2025年8月1日

商社の経営戦略/10年先を見据えて/神鋼商事 髙下拡展社長/事業構造変革し競争力/国内アルミ再生、合弁・協業進める

――2024年度は連結経常利益が前年比8%減の118億円だった。

「中国の幅広い分野での需要低迷、日系自動車の減産、国内建材分野の落ち込みなどマイナス要因が重なった。一方、環境関連やものづくりへの設備投資は堅調に推移し、半導体や空調分野は回復傾向にあった。原料分野では、価格の下落、投資先や取引先での操業度低下の影響を受けた。こうした中、売上高は4%増の6172億円となったが、経常利益は減少し、純利益も6%減の86億円にとどまった」

――本部別、ユニット別の経常利益は。

「金属本部は9%減の89億円、機械・溶接本部が3%減の30億円。ユニット別は鉄鋼が日系自動車および建材分野の需要減の影響等により15%減の56億円となった。一方、アルミ・銅は自動車用端子コネクタや空調用銅管の取扱が増加し、液晶や店売りのアルミ製品取扱量も回復し、子会社化した稲垣商店の連結効果もあって89%増の31億円となった。原料は投資先に対する貸倒引当金の計上があって前年度の15億円から2億円に大きく後退した。機械は圧縮機やメンテンナンスビジネスが好調に推移し、前年横ばいの23億円となり、溶接も前年並みの7億円だった」

――25年度の市場環境について。

「一進一退を続ける日本経済が、米国関税政策によってどの程度の経済的インパクトを受けるかは不明だが、EV含め自動車のグローバル需要の大きな伸びは期待できない。半導体は、AI・データセンター向けが好調を維持するものの、PCや自動車向けの需要回復は時間を要する。建材分野も足元の低い需要が続くと見ている。資源リサイクル分野では当面素材メーカーの減産傾向が続くため、鉄・非鉄スクラップともに需要は弱含みで推移。バイオマス燃料は、国内産の需給がタイト化しており、長期的には輸入品への依存度が高まる。機械系は、カーボンニュートラル関連や効率化などのものづくり投資が持続しており、堅調な需要が国内外で期待できる」

――経常利益予想は120億円。

「米国の関税政策を含め、地政学的リスクや為替変動など厳しい外部環境に柔軟に対応しながら、自動車、半導体、資源循環、エネルギーなど主要需要分野ごとの重点課題に取り組み、安定的な利益水準の維持を目指す」

――自動車、半導体の重点課題を。

「自動車は米国の線材2次加工拠点であるGBPを主体とした北米サプライチェーンの強化、インド市場における線材サプライチェーンの構築、またDX化による国内サプライチェーンの効率化なども重要なテーマ。半導体は24年に設立した神商精密を軸とした製造装置向けアルミ加工・水平リサイクルの事業化を進め、素材から加工、リサイクルまでの一貫生産体制の構築に取り組む」

――資源循環、エネルギーについて。

「資源循環は、展伸材での利用が困難だった低品位市中スクラップ(ソルバ)の自動高度選別による、新しいアルミの資源循環モデルの実現を目指す。建材用アルミサッシスクラップの高度選別による水平リサイクル事業も立ち上げる。エネルギーは半炭化バイオマス燃料であるブラックバークペレット(BBP)の製造事業に参画し、国内外での事業展開も検討する」

――その他の分野については。

「建機分野では、韓国企業とインドに設立した部品製造合弁会社、トラック・デザイン・インディアが調達・製造・販売の完全現地化を開始予定であり、インド市場でのシェア拡大に取り組む」

――さて10年先を見据えた経営の考え方は。

「創立75周年を迎えた2021年に長期経営ビジョン『明日のものづくりを支え、社会に貢献する商社』を掲げ、『質の高い経営』と『真のグローバル企業』を目指している。事業環境は量から質、グローバルからローカル、既存技術から革新技術へそれぞれ変化が進むはず。最終製品のサイクルが短くなり、ものづくりの現場も高度化、多様化していくだろう。当社の強みは、素材・原料・機械などの幅広い商品群とメーカー商社ならではの『ものづくり』に関する高い専門性。ものづくりプロセス全体を事業領域の対象とし、素材・原料と機械事業が連係することで、幅広い産業にまたがる多様なニーズに対応するサプライチェーンを構築し、ソリューションを提供できる商社を目指していく」

――長期ビジョン実現に向けての第二ステージとなる「中期経営計画2026」(24-26年度)を推進中。

「中長期的な収益力の強化、商社機能の強化に向けて、『KOBELCOグループビジネス』、『神鋼商事オリジナルサプライチェーン』、『新事業推進』を3本柱とする事業戦略を展開し、重点分野・地域や新規事業への投資を加速する。カーボンニュートラルへの取り組み、サプライチェーンの再構築や多様化、地産地消などのビジネスチャンスに迅速に対応し、ニッチトップのポジションを獲得しながら、事業ポートフォリオを変革して経営基盤を強化していく」

