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2024.12.4
2024年7月9日
加速する循環経済への移行/インタビュー編/DO・CHANGE/岸本明弘社長/銅・炭化物に分離再生/途上国の野焼き撲滅目指す/被覆電線処理に新技術
アフリカなどの途上国で廃被覆電線の野焼きによる大気汚染が住民の健康被害を引き起こしている。世界的に循環経済への移行が加速しているが、こうした課題への適切な対応が求められる。清水建設発のスタートアップで廃被覆電線の野焼き撲滅やリサイクルによる事業化を目指すDO・CHANGE(本社=香川県善通寺市)の岸本明弘社長に話を聞いた。
――会社紹介から。
「清水建設の社内起業公募制度を活用して2024年3月15日に立ち上げた。情報が集積する東京を離れて香川に本社を置いた理由は、産業廃棄物処理のポリテック香川(丸亀市)と香川高等専門学校が共同保有している、廃被覆電線から銅を抽出する特許技術を活用するためだ。実証や設備の開発には特許技術のある香川が便利だと考えた」
――清水建設ではどのような仕事をしてきたのか。
「入社後、横浜支店配属となり現場事務をスタートに民間建築営業の仕事をした。その後本社に異動となり不動産仲介、総務、人事などバックオフィス業務も経て、関西支店に異動となり民間建築営業と債権回収事業に携わった。再び本社に異動した後は民間建築営業や投資開発事業など幅広い職務を経験している」
――電線リサイクルに注目した経緯を。
「21年に知人経由で特許技術を開発したポリテック香川の当時の社長から、炭化させた被覆部分の樹脂の用途について相談を受けたのがきっかけだ。この時に初めて廃被覆電線から銅を抽出する特許技術を知った。廃棄物になる被覆の樹脂も炭化物として再利用できる可能性があることも。そして22年にできた社内起業公募制度に応募したところ審査に合格。約1年半の準備期間を経て実際に会社を立ち上げることになった」
――廃被覆電線からどのように銅を回収するのか。
「被覆電線を230度の油の中で2時間熱処理する。その後0・1気圧、190度以上の条件下で1時間焼成処理をするプロセスになる。料理に例えると『天ぷら』を揚げる要領で、被覆部分の樹脂が炭化して効率良く銅を回収できる。ちなみに熱処理に使う油は廃油で、繰り返し使っても同じように銅を回収できる成果を確認している。炭化物は活性炭として水質浄化や消臭用途などで再利用できる可能性がある」
――電線の太さに関係なくリサイクルできるのか。
「理論上は高圧ケーブルのような太い電線でも処理できる。ただし銅線の太さが1㍉以上のものは既存の機械を使って被覆部分を剥離して銅を回収したりナゲット加工した方が効率的だ。われわれの技術は銅線の太さが1㍉以下の細線に強みがある。自動車のハーネスや家電製品など色々な製品に使われているが、単独では処理が難しい電線だ」
――被覆の種類も多く性能も異なる。
「実は230度で熱処理しても被覆部分が炭化しない電線がある。例えば難燃性の高い建築材料用の電線だ。『天ぷら』方式は10年以上前に取得した特許技術だから、その間の電線被覆材の耐久性向上に対応しきれていない面がある。別で発見した特許申請中の技術もあり、それを採用しつつ、ハイブリッドで廃被覆電線の処理を行っていきたい。特許申請中の技術だときれいな銅線を抽出できるが、被覆が炭化しないので被覆が廃棄物となる。こうした技術に対応していくことが今後の課題の一つになる」
――アフリカなど途上国の廃被覆電線の野焼き撲滅を目指した活動もしている。
「社内起業公募制度の審査員をしていたコンサルタントの方から芸術家の長坂真護さんの話を聞いた。アフリカのガーナに持ち込まれた先進国の電子廃棄物からアート作品を作り、その販売で現地のスラム街を支援する活動をしている。長坂さんに実際に会って廃被覆電線の特許技術を紹介したら興味を持ってくれて、ガーナで一緒に活動することになった」
――現地の様子はどうだった。
「昨年12月にガーナを訪問し、実際に廃被覆電線を野焼きして銅を回収している場所に足を運んだ。野焼きで発生したダイオキシンを吸っている影響なのか、現地の人の寿命は短く高齢の方がほとんどいなかった。そこでわれわれの処理技術を使って銅を抽出したら、現地の作業員がすごく喜んでくれて日本語で『ありがとう』と言ってくれたのが印象に残っている。廃被覆電線を野焼きしているのはアフリカだけではない。インドネシアなど東南アジアにもあると聞いており、われわれの技術はこうした国や地域に横展開できると考えている」
