2023年6月28日

新社長に聞く/東京製鉄/奈良 暢明氏/脱炭素に資源循環で貢献

東京製鉄は、6月27日付で奈良暢明・取締役常務執行役員が社長に昇格した。17年ぶりの交代で、4代目トップとなる。国内外で脱炭素社会の実現に向けた流れが加速しており、高炉鋼材に比べて製造時のCO2排出量を低減できる電炉鋼材に対する需要家の関心が一段と高まる中、どのような舵取りを行うのか。奈良新社長に聞いた。

――社長就任の抱負から。

「1993年に入社した後、00年に間接部門に配属され、2代目社長の池谷正成相談役と、前社長である西本利一・特別顧問の近くで業務に従事していた。両社長はどのような状況においても、ステークホルダーや従業員などに朗らかに接していた姿が印象深く、偉大な先輩の姿勢をしっかりと受け継いでいきたい。より前広に知ってもらい、社会の期待にいかに応えていくかが企業のあるべき姿だと考える。当社には『東鉄らしい』特長的な優れた企業文化が多くある。その一方で、近年はカーボンニュートラル(CN)をはじめ経済活動だけでなく、生活そのものにも影響を及ぼすような、過去に例のない社会的変革が起きている。これまでの経営スタイルにこだわることなく、急激かつ大幅に変化している需要家やステークホルダーのニーズをしっかり捕捉していきたい。また、従業員が胸を張れるような企業にする。従業員1人当たりの収益性や生産性は高く、今のポジションを少数で築き上げてきた歴史がある。労使関係は良好で、この一体感は企業文化の1つであり、大切にしていきたい」

――次期社長を打診された時の思いは。

「大変驚いたが、私のことよりも、西本社長が退任することに驚いた。当社の企業文化の1つに、経営陣も従業員と同じような年齢で一線を退くという傾向がある。西本社長を見ていると元気で頭も切れるし、一般的に63歳は交代する年齢ではなかったため、『社長、お辞めになってしまうのですか?』と、思わず口から出てしまった」

――東鉄らしさとは。

「昔、池谷相談役に『電炉業界は市場産業として大なり小なり波が来るが、その時に錨を下ろし、今の場所にとどまるような姿勢であってはならない。迅速に意思決定し、あえて錨を上げて、航海していかなければならない』と話されたことを覚えている。挑戦し続けることが東鉄らしさ。電炉メーカーは市場産業であるとともに装置産業でもあり、社会のニーズに応えるべく、まい進することが大事。設備投資のマインドは常に持ち続ける。当時1700億円を投じた田原工場(愛知県田原市)はリーマン・ショックの影響を受けるなど、最終的に減損処理を余儀なくされたが、今では収益の柱になり、生産量回復や業績アップに寄与し、株主や従業員にも還元している。目先にこだわらず、大義に基づいて必要な設備投資は行っていく」

――国内外でCNに向けた流れが加速し、電炉鋼材に追い風が吹いているようにみえる。

「『資源循環』と『脱炭素』が社会のキーワード。これは表裏一体で、当社は資源循環、脱炭素という点で、同時に社会貢献できる。資源循環について、当社はヘビースクラップをアップサイクル(鉄スクラップの高度利用による高付加価値製品への再生)できるノウハウを持っているのが特長。欧州などでは還元鉄を使うメーカーもあるようだが、どのようなスタイルであっても世界に電気炉が増えて鉄鋼業界が脱炭素に向かうことは素晴らしい挑戦になる。自動車など製造業の需要家は高炉メーカーの製品をメインで使用し、銅などの合金元素を含有する電炉鋼材に馴染みが薄いかもしれない。日本で電炉鋼板を生産・販売するメーカーは少なく、共同で研究開発を行うなど需要家との連携や共働によって、これから電炉鋼板を使いこなす技術が進むだろうし、伸びしろ、チャンスはきっとある」

――脱炭素についてはどうか。

「脱炭素は国内外で異常気象が発生しており、待ったなしの共通課題。当社が鋼材を1トン生産する際に排出するCO2は0・4トンで、高炉鋼材に比べてCO2排出量を全体累計で80%減らすことができる。最近は需要家がグリーン鋼材の定義を決める傾向にあるが、この中で当社の鋼材に対する需要家の関心が高まっており、製造業、建設業などから幅広く問い合わせが来ている。脱炭素の流れの中で需要家が増えて、チャンスのように見えるものの、むしろ使命を感じており、当社がやらなければいけないという想いを強く持っている」

――大成建設と連携し、建設物のライフサイクルにおけるCO2排出量を正味ゼロにするゼロ・カーボン・ビル建設を推進するため、鋼材製造時の脱炭素化および鋼材調達から解体・回収までの資源循環サイクル構築に向けた取り組み「ゼロカーボンスチール・イニシアティブ」を始動した。