――3年間で総額230億円の投資を計画する。

「持続可能性の観点から、経済的価値と社会的価値の両立を追求する。24年度は19億円にとどまったが、発表済みの80億円規模の投融資案件が実行段階に進むほか、新たな案件の検討も進めている。ユニット横断の投資戦略会議を設置し、起業家マインドの醸成やスキル向上を促している。外部のパートナーやリソースを積極的に活用し、かけあわせによるイノベーションを追求し、ものづくりプロセスに対して、企業価値向上に繋がる投資を推し進める」

――今中計のスタートに合わせて営業推進体制を5本部から2本部に見直した。

「事業分野が近い鉄鋼、鉄鋼原料、非鉄金属の3ユニットで金属本部、機械・情報、溶接の2ユニットで機械・溶接本部を構成。ビジネスモデルの横展開、人材の交流、取引先・情報の共有などを通じて、新しいビジネスモデルの創出などユニット横断でのプロジェクト発足など、コミュニケーションが活発化している。今後は若手社員を中心にユニット間異動を積極的に進め、知見の多様化と融合を図っていく」

――新設した新事業推進室が機能を発揮し始めている。

「環境関連スタートアップファンドへの出資による様々な新技術、新事業への接点を通じ、KOBELCOグループとのシナジーも追求しながら、社会課題の解決と収益力強化に資する新規事業を推進することで、持続性と競争力がある事業ポートフォリオへの変革につなげていく」

――田口金属との低品位市中スクラップの再資源化への挑戦は、独自ビジネス拡大と新事業推進につながる。

「ゾルバと呼ばれる廃自動車や廃家電のシュレッダー後の非鉄スクラップは、アルミが約90%を占めるが、銅や亜鉛、鉄が含まれている。このため許容範囲が広いADC12など鋳物用合金へのリサイクルが主流で、アルミパネルなど展伸材での利用は難しく、年間発生量14万トンの50%程度が海外に輸出されている。一方、国内のアルミ圧延メーカーによる低炭素アルミ原料、つまり高品位アルミスクラップのニーズが急速に高まっている。そこで展伸材として再利用可能なアルミスクラップを選別・回収する新たな事業への参入を図る。関東地区の大手金属リサイクル企業である田口金属と合弁会社の設立に向けて検討を開始することで合意しており、27年中にリサイクル事業の開始を目指す。メーカー系商社の強みを発揮し、社会的課題の解決に貢献できる、まったく新しい資源循環ビジネスモデルとして立ち上げ、国内で広く展開していきたいと考えている」

――クルマ商事との建材用アルミサッシスクラップの高度選別による水平リサイクル事業も立ち上げる。

「自動車分野のアルミスクラップのリサイクル事業に続いて、建材分野のアルミリサイクルビジネスを拡充する。建材用アルミ製品のスクラップは鉄製のビスや樹脂の選別が複雑なために韓国や中国などへ輸出される比率が高まっている。一方で、国内のサッシメーカーはカーボンニュートラル対応としてアルミ押出材のリサイクル原料比率を引き上げる意向を持つ。そこでアルミ建材の高度選別を可能とするドイツ製の設備を導入し、『サッシtoサッシ』の水平リサイクル事業を立ち上げる。富山県の金属リサイクル大手、クルマ商事のスクラップ回収機能を活用させていただき、高度選別したサッシ屑を県内のサッシメーカーに供給するビジネスモデルを確立し、国内での横展開を図っていく」

――ブラックバークペレット(BBP)の製造事業も同様に新たな資源循環事業となる。

「熊谷組、清本鉄工が推進するBBP製造・販売事業に出資・参画した。BBPは、木の皮(バーク材)を原料とし、熱処理によって半炭化したバイオマス燃料。製材時に発生するバークは多くが廃棄物として処分されている。熊谷組と清本鉄工が2021年にBBP技術を開発。共同出資会社のローカルエナジーシステムを設立した。石炭火力発電所での試験燃焼を実施し、石炭との混焼についての評価を確立。本年2月に愛媛県西条市で新工場の建設に着工し、年産3万トン規模での来秋の量産開始を予定する。再生可能エネルギーの普及を目指すものであり、国内において外販目的でブラックペレット製造事業に取り組む先駆的な事例となる」