――本格的な事業化に向けてどのようなビジネスモデルを考えているのか。
「まずはアフリカで廃被覆電線から回収した銅を販売する。実際にガーナでわれわれの技術を使って回収した銅のサンプルを日本の大手商社に持ち込み、銅スクラップとして販売できる品質を確認した。将来はアフリカでリサイクルヤードを経営することも視野に入れている。環境に優しい方法で銅を回収できて雇用も創出できる。直接ヤードを経営するのが難しければ既存のヤード業者に技術を提供して手数料を得る仕組みも考えている」
――日本での事業展開の可能性は。
「日本はすでに電線リサイクルの商流が整っているので、当社が新規でヤードを経営するのは難しい。ただし『天ぷら』方式の設備を実用化できれば機械の販売という形で日本での事業化の可能性はあるかもしれない」
――事業化に向けた今後の動き。
「今はまだ研究開発の段階にあるが、今年は実証設備の開発に着手したい。実証設備はこれまで説明してきた『天ぷら』の機械を造る。5月に東京ビッグサイトで開催されたNEW環境展では、日本のリサイクル設備メーカーさんがこの技術に興味を持ってくれた。こうした会社さんと協業することができれば、技術開発が一気に加速するかもしれない。またリサイクルの対象も廃被覆電線だけでなく、貴金属やレアメタルが使われている廃電子基板などにも応用できるのか試してみたい」
――事業化のために必要な資金調達の方法は。
「現在、恒常的な事業収益が無いため、補助金や助成金の申請を行って開発費用などを捻出したい。今後は、環境や資源循環に興味がある個人投資家やベンチャーキャピタルなどの出資や寄付などを受けながら資金を調達し、事業化を目指したい」
――最後にDO・CHANGEの将来像を。
「ガーナで『ありがとう』と言われた言葉が嬉しく、日々忘れることなく事業活動を行っている。出向元である清水建設の社是で、相談役であった渋沢栄一翁の言葉である『論語と算盤』。これは、利益追及だけでなく社会貢献との両立を諭している。自らの事業を通じて国や世界が繫栄するように社会を変えたい。DO・CHANGE=やれば、変わる」(増田 正則)
▽岸本明弘(きしもと・あきひろ)氏=1998年立命館大学産業社会学部卒、清水建設入社。24年DO・CHANGEを設立し代表取締役に就任。料理が趣味。座右の銘は一期一会、考動。74年5月4日生まれ、兵庫県出身。
――会社紹介から。
「清水建設の社内起業公募制度を活用して2024年3月15日に立ち上げた。情報が集積する東京を離れて香川に本社を置いた理由は、産業廃棄物処理のポリテック香川(丸亀市)と香川高等専門学校が共同保有している、廃被覆電線から銅を抽出する特許技術を活用するためだ。実証や設備の開発には特許技術のある香川が便利だと考えた」
――清水建設ではどのような仕事をしてきたのか。
「入社後、横浜支店配属となり現場事務をスタートに民間建築営業の仕事をした。その後本社に異動となり不動産仲介、総務、人事などバックオフィス業務も経て、関西支店に異動となり民間建築営業と債権回収事業に携わった。再び本社に異動した後は民間建築営業や投資開発事業など幅広い職務を経験している」
――電線リサイクルに注目した経緯を。
「21年に知人経由で特許技術を開発したポリテック香川の当時の社長から、炭化させた被覆部分の樹脂の用途について相談を受けたのがきっかけだ。この時に初めて廃被覆電線から銅を抽出する特許技術を知った。廃棄物になる被覆の樹脂も炭化物として再利用できる可能性があることも。そして22年にできた社内起業公募制度に応募したところ審査に合格。約1年半の準備期間を経て実際に会社を立ち上げることになった」
――廃被覆電線からどのように銅を回収するのか。
「被覆電線を230度の油の中で2時間熱処理する。その後0・1気圧、190度以上の条件下で1時間焼成処理をするプロセスになる。料理に例えると『天ぷら』を揚げる要領で、被覆部分の樹脂が炭化して効率良く銅を回収できる。ちなみに熱処理に使う油は廃油で、繰り返し使っても同じように銅を回収できる成果を確認している。炭化物は活性炭として水質浄化や消臭用途などで再利用できる可能性がある」
――電線の太さに関係なくリサイクルできるのか。
