2023年5月26日

財務・経営戦略を聞く/日本製鉄副社長/森高弘氏/事業厚み増し収益力強化/電炉活用でCN対応加速

 ――2022年度に在庫評価差等を除く実力の連結事業利益が7340億円と前年から440億円増え、過去最高を更新した。

 「これまでの取り組みが正しかった証左と言える。まずは損益分岐点を下げたことが大きい。19年度との比較で固定費を2割圧縮し、限界分岐点を4割引き下げ、収益的に強靭な体質を築くことができた。もう一つは成長を支えるレジリエントな事業構造を確立したこと。収益の内容は5つ(本体国内製鉄事業、本体海外事業、原料事業、鉄グループ会社、非鉄3社)の構成要素に分類できるが、それぞれが収益の柱として育ってきている。本体海外事業の利益は14年度の130億円から21年度に1350億円と約10倍となり、22年度は海外鋼材市場の悪化で少し減ってはいるが、23年度は1200億円以上を見込むなど収益構造は明らかに強くなっている」

 ――ひも付き販売価格の適正化とともに価格の先決め方式など商慣習の見直しを進めたこともマージンの安定確保につながった。

 「ひも付き価格の適正化の仕組みは、販価の先決めや契約期間の短期化など商慣習の見直しも含め、22年度に本格的に実行した。22年度は上半期のひも付き価格が決まった直後に原料価格が高騰し、円安が進んだことで心配したが、下期は逆に販価を決めた後に原料価格が下がり、円高に振れ、下期のマージンは高い水準となった。年度を通じると適正水準のマージンが確保できている。23年度の上半期のマージンは22年度下半期からは落ちるが、22年度平均と同水準を見込み、下半期はその水準を維持する計画だ。外部コストについてサプライチェーン全体で負担するというのはお客様のコンセンサスを得られ、きちんと守られている。フェアな仕組みであることを理解いただき、22年度は適正なマージンを保つことができる仕組みを定着させることができた年と言える」

 「半期契約の四半期への短期化については、お客様ごとに事情があり、まだ全て進んだわけではないが、お客様によっては半期契約であっても原料価格などの前提が大きく変わった場合には後ろの四半期で調整する方法を取り入れている。これを含めれば、契約の短期化は実質的にかなり進んでいる。商慣習の見直しについては22年度に完了したと言える」

 ――鉄グループ会社の収益が改善した。

 「電炉関連、特に日鉄ステンレスは構造改革が進み、マージンをしっかりと確保した。山陽特殊製鋼は欧州子会社のオバコの好業績が加わった。普通鋼電炉も長期契約の見直しなど商慣習の適正化を進めた。親会社と同じようにグループ会社がマージンのコントロールや構造対策を進め、体質は確実に強化されている。鉄グループ会社の利益は2000億円を超える大きな規模になっている」

  ――一方で為替影響を大きく受けた。

 「本体国内製鉄事業をみると、第4四半期の外貨バランスは12億ドルの輸入超過であり、22年10月に150円などと円安が進んだので年間では大きなマイナスとなった。一方で、連結トータルでは海外事業の収益や海外原料資産の外貨建て利益などでプラスとなった。22年度の連結事業利益9164億円と実力ベースの利益7340億円の差のうち、為替評価差は380億円のプラスを計上している」

 ――23年度の国内需要を前年並みと予想している。

 「自動車は部品サプライチェーンの混乱は収まる方向ではあるものの、なお混乱が続くとみている。23年度の国内生産台数はそう大きくは戻らず、22年度下期の横ばいと想定している。外需が減速しているので自動車に限らず製造業は間接輸出含めて厳しい状況が続く。建築分野も資材高騰や人手不足が影響し、大きな回復は見込めない」

 「輸出市場は不透明感が強く、好転するとは考えていない。中国は低調な不動産市場の影響が大きい。需要の回復を期待した造り過ぎが鋼材在庫や輸出の増加につながり、周辺国が影響を受けている。中国は自動車も造り過ぎ、値引きが行われている。EVの販売は増えているが日系自動車の生産は低調。当社の中国の事業会社も厳しい状況にあり、今後をよく注視していきたい。北米は製造業が厳しく、住宅も減速しているが個人消費は強い。当局の対応でうまくソフトランディングしていくだろう。国内外の需要動向を考慮し、23年度の単独粗鋼生産は3500万トンと前年(3425万トン)の微増を見込んでいる。22年度は名古屋製鉄所の高炉改修もあって減少していたことを考慮すれば、実質的には22年度並みの想定だ」