「建設業はメインユーザーであり、当社の鋼材を多く使用している。施主から設計事務所やゼネコンに対し、製造時のCO2排出量が少ない鋼材を使用するよう要望があるという。この環境下において大成建設様から話があり、電炉材を使用することで、鋼材調達段階におけるCO2排出をゼロにする可能性などを相談され、ゼロカーボンの建物を実現したいという熱意を強く感じた。施主がインセンティブを得られるよう取り組む。建設業だけでなく、製造業からも大成建設様とのスキームを適用できないかという話をもらっており、打ち合わせを重ね、共働を進めていきたい」

――自動車用鋼板分野をどのように強化するか。

「トヨタ自動車のサーキット競技車両(水素エンジン車両)に酸洗材が使われたことは、とても印象深い出来事。22年6月にグリーンEV鋼板事業準備室を新設し、電気炉でアップサイクルしたグリーンEV鋼板を25年までに自動車産業向けに量産・供給するという目標を掲げている。自動車産業は裾野が広く、当社にはないノウハウや知見も多く、需要家と連携して一歩ずつ前進していきたい。建設機械や産業機械など自動車以外の分野でも需要家と個別に話し合う機会が増えるため、23年2月に専門組織である技術部を新たに設け、スタッフを増員している。ここに注力し、新規需要家を着実に増やす」

――長期環境ビジョン「Tokyo Steel EcoVision2050(エコビジョン)」では、国内鉄スクラップ購入量(全社生産量に相当、23年度計画は345万トン)を30年度で年間600万トンに、50年度で同1000万トンにそれぞれ引き上げるチャレンジ目標の達成を目指している。

「エコビジョンで掲げる30年度で600万トンが、現有設備の最大生産能力にあたる。1000万トンを目指すには設備投資が必要で、良い案件があればM&Aによる能力拡大も視野に入れていきたい。田原工場の酸洗ラインを24年夏に再稼働させるとともに、その次工程である冷間圧延機や連続溶融亜鉛めっきライン(CGL)の新設も検討する。600万トンの鋼材を販売するため、日本で発生する鉄スクラップを国内循環させるとともに、輸入鋼材への対抗策を講じていかなければならない」

――600万トン到達には鉄スクラップ購入量を増やす必要がある。

「以前、日本国内の景気が低迷し、鋼材内需が減った時、電炉鋼の生産が大きく減り、発生する鉄スクラップの受け皿になることができなかった。その結果、日本からの鉄スクラップ輸出が始まった経緯がある。『ちゃんと買う』ということで、エコビジョンに基づいて鉄スクラップ購入量を増やすこと、購入価格をタイムリーに変更することなどによって、輸出に対抗する施策を講じている。また、名古屋市内に鉄スクラップ集荷拠点・名古屋サテライトヤードを開設するとともに、宇都宮工場で鉄スクラップストック能力を拡充する。大成建設が関わる建築物解体時に発生する鉄スクラップの一部を連携して回収する新たな取り組みも始める」

――九州電力、中部電力とデマンドレスポンス契約を締結した。

「太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーの発電量増加に伴い、余剰となった平日日中の電力を電気炉の稼働によって吸収するトライアルを行っている。電力の需給バランスが崩れた場合、大規模停電に繋がる可能性がある。デマンドレスポンスは従来の操業パターンの延長線上で実施することができる。電力の需給弁として貢献できるとともに、経済的リターンがあるため、協力していきたい」

――国内外の高炉メーカーが電気炉を新設する。

「おそらく使用する鉄スクラップ、また電気炉で生産する鋼種はそれぞれ当社と異なるだろう。高炉メーカーが鉄スクラップの使用比率を高めた場合、国内循環が進むメリットもある。高炉メーカーも電炉メーカーも資源循環への想いは同じであると考えており、今後の展開を楽しみにしていきたい」(濱坂浩司)

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▽奈良暢明(なら・のぶあき)氏=93年京大文卒、東京製鉄入社。12年取締役総務部長、19年取締役執行役員、21年取締役常務執行役員を経て、6月27日付で現職に就任した。

「最終面接で池谷相談役が会社について熱心に説明した。その姿勢、熱い想いに感動した」ことで入社を決めた。本社の管理部門、経理畑を長く歩んできた。名古屋支店立ち上げメンバーの1人で、95年から販売を開始した酸洗コイルの営業に奔走した経験も。特別顧問の西本氏は「柔軟で、東鉄愛に溢れる人物」と評する。

趣味はトレッキングだが、「多忙のため、森林浴程度。成長スピードはゆっくりだが、しっかり繁栄するブナの木が好き」と笑う。好きな言葉として「カーボンマイナス(脱炭素)」と「アップサイクリング(資源循環)」を選ぶところは根っからの電炉屋。70年8月6日生まれ、東京都出身。

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