――商社機能が求められる。

「当社は石炭に加えて、パーム椰子殻(PKS)や木質ペレットなどバイオマス燃料をベトナムやマレーシア、インドネシアなどから年間20万トン程度輸入しており、発電用燃料ビジネスの知見がある。石炭火力発電所における混焼材の需要は拡大していくが、国内のバイオマス資源だけでは需要に応じきれないため、海外資源を活用したサプライチェーンの構築も求められる。海外での新規事業、資源調達、輸入販売などによる燃料の安定供給に向けて商社機能を発揮していく」

――山陽精機への追加出資は事業ポートフォリオの拡大につながる。

「山陽精機はフォーミングロールの国内トップメーカーで、40カ国以上に輸出しており、形鋼・構造用鋼管や自動車部材、屋根・壁面材、住宅部材、プラント配管部材、ラインパイプなど金属製品のフォーミング加工に使用されている。出資比率を14%から34%に引き上げ、持分法適用会社としてガバナンスを強化するとともに、国内・海外現法との連携を強化することで、海外の販路拡大につなげる」

――海外展開も持続的成長のカギを握る。

「関税政策の影響が広がる中、海外では地産地消型ビジネスの推進に向けた種まき、事業化調査を加速している。取り扱いメニューの拡充、現地発海外間のビジネス拡大のアプローチも進展している」

――収益・財務戦略は。

「財務健全性を維持しながら持続的な成長投資、株主還元を推進する。営業CF創出を重要課題としROICによるビジネス単位の資金効率化とモニタリング、政策保有株式の縮減、柔軟な資金調達と流動性を確保していく」

――利益目標について。

「前中計は連結経常利益が21年度97億円、22年度127億円、23年度128億円と推移し、今中計は最終26年度目標を145億円と設定した。24年度実績が118億円、25年度計画は120億円で、人件費をはじめ投資が先行しているため少し足踏みをしているが、事業投資リターンを積み上げながら目標を達成したいと考えている」

――財務目標は。

「ROE10%以上、ROIC6・5%以上、自己資本比率21%以上、DEレシオ0・7倍以下の目標は25年度もほぼクリアする見通し」

――東証プライム上場企業は株価純資産倍率(PBR)1倍以上を求められている。

「21年7月に3000円前後だった株価が24年7月には約9000円まで上昇した。本年3月に一株を三株に分割したが、2000円前後で推移している。7月下旬の株価は2100円前後で、PBRは0・6倍にとどまっている。経営基盤強化に向けて監査等委員会設置会社に移行、サステナビリティ基本方針を制定し、資本コスト経営も導入し、市場が求める持続的な成長軌道を創出していく」

――連結配当性向30%以上を掲げる。

「年間配当は21年度が245円、22・23年度は315円で、24年度は300円とした。25年度は株式分割を踏まえて106円と予想している。株価が2000円とすると配当利回りは5・3%となる」

――資本効率の観点から政策保有株式の縮減にも取り組んでいる。

「24年度は保有銘柄を75から70、保有残高を274億円から170億円に縮減し、保有残高の純資産比率を31・3%から18.3%に引き下げた。26年度までに同割合を15%以下、将来的には10%以下とすることを目指しており、縮減によって得た資金は成長投資などに活用していく」

――人材育成とダイバーシティにも注力する。

「中計の基本方針である経営基盤の強化の一つとして、人的資本経営を推進中。 女性やグローバル人材の活躍を促進するダイバーシティ推進プロジェクト、健康経営優良法人認定の持続、『くるみん』の取得などに加えて、役員向けコンプライアンス研修、女性社員向けキャリアアップセミナー、営業ベーシック研修など階層別の教育プログラムを拡充。中計期間に6億円の人的資本投資を計画している」

――人材戦略のテーマは。

「競争力強化、イノベーション、自己成長と貢献意欲の三つをテーマに掲げ、自ら学び行動する主体化された人材の育成に取り組んでいる。社員ひとり一人が目指すキャリアを描き、主体性を持って自己成長に取り組むことが企業の競争力強化とイノベーション促進につながると期待しており、22年4月に刷新した人事制度の一部見直しも進めている」

――採用実績を。

「グローバルスタッフの採用は23年度が20人、24年度は14人で、25年度は12人の計画。年間10人前後のキャリア採用も続けている」

――初任給を引き上げた。

「グローバルスタッフ職の初任給を24年春に1万8000円アップの27万円とし、25年春に29万円へ引き上げた」

――女性社員が増えている。

「総合職に占める女性は73人で全体の16・1%。30年目標を20%と設定している。管理職に占める女性は10人、全体の4・5%で、30年までに10%に引き上げたいと考えている」

――シニア社員の活躍にも期待する。

「高い経験値を活かし、貢献意欲をもって活躍できるようジョブ型のシニア制度への変更を検討しており、26年4月の運用開始を目指している」(谷藤 真澄)







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