 ――生産が低くとどまる中で23年度の実力の連結事業利益は8000億円以上とさらに改善する見通しだ。

 「厚みを持った新たな事業構造に変えていく。一つは鋼材流通を事業領域とし、日鉄物産を4月に連結子会社化した。流通の効率化などサプライチェーン全体を強化し、相乗効果を上げていく。国内やメキシコで電磁鋼板の加工拠点の設立を決め、今後も事業の強化策が出てくるとみている。もう一つは原料の事業化だ。自山鉱比率を向上させる。テック社が分離するEVR社への出資について、テック社がグレンコア社から買収提案を受けたがテック社はシンプルな会社分割案を検討するとしており、当社としてはテック社の提案を待って交渉を続ける。よい結果になると期待している。海外事業は回復し、利益が1200億円以上と昨年よりかなり改善する見通し。厚みのある事業構造と海外事業が利益に大きく貢献してくる」

 ――原料価格は高止まりする見通しだが、ひも付き価格の交渉の状況は。

 「4―6月期はすでに決着しており、7―9月期について現在交渉中だ。年間通じてマージンを適正水準で維持する。主原料価格以外の商品の品質・サービスの価値についても価格への反映はかなりの水準に届いている。今後はすでに投資している電磁鋼板の能力・品質向上対策を経た製品の供給が始まり、名古屋製鉄所での次世代型熱延ラインによる超ハイテン鋼も供給していく。こうした取り組みにより当社の商品の品質・サービスの価値を高め、その価値を認めていただくよう求めていく」

 ――海外は市場の成長が続くインドの事業が収益の大きな柱となる。北米は堅調だが、中国と東南アジアは市場が振るわない。

 「AM/NSインディアの西部ハジラ製鉄所で1500万トンへの能力拡張を進めている。インドは経済が強く、鉄鋼需要が現在の1億トンから2030年に倍の2億トンに拡大するのは間違いない。それまでに新製鉄所を建設し、合計3000万トンに能力を増やす計画。将来的には5000万トンへの拡張を視野に入れている」

 「北米は来年上期にAM/NSカルバートの電炉が立ち上がり、スラブ所要の一部を自製化する。これによりスラブの加熱の工程も省略できるのでコスト競争力が高まる。東南アジアは中国の影響を強く受けている。タイの事業会社のNS―SUSは自動車向けの高級鋼板を製造しており、中国影響はさほど受けていないが、買収した電炉のG・GJスチールは市況変動の影響を直接受ける汎用品を製造しており、景気の後退局面の中で苦戦している。しかし足元は鉄スクラップの調達から製品の販売までマージンを確保する運営方法への改善を図っており、下期にはその効果が上がってくる」

 ――ブラジルのウジミナスは株式の一部をテルニウム社に譲渡する。

 「市場が厳しく、中心設備の第3高炉が今年改修に入ったこともあり、変化する収益環境に対してスピーディに手を打つ必要がある。それを可能とする形に変えるが、それがウジミナス自身、ひいては両株主にとって最善の姿と考えている。体制変更後もウジミナスは引き続き当社の持分法適用会社であり、重要な拠点に変わりはない」

 ――広畑に昨年電炉を導入し、今回新たに八幡地区での電炉プロセスへの転換、および広畑地区での電炉プロセス拡大に向けた本格検討を開始することを決めた。

 「広畑の新電炉は順調に立ち上がり、グリーン鋼材のNSカーボレックス・ニュートラルの販売につなげていく。NSカーボレックス・ニュートラルの販売についてはお客様に関心を持っていただいている。まだ販売できる数量が限られており、高く評価していただけるところから供給していきたい」

 「八幡地区と広畑地区を候補地に電炉導入の本格検討を決め、2030年頃の稼働を想定しているが、可能な限り早く実現したい。原料の鉄スクラップの調達は課題だが、大量の電力の供給についても電力会社にも準備をしていただかなければならない。電炉導入の本格検討開始を公表したので電力会社とオープンに議論ができるようになっている。投資予見性が重要であり、政府の抜本的・総合的な対応を強く要請していく。GX推進法も成立し、経済産業省ともいろいろな議論を進めている」

 ――電磁鋼板の生産能力を追加増強する。

 「EV化が相当早く進むと考えている。欧州をみてもEV化は昨年と景色がさらに変わり、一段と進んでいる。中国もそうだが、市場の変化は早い。エコカー向けの無方向性電磁鋼板の生産能力は阪神地区(堺)と八幡地区での今回の投資により、現状から5倍に増やすが、今後も市場の成長に合わせて能力増強を国内外で検討していく」(植木 美知也)

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