様とも議論しているが、円安がかなり速く進み、マイナスの影響を受けてしまう。この部分についても製品価格への転嫁についてお客さまと議論をさせていただいている」
――原料価格は上期の高い水準からは落ち着いたが。
「中国の経済減速を受けて原料価格は軟化している。下期の鉄鉱石の価格は足元の横ばいの前提。原料炭価格も本来であれば同様に下がるはずだが、実際にはまた高くなっている。原料炭価格については第4四半期に生産国での季節的要因などによる価格の一段の上昇をリスクとして織り込んでいる」
――単独粗鋼生産の通期予想は3400万トンと下方修正し、下期は上期と同等の1700万トンを予想した。
「需要は下期の方が季節的に高くなり、自動車生産も下期に増える傾向にあるが、今年はサプライチェーンの回復が遅れ、需要の好転を予想するのは難しい。海外、特にアジアは鋼材市況の下落で輸出の採算は厳しく、輸出は上期と同程度でみている」
――下期も販価の改善を続け、商慣習の見直しも進めている。
「下期はすでに価格を決め、目指す水準に届いているが、その後も原料価格は高止まりし、円安が進行しており、市場の動向を注視している。商慣習、特に契約期間の短期化はお客様ごとに異なる事情を踏まえながら提案・協議しており、一律に実施するものではないが、合理性や妥当性についての理解がかなりのところまで進んでいる」
――高級鋼を製造する広畑地区の新電気炉が10月に商業生産を開始した。
「生産能力は年70万トンで来年度の上期にフルアップを予定している。広畑地区の電磁鋼板の製造能力を増強しているので主に電磁鋼板の製造に活用する」
――カーボンニュートラル・スチールとしてのNSカーボレックス・ニュートラルに加えて今回、新ブランドのNSカーボレックス・ソリューションを立ち上げた。
「鉄鋼製造工程のプロセスでCO2排出を削減して製造した鉄鋼製品、NSカーボレックス・ニュートラルの販売を来年度上期に開始する。年率30万トンから始め、CO2排出量の削減に応じて販売を増やしていく。排出権取引は活用しない。排出権取引は世の中のCO2排出そのものが減るわけではなく、排出権を購入することで見掛けだけ削減したことになる。自社のCO2排出を実際に削減するNSカーボレックス・ニュートラルとは本質的に異なっている。脱炭素鋼に対するお客様のニーズは高く、マスバランス方式を採用していち早く提供する。NSカーボレックス・ソリューションはお客様のものづくりの過程でのCO2削減、お客様の製品が社会で使用される際のCO2削減、カーボンニュートラル社会の実現に向けた社会のエネルギー転換への貢献の3つの視点で価値提供に取り組む」
――需要が振るわない中で高付加価値品の製品供給が増えている。電気自動車の普及拡大も将来見込まれ、注文構成高度化がかなり進むのでは。
「投資案件でいえば、広畑地区や八幡地区での電磁鋼板の能力増強は24年度上期にフルアップし、名古屋製鉄所の次世代熱延ラインが26年度に稼働を始め本格的に立ち上がれば注文構成高度化は大きく進展する。無方向性電磁鋼板の増強を計画通り進めているが、市場拡大の状況次第では電磁鋼板の供給が不足する可能性があるので、さらなる能力増強を検討している。大きな設備投資を行わない中でも高耐食性めっき鋼板やGA鋼板、スーパーハイエンドシームレス鋼管など高付加価値品の数量は確実に増えている」
――買収したタイ電炉のG/GJスチールは収益が悪化しているが今後の課題は。AM/NSインディアは収益を確保し、さらに能力増強を決めた。
「高付加価値品の市場は比較的堅調だが、G・GJスチールが製造・販売する汎用品市場は足元相当厳しい状況にある。こうした汎用品市場向けには、需要変動に対応した機敏な生産調整、マージンコントロールを徹底する。鉄スクラップの調達含め我々のノウハウを投入して改善していく。もう一つは生産性と品質の改善だ。タイの事業会社のNS―SUSの技術を活かし、現場レベルで改善活動をきめ細かく行っており、大きな効果が上がると考えている」
「AM/NSインディアは26年までにハジラ製鉄所の粗鋼能力を1500万トン規模に引き上げる。高炉・転炉法の採用で迅速かつ確実に立ち上げる予定だ。販売は成長を続ける国内需要向けを前提としており、東部オリッサ州での新製鉄所の建設、ハジラ地区でのさらなる拡張などを検討している」。
――世界的な景気後退が懸念されている。少し早いが、23年度の鉄鋼市場をどう見通すか。
「検討を始めたところでまだ見方を固めてはいない。世界鉄鋼協会は23年の鋼材需要について日本は前年から2%弱の増加、ASEANは6%増、インドは7%弱増加すると予想している。当社としては楽観的な見方はせず、より厳しい事態に備えなければならないと考えている」(植木 美知也)
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