「事業環境が大きく変化し、AIも急速に進歩する中、専門商社ならではの機能を高度化していくことが求められている。JFE商事として掲げる第8次中期経営計画を達成し、長期ビジョンを実現するには、従来の延長線上ではない新たな価値を創出し続ける企業風土を醸成する必要がある。人事制度改定のキーワードは『挑戦と変革』。主体性をもって挑戦し、業務知識・スキルと人間力を磨きながら新たな価値を創造していく社員を育成するための役割と目標を明確にした。併せて成果と発揮能力に応じたメリハリを明確にした。評価の納得性を高めることで働き甲斐に結びつけ、社員が成長を続けるための『道しるべ』として理解と浸透を図っていく。自ら考え、実行し、挑戦できる組織づくりを推進する」
――今回は大幅な人事制度改定となる。
「それ以前の人事制度は、資格に対する給与や賞与など処遇が一律で、ほぼ同じ年次の社員が同時に昇格する、勤続年数を重視した要素が多く残っていた。社員のモチベーションアップ、多様な人材の活用、グループ連結人事施策の強化、経営人材・グローバル人材の育成、若手社員の早期育成・登用などのテーマを解決するための人事制度を20年4月にスタート。23年4月には一般職の能力発揮領域の選択肢拡大、モチベーションアップを目的に総合職と一般職を業務職に統合した」
――今回は「人事ポリシー」も制定した。
「人事制度を含めた、あらゆる人事施策の基軸となるもので、社員と会社が『共に挑戦し、共に成長する』ことを基本とする。会社としては、社員の多様性を尊重し、自由闊達な風土を育み、社員の挑戦と成長の機会を提供していく」
――新・人事制度の骨格を。
「資格制度、評価制度、賃金制度の三つで構成。それぞれが連動しており、評価結果は資格や賃金に反映され、資格に応じて求められる役割や能力が高度化していく」
――評価制度の仕組みは。「期初に設定した業務目標の達成度合いを評価する『成果評価』、目標達成に向けて発揮された能力を評価する『能力評価』の二本立てで、これらを掛け合わせた『総合評価』によって、賃金にも連動する資格の昇降格を判断する。賞与については『成果評価』を基準に加減算する。評価制度の目的は、社員が成長と働き甲斐を実感して、次の成長に向けた課題や目標を認識するところにある」
――評価の納得性について。
「16あった『能力評価』項目を『企画・立案力』『実行力』『挑戦・変革力』『人材育成力』の4つに集約。上司との一対一の対話を重ねながら、目指すべきゴールや果たすべき役割を明確にして共有。会社が何を求め、何を評価しているのかをしっかり伝え、社員が何を目指し、いかに成長していくべきかを認識できる仕組みを整えた。フィードバック制度を導入するなど、評価の公正性と透明性を高める工夫も重ねている」
――上司との対話が重要。
「期初の4月に、まず資格・職種ごとに求める役割や発揮能力のレベルを分かりやすく示し、組織としての目標、本人の役割や責任、発揮すべき能力を共有し、人事調査票に基づいて本人の成長意識や希望も聞き取りながら、納得感がある業務目標を設定する。10月に上期の総括と下期のテーマを擦り合わせる中間レビューとキャリア面談を実施する。この間も必要に応じて面談を重ねていく」
――成果主義に偏らないのか。
「挑戦・変革に向けての小さな工夫や新たな試みなどプロセスも評価対象としている。失敗やリスクを過度に恐れることなく、挑戦を継続できる環境も整えた」
――資格制度については。
「従来は入社後12年間だった育成期間を、7年間とし、それ以降は総合評価次第で飛び級を可能にするなど、より早いタイミングでの昇格も可能にした。勤続年数を重視した要素を排除して入社年次に関係なく社員の能力と成果を評価する方針とした」
――賃金制度は。
「発揮した能力・成果に応じたメリハリある処遇体系とした。役割や責任、発揮した能力や目標の達成度に対する評価が処遇に直結する。評価結果による差異を明確化し、昇格スピードにも差を設けることでメリハリを拡大した」
――10年間の人員構成の変化を。
「JFE商事単体の社員数(出向者除く)は2015年936人、25年1001人で大きな変化はない。この間、とくに海外でM&Aを含めた事業投融資を積極展開しており、連結社員数は6667人から8753人に増えている」
――採用数については。
「新卒は23年59人、24年43人、25年44人、26年35人。キャリアが23人、28人、31人で、26年は未定。新卒採用についてはほぼ半数が女性」
――女性の管理職、役員は。
「女性の管理職は82人で、5年前の37人から増加している。経営陣は取締役5人、専務・常務執行役員20人の体制で、24年に女性を常務執行役員に登用している。女性の管理職、役員は増やしていきたい」
――新卒の採用方針を。
「長期的に活躍を続ける優秀な人材を獲得するため、将来の成長性や学習意欲などを重視する『ポテンシャル採用』を基本としている。最も重視しているのが人柄や人間性。商社パーソンとして、取引先と信頼関係を築いて、新たな価値を創出していくには、誠実さや粘り強く挑戦する気持ちが不可欠。学歴や資格については参考情報のひとつとして確認するが、それ自体を重視していない」
――採用にあたっての工夫は。
「学生からは、現場で働く社員の雰囲気やリアルな業務体験についての要望が多く、本年度から二日間インターンシップを通じた業務体感ワークを営業社員が担当するようにして、面接も人事部に営業社員を加えるスタイルに変更した」
――キャリア採用については。
「即戦力あるいは高い専門性を持つ人材の獲得を目的としている。リファラル採用を導入し、採用ホームページにキャリア採用も意識したコンテンツを追加するなど工夫を重ねている」
