2023年6月8日

商社の経営戦略/2030年以降を見据えて/住友商事 犬伏勝也専務 金属事業部門長/再エネ・CO2削減強化/事業部門利益2000億円目指す

――2023年3月期は連結純利益が1104億円と前期の最高益を大幅に更新し、初の1000億円台に乗せた。期初予想の410億円から大きく上振れし、前期比2倍となった。

「鋼管本部、鋼材本部の比率はほぼ7対3だった。増益を牽引した鋼管本部は、北米の鋼管市場環境が想定以上に良好だった。ロシアによるウクライナ侵攻によってオイル・ガスの国際需給がひっ迫し、米国でシェールガス・オイルが増産され、減少すると心配していた鋼管需要が増加した。経済制裁の一環でロシア産銑鉄の輸入がストップされたため春先に鉄スクラップが急騰。半導体供給不足で自動車向け鋼材需要が計画を実生産が下回る苦しい環境の中、鉄鋼メーカーは鋼管の増産を志向したが、労働者不足や鉄源不足もあって実現は困難だったようだ。AD提訴による一部輸出国からの鋼管の輸入制限も加わって、米国内の鋼管市況は急上昇することとなった。需要増と市況高止まりのメリットを結果的に享受した格好となった。鋼材本部は、事業全般を担う住友商事グローバルメタルズの実体利益が前期比15億円減の250億円だった。前期にあった価格上昇の反動、得意とする自動車分野の減産など強い逆風が続く中、販路拡大、コスト削減などの自助努力を積み重ね、ほぼ前期並みの利益を確保してくれた。中でも、住商メタルワン鋼管、伊藤忠丸紅住商テクノスチール、NSステンレスといった国内事業会社群の奮闘による利益貢献も大きかった」

――鋼管、鋼材本部ともに、世界経済、鉄鋼市場が急速に変化する中で持続的成長を図るため、19年度から20年度にかけて事業の選択と集中など抜本的な事業構造改革を断行し、稼ぐ力を鍛え直してきた。

「21年3月期は新型コロナウイルス影響で鋼材需要が縮小する中、鋼管事業をメインに460億円の減損損失を計上し、金属事業部門は398億円の純損失となった。22年3月期は鋼材需要が一部回復し、北米の鋼管事業環境も好転。一過性要因を除いた利益は70億円から560億円に回復し、23年3月期は約1000億円となった。事業構造改革の成果に加えて、鉄鋼メーカーの力強いサポートを得て商品を確保し、商機を逃すことなく収益を拡大することができた」

――実力をどう分析する。

「様々な要素があるので精緻な判断は難しいが、事業構造改革の成果で実力は700―800億円まで上がってきていないかと期待している」

――スチールサービスセンターの収益力も高まってきた。

「国内、中国・台湾を含むアジア、北米、欧州で展開しているスチールサービスセンターは25社・48拠点で、鋼材加工能力は年間720万トン。海外については人材育成の目的もあって駐在員を多めに配置しているが、各社がROICをベースに在庫管理、資金効率など収益構造改革を継続的に追求しており、その成果が出ている」

――今期見通しについて。

「鋼管は、主力の北米が需要家側の発注調整局面にあるが、20年に200基台まで落ち込んだオイル・ガス掘削リグがこの先も700基台で推移する見込みなど需給構造自体に大きな変化は見られないため、下期以降の回復を見込んでいる。鋼材は中国の国内需要停滞、鋼材市況軟化など不安要素は増えているが、自動車分野の生産回復にも期待して、国内外スチールサービスセンター事業の改善を見込む。新たな挑戦も含む安定収益を目指す狙いもあって、通期利益予想を910億円と設定した」

――今期の重点テーマを。

「地球温暖化対策に貢献するための取り組みを推進し、再生可能エネルギー、CO2排出量削減に関連するビジネスモデルを創出していく」

――具体策は。

「鋼管本部は、エネルギートランジション分野への事業領域拡大を図っていく。総合エネルギー企業への転換を急ぐシェル、bp、シェブロンなどメジャー企業との連携を強化し、水素、アンモニア、CCS/CCUS(二酸化炭素の分離回収・有効利用・貯留)関連のビジネスチャンスを捕捉していく。オイル・ガス採掘後の井戸に分離・回収されたCO2を貯留するビジネスの実地調査を進めている。AIを活用したオイル・ガス自動採掘技術、特定の岩盤層に一定の条件で水に融解させたCO2を注入して固定させる技術など、ノルウェーや英国など海外ベンチャー企業への積極的な投資も続けている」

