2025年12月3日

財務・経営戦略を聞く/下/日本製鉄副会長兼副社長/森 高弘氏/国内汎用品で存在感保つ/インド、来年以降の業績改善期待

――インドは高い経済成長が続いているが、鉄鋼市況が軟化し、業況はさほど改善していない。

「高い経済成長にもかかわらずインド市況が軟化している要因はいくつかある。元々は、ASEANとの大きな市況格差から来る輸入鋼材の脅威が影響していた。一方で需要は直線的に成長するが、設備投資を伴うため供給は階段状にしか伸びない。結果として、市場は極めてタイトな時期とルースな時期を繰り返す。2024年にかけて、タタ製鉄とJSWスチール、JSPLの新規設備が立ち上がり、インド国内ミルによる競争が激化した。より本質的には、このことが強く影響している。今後は、当面AM/NSインディアの能力拡張しか見えていない。また、足元はセーフガードで輸入をシャットアウトし、政府がGST(消費税)を大きく下げ需要をさらに押し上げている。稼働率は90%超の高い水準に戻っている。インド市況は来年の後半を待たず戻ってくるとみている。AM/NSインディアについては、新たな自動車向けの冷延ミルや亜鉛めっき設備を立ち上げ、来年後半に自動車分野に本格参入する。市況回復とともに高付加価値品へのシフトにより、来年度以降の業績改善に期待している」

――全体で見てスプレッドが悪化している。

「海外のマージンは、数年前に比べるとトン100ドルほど落ちている。(鉄鋼を大量に生産・輸出する)中国の影響で年約30兆円の利益が世界で蒸発している。国内はマージンを取れているが、状況は厳しくなっている。内需が縮小しているので輸出比率が上昇せざるを得ず、構成面でも悪化している」

――自動車用鋼板や電磁鋼板の新設備の立ち上げで品種構成は改善していく。

「名古屋製鉄所の次世代熱延ミルは来年4―6月期に稼働する予定。方向性電磁鋼板だけでなく、無方向性電磁鋼板もいずれEV向けが伸びてくる。限界利益の改善はまだ途上。高付加価値品を増やし、品種構成を高度化することでさらなる収益改善を実現する」

――国内の汎用品市場の対策にも取り組む。中山製鋼所と合弁で新電炉を建設し、建材市場でシェアを確保する方針だ。

「当社の強みは高付加価値品にあるが、国内で利益を確保していくには汎用品の市場でも戦えないといけない。国内市場が縮小していく中、輸入鋼材が看過できないレベルの数量となっている。ボリュームゾーンを放置することはできないが、高付加価値品を製造する設備で汎用品を造るとコストがかかる。中山製鋼所は非常に競争力のある鋼材を電炉で製造する技術を持つ。輸入鋼材の代替中心に汎用品市場で一定のポーションを獲得する」

――鋼材輸出が減少している。今後さらに減らしていくことになるのか。

「減っていかざるを得ない。当社は、国内市場中心に販売し、輸出は、海外事業会社向けや鉄道用レールなど現地で手に入らない差別化商品を中心としているが、内需の振れが大きいため内需が振れた分の差は輸出に回さざるを得ない。ベースは、輸出を頼りにせず、競争力を上げて国内で戦っていく」

――来年度の増益と減益の要因をどう想定する。

「増益要因は海外だ。米国は投資と技術移転の効果が出てくる。インドで新しい設備が立ち上がり、タイのG/GJスチールは現在赤字だが損失を止める手を打つ。国内は、低水準の需要が常態化する中でどこまで利益を保てるか。国内製鉄事業、鉄グループ会社、本体海外事業、原料事業と分けて利益をみているが、本体とグループ会社のシナジーを追求しており、国内製鉄事業と鉄グループ会社を一つの塊としてみていく方向。一方、本体海外事業と原料事業の海外関係が塊となる。非鉄3社の利益も、日鉄ソリューションズ中心に大きく成長しつつあり、今後に期待している」

――海外など多くの増益要因の具体化で26年度は連結事業利益9000億円以上の水準を取り戻せるのか。

「市場環境次第だが、厳しくなっているのは中国が起因であり、状況は大きくは変わりそうにない。インドは新高炉や下工程の新設備の稼働で改善し、USSも利益を上げていく。来年後半は年率9000億円以上のレベルに戻る可能性はあるが、来年を見通すのはもう少し先になる」

――ブラジルのウジミナスの保有協定株をテルニウム社に全て譲渡することを決めた。

「ウジミナス社は1958年に日本・ブラジル両国のジョイントベンチャーとして建設され、多くの関係者の思いが詰まった事業だ。しかし、今回の株式譲渡は避けられないビジネス判断だった。ブラジルは資源が豊富で、人口も多く、一時期は成長が期待された。しかし、中国との経済的な結びつきが深く、通商措置で中国からの製品輸入を遮断できないことや、市場リスクの高さから、今後の大きな経済成長は考えにくい。また、第3四半期(7―9月期)には非常に大きな減損もあり、900億円を超す純損失を計上した。今後もこうしたリスクがないとはいえない。そのため、当社はウジミナス社の株式を全て譲渡する経営判断を行った。ウジミナスがスタートした頃は当社にとって海外で唯一の高炉一貫製鉄所だった。しかし現在は、米国とインド、タイに一貫製鉄所拠点を保有している。限られたリソースを、中国影響が限定している米国とインド、中国影響にさらされてはいるがホームマーケットであるタイに集中させていく」

(植木 美知也)



(下)









本紙購読料改定のお願い

10月から月1万2000円(税別) 電子版単独は据え置き

産業新聞社は10月1日から本紙「日刊産業新聞」の購読料を月額1万1000円(消費税含まず)から1万2000円(同)に改定させていただきます。本体価格の改定は2021年10月、約45年ぶりに1000円の値上げを実施して以来、4年ぶりとなります。...more