――学生は働き甲斐とともに初任給など処遇への関心も高い。
「初任給は23年まで24万円で据え置いてきたが、24年28万円、25年30万円、26年31万円と引き上げてきている」
――優秀な人材の流出は防ぎたい。
「新卒社員に2年間専属の指導者をつけるフレッシュ・ビジネス・パーソン・ジョブ・トレーニング(FJT)制度、新卒社員に対して半年間、他部署のメンティーをつけるかたちのメンター制度を導入している。定期的に面談機会を設けてキャリア形成を支援する先輩によるキャリア面談も実施している。社員が抱える不安や悩みを解消し、意欲的に働き続ける環境整備をさらに進めていく」
――社員の育成も大きなテーマとなる。
「人材育成を経営戦略の重要テーマに位置付けている。変化が激しい時代において会社が育てるという一方的な発想だけでは不十分で、社員一人一人が主体的に学び、挑戦して成長を続けていく意識と環境が求められる。新・人事制度を通じて、社員の挑戦と成長を経営戦略の実行力につなげ、社員の成長と会社の持続的成長を両立させる『社員とともに成長するJFE商事』の実現を目指す」
――社内研修の組み立てを。
「商社の仕事は、実際の顧客対応や事業運営を進める中で身につくことが多く、現場経験を通じた成長で、OJTやジョブローテーションが育成の土台となる。その上で、実務研修や階層別研修などのOFF-JT、自己研鑽支援を積み重ねていく学びの機会を提供している」
――留学制度は。「米州、豪州、アジア、欧州など海外事業投資を展開しており、グローバル人材の育成も重要なテーマとなっている。いずれも2年以内の海外トレーニー制度、海外留学制度を実施。駐在員は入社3年目以降、積極的に派遣している」
――グループ会社が100社あり、経営人材の育成も大きな経営課題。
「経営人材については、単体やグループ会社において責任ある役割を担いながら、難しい課題や新たな挑戦に向き合う経験を通して育成が可能となる。OJTやジョブローテーション、海外駐在、グループ会社への出向など様々な機会を提供している。MBA科目の基礎を学ぶ、新たな研修制度として『経営戦略実行支援ワークショップ』を立ち上げて、財務マネジメント、マーケティング戦略、戦略的投融資、チームマネジメントなどを実践的に学ぶ機会を整備した。初年度で80人の応募があり、高いスキルを身につけていく」
――海外駐在やグループ会社の経営者となるチャンスも多い。
「米国、中国、タイ、ベトナム、インドなど20カ国に約200人が駐在している。国内外のグループ会社全体では約340人が出向しており、うち36人が社長を務めている」
――グループ会社の社員やナショナルスタッフの育成も重要。
「グループ全体の人材育成にも力を入れている。グループ会社社員には、本社の研修メニューを受講できる機会を提供。新任社長研修や新任取締役研修なども実施している。ナショナルスタッフ向けの研修も実施しており、毎年約30人が各拠点から参加する。将来的には、現地人材が事業を主体的に牽引するインサイダー化を進めるため、経営幹部候補向けのメニューの展開を検討中」
――ジョブローテーションも成長機会となる。
「新たな価値創造を担うため専門性の深化と幅広い視野の獲得の両立を目指すジョブローテーションを実施している。国内・貿易・共通部門、国内外拠点やグループ会社など多様な業務経験を通じて、事業全体を俯瞰する視野と経営感覚を養い、将来の事業リーダーや経営を担う人材の育成につなげていく」
――グループ会社への出向で学ぶことも多い。
「在庫・加工・物流を含めたサプライチェーンを担うグループ会社への出向は、事業運営や現場マネジメントを実践的に学び、グループ全体を俯瞰できる貴重な機会となっている。国内外のグループ会社への出向を通じて、多様な事業経験を持つ人材を育成していく」
――社員の成長には、ワークライフバランスも不可欠。
「社員一人一人がライフイベントに応じた働き方を選択しながら、安心して長く活躍できる環境づくりを進めている。育児については、本年8月から短時間勤務制度の対象者を小学校3年生までから、小学校6年生終了までに拡大した。介護については、セミナーや相談会を定期的に開催し、介護に関する不安や悩みを相談しやすい体制を整えている。毎週水曜日を定時退社デーとし、22時以降の深夜就業の原則禁止、指定年休日の設定などを通じて労働時間の適正化にも取り組んでいる。多様な働き方に対応するため全社員を対象とした在宅勤務制度やフレックスタイム制度を導入しており、本年4月からは在宅勤務時のコアタイムを廃止し、より柔軟に働くことができる環境も整備した。単に制度を整えるだけではなく、社員が心身ともに健やかに働き、それぞれの力を最大限に発揮して会社の発展に貢献しながら、仕事以外の時間も大切にできる職場風土の醸成に取り組んでいる」
――最後に中長期の展望と課題を。
「8次中計でセグメント利益600億円、長期ビジョン『JFEビジョン2035』で1000億円を目線として掲げているが、10年後の1000億円は既存ビジネスの延長線上では達成することが難しい。国内外でのM&A、新規事業投融資、既存ビジネスの高度化などを組み合わせていく必要があり、事業構造転換を担う人材の確保と育成を加速しなければならない。事業拡大のための構想力や実践力、専門的な知識やスキルなどを強化・拡充していくためには社員の個の力とその力を発揮してもらうための制度や環境の整備など、個と組織の両面を強化する人事戦略が重要になってくる。今回の人事制度改革は、長期ビジョン実現のための基盤になるものと位置付けている」(谷藤 真澄)


