――鋼材本部のアプローチを。

「自動車のEV化を見据えたサプライチェーンネットワークの構築、電磁鋼板ビジネス、洋上風力発電の厚板関連ビジネスなどをグローバル規模で広げていく。また、流通としてのネットワークを国内外各市場を見据えてより強固に進化させることを、具体的に取り組んでいく」

――国内の薄板需要は縮小を続ける。

「薄板は、伊藤忠丸紅鉄鋼とマツダスチール、紅忠サミットコイルセンター、大利根倉庫を共同運営。サミットスチールは北海道、千葉、滋賀、大阪、兵庫、大分に拠点を展開し、日鉄物産のNSMコイルセンターと双方向で加工機能を有効活用するソフトアライアンスを構築している。国内需要が縮小する前提で、国内の市場関係者とも深く意見交換しながら、複雑な方程式になるだろうが鉄鋼流通業界としての最適解を追求していく」

――中国は過渡期を迎えている。

「中国の国内経済は不動産など不安材料が増えているものの、世界最大の自動車生産国で、EV化も世界をリードしている。天津、中山、南京、長春、大連、上海の6カ所でコイルセンターを展開し、特殊鋼の流通・販売拠点も構えている。米中覇権争いの行方を見守りながら、取引先の要求に応え続けられるよう慎重に対応していく」

――インドは鉄鋼需要拡大が期待される。

「現地の特殊鋼製造事業のパートナーで、大手2輪・3輪メーカーを傘下に持つバジャジグループとともに現地の市場開拓のシナリオを描いていきたい。バジャジグループの高炉鉄源を活用して特殊鋼の一貫生産体制を構築し、日系自動車メーカー向けなどの高級鋼商品の安定供給と言うサプライチェーンの機能と価値を、是非市場には認めていただきたい。輸入品の置き換えを進め、現地事業を拡大していく」

――2030年以降を見据えた課題と展望を。

「鋼管ビジネスにおいては、30年から35年にかけてオイル、ガスの需要が減少し始め、アンモニア、水素への転換が進む。産油地、ガス立地を核としたサプライチェーンが見直され、鋼管需要が拡大する。CCSやCO2/水素輸送用途では鋼管の高品質化も予想される。bpやシェル、イクイノールなど開発業者とともにエネルギーイノベーションの最先端を走り、求められるインフラを用意して、ビジネスチャンスを確実に捕捉していく。鋼材ビジネスに関しては、住友商事グローバルメタルズの組織を4月1日付で一部見直し、薄板の海外を管掌する鋼材第三本部を新設した。鋼材第一本部は重要分野と位置付ける国内に特化し、カーボンニュートラルやデジタル化など時代の大きな変化に対応し、DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)を推進しながら取引先の課題解決に注力する」

――強みを持つ輸送機材分野については。

「日本製鉄の鉄道車輪、軌条の国内外での販売を担い、米国では日本製鉄との鉄道車輪合弁事業のスタンダードスチール、大和工業とのタイプレート合弁事業のアーカンソースチールなどを展開している。スタンダードスチール、アーカンソースチールは電炉メーカーでもあり、上流機能を活用することで産み出す、サプライチェーンの深化という新機軸を打ち出したいと考えている」

――持続的成長のターゲットを。

「住友商事の23年3月期の連結純利益は5652億円で、金属事業部門は2割弱だった。全社利益は歴史的高水準にあるが、周囲を見渡すと1兆円を超えている。全社利益の底上げに向けて、金属事業部門の貢献度を高めるとともに、鋼管ビジネスをさらに強化しつつ、鋼材ビジネスを伸ばして7対3のバランスを6対4程度まで戻し、1500億円、さらに2000億円へと利益を拡大していきたい」(谷藤真澄)

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