「理論上は高圧ケーブルのような太い電線でも処理できる。ただし銅線の太さが1㍉以上のものは既存の機械を使って被覆部分を剥離して銅を回収したりナゲット加工した方が効率的だ。われわれの技術は銅線の太さが1㍉以下の細線に強みがある。自動車のハーネスや家電製品など色々な製品に使われているが、単独では処理が難しい電線だ」
――被覆の種類も多く性能も異なる。
「実は230度で熱処理しても被覆部分が炭化しない電線がある。例えば難燃性の高い建築材料用の電線だ。『天ぷら』方式は10年以上前に取得した特許技術だから、その間の電線被覆材の耐久性向上に対応しきれていない面がある。別で発見した特許申請中の技術もあり、それを採用しつつ、ハイブリッドで廃被覆電線の処理を行っていきたい。特許申請中の技術だときれいな銅線を抽出できるが、被覆が炭化しないので被覆が廃棄物となる。こうした技術に対応していくことが今後の課題の一つになる」
――アフリカなど途上国の廃被覆電線の野焼き撲滅を目指した活動もしている。
「社内起業公募制度の審査員をしていたコンサルタントの方から芸術家の長坂真護さんの話を聞いた。アフリカのガーナに持ち込まれた先進国の電子廃棄物からアート作品を作り、その販売で現地のスラム街を支援する活動をしている。長坂さんに実際に会って廃被覆電線の特許技術を紹介したら興味を持ってくれて、ガーナで一緒に活動することになった」
――現地の様子はどうだった。
「昨年12月にガーナを訪問し、実際に廃被覆電線を野焼きして銅を回収している場所に足を運んだ。野焼きで発生したダイオキシンを吸っている影響なのか、現地の人の寿命は短く高齢の方がほとんどいなかった。そこでわれわれの処理技術を使って銅を抽出したら、現地の作業員がすごく喜んでくれて日本語で『ありがとう』と言ってくれたのが印象に残っている。廃被覆電線を野焼きしているのはアフリカだけではない。インドネシアなど東南アジアにもあると聞いており、われわれの技術はこうした国や地域に横展開できると考えている」
――本格的な事業化に向けてどのようなビジネスモデルを考えているのか。
「まずはアフリカで廃被覆電線から回収した銅を販売する。実際にガーナでわれわれの技術を使って回収した銅のサンプルを日本の大手商社に持ち込み、銅スクラップとして販売できる品質を確認した。将来はアフリカでリサイクルヤードを経営することも視野に入れている。環境に優しい方法で銅を回収できて雇用も創出できる。直接ヤードを経営するのが難しければ既存のヤード業者に技術を提供して手数料を得る仕組みも考えている」
――日本での事業展開の可能性は。
「日本はすでに電線リサイクルの商流が整っているので、当社が新規でヤードを経営するのは難しい。ただし『天ぷら』方式の設備を実用化できれば機械の販売という形で日本での事業化の可能性はあるかもしれない」
――事業化に向けた今後の動き。
「今はまだ研究開発の段階にあるが、今年は実証設備の開発に着手したい。実証設備はこれまで説明してきた『天ぷら』の機械を造る。5月に東京ビッグサイトで開催されたNEW環境展では、日本のリサイクル設備メーカーさんがこの技術に興味を持ってくれた。こうした会社さんと協業することができれば、技術開発が一気に加速するかもしれない。またリサイクルの対象も廃被覆電線だけでなく、貴金属やレアメタルが使われている廃電子基板などにも応用できるのか試してみたい」
――事業化のために必要な資金調達の方法は。
「現在、恒常的な事業収益が無いため、補助金や助成金の申請を行って開発費用などを捻出したい。今後は、環境や資源循環に興味がある個人投資家やベンチャーキャピタルなどの出資や寄付などを受けながら資金を調達し、事業化を目指したい」
――最後にDO・CHANGEの将来像を。
「ガーナで『ありがとう』と言われた言葉が嬉しく、日々忘れることなく事業活動を行っている。出向元である清水建設の社是で、相談役であった渋沢栄一翁の言葉である『論語と算盤』。これは、利益追及だけでなく社会貢献との両立を諭している。自らの事業を通じて国や世界が繫栄するように社会を変えたい。DO・CHANGE=やれば、変わる」(増田 正則)
▽岸本明弘(きしもと・あきひろ)氏=1998年立命館大学産業社会学部卒、清水建設入社。24年DO・CHANGEを設立し代表取締役に就任。料理が趣味。座右の銘は一期一会、考動。74年5月4日生まれ、兵庫県出身。
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