――厳しい市場環境が続く前提の中で成長を図るために鉄鋼ユニットが中期計画で掲げるテーマと取り組む事業戦略は。
「この10年間で国内の粗鋼生産は2割減り、自動車生産は1割ほど減少した。建築関係は人手不足から工事だけでなく設計も間に合わない状況。首都圏の再開発は続くが地方や中小物件はコスト高から計画が後ろ倒しになっている。造船は手持ち工事が3年分ほどあるが、建造ピッチが上がってこない。海外は中国や東南アジアで日系自動車が苦戦している。中国の内需が不振なために鋼材が外に流れ、アジアの鋼材市況を冷やしている。北米はフレート高と金利の高止まりで日本材を中心としたビジネスは厳しい。鉄鋼の地産地消の動きもあり、市場の構造変化に的確に対応していく必要がある。厳しい市場の中で成長していくために全社方針の収益力の強化、投資の促進、商社機能の強化、経営基盤の強化に鉄鋼ユニットとしても取り組む。鉄鋼ユニットの収益のべースはトレードだが、ROIC(投下資本利益率)の改善に向けて事業分野の絞り込みやDXによる強固なサプライチェーン(SC)構築、事業投資を進める」
――事業分野の絞り込みとは。
「事業領域ごとに品種や需要分野について実態を把握し、改善していく。線材棒鋼、薄鋼板・厚鋼板、チタン・ステンレス、自動車部品、建材と二次製品を扱う神商鉄鋼販売の主要5分野の軸を維持しつつ、投資効率を考えて注力すべき分野を検討する。カーボンニュートラル関連の市場を狙い、EV向けは新素材含め他社と異なるアプローチを進める。洋上風力の分野は係留用のロープや締結部品の販売を探る。神戸製鋼所のグリーン鋼材『コベナブル・スチール』の販売に引き続き取り組む。さらに事業領域の拡大を目指し、投資を推進する。トレードと事業投資のベストポートフォリオを目指し、事業投資で稼ぐ方向にかじを切っていく」
――前中計から事業投資に重点を置いている。投資の考え方は。
「前中計で米国の特殊鋼線加工のGBPの能力を増強した。自動車関係が忙しくなり、タイミングの良い投資となった。鋼管内面の検査装置会社や小型EVメーカーなどスタートアップ企業への出資も行い、継続してビジネスの裾野を広げる投資を考える。中計では線材条鋼や鋼板、鋼管、物流などM&Aや出資含め鉄鋼ユニットで約50億円相当の投資案件について実現性を精査しており、決まれば半数以上は中計期間内の実施となる。多くを形にして将来に投資効果を得ていく。流通企業との連携も検討し、特に当社が強みを持つ特殊鋼分野で投資のチャンスを探っている。SC強化の観点からしっかり取り組んでいく」
――DXによってサプライチェーンをどう効率化していくのか。
「素材メーカー、商社、加工メーカー、需要家を結ぶSCの中で業務の効率化を図るために受発注やデリバリーなどのプラットフォーム化を図る。在庫削減や輸送の効率化につながり、最終ユーザーにも貢献できる。年度内に方向を定め、26年度前半には戦力化し、アルミ・銅や機械の事業にも横展開していく」
――事業会社や要員の体制に変化は。
「鉄鋼ユニットの26年度の想定は連結434人、単体134人と今後3年間で単体、連結とも大きくは増減しない。DXやRPAで省人化し、他の必要な部署で人材を生かしていく。事業会社は神商鉄鋼販売が3年前に神鋼商事から受けた建材厚板事業のシナジーを追求し、効果を上げている。森本興産は薄板加工拠点として機能している。鉄鋼ユニットの連結会社は5社、持ち分法適用会社は8社と他商社より少ないが、出資やM&Aで数は増える見込みだ」
――成長の鍵を握る海外の事業会社の強化策は。
「米国は線材関係が中心だがマーケットが伸びるので他の分野でも投資を考えたい。タイでコベルコ・ミルコン・スチール、神鋼グループの加工企業のKCHとMKCL、需要家のSCのDX化を視野に入れている。中国は自動車電動化や日系自動車メーカーの動向を注視する。ここへきて為替の影響もあり欧州向けの特殊鋼も再評価されて増えており、神戸製鋼と他メーカーの製品含め増やしていく」
――全社目標の連結経常利益145億円達成への鉄鋼ユニットの責務は大きい。
「鉄鋼ユニットの連結経常利益は21年度41億円、22年度51億円、23年度は鋼材価格上昇や円安効果が大きいものの66億円と着実に増えている。24年度は一過性のプラス要因の剥落で59億円の予想だが、26年度は事業環境が変化しても23年度を超える計画。鋼材の取扱量は23年度の254万トンから26年度に270万トンに海外主体で増やす計画である。地域的にはインドもチャンスがあれば国内外のパートナーと拠点づくりを考えたい。事業投資の効果がフルに寄与するよう成長の姿を描き、ROICを将来的に現状から1・5%程度引き上げたい」
――海外展開を進める上でも人材の確保・育成が重要に。
「組織改正によって本部・ユニット体制とし、人材の流動化を図る。組織ごとに垣根があったが、本部・ユニット間異動を盛んにし、海外経験や事業経営経験の機会を増やす。それにより、将来の経営人材を育成していきたいと考えている」(植木 